『薩摩燃ゆ』安部龍太郎

安部龍太郎の略歴

安部龍太郎(あべ・りゅうたろう、1955年~)
小説家。
福岡県八女市の生まれ。久留米工業高等専門学校機械工学科を卒業。
2004年『天馬、翔ける』で第11回中山義秀文学賞、2013年『等伯』で第148回直木賞を受賞。

『薩摩燃ゆ』の目次

第一章 借金五百万両
第二章 黒糖地獄
第三章 唐物抜荷
第四章 藩主交代
第五章 英仏艦隊迫る
第六章 薩摩に死す
解説 調所一郎

概要

2007年10月10日に第一刷が発行。小学館文庫。473ページ。

2004年7月に刊行された単行本を文庫化したもの。

小学館「文芸ポスト」の2002年春号~2003年夏号に連載した作品。

主人公は、薩摩藩の家老・調所広郷(ずしょ・ひろさと、1776年~1849年)、通称は、調所笑左衛門(ずしょ・しょうざえもん)。

島津家の第25代当主であり、薩摩藩の第8代藩主である島津重豪(しまづ・しげひで、1745年~1833年)に仕えて、莫大な借金のある藩の財政改革を任せられる。

その額は約500万両。

現在の鹿児島県と宮崎県の南西部を領有し、沖縄も服属させていた薩摩藩。

その立地上の利点を活かして、中国・清などとも貿易をしていた。唐物の取り引きである。

その中で江戸幕府などの目をかいくぐって、抜荷、つまり密貿易によって、膨大な借金を返済しようとする。

また奄美大島や徳之島などで住民を苦役させて、黒糖を生産。密貿易と黒糖の生産によって、藩の財政を建て直していく。

さらに、藩内の政治闘争。藩主の交代劇なども加わる。江戸幕府との力関係も。

薩摩藩の第9代藩主・島津斉宣(なりのぶ、1774年~1841年)。薩摩藩の第10代藩主・島津斉興(なりおき、1791年~1859年)。薩摩藩の第11代藩主・島津斉彬(なりあきら、1809年~1858年)。

斉彬の異母弟・島津久光(ひさみつ、1817年~1887年)。それぞれとの関わり。

江戸幕府の老中・阿部正弘(あべ・まさひろ、1819年~1857年)との対立。

調所笑左衛門の薩摩藩の財政改革及び、その生き様、死に様を描いた時代小説。

感想

非常に面白い作品。

調所笑左衛門のことは、あまり知らなかったけれど、かなりの創作部分が入っているとはいえ、大枠を捉えることができた気がする。

要所要所、盛り上がりの場面もあり。非人道的な部分もあり。
ただそれを清濁併せ呑み、最後には自裁した調所笑左衛門。

“何事も嘘偽りの世の中を見て捨て難き薩摩魂”

という辞世の句も凄かった。もちろん、安部龍太郎の創作ではあると思うが。

ラストシーンは、かなりドラマチックというか壮絶である。

また解説には、刀剣刀装の研究家で、調所笑左衛門の七代の孫である調所一郎(ずしょ・いちろう、1960年~)の文章も。

この解説も、見どころの一つである。各章に対して、調所笑左衛門の家系の人物が考察。創作と事実と想像の照らし合わせが面白い。

調所笑左衛門について知りたい人、薩摩藩の歴史に興味のある人、単純に時代小説を楽しみたい人などに、非常にオススメの作品である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

島津家墓地・福昌寺跡

鹿児島県鹿児島市池之上町にある島津家墓地で、福昌寺跡。2001年に東京都世田谷区にある浄真寺から、調所笑左衛門の遺骨と遺髪を改葬。