『空海の風景』司馬遼太郎

司馬遼太郎の略歴

司馬遼太郎(しば・りょうたろう、1923年~1996年)
小説家、ノンフィクション作家、評論家。
大阪府大阪市の生まれ。大阪外国語大学蒙古学科を卒業。
産経新聞社の記者として在職中の1960年に『梟の城』で第42回直木賞を受賞。本名は福田定一(ふくだ・ていいち)。

『空海の風景』の目次

上巻の目次には「空海の風景」のみ。
下巻の目次には「空海の風景」「あとがき」「解説 大岡信」。

上巻は、一章~十五章まで。
下巻は、十六章~三十章の構成。

解説は、詩人で評論家の大岡信(おおおか・まこと、1931年~2017年)。静岡県三島市の生まれ。第一高等学校、東京大学文学部国文科を卒業。

概要

1978年1月10日に上巻の第一刷が発行。中公文庫。上巻が370ページ。下巻が417ページ。

1975年に刊行された単行本を文庫化したもの。1994年3月10日に改版が発行。

真言宗の開祖となった空海(くうかい、774年~835年)の生涯を描いた長編時代小説。

その他の主要な人物たちは以下の通り。

天台宗の開祖となった最澄(さいちょう、767年~822年)。

役人で書家としても有名な橘逸勢(たちばなのはやなり、生年不詳~842年)。

空海の師となる中国の密教僧・恵果(えか/けいか、746年~806年)。

第52代の天皇・嵯峨天皇(さがてんのう、786年~842年)。

最澄、橘逸勢は空海と共に、803年に遣唐使として、中国・唐に渡る。

因みに、空海、嵯峨天皇、橘逸勢は、三人とも非常に書が上手く能書家であり、まとめて「三筆(さんぴつ)」と呼ばれる。

物語は、空海の祖先の佐伯氏の話から始まり、その死までを描く超大作の時代小説。時折、著者・司馬遼太郎の思考なども入ってくる構成。

感想

当然、弘法大師・空海のことは知っていた。

ただ、そこまで大した知識があるわけではなかった。高野山の金剛峯寺を建立したとか、真言宗の開祖だとか、書道が上手かったとか、その程度。

そのような折に、コンサルタントの今北純一(いまきた・じゅんいち、1946年~2018年)の著書『新しい時代を切り拓く賢者の知恵』の中で、空海と最澄のことが書かれていた。

あまり知識のなかった空海について、非常に関心が高まって、司馬遼太郎の『空海の風景』を読むことになった。

文庫でも上下巻で、とてもボリュームがあり内容も濃い。どっぷりと本を読みたい時には最適。

空海の生涯を追いながら、著者である司馬遼太郎の思考を追いながら、平安時代初期の日本や中国・唐の世界や仏教界の空気を味わえる。

仏教の話がたっぷりと出てくるが、そこまは司馬遼太郎の筆力なのか、意外とテンポ良く読めてしまう。

ちょっとボリュームに尻込みしてしまいそうになるかもしれないが、空海や仏教、密教、また最澄などに関心のある人には非常にオススメの作品である。

私も書道をしているので、その辺りでいくつか興味のある部分を引用してみる。

「良工ハ先ヅソノ刀ヲ利クシ、能書ハ必ズ好筆ヲ用フ」
とあり、さらに、文字によって筆を変えねばならぬ、文字には篆書、隷書、それに真、行、草、藁の筆を変えねばならぬ、として、書における筆の重要さを説いている。(P.324:空海の風景 二十八『空海の風景・下巻』

上記は、嵯峨天皇の皇太子に筆を作って献上した際に空海が添えた文章。

つまり、「弘法は筆を選ばず」とは、一般的によく言われるけれど、そうじゃないよ、どのような種類の書体の文字を書こうとするのかで、しっかりと筆を選びなさい、私は選びますよ、ということ。

これはちょっと驚いた。

まぁ、もちろん、弘法大師・空海であれば、どのような筆でも、それなりに素晴らしい書を仕上げたのだろうけれど。

また330ページからは最澄の書についての記載も。

どの程度、知られているのかは分からないが、空海や嵯峨天皇、橘逸勢といった三筆の名前が前面に出てしまっているため、なかなかスポットが当たりにくい最澄の書。

最澄も素晴らしい書を残している。

ただ、最澄の場合には芸術性を極めるよりも、事務的な正確性や均一性を意識した結果、最終的に、素晴らしい書を残した、という感じ。

因みに、この『空海の風景』は、もちろん主人公は空海であるが、そのライバル的存在、後に空海の弟子にもなる最澄の生涯も、その関係性から豊富に描かれている。

その他の登場人物も、生き生きとしいるので、非常に楽しめるオススメの作品である。

この作品を読み終えた後には『「空海の風景」を旅する』を読むと、さらに楽しめる。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

司馬遼太郎記念館

大阪府東大阪市にある司馬遼太郎を記念する文化施設。司馬遼太郎の自宅と隣接地に建つ安藤忠雄(あんどう・ただお、1941年~)の設計の建物から構成。

実際に訪問したことがあるが、敷地内の緑と共に、建物の外観の雰囲気など、とても良い雰囲気の場所。

司馬遼太郎の自宅は、外側から書斎を見学できるようになっている。エントランスまでのアプローチもオシャレな空間。高さ11メートルの大きな書架も見応えあり。

公式サイト:司馬遼太郎記念館

善通寺

香川県善通寺市にある寺院。真言宗善通寺派総本山。空海が生まれ育った場所。

公式サイト:善通寺

御厨人窟・神明窟

高知県室戸市室戸岬町にある御厨人窟(みくろうど)・神明窟(しんめいくつ)。空海が修行をし、悟りを開いたとされる場所。
公式サイトなどは特に無い。

東寺

京都市南区九条町にある東寺真言宗の総本山の寺院。

教王護国寺(きょうおうごこくじ)とも呼ばれる。796年に創建され、823年に第52代天皇・嵯峨天皇(さがてんのう、786年~823年)から、空海へと下賜された。

公式サイト:東寺

金剛峯寺

和歌山県伊都郡高野町高野山にある高野山真言宗の総本山の寺院。816年に嵯峨天皇から高野山の地を賜る。

公式サイト:金剛峯寺