マルコム・グラッドウェル『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』

マルコム・グラッドウェルの略歴

マルコム・グラッドウェル(Malcolm Timothy Gladwell、1963年~)
カナダ人のジャーナリスト、作家。
イギリスのハンプシャー州の生まれ。カナダのトロント大学トリニティ・カレッジを卒業。
『ワシントン・ポスト』や『ニューヨーカー』などで執筆。著書、多数。

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』の目次

プロローグ
第1章 「輪切り」の力――ちょっとの情報で本質をつかむ
第2章 無意識の扉の奥――理由はわからない、でも「感じる」
第3章 見た目の罠――第一印象は経験と環境から生まれる
第4章 瞬時の判断力――論理的思考が洞察力を損なう
第5章 プロの勘と大衆の反応――無意識の選択は説明できない
第6章 心を読む力――無意識を訓練する
エピローグ
謝辞
訳者あとがき

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』の概要

2006年3月1日に第一刷が発行。光文社。263ページ。ハードカバー。127mm×188mm。四六判。

直感や無意識、瞬時の判断などに関するプロセスや誤解などについて考察した著作。

原書は、2005年1月11日に、『Blink: The Power of Thinking Without Thinking』として発行。

訳者は、二人。

沢田博(さわだ・ひろし、1952年~)。
東京生まれ。東京都立大学人文学科卒業。東京大学新聞研究所修了。

阿部尚美(あべ・なおみ、1959年~)。
三重県生まれ。南山大学文学部英語学英文学科卒業。シラキュース大学コミュニケーション学部広報学科修士課程修了。

「訳者あとがき」は、沢田博によるもの。

2022年4月12日には、光文社から文庫版も刊行されている。

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』の感想

『天才!成功する人々の法則』が、とても面白かったので、マルコム・グラッドウェルの別の作品も読んでみようと思って、手に取ったのが、こちらの『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』である。

この作品も、想像以上に楽しめた。

要約すると、直感はこれまでの経験と知識の総体による判断なので、基本的には正しい。

だが、心拍数が異常な程上がっている場合には、判断力は鈍り、偏見や固定観念、常識を基準に行動してしまうので、誤りが多くなる。

訓練を積むことで、この誤りを防ぐことができる。

といった主旨。

その説明のために、具体的な事例なども豊富。

「エピローグ」では、偽物のギリシャ彫刻について。

その他にも、夫婦げんかや、成功しないミュージシャン、オーディション方法などについても。

どれだけ人間が、経験や偏見に引きずられてしまうのか、では、正しく判断するには、どのような訓練や対策が必要なのか、というのも書かれている。

以下、気になった部分などを引用。

客の求めているものや心理状態についてはいくつも瞬時に判断を下すけれど、客を見た目で判断することは絶対にしない。店を訪ねてくる客はみな同じように車を買ってくれる可能性があるとみなす。(P.97「第3章 見た目の罠」)

自動車販売店で、驚異の売り上げを誇る営業マンの判断の指針に言及。

いつもお客様ファーストで、自分の精神状態を一定に保ち、最高の状態で迎えることにしているトップ営業マン。

さらに、もう一つの簡単なルールが上記。

他のセールスマンは、意外と顧客を見た目で判断してしまい、販売機会を逃しているという話。

つまり、人間の想像力には限界がる。見た目で判断しないこと。

裏を返せば、見た目で判断する人が大多数なので、自分の見た目には、それなりの配慮が必要とも言える。

第一印象は経験と環境から生まれる。つまり第一印象を構成する経験を変えれば、第一印象を生む輪切りの方法を変えられるのだ。(P.103「第3章 見た目の罠」)

何かを観た時の第一印象は、新しい経験を積むことで変えられる。

つまり、環境と行動を変える。

すると、自分の中で、何かを観た時の第一印象は、変わってくる。

彼らが必要以上に情報を集めて検討したのは自信を持つためだった。人の命がかかっている以上、自信を持つ必要があったのだ。だが皮肉なもので、自信を持とうとすればするほど、正確な判断ができなくなる。頭の中にある詰め込みすぎの計算式に情報を追加しすぎて、ますます混乱してしまう。(P.144「第4章 瞬時の判断力」)

救急室の医者に対する調査の結果。

「情報が増えるほど、判断の正確さに対する自信は実際と比べて不釣り合いなほど高くなっていった」というもの。

情報は一定量以上は判断に対して意味がない。その判断者の自信を補強するだけのもの。

むしろ、判断者の結論は、情報が少なかった時と同様の正解率。

ある一定の情報を得られたら、不安であっても、行動をすることが大切。正解率が変わらないから。

自信を持つために情報を集めてしまうが、その情報過多は、結果に対してポジティブな要因とはならないというもの。

むしろ、一定の情報が得られたら、行動の方が重要。この点では、情報を集め過ぎて、行動できなくなってしまう人がいることも、納得がいく。

カリフォルニア州メンロ・パークにある高級食料品店に、珍しいジャムをいろいろと試食できるコーナーを儲けた。そこに置くジャムは六種類にしたり、二四種類にしたりした。(P.146「第4章 瞬時の判断力」)

ここでは、研究者のシーナ・アイアンガー(Sheena S. Iyengar、1969年~)による実験について。

所謂、“ジャム理論”と呼ばれるもの。

選択肢が多いと購入率は下がる。選択肢が多いと直感で判断できず、決断に負荷が掛かるため。

マルコム・グラッドウェルの書籍から、話題になる法則や理論も多いと思った。

この“ジャム理論”も、『天才!成功する人々の法則』の“1万時間の法則”も。

心理学や行動学、経済学、ビジネスなどに興味のある人には非常にオススメの作品である。

書籍紹介

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トロント大学トリニティ・カレッジ

トロント大学(University of Toronto)は、カナダのオンタリオ州にあるトロントに本部を置く州立大学。1827年の創立。

公式サイト:トロント大学トリニティ・カレッジ