『島津斉彬』加藤蕙

加藤蕙の略歴

加藤蕙(かとう・けい、1929年~)
作家。
栃木県の生まれ。著書に『平将門』『新平家旅情』『柳生への道』『勝海舟』『埒外の人びと』など。

『島津斉彬』の目次

第一章 栄翁重豪
第二章 南国周行
第三章 独裁と改革
第四章 近思録崩れ
第五章 父と子
第六章 世子斉彬
第七章 斉彬の初入部
第八章 調所の死
第九章 嘉永朋党事件
第十章 斉彬の襲封
関係年表
あとがき

概要

1998年10月15日に第一刷が発行。PHP文庫。439ページ。書き下ろし作品。副題は「時代の先を歩み続けた幕末の名君」。

タイトルは『島津斉彬』となっているが、島津斉彬(しまづ・なりあきら、1809年~1858年)に焦点が当っているというよりも、その三代前、曽祖父・島津重豪(しまづ・しげひで、1745年~1833年)からの島津家の歴史が主軸。

つまり、現在の鹿児島や宮崎である、薩摩、大隅、日向を治めていた島津家の四代に渡る物語といった方が正確かもしれない。

以下に整理する。

第25代の島津家当主・島津重豪(しげひで、1745年~1833年)。
第8代の薩摩藩主。娘の広大院(こうだいいん、1773年~1844年)が江戸幕府の第11代将軍・徳川家斉(とくがわ・いえなり、1773年~1841年)の正室となる。将軍家の岳父として、高輪下馬将軍の異名を持つ。

第26代の島津家当主・島津斉宣(なりのぶ、1774年~1841年)。
第9代の薩摩藩主。近思禄崩れにより失脚。『近思録(きんしろく)』とは、朱子学の入門書の名称。

第27代の島津家当主・島津斉興(なりおき、1791年~1859年)。
第10代の薩摩藩主。藩政改革を推し進める。密教・神道に造詣が深かった。

第28代の島津家当主・島津斉彬(なりあきら、1809年~1858年)。
第11代の薩摩藩主。 開明的な幕末随一の名君として知られる。島津御四家の養女・篤姫(あつひめ、1836年~1883年)は、江戸幕府の第13代将軍・ 徳川家定(とくがわ・いえさだ、1824年~1858年)に、嫁ぎ正室。

島津重豪が海外の知識や技術に非常に関心が高く、また娘が徳川家の正室となったことから、さらに力を増すようになった。しかし、藩の財政は傾いていく。

その後に続く、子供や孫との関係性は微妙となり、曾孫である島津斉彬が、かなり重豪と似たような人物で、開明的で能力が高かった。

ただ、あまりにも早く亡くなってしまった。志半ばで亡くなってしまった名君・斉彬。そこまでの島津家並びに、薩摩藩の歴史を知ることができる作品。

感想

もともとは、北康利(きた・やすとし、1960年~)の『蘭学者 川本幸民』で、名君として登場してきた島津斉彬に興味を持つ。

そこから、この作品に手を伸ばしたといった流れ。

因みに川本幸民(かわもと・こうみん、1810年~1871年)は、医師で蘭学者。その業績から日本化学の祖とも呼ばれる人物。

この『島津斉彬』では、壮大な島津家の、薩摩藩の、歴史を知ることができる。

重豪の影響及び愛寵を受けて、斉彬も蘭学やオランダの習俗などに深く傾倒して、所謂、蘭癖(らんぺき)になったという方向性が示される。

というか、重豪が長生きだし、その子孫に影響力が大きかったというのが、この4代に渡る歴史のポイントといった感じか。

そして、借財の返済。調所広郷(ずしょ・ひろさと、1776年~1849年)の暗躍も。

タイトルで『島津斉彬』と前面に出てしまっているので、斉彬の物語が大半かと勘違いしてしまうが、そうではないというのが注意点。

第六章から、斉彬の人生が、物語が、始まる。

あとは、実際に藩政を担った期間が短過ぎるため、物語的には厚みがないようになってしまっているのは、致し方がない点か。

構成の問題点としては、時間軸が行きつ戻りつして、登場人物や物語が錯綜して、やや不明瞭になってしまっていること。

雑誌の連載をまとめたものらしいが、もう少し編集や修正があれば、一つの書籍の作品として、より品質は上がっていたと思う。

全体としては、島津家や薩摩の歴史、島津斉彬についての概要を大まかに知ることができるので、良書ではある。

島津重豪や調所広郷に関連した書物などをさらに掘り下げていくのもオススメ。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

照國神社(てるくにじんじゃ)

鹿児島県鹿児島市照国町にある島津斉彬を御祭神として、1863年に創建した神社。
道路に面した大鳥居が壮観。無料で入館できる照国文庫資料館も。

公式サイト:照國神社

鹿児島市維新ふるさと館

鹿児島県鹿児島市加治屋町にある明治時代を中心とした薩摩及び日本に関する歴史博物館。
地下のシアタールームでは、「維新への道」(23分)と「薩摩スチューデント、西へ」(18分)が上映される。子供と一緒に家族で楽しめる施設。

公式サイト:鹿児島市維新ふるさと館