『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』新谷学

新谷学の略歴

新谷学(しんたに・まなぶ、1964年~)
編集者。
東京都の生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業。1989年に文藝春秋社に入社。

『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』の目次

はじめに
第1章 ビジネスモデル構築 スクープDX時代の「稼ぐ仕組み」を作る
第2章 ブランディング すべてのビジネスに「クレディビリティ」が必要だ
第3章 差別化戦略 最大の武器は「スクープを獲る」
第4章 危機管理 週刊文春流 炎上から組織を守る五つの要諦
第5章 事業展開 異業種間コラボ成功のための極意
第6章 組織と個人 縦割りの垣根を越える編集力
第7章 働き方 ワーク・イズ・ライフ
おわりに

概要

2021年7月27日に第一刷が発行。光文社。205ページ。

スクープを「獲る」。炎上から「守る」。デジタルで「稼ぐ」――。
本書では、未曾有の危機を突破するために、リーダーが肝に銘じるべきだと私が考えることを記した。(P.4「はじめに」)

「はじめに」では、この本のタイトルの意味と内容の主旨が上記のように記されている。

デジタルの時代でも、やはりスクープを狙い、またそのリアクションとしての炎上や訴訟などについての防御、さらにデジタルでの収益化についてというのが基本的な内容となる。

感想

この本を読む数年前に、同じく新谷学が書いた『「週刊文春」編集長の仕事術 』を購入して読み終えていた。

確か「文春砲」という言葉が世に出回り始めた後くらいか。なかなか内容も面白かった記憶がある。

基本的に、人間への興味や関心が、物凄く強い感じ。何となく、幻冬舎の箕輪厚介(みのわ・こうすけ、1985年~)とかと似通った雰囲気も。

編集者というのは、そいう感じなのかもしれないが。

新谷学が、ちょこちょこと各種のメディアに出てきていたので、再び興味が湧いて、この『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』を、kindle unlimitedで読んでみた。

スクープをテレビ番組が紹介すれば、記事や動画の使用料も入ってくるようになった。ワイドショーやバラエティ番組で週刊文春の記事を使用した場合には、料金をいただくようにしたのだ。(P.27:第1章 ビジネスモデル構築 スクープDX時代の「稼ぐ仕組み」を作る)

これまでは、テレビなどで紹介すれば宣伝となって、「週刊文春」の売れ行きが上がるから無料といった状態。

だが、あまりにもテレビで報道し過ぎてしまうと、そこで視聴者は満足してしまい、「週刊文春」の購入には至らない。

ということで、使用料を得ることに。

最初は、一つの記事は3万円、動画は5万円だったが、後に一つの記事が5万円、動画が10万円となったという。

なかなかの売り上げになっているようだ。

この辺りのテレビ局との交渉や、権利の管理などについては特に記載はない。

スムーズに交渉は出来たのだろうか。権利のチェック体制とかは、どうなんだろう。法務部の中で、上手く監視機能が整えられているのかな。

『GAFA 四騎士が創り変えた世界』(スコット・ギャロウェイ著、渡会圭子訳、東洋経済新報社)によれば、大事なのは、人間の脳みそと心と性器をつかむことだ。(P.61:第2章 ブランディング すべてのビジネスに「クレディビリティ」が必要だ)

『GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、大学教授のスコット・ギャロウェイ(Scott Galloway、1964年~)が、Google、Apple、Facebook、Amazonについて、分析した作品。

原題は『The Four』。副題は「The Hidden DNA of Amazon, Apple, Facebook, and Google」。

脳みそは、知識欲。

心は、喜怒哀楽。

性器は、性欲。

とてもシンプルだ。

読者の中の上記の要素のどれかを刺激するような記事、コンテンツを作成する。

するとクリックされる。つまり、数字が上がり、稼ぐことができる。

うむ、やはりシンプル。

あとは数の論理と、ロングテールといったことか。なるほど。

この文章の前には、無料記事と有料記事の違いも。無料記事は、ちょっとした世間話のネタになるようなもの。有料記事は、どうしても知りたい、見たいと思わせるもの。

どうしても知りたい、見たいという時の要素が、先述のものである。

私が何度も読み返しているリーダー論の名著がある。フランスの軍人であり、大統領も務めたシャルル・ド・ゴールの『剣の刃』(小野繁訳、文春学藝ライブラリー)だ。(P.67:第2章 ブランディング すべてのビジネスに「クレディビリティ」が必要だ)

新谷学は、やはり編集者ということもあって、新旧のいろいろな本を読んでいる気がする。

シャルル・ド・ゴール(Charles André Joseph Marie de Gaulle、1890年~1970年)は、フランスの政治家、軍人、第18代の大統領。

『剣の刃』は、戦略論、組織論、リーダー論としても読める作品らしい。

新谷学は、朝令暮改を恐れずに、常に走りながら考えてきたという。さまざまな状況で、決断をする。『剣の刃』を引き合いに出しながら、リーダーに求められるのは、勝利すること、とまとめている。

なかなか面白そうなので、今度読んでみようか。

そういえば、クラウゼヴィッツ(Carl Philipp Gottlieb von Clausewitz、1780年~1831年)の『戦争論』も読みたいと思っていて読んでいない。

というよりも、『戦争論』の解説書で挫折したな。別の解説書を探して、チャレンジしてみよう。

ダメでもいいのだ。次に頼んだ時は、「また来たか」と相手の心が動くかもしれない。頼むことはタダ。頭下げることもタダ。一歩踏み出した結果、局面が突破できることは少なくない。優れた記者の条件は、愛嬌と図々しさとマジメさなのだ。(P.92:第3章 差別化戦略 最大の武器は「スクープを獲る」)

お願いするのは無料。頭を下げるのも無料。観念ではなく、経済合理性。

愛嬌と図々しさと真面目さ。バランスは難しいだろうな。そこは経験則というか、相手の機微を感じる心や目を培うしかないか。

あとは、単純な試行回数の多さか。同時に試行錯誤も。

ちなみに、新谷学は「親しき仲にもスキャンダル」と言い続けながら、人間関係の海を泳いでいるようだ。

仲の良い人もでも記事を書くし、記事を書いた人にも何かあれば会いに行く。

図々しさと真面目さ。その状況を上手に処すための愛嬌か。

私は生来の楽観主義者だ。「断られたらどうしよう」ではなく、まずは「受けてくれたら凄いぞ!」と考える。(P.147:第5章 事業展開 異業種間コラボ成功のための極意)

これは、先述の愛嬌と図々しさと真面目さ、と通じる。根本的に楽観主義であるから、良い方向にまずは考えるという姿勢。

新しいコラボをしながら、本を作る、その際の基本姿勢。

そこから、本の販売だけではなく、イベントやグッズに繋げて、収益の獲得の導線にも。

しかも、そのコラボの相手がスキャンダルとして記事になった人や、その影響の下にあった人だったりすることも。

人間の本能と経済の合理か。

この視点はしっかりと忘れないようにしておきたい所だな。

組織の最終的な決定権や人事権を握っているのは誰なのかを常に意識しておくことは、大きな仕事をする上で重要なのだ。(P.167:第6章 組織と個人 縦割りの垣根を越える編集力)

組織のキーパーソンを抑えておくこと。会社員でも、フリーランスでも重要なことだな。

ハブとなる人との信頼関係とかも。日頃からの信頼関係。相手のメリットやデメリットの考察。

そのように有機的な組織に対して、自分がどのような影響を与えるというか、利益を差し出せるか。

相手のリスク、コストを潰して、ベネフィットと用意する。

しっかりとツボを抑えておかないと、良い仕事は出来ないということだな。

というわけで、「週刊文春」や、編集者の仕事、新谷学、リーダーシップについて興味のある人には非常にオススメの本である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

文藝春秋

東京都千代田区紀尾井町にある出版社。1923年に小説家・菊池寛(きくち・かん、1888年~1948年)が創業。『週刊文春』『文藝春秋』『オール讀物』『文學界』などを発刊。

公式サイト:文藝春秋