新田次郎『梅雨将軍信長』

新田次郎の略歴

新田次郎(にった・じろう、1912年~1980年)
小説家。
本名は、藤原寛人(ふじわら・ひろと)で、気象学者。
長野県諏訪郡上諏訪町角間新田(かくましんでん)の生まれ。
旧制諏訪中学校(現在の長野県諏訪清陵高等学校)、無線電信講習所本科(現在の電気通信大学の母体)、神田電機学校(現在の東京電機大学の母体)を卒業。
1956年に『強力伝』で直木賞、1974年に『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受賞。
妻は、作家の藤原てい(ふじわら・てい、1918年~2016年)、次男は数学者の藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)。

『梅雨将軍信長』の目次

梅雨将軍信長
鳥人伝
算士秘伝
灯明堂物語
時の日
二十一万石の数学者
女人禁制
赤毛の司天台
隠密海を渡る
解説 尾崎秀樹

『梅雨将軍信長』の概要

1979年11月25日に第一刷が発行。新潮文庫。444ページ。

気象や数学、山岳などを盛り込んだ歴史短編小説の9編。

「梅雨将軍信長」は、雨天や晴天といった気象に焦点を当てながら、織田信長(おだ・のぶなが、1534年~1582年)の桶狭間の戦いから本能寺の変までを描く。

「鳥人伝」は、空を飛ぶ夢を実現するために、悪戦苦闘する備考斎幸吉(びんこうさい・こうきち、1757年~1847年?)の物語。

「算士秘伝」は、江戸時代の日本の数学、つまり和算を主軸とした流派の対立の物語。

「灯明堂物語」は、現在の静岡県御前崎市に位置する灯台、当時の名称で灯明堂について繰り広げられる幕末の物語。

「時の日」は、蘇我蝦夷(そがのえみし、586年?~645年)が興味を抱いた中国の水時計・漏刻(ときのきざみ)と政変を描く飛鳥時代の物語。

「二十一万石の数学者」は、久留米藩主の有馬頼徸(ありま・よりゆき、1714年~1783年)と、第8代将軍・徳川吉宗(とくがわ・よしむね、1684年~1751年)との数学を介した交流を描いた物語。

「女人禁制」は、大奥に務める女中が成り行きから、女人禁制の富士山へ登らなければならななくなったという物語。

「赤毛の司天台」は、幕府直轄の天文台である司天台(してんだい)の天気の予想は当たらないのに、主人公となる浪人者の天気の予想は当たるといった構成。その理由と結婚による生活の変化と新たな発見という展開の物語。

「隠密海を渡る」は、中編もしくは長編の小説。主人公は、隠密としての活動をする徒目付(かちめつけ)の職。1714年に大奥で起きた絵島事件を中心に、一人の男の生き方を示す物語。

絵島事件とは、大奥に仕える絵島(えじま、1681年~1741年)が、歌舞伎役者の生島新五郎(いくしま・しんごろう、1671年~1743年)などを相手に遊興した事から始まる多くの処罰者を出した一連の事件。

「隠密海を渡る」だけは、章題があり、“折れた櫛”、“二人の小男”、“絵島の櫛”、“流人船”、“暗い島”、“叛乱”、“南風吹く”、“脱出”、“おとよの住居”で構成。

解説は、文芸評論家の尾崎秀樹(おざき・ほつき、1928年~1999年)。台湾台北市の生まれ。台北帝国大学付属医学専門部を中退。

『梅雨将軍信長』の感想

新田次郎の歴史・時代短編集。

解説に書いてあったが、技術者や科学者を主人公にした時代小説を、新田次郎は“時代科学小説”と呼んでいたとのこと。

このような作品は好きで、いろいろと読んでいる。というか、基本的に伝記小説とかが好きなのもあるけれど。

全く関係は無いけれど、作家・北康利(きた・やすとし、1960年~)の『蘭学者 川本幸民』なども非常にオススメ。

そんなわけで、新田次郎の『梅雨将軍信長』について。

どの作品も面白いけれど、強いて挙げるのであれば、「二十一万石の数学者」、「赤毛の司天台」、「隠密海を渡る」が特にお気に入り。

他の作品は、割と切ない終わり方というか、バッドエンディングの場合が多いけれど、上記の3作品は、良い感じに終わるのがポイント。

「二十一万石の数学者」では、初めて有馬頼徸という人物を知った。学問にも長けていて、特に数学は秀でていたという。1769年には、豊田文景(とよだ・ぶんけい)の筆名で『拾璣算法』(しゅうきさんぽう)を5巻にまとめて著した人物。

作家の遠藤寛子(えんどう・ひろこ、1931年~)の『算法少女』にも登場しているようなので、そちらもチェックしてみたい。

「赤毛の司天台」と「隠密海を渡る」も、主人公のキャラクターがとても良い。またその伴侶となる女性も。

それぞれの作品で、主人公の生き方が表現されているのが好きなところなのかも。

さまざまな時代の物語を楽しめる作品集。

新田次郎ファンだけではなく、歴史小説や時代小説、伝記小説などが好きな人、技術や科学が好きな人には、とてもオススメの著作である。

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