邱永漢の略歴
邱永漢(きゅう・えいかん、1924年~2012年)
作家、実業家。
台湾台南市の生まれ。東京大学経済学部を卒業。東京大学大学院で財政学を学ぶが後に中退。
1955年に、小説『香港』で第34回直木賞を受賞。
『商売の原則』の目次
まえがき
1章 商売を始めるための原則12
原則 1 時代は変わっても、変わらないのが商売の原則である
原則 2 商売には、向いている人、向いていない人がある
原則 3 脱サラをして商売を始めるなら、四十歳がラストチャンスである
原則 4 自分に合った商売は、自分の素質より人間関係の中で生れる
原則 5 お金が用意できてから始める商売には、お金が集まらない
原則 6 “借金名人”は、特定の人からドカンと借りる
原則 7 商売に必要なのは資格・免状より、“経済観念”である
原則 8 商売の計画は、三年目が一つのメドになる
原則 9 商売のパートナーは、その商売の経験者に限定しない
原則10 商売を始めるときは、“素人流”のほうがいい
原則11 女性が商売で成功するには、美人でないこと、きれい好きであることが条件
原則12 趣味を商売に生かすには、規模に注意する
2章 商売を成功させるための原則14
原則13 商売を成功させるためには、安い場所は落とし穴になる
原則14 業種に場所を合わせるより、業種を場所に合わせる
原則15 同業者の多い場所では、ターゲットさえ絞れば成功率は高い
原則16 開店イベントでも、知人、友人より初めての客を大事にする
原則17 チラシ一枚でも、客層をつかんでいないとまったくのむだになる
原則18 頭のいい人間より、忠誠心のある人間のほうが会社を伸ばす
原則19 開業時には、仕入れだけは経営者が直接かかわる
原則20 銀行は“自ら助くる者”にしか、お金を貸さない
原則21 親の商売を受け継いだときは、“攻撃こそ最良の防御”になる
原則22 ブームの新商売は、それだけ衰退するのも早い
原則23 チェーン店への参加は、親元がチェーン店を儲けさせようとしているかどうかをよく見る
原則24 成績の悪い支店は、早く閉めないと他支店も悪くする
原則25 値段を上げることで伸びる商売もある
原則26 商売に失敗しても、逃げずに堂々としていたほうが立ち直りやすい
3章 もっと儲けるための原則8
原則27 “売れる商品”は、時代によってどんどん変わっていく
原則28 商売感覚の基本は、“商売はサービス業だ”という発想にある
原則29 二匹目のドジョウは狙えるが、三匹目のドジョウは狙いにくい
原則30 商売のやり方は、同業者より異業種から多く学べる
原則31 手形を振り出さなければ、手形で悩まなくてすむ
原則32 税金対策、銀行対策は、商売の二大要素
原則33 商売が軌道に乗ったときのうまい節税法
原則34 金儲けのおもしろさは、結果よりもプロセスにある
『商売の原則』の概要
2001年6月15日に第一刷が発行。知恵の森文庫。274ページ。
もともとは1995年12月30日に、ごま書房新社から刊行されたもの。
中国の俗なことわざに、「女は自分が不美人であることをなかなか理解しない。男は自分がバカであることをなかなか理解しない」というのがあります。
要するに、男も女も、うぬぼれが強い。自分のことを棚に上げて、人のことはツベコベ言いたがるんです。(P.37「1章 商売を始めるための原則12」)
自分が商売に向いているかどうかを、自分で判断するのは非常に難しいと言っている部分。
かなり耳の痛い文章であるが、冷静な自己の客観視が必須ということ。
商売には、相手が必ずいるので、自分だけで仕事を進めることはできないと言及。
また、ある程度の経験と時間がないと、仕事の種類や雇う側なのか、雇われる側なのかの向き不向きは分からないとも。
この前段では、経済観念の必要性を説く。また怠け者を上手に使えると良いとも。人を雇う時には、適材適所での配置が重要とも。
この文章の後には、実業家・小林一三(こばやし・いちぞう、1873年~1957年)が、30代後半で事業家になって成功した例を挙げて、一般的には40歳までが独立の限度であると述べている。
損の計算をしっかりとしなさい――これは、私がいつも強調するところなんです。それができない人は、商売で成功することはむずかしいといっていいでしょう。ところが、自分ではなかなかわからないから、いい夢ばかり見て、商売を始める。結局、だれかが尻ぬぐいしなくてはならないことになるんです。(P.79「1章 商売を始めるための原則12」)
まずは何よりも先に損の計算をしておきなさいと説く。時間的な配分では、3年くらいの計画で損益を考えると良いとも。
自分の事業の体力、つまり資金的にどこまでの赤字が大丈夫なのかを確認しておく。すると、撤退の基準も分かる。
また、あらゆる契約書もしっかりと内容を精査しておくことも必要であると。
いい加減にしてしまうと、予想外の資金繰りの困難などに陥る場合もあると。さらに最悪の状況なども考えておくと良いと助言。
あくまでも3年は一つの指標なので、それ以前に無理だと分かったら、自分で事業をやらずに、誰かの下で働いた方が良いとも。
商売がうまくいかなくなる理由はたくさんありますが、うまくいくための条件はたった一つしかない。それはお客さんを気持よくさせることです。(P.139「2章 商売を成功させるための原則14」)
商売の本質は、お客さんを気持ち良い状態にさせること。
ここでは、飲食店を例にして、この文章を説明している。一度来たお客がダメだと判断したら、もう二度と来ることはない。
そのため、しっかりとした料理とサービスを提供する。常連客になってもらう。
気持ち良い時間を過ごしてもらい、気持ち良く帰ってもらい、また気持ち良く来てもらう。この循環が大切。
人と人との繋がりを大切にして、継続すること。一時しのぎの手段やサービスなどはしないこと、などがポイントであると。
ともかく、お金を借りることと、税金を節約することは、ほかの人は代わりにやってくれないということを、肝に銘じておくべきです。(P.257「3章 もっと儲けるための原則8」)
銀行対策と税金対策の重要性を語っている。
一般的な人は、このような知識を持っていないので、実際に似たような商売をしている知り合いなどから経験談を聞いたり、税理士に相談したりするべきと。
また本を読んだり、話を聞いたりしただけでは分からないことも多いので、結局は実際に、現実に直面しながら、対応していくしかないとも。
銀行からの借入金、月々の返済、利息、減価償却、所得税などなど。
金儲けがうまい人は、どんな商売をやれば人から感謝されるか、また歓迎されるかを本能的に知っています。実際、ある商品がよく売れるという現象の背景には、お客の気持ちの中に、これを買うと役に立つ、得になる、不便を片づけてもらえる、楽しい、というようないろいろな要素があります。(P.271「3章 もっと儲けるための原則8」)
結局のところ、お客さんとなる相手に満足感を与えなければならない。満足感を得られるからお金を払ってくれる、ということ。
問題の解決、悩みの解消を提供する。感謝される。商売でお金が儲かるということは、社会奉仕や社会貢献の一種とも言える。
また最終的には、お客さんだけではなく、商売をしている本人も楽しんでいなければ本物ではないとも。
商売選びでは、夢中になれるものを探すようにとのアドバイスも。
『商売の原則』の感想
すでに何度かは読み返している本。
日本が統治していた時代の台湾で、台湾人の実業家の父と日本人の母との間に、生まれた著者の邱永漢。
東京大学で経済を、東京大学大学院で財政学を学び、台湾に戻る。さまざまな職を経て、作家としてデビュー。
後に日本と海外で、いろいろなビジネスに携わり成功。日本でのビジネスホテル経営の元祖とも言われる。
その他に株式投資などでも成功。“株の神様”、“お金儲けの神様”という呼び名も付く。
作家ということもあり、文章が分かりやすい。また自分で事業を行なっているので、具体的な事例が豊富という特徴もある。
原則というものは不変であり、いつの時代にも通用する。何故それが徹底できないかというと、自惚れやプライド、怠慢などによるものなのかもしれない。
先の文章で、小林一三を紹介したが、ここから興味を持って、『私の行き方』を読んだり、阪急文化財団が運営する小林一三記念館に行ったりも。
実業家の人生などに触れるのも勉強になる。
ちなみに、光文社・知恵の森文庫の邱永漢の原則シリーズは、他にも『お金の原則』、『株の原則』、『生き方の原則』がある。
どれも非常に役立つ内容なので、気になるものから手に取ってみるのがオススメである。
書籍紹介
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邱大樓
邱永漢が台湾台北市中区に建てたビル。同じビルには「永漢日語」という日本語を教える学校もある。