『維新の肖像』安部龍太郎

安部龍太郎の略歴

安部龍太郎(あべ・りゅうたろう、1955年~)
小説家。
福岡県八女市の生まれ。久留米工業高等専門学校機械工学科を卒業。
2004年『天馬、翔ける』で第11回中山義秀文学賞、2013年『等伯』で第148回直木賞を受賞。

朝河貫一の略歴

朝河貫一(あさかわ・かんいち、1873年~1948年)
歴史学者、日本人初のイェール大学教授。
福島県二本松市の出身。立子山小学校初等科・普通科・高等科を終了。福島県尋常中学校を首席で卒業。
東京専門学校(現在の早稲田大学)に編入学し首席で卒業。アメリカへ渡り、ダートマス大学を卒業、イェール大学大学院を終了。

『維新の肖像』の目次

第一章 薩摩御用盗
第二章 浪士召捕り
第三章 Unfair way
第四章 脱藩
第五章 船出
第六章 二つの墓碑
第七章 降伏勧告
第八章 攻撃命令
第九章 交渉決裂
第十章 縁談
第十一章 運命の歯車
第十二章 反日世論
第十三章 白河口の戦い
第十四章 脱出
第十五章 雨の中
第十六章 時代の大渦
第十七章 敗走
第十八章 世界主義者
第十九章 蟷螂の斧
第二十章 夜明け前
第二十一章 永遠なるもの
解説 澤田瞳子
主要参考文献

概要

2017年12月25日に第一刷が発行。角川文庫。415ページ。

イェール大学で教鞭を執る歴史学者の朝河貫一が、父親・朝河正澄(まさずみ)の参加した戊辰戦争について、小説を書くという二重構造の歴史時代小説。

戊辰戦争(ぼしんせんそう)とは、1868年の鳥羽・伏見の戦いから翌年の五稜郭の戦いまでの、新政府と旧幕府勢力との間の戦争。

朝河貫一の父親・朝河正澄は、二本松藩士として戊辰戦争で戦い手記を残す。

朝河貫一は、父が明治維新の時に何を考え、感じていたのかを追体験するために、残された資料を基に歴史小説を書き上げていく。

そして、朝河貫一が生きている時代は、1930年頃。

アメリカでは日本の軍国主義に反日運動が強くなってきていた状況。

二つの時代、二つの物語、父親と息子、それぞれが重層的に織りなす物語。

解説は小説家・澤田瞳子(さわだ・とうこ、1977年~)。京都府京都市の生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻を卒業、同志社大学大学院文学研究科博士課程前期を修了。

感想

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不勉強で、全く知らなかった人物、朝河貫一。

さらに、さまざまな歴史的な背景や要素から絡みまくる幕末、明治維新という時代。

幕末はあまりにも政治的な利害関係が錯綜しているので、書こうとは思わない的な主旨の発言を、確か小説家の隆慶一郎(りゅう・けいいちろう、1923年~1989年)がしていたような気がする。

似たような感覚で、ちょっと苦手な意識のある幕末という時代。

単に自分が日本史の知識が少ないだけなのかもしれないが。

でも、好きな作家である安部龍太郎の作品であり、評判もなかなか良かったので、読んでみた。

結論としては、とても面白かった。

明治維新。尊皇攘夷。倒幕。
賊軍。官軍。

薩長土肥が正義。
奥州が悪。

本当に明治維新とは素晴らしい時代の変革であったのか。
その疑問を投げ掛ける時代小説。

裏切り。思想。武士道。天皇。民衆。

二重の歴史物。さすが安部龍太郎。

朝河貫一の関連本も読んでみたくなった。ちゃんと幕末とかの事も勉強しないといけないと思った。

幕末や明治維新に興味ある人をはじめ、歴史時代小説が好きな人にも非常にオススメの作品。

巻末には主要参考文献が掲載されているので、その辺りをさらに深掘りしていくのも、楽しそうである。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

ダートマス大学

ダートマス大学(Dartmouth College)は、アメリカ合衆国ニューハンプシャー州ハノーバー市に本部を置く、1769年に創設の私立大学。

公式サイト:ダートマス大学

イェール大学

イェール大学(Yale University)は、アメリカ合衆国のコネチカット州ニューヘイブン市に本部を置く、1701年に創設の私立大学。

公式サイト:イェール大学

グローヴストリート墓地

グローヴストリート墓地(Grove St Cemetery)は、アメリカ合衆国のコネチカット州ニューヘイブン市にある墓地。朝河貫一が埋葬されている。ちなみに、福島県二本松市の金色(かないろ)墓地にも墓がある。

公式サイト:グローヴストリート墓地

安達ヶ原ふるさと村・先人館

福島県二本松市にある文化施設。朝河貫一をはじめとして、二本松市出身の偉人たちなどを紹介。

詩人で彫刻家であった高村光太郎(たかむら・こうたろう、1883年~1956年)の妻であり洋画家の智恵子(ちえこ、1886年~1938年)についても解説がある。

公式サイト:安達ヶ原ふるさと村・先人館