『マイクロソフトでは出会えなかった天職』ジョン・ウッド

ジョン・ウッドの略歴

ジョン・ウッド(John Wood、1964年~)
非営利団体のルーム・トゥ・リードの創設者、最高経営責任者。
アメリカ合衆国のコネチカット州ハートフォードの出身。
コロラド大学で学士を、ノースウェスタン大学のケロッグ経営大学院で経営学修士(MBA)を取得、大学卒業後はマイクロソフトへと就職。
2001年に途上国での識字能力と読書習慣の向上のためルーム・トゥ・リードを創設。第三世界や発展途上国の子供たちに、本の寄贈や学校設立、図書館やコンピュータルームの設置などの活動をする。

『マイクロソフトでは出会えなかった天職』の目次

第1部 ネパールとの出会い マイクロソフトとの別れ
第1章 「あなたはきっと、本を持って帰ってきてくれる」
第2章 ロウソクの下でアイデアが燃え上がる
第3章 すぐに帰ってこい!
第4章 父と息子のすばらしい冒険
第5章 人生を変える
第6章 一二〇〇万人都市で孤独をかみしめる
第7章 ゲイツ、中国に現る
第8章 別れのとき

第2部 ゼロからの出発
第9章 走り出したら止まらない
第10章 営業のコツ――僕はこうしてマイクロソフトに天職した
第11章 ネパールを超えて
第12章 ネパールからのはがき
第13章 すべての起業家に必要なもの――優秀な副官
第14章 9・11
第15章 NPOのマイクロソフトをめざす
第16章 ネットワークをつくる
第17章 恋人なし、持ち家なし、貯金あとわずか

第3部 新しいステージへ
第18章 少女を学校へ!
第19章 カンボジアの生徒
第20章 インドの民主主義
第21章 ツナミ
第22章 ルーム・トゥ・リードと日本
第23章 一〇〇万冊目の本
エピローグ 人生の次の章へ

謝辞
訳者あとがき
日本のみなさんへ
ルーム・トゥ・リードの活動について

概要

2013年3月27日に第一刷が発行。ダイヤモンド社。289ページ。ハードカバー。127mm×188mm。四六判。

マイクロソフトでの経験を活かしながら、社会起業家として突き進むジョン・ウッドの軌跡を辿る作品。

もともとは、2007年に武田ランダムハウスジャパンから刊行された同名書籍に、著者による「日本のみなさんへ」などを加筆し、ダイヤモンド社より再刊行されたもの。

副題は「僕はこうして社会起業家になった」。

原題は「Leaving Microsoft to Change The World: An Entrepreneur’s Odyssey to Educate the World’s Children」

Odysseyは「オデュッセイア、長期の放浪、長い冒険(の旅)、遍歴」の意味。

訳者は、矢羽野薫(やはの・かおる)で、慶応義塾大学法学部卒後、会社勤務を経て、翻訳者になった人物。

ざまざまな国で翻訳されているが、訳者のあとがきにも書かれている通り、第22章の「ルーム・トゥ・リードと日本」は日本の読者にむけて特別に書き加えられたものである。

感想

コンサルタント・投資家・教育者の瀧本哲史(たきもと・てつふみ、1972年~2019年)の『僕は君たちに武器を配りたい』で知った書籍。

マイクロソフトでもしっかりと仕事をこなして、出世したジョン・ウッド。

旅先で勉強したいけれど教育制度が整っていない現状や図書館の不充実を目の当たりにする。

そこから図書館づくりを始める物語。

とても面白かった。

ビジネスマンとして有能な経歴。能力と人脈。そこから、持続的なNPO団体を組織化。

図書館、学校、奨学金制度づくりをアジア全般で実施。

行動力。思考力。人脈。コミュニケーション能力。ロジスティクス。優秀な人材が集まる仕組みというか、人脈か。

以下、興味深かった部分を列挙。

僕に言わせれば、哀れみを利用して寄付者に懇願することは、貧困者をおとしめることになる。そのような写真を見せることは人間の尊厳を否定している。罪悪感をマーケティングに利用してはならないと、僕は思うのだ。(P.115「第10章 営業のコツ――僕はこうしてマイクロソフトに転職した」)

この後には、財政的なメリットとして、寄付者は人生に楽観と希望を求めているという話に。つまり、寄付者は解決策を見つけたいと考えている。

ポジティブな写真、問題が改善された後の写真を掲載した方が、倫理的にも、財政的にも有利なのではないかというジョン・ウッドの考え方。

悲惨な状況などは、各種の報道関連のメディアに任せるといった方向性。

なるほど、勉強になる。

二〇〇一年に僕はある方法を思いつき、いまもつづけている。送信するすべてのメールの最後に、名前や所属と合わせて、ルーム・トゥ・リードの成果を記すのだ。ニュース番組で画面の下に株価のテロップが流れるようなもので、数字は適宜更新される。(P.161「第15章 NPOのマイクロソフトをめざす」)

ここでは、ルーム・トゥ・リードの成果として、学校や図書館の建設数、寄贈本の冊数、奨学金の付与人数などを、メールの最後に記入しているというエピソード。

この辺りは、やはり、有能なビジネスマンだったという片鱗が伺える。

具体的な数字で、説得力を持たせるという姿勢。

最大のリスクは、たくさんの人が、あなたを説得して夢をあきらめさせようとすることだ。世の中には、うまくいかない理由をあげることが大好きな人が多すぎて、「応援しているよ」と励ましてくれる人が少なすぎる。一人で考える時間が長いほど、否定的な力に引き寄せられて取り込まれやすくなる。(P.246「第21章 ツナミ」)

この辺りは、結構、驚いた部分。

アメリカとか海外などであれば、もっと肯定的な雰囲気が醸成されているかな、と思っていたら、日本とそこまで変わらないのか。

人間の本質は心配性、悲観的といった感じか。

別に、誰かを貶めようとするのではなく、相手のことを深く考えて、そこから否定的な意見を伝えてしまうということもあるだろう。

どちらにしても、応援する、といった励ましは少ない、といった前提を踏まえておくと良いのかもしれない。

社会起業家や教育、貧困、アジア諸国、NPO、ビジネスなどに、興味のある人には、非常にオススメの作品。

ちなみに、この続編として、『僕の「天職」は7000人のキャラバンになった』も出版されている。

原題は、『Creating Room to Read: A Story of Hope in the Battle for Global Literacy』

続編のこちらも、立ち上げ後の各種のトラブルなどが描かれて面白い作品である。

書籍紹介

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コロラド大学

コロラド大学(University of Colorado)は、アメリカのコロラド州ボルダー市に本部を置く、1876年創立の州立大学。

公式サイト:コロラド大学

ケロッグ経営大学院

ケロッグ経営大学院(Kellogg School of Management)は、アメリカのイリノイ州エバンストンにあるノースウェスタン大学(Northwestern University)の1908年創立の経営大学院。

公式サイト:ケロッグ経営大学院