『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」』中村哲

中村哲の略歴

中村哲(なかむら・てつ、1946年~2019年)
医師。
福岡県福岡市の生まれ。福岡県立福岡高等学校、九州大学医学部を卒業。日本国内の病院勤務を経て、1984年にアフガニスタンのペシャワールに赴任。
その後も、アフガニスタンやパキスタンで、医療や井戸掘り、灌漑用水路の建設に従事。

『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」』の目次

はじめに――本書刊行の経緯について
第一章 ハンセン病根絶を目指して
第二章 もの言わぬ民の命を
第三章 アリの這う如く
セロ弾きのゴーシュ 宮沢賢治
第四章 命の水
第五章 難民と真珠の水
第六章 開通した命の用水路
終章 来たる年も力を尽くす
あとがきにかえて
中村哲先生の声が聴こえる

概要

2021年10月31日に電子書籍版が発行。NHK出版。211ページ。

中村哲のインタビューを中心に、その活動や考え方などがまとめられた書籍。

副題は「中村哲が本当に伝えたかったこと」。

第一章「ハンセン病根絶を目指して」は、1996年2月22日(中村哲49歳)。

第二章「もの言わぬ民の命を」は、2002年2月16日(中村哲55歳)。

第三章「アリの這う如く」は、2004年6月5日(中村哲57歳)。

『セロ弾きのゴーシュ』は、童話作家で詩人の宮沢賢治(みやざわ・けんじ、1896年~1933年)の作品。

題名にある通り、中村哲はゴーシュの生き方と自分の生き方を重ねている。

第四章「命の水」は、2005年8月20日(中村哲58歳)。

第五章「難民と真珠の水」は、2006年9月16日(中村哲60歳)。

第六章「開通した命の用水路」は、2009年12月5日(中村哲63歳)。

終章「来たる年も力を尽くす」は、2019年12月4日に発行された「ペシャワール会報」142号より(中村哲73歳)。

「あとがきにかえて」は「わが内なるゴーシュ 愚直sがふみとどまらせた現地」2004年10月13日に発行された「ペシャワール会報」81号より(中村哲57歳)。

「中村哲先生の声が聴こえる」は“『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」』刊行に寄せて”というペシャワール会の会長でPMS総院長の村上優(むらかみ・まさる、1949年~)の文章。

ペシャワール会は、1983年9月、中村哲のパキスタンでの医療活動を支援する目的で結成された国際NGO(NPO)団体。

PMSは、Peace(Japan)Medical Servicesの略で、平和医療団・日本の現地事業体のこと。

感想

中村哲のことを知ったのは何だろうか。凶弾に倒れたニュースか。

気になってはいた。知人が読んだということを聞いて、自分も読んでみた。とても良かった。

医師という職業には尊敬の念がある。頭も良く人の命を救う。

中村哲は、そこからさらに進んで、目の前の困った人たちを救うために、何が大事かを考えて、井戸を掘ったり、灌漑用水路を建設したりした。

ペシャワール会という団体を組織して、募金で運営。数億円の募金による運営を実施しているという。

この本を読んで自分の無知を知った。

その土地の文化や伝統の大切さも知る。人の命というものの軽重。幸福とは。

根源的な人間の生き方、死に方があるんだろう。自分に出来る事を続けていきたい。

基本的には対話形式なので、読みやすい。取材者が、中村哲にインタビューする形。

年代ごとに変遷を辿る。同内容の重複もあるが、復習的なスタイルで記憶に残りやすい。

以下、感銘を受けたものを抜粋。

「日本もけっこう困っているんだ、あんなところに何も好き好んで行かなくても」と言う人はですね、たいてい、日本でも何もしていらっしゃらない方々が多いんですね。(P.43「第一章 ハンセン病根絶を目指して」)

これは、よくありがちなのだろう。意外と声高に叫ぶ人に限って何もしていないことが多いようだ。

自分も、そうならないように、気をつけたい。

問題になっていたのは治安の乱れですね。タリバン政権の良し悪しはともかく、住民が一番感謝していたのは治安がよかったということ。おそらく、アフガニスタンが、この空爆前までは世界で一番治安のいい国だったというのは、皆さん、知られていないと思うんです。それがいま、夜盗、強盗の巣窟になってしまった。(P.53「第二章 もの言わぬ民の命を」)

これも、まったく知らなかった事実。

日常的なニュースでは、シンプルにタリバン政権の時の方が、治安が悪いように感じてしまうけれど、違っていた。

分からないところで、バランスは保たれていたということ。現地でしか分からないこと、日本のニュースなどでは分からないことが沢山ある。

その他にも、日本の伝統的な灌漑技術などが応用されたというのも、なかなか興味深かった。

加えて、物事が広がる際の出来事についても。

本当に受け入れられるものというのは、黙っていても普及していくというのが、わたしたちの経験で、たとえばサツマイモにいたしましても、広がるものは試験農場から盗まれるんです。(P.152「第五章 難民と真珠の水」)

なるほど。当たり前だけれど、勉強になる。というか、普段では忘れがちな部分だる。

必要であれば、自然と新しいものでも、普及してくのだろう。

今度は中村哲、本人の文章を読んでみようと思う。さまざまな著作が出版されているようなので。

SDGsやESG、NGO、NPO、社会起業家、慈善事業、異文化、グローバル、難民など、興味のある人には非常にオススメの作品である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

パキスタン

パキスタン、正式には、パキスタン・イスラム共和国は、南アジアに位置する連邦共和制国家。

アフガニスタン

アフガニスタン、正式には、アフガニスタン・イスラム首長国は、中央アジアと南アジアの交差点に位置する山岳地帯の内陸国。

ペシャワール

ペシャワールは、パキスタンのカイバル・パクトゥンクワ州の州都。

ペシャワール会

ペシャワール会は福岡県福岡市に事務局を置く国際団体。

公式サイト:ペシャワール会