- ミッション志向の重要性
- ミッション発見と価値観
- ミッションの伝達と実行
- 持続的な成長の3つの鍵
斎藤祐馬の略歴・経歴
斎藤祐馬(さいとう・ゆうま、1983年~)
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社の代表取締役社長。公認会計士。
慶應義塾大学経済学部を卒業。2006年公認会計士試験に合格、監査法人トーマツ入社。
2010年に、ベンチャー支援事業を立ち上げ、世界7カ国、150名の規模へ拡大。
2019年に、デロイトトーマツベンチャーサポートの代表取締役社長に。
『一生を賭ける仕事の見つけ方』の目次
はじめに 理想と現実の狭間でもがいた日々。その先で見つけたもの
第0章 ミッションは、歩んできた人生のなかにある
第1章 ミッションを定める――自分が「登るべき山」を見つける
第2章 マインドを磨く――自分の人生を本気で生きる「覚悟」を決める
第3章 ビジネスモデルをつくる――ミッションを事業に変えて「未来のニーズ」を証明する
第4章 ネットワークをつくる――「ストーリー」をひたすら語りつづけて人を巻き込む
第5章 チームをつくる――ミッション志向の仲間を集めて加速度的に成長する
おわりに 自分だけのミッションを生きる人生を、すべての人に
謝辞
参考文献
『一生を賭ける仕事の見つけ方』の概要・内容
2016年8月25日に第一刷が発行。ダイヤモンド社。237ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。
帯には「今の自分は、なりたかった自分なのか」。「起業家の登竜門『モーニングピッチ』発起人が初めて明かす『思い』と『仕事』をつなぐ5つのステップ」。
「自分の人生を『本気』で生きる。そのための究極の方法が、ここにある」とも。
『一生を賭ける仕事の見つけ方』の要約・感想
- ミッションは人生経験に根差す
- ミッションを見つけるための価値観の探求
- ミッションを伝える「My-Our-Now」とは
- 事業を軌道に乗せる3つの資質
- 熱量を保ち自分をリバイバルする3つの方法
- ビジネスモデルで未来のニーズを証明する
- 人に寄り添い巻き込むストーリーの力
- ミッション志向の仲間と加速度的成長
- おわりに:自分自身のミッションを胸に歩む
現代社会は、かつてないほどのスピードで変化し、働き方や価値観も多様化の一途をたどっている。
終身雇用や年功序列といった従来の日本的経営システムが揺らぎ、個人のキャリア形成はますます自己責任の度合いを強めている。
このような時代背景の中、多くの人々が自らの職業生活において、「本当にこのままで良いのだろうか」「自分は何を成し遂げたいのか」といった根源的な問いに直面しているのではないだろうか。
就職活動を目前に控えた学生たちは、無数の選択肢の中から何を基準に最初のキャリアを選べばよいのか戸惑い、既に社会で活躍しているビジネスパーソンたちも、日々の業務に追われる中でふと立ち止まり、仕事のやりがいや意義を見失いそうになる瞬間があるかもしれない。
あるいは、人生の大きな転機を迎え、これからの生き方そのものを見つめ直そうとしている人々もいるだろう。
本書『一生を賭ける仕事の見つけ方』は、まさにそうした現代人の漠然とした不安や、キャリアに対する深い問いに応えるべく書かれた一冊である。
著者は、ベンチャー支援のプラットフォームの発展に尽力し、数多くの起業家を支援してきた斎藤祐馬。株式会社デロイトトーマツベンチャーサポートの代表取締役社長であり、革新的なアイデアを持つ数多の挑戦者たちと向き合い、その成長を後押ししてきた実績を持つ。
また、高橋弘樹(たかはし・ひろき、1981年~)がプロデューサーを務めるYouTubeチャンネル「ReHacQ」(リハック)などのメディアにも出演し、その明快な語り口と実践的なアドバイスで、幅広い層からの支持を集めている。
本書は、そのような斎藤祐馬が、これまでの豊富な経験と深い洞察に基づき、我々が真に充実した職業人生を歩むための羅針盤として提示するものである。
この書籍がユニークなのは、単なる転職ノウハウやスキルアップ術を説くものではないという点だ。
多くのキャリア関連書が「どのように働くか(How to)」に焦点を当てるのに対し、本書は「何のために働くのか(Why)」、すなわち自分自身の「ミッション」を見出すことの重要性を一貫して強調する。その核心は、冒頭で力強く宣言されるこのメッセージに集約されている。
「キャリア志向」から「ミッション志向」へ――。
それが、この本で伝えたいメッセージのいちばんの核心部分だ。(P.7「はじめに」)
従来の「キャリア志向」が、地位や名声、収入といった外的要因を重視する傾向があったとすれば、「ミッション志向」は、自らの内なる価値観や情熱に基づき、社会に対してどのような貢献をしたいのか、何を成し遂げたいのかという内発的な動機を原動力とする生き方である。
本書は、この「ミッション」こそが、変化の激しい時代においても揺らぐことのない、個人のキャリアの確固たる軸となり、ひいては「一生を賭ける仕事」へと繋がっていくと説く。
読者は、本書を通じて、自己の経験や価値観を深く掘り下げ、自分だけのミッションを発見し、それを具体的な行動へと転換していくための具体的なステップを学ぶことができるだろう。
それは、時に困難を伴う自己との対話であり、新たな挑戦への覚悟を促すものでもある。
しかし、その先には、日々の仕事に心からの情熱を注ぎ、真の自己実現を果たす道が開けているのかもしれない。
本書は、まさにそのための灯台の光となる可能性を秘めている。
ミッションは人生経験に根差す
第0章「ミッションは、歩んできた人生のなかにある」では、個人のミッションが、その人の過去の経験や体験と深く結びついていることを示唆する。
人が何かに対して強い情熱を感じたり、使命感を抱いたりする背景には、多くの場合、個人的な原体験や、これまでの人生で培われてきた価値観が存在する。
それは、幼少期の出来事かもしれないし、学生時代の部活動や研究、あるいは社会に出てからの成功体験や手痛い失敗かもしれない。
斎藤祐馬は、表面的なスキルや社会的な流行に流されるのではなく、自分自身の内なる声に耳を傾け、これまでの人生で何を大切にし、何に心を動かされ、どのような時に喜びや怒り、悲しみを感じてきたのかを丁寧に振り返ることの重要性を説く。
この自己探求のプロセスを通じて、読者は自分だけのミッションの種が、既に自らの中に存在している可能性に気づかされるだろう。
それは、まだ明確な形を成していないかもしれないが、確かに自分を突き動かす何かであり、それを丹念に掘り起こし、言語化していく作業こそが、ミッション発見の第一歩となるのである。
ミッションを見つけるための価値観の探求
第1章「ミッションを定める――自分が『登るべき山』を見つける」では、自分自身のミッションを具体的に見つけ出すためのアプローチが紹介される。
抽象的な自己分析に終始するのではなく、より実践的で具体的な方法論が提示されるのが本書の特徴の一つである。
特に興味深いのは、自分の人生において最も重要だと感じる価値観を、核となる2つのキーワードに集約し、そこからミッションを探るという手法である。
この2つのキーワードは、いわば自分自身の「コンパス」のようなものであり、人生の岐路に立った際の意思決定の基準となる。
僕の後輩に当たるあるチームメンバーの例では、「人とのつながり」と「知識欲」というケースもあった。両方が満たされていると、その後輩は充実感を得られ、どちらか一方でも満たされないと、気持ちが下向きになっていくのだそうだ。(P.53「第1章 ミッションを定める」)
この引用にあるように、2つのキーワードが満たされる状況に身を置くことが、個人の幸福感やモチベーションに直結する。
これは非常に実践的な自己理解の手法と言えるだろう。例えば私自身を振り返ってみると、「尊敬できる人々との有機的な繋がり」と「終わりなき知的好奇心と学び」は、確かに日々の充実感や仕事への満足度に大きく関わっていると感じる。
さらに言えば、これらに加えて「納得のいく質の高い仕事を通じて社会に価値を提供し、その対価として経済的な安定と自由を得る」という要素も、私にとっては譲れない価値観である。
このように、自分にとって本当に譲れない価値観、心が躍るような要素を明確にすることで、自分がどのような分野で、どのような役割を担い、どのような貢献をしたいのか、すなわち「登るべき山」の輪郭が見えてくるのかもしれない。
斎藤祐馬の提案するこの方法は、複雑に絡み合った自己の欲求や願望をシンプルに整理し、その本質を見抜くための強力な手助けとなるだろう。このプロセスは、時に内省的で時間を要するかもしれないが、それこそが確固たるミッションを築くための土台となる。
ミッションを伝える「My-Our-Now」とは
ミッションを見つけること自体も重要だが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが、そのミッションを他者に効果的に伝え、共感を呼び、協力を得ることである。
どんなに素晴らしいミッションも、自分一人の胸の内に秘めているだけでは、大きな力を持つことは難しい。この点について、斎藤祐馬は「My-Our-Now」という極めて実践的なフレームワークを提示する。
こうしたミッションの力を最大限に活かすには、ミッションの伝え方も重要だ。それには「My-Our-Now」というフレームワークにもとづく3つのポイントがある。(P.62「第1章 ミッションを定める」)
このフレームワークは、
「My(なぜ自分が、個人的な体験や情熱から、そのミッションに取り組むのか)」
「Our(なぜ私たち、すなわち聞き手を含むコミュニティや社会全体にとって、そのミッションが重要であり、共感する価値があるのか)」
「Now(なぜ今、この時代、このタイミングで、そのミッションに取り組むべき緊急性や必然性があるのか)」
という3つの視点から、構造的かつ情熱的にミッションを語る手法である。
例えば、個人の原体験(My)から生まれた特定の社会課題に対する問題意識を、より普遍的な社会全体の課題や、多くの人々が共有し得る価値観(Our)へと接続させる。
そして現代社会が抱える特有の閉塞感や、まさに今だからこそ求められる新しい価値観を、時代性や喫緊のニーズ(Now)と結びつけることで、ミッションは単なる個人的な思いを超え、より普遍的な共感を呼び、人々を巻き込む強力なメッセージへと昇華されるのだろう。
この伝え方は、個人の内なる情熱を、社会的な意義やムーブメントへと効果的に転換させるための重要な鍵と言える。
このフレームワークを意識することで、プレゼンテーションや交渉、あるいは日常的なコミュニケーションにおいても、相手の心を動かし、協力を引き出す確率を高めることができるはずだ。
事業を軌道に乗せる3つの資質
第2章「マインドを磨く――自分の人生を本気で生きる『覚悟』を決める」では、ミッションを掲げて事業を創造し、それを成功へと導くために不可欠な資質について深く掘り下げられる。
特に、多くのスタートアップが経験する「Jカーブ」、すなわち初期投資や事業立ち上げの困難により一時的な業績の落ち込みを経験し、その後、急成長軌道に乗るという過程を乗り越える起業家が共通して持つべき要素として、3つの核心的な資質が挙げられている。
なお、「Jカーブ」の谷を越え、事業を軌道に乗せる起業家(社内で新規事業を立ち上げる「社内起業家を含む」)は、ほぼ共通して3つの資質を備えている。1つが本章で触れる「マインド」であり、残る2つが「経営スキル」と「ネットワーク」だ。(P.84「第2章 マインドを磨く」)
ここで言う「マインド」とは、逆境や困難に直面しても決して諦めない強靭な精神力、目標達成への揺るぎない熱量や覚悟、そして自己を信じ抜く力である。
「経営スキル」は、掲げたミッションを具体的なビジネスモデルに落とし込み、市場のニーズを的確に捉え、持続可能な形で収益を生み出し事業を成長させるための戦略的思考や実行力、財務知識などを指す。
そして「ネットワーク」は、ミッションに共感する仲間や支援者、顧客を増やし、外部の知識やリソースを効果的に活用しながら事業を拡大していくためのコミュニケーション能力や人間関係構築力、巻き込み力と言い換えることができるだろう。
創業期や事業が思うように進まない低迷期には、この圧倒的な「マインド」が継続の原動力となり、確固たる「経営スキル」に基づくビジネスモデルが経済的基盤を支え、そして広範かつ強力な「ネットワーク」が新たな機会や必要なサポートを引き寄せる。
斎藤祐馬自身の輝かしい経歴、例えばデロイトトーマツベンチャーサポートを立ち上げ、率いてきた経験などは、まさにこれらの経営スキルや広範なネットワーク構築の重要性を体現しており、その言葉に強い説得力を与えている。
これらの資質は、一朝一夕に身につくものではなく、日々の意識的な努力と経験の積み重ねによって磨かれていくものである。
熱量を保ち自分をリバイバルする3つの方法
ミッションを追求し、困難なJカーブの谷を乗り越えるためには、何よりもまず内なる「熱量」を高いレベルで維持し、時には意図的に自分自身を「リバイバル」させる、つまり再活性化させることが不可欠となる。
この極めて重要な問いに対し、斎藤祐馬は自身の経験に基づいた、間違いなく効果があると断言する具体的な3つの方法を提示する。
では何をすれば、「熱量」を保ち、自分をリバイバルさせることができるのか――。
ここでは、僕が実践してきたなかで間違いなく効果がある3つの方法を紹介したい。「自分のミッションを語りつづけること」、「会う人をコントロールすること」、そして「本を読み、講演会に行くこと」の3つだ。以下、それぞれ順に見ていこう。(P.104「第2章 マインドを磨く」)
第一に、「自分のミッションを語りつづけること」。
これは、自らが掲げた目標や理想を定期的に言葉にし、他者に伝えることで、自分自身のコミットメントを再確認し、モチベーションを内側から燃え上がらせる効果がある。また、他者からのフィードバックや共感を得ることで、孤独感を和らげ、さらなるエネルギーを得ることもできる。
第二に、「会う人をコントロールすること」。
これは、周囲の人間関係が個人の思考や感情、行動に与える影響の大きさを深く理解した上での、極めて戦略的な自己管理術と言えるだろう。
私たちの人生における時間は有限であり、その貴重な時間を誰と過ごすかを選ぶことは、自身のエネルギーレベルや思考の質を高く保ち、ネガティブな影響から身を守るために不可欠である。刺激を与えてくれる人、応援してくれる人、共に成長できる人と意識的に関わることが重要となる。
第三に、「本を読み、講演会に行くこと」。
これは、新たな知識や多様な視点、成功者たちの経験談に触れることで、自己の視野を広げ、思考を深め、インスピレーションを得て、自己を継続的にアップデートし続けるための積極的な行動である。
この点に関して、ライフネット生命保険株式会社の創業者の一人である出口治明(でぐち・はるあき、1948年~)も、常々「賢くなる唯一の方法は、たくさんの良質な本を読み、たくさんの多様な人々に会い、たくさんの未知の場所を旅することしかない」という趣旨の発言をしており、知的好奇心と行動の重要性を説いている。
また、慶應義塾長も務めた経済学者であり、優れた教育者でもあった小泉信三(こいずみ・しんぞう、1888年~1966年)は、その著書や講演の中で、よく次のように述べている。
「人生において万巻の書を読むことも重要だが、それ以上に、優れた人物、尊敬できる人物に一人でも多く直接出会い、薫陶を受けるほうが、どれほど人間としての成長の糧になるか計り知れない」と。
このように人との出会いから得られる生きた知恵や人格的影響の重要性を強調した。
もちろんこれは、読書を軽視するのではなく、読書を通じて基礎的な知識や教養を深めつつも、積極的に外に出て人と会い、現実の世界から学ぶべきだという意味だと解釈するのが妥当であろう。
自らが信じる情熱やミッションを胸に抱き、書籍から普遍的な知識や多様な思考法を学び取り、そして様々な人々との出会いから実践的な知恵や貴重なネットワーク、さらには共に理想を追求する仲間や協力者を得る。
これら三つの要素が相互に作用し、三位一体となって、自己を常にリバイバルさせ、困難を乗り越えて前進するための尽きない力を与えてくれるのだろう。
自分の内なる使命感や抑えきれない欲求、社会に対する責任感を持ち続け、書籍を通じて知識と教養を深め、そして現実社会での人々との積極的な交流を通じて、生きた知恵や強固なネットワーク、さらには志を同じくする仲間や信頼できる協力者を得ることの計り知れない重要性が、ここからも明確に見て取れる。
ビジネスモデルで未来のニーズを証明する
第3章「ビジネスモデルをつくる――ミッションを事業に変えて『未来のニーズ』を証明する」では、個人の内なる情熱や社会的なミッションを、具体的な事業として社会に実装し、持続可能な形で成立させるための設計図、すなわちビジネスモデルの構築について詳述される。
どんなに崇高なミッションや革新的なアイデアも、それが経済的に成立し、継続的に価値を生み出し、社会に貢献できるような構造、つまり強固なビジネスモデルを持っていなければ、絵に描いた餅に終わってしまう可能性が高い。
単に良いアイデアであるという自己満足に留まらず、それが市場において顧客に受け入れられ、実際に収益を上げられる構造になっているかどうかが厳しく問われるのである。
特に現代のように変化のスピードが速く、不確実性の高い時代においては、「未来のニーズ」を的確に捉え、それを先取りする形でビジネスモデルを通じて社会に提示し、その有効性を証明することが極めて重要となる。
社会構造の変化や技術の進展、人々の価値観の変容などを深く洞察し、まだ顕在化していない潜在的な需要や、これまで見過ごされてきた社会課題を掘り起こし、それらに対する独自の解決策をサービスや製品として提供できるかどうかが、事業の長期的な成否を分けると言っても過言ではないだろう。
この章では、ミッションを収益化し、社会にインパクトを与え続けるための戦略的な思考法が語られる。
人に寄り添い巻き込むストーリーの力
第4章「ネットワークをつくる――『ストーリー』をひたすら語りつづけて人を巻き込む」では、自らが掲げたミッションへの共感を広げ、より多くの人々をその実現に向けた動きに巻き込んでいくための、効果的なコミュニケーションのあり方とネットワーク構築術が語られる。
その核心にあるのは、テクニック論以前の、人間理解に基づいた姿勢、すなわち相手の立場や感情、関心事に深く寄り添うことの根本的な重要性である。
なぜ、相手に寄り添って話すのが重要かというと、答えは簡単。端的に言って、ほとんどの人は自分にしか興味がないからだ。(P.189「第4章 ネットワークをつくる」)
この一文は、コミュニケーションにおける普遍的な真実を、極めて率直かつ鋭く突いている。我
々人間は、本質的に自己中心的であり、他者の話を聞いているようでいても、その実、自分自身の関心事や悩み、欲求、あるいは次に何を話そうかといったことに意識が向いている場合が多い。
だからこそ、相手に何かを伝え、心を動かし、行動を促そうとするならば、まず相手の世界観や価値観を真摯に理解しようと努め、相手が使っている言葉や関心のある話題に合わせ、相手の視点から語りかける必要がある。
そして、自分自身のミッションやビジョンを、単なる目標や計画として提示するのではなく、相手の個人的な価値観や目標、願望と結びつくような、感情に訴えかける魅力的な「ストーリー」として語ることが、深い共感と自発的な協力を得る上で極めて効果的となるのである。
他者に本質的な興味を持ってもらうことが難しい現代において、自分のメッセージを確実に届け、相手の心を掴むためには、通常よりもはるかに大きなエネルギーと戦略的な工夫、例えば「他者よりも3倍の量」でアピールするくらいの意識と熱量が必要なのかもしれない。
斎藤祐馬の言う「ストーリーをひたすら語りつづける」という行為は、人間心理の深い理解と、共感を呼ぶ物語の力を信じる、極めて戦略的なコミュニケーション活動と言えるだろう。
ミッション志向の仲間と加速度的成長
第5章「チームをつくる――ミッション志向の仲間を集めて加速度的に成長する」では、壮大なミッションを現実のものとしていくための組織作り、すなわち効果的なチームビルディングの重要性が説かれる。
どんなに優れた個人であっても、一人で成し遂げられることには限界がある。
しかし、同じ志、同じミッションを共有する情熱的な仲間が集まることで、個々の力を足し合わせた以上の相乗効果が生まれ、一人では到底達成不可能な大きな目標も現実のものとしていくことが可能になる。
ミッションに心から共鳴し、それぞれの持つ多様なスキルや才能、経験を最大限に発揮できるような、心理的安全性の高いチームを築くことができれば、事業やプロジェクトは文字通り加速度的に成長し、大きな社会的インパクトを生み出すことができるだろう。
そこでは、強力なリーダーシップを発揮するリーダーの役割はもちろん重要だが、それ以上に、チームのメンバー一人ひとりがミッションのオーナーシップを持ち、主体的にその実現に向けて関わり、互いに協力し、高め合っていくような組織文化を醸成することが求められる。
この章では、そのようなミッションドリブンなチームを作るための具体的な考え方やアプローチが示される。
おわりに:自分自身のミッションを胸に歩む
『一生を賭ける仕事の見つけ方』は、変化が常態となり、将来の予測が一層困難になっている現代において、私たち一人ひとりが自らの人生と仕事に対して、より深く、より主体的に、そしてより情熱的に向き合うことを力強く促す書である。
現代社会において、自身のキャリアに対して漠然とした不安を抱えていたり、日々の仕事に心からのやりがいや意義を見出せずにいたりする人々にとっては、本書が提示する「ミッション志向」という生き方、働き方は、暗闇を照らす一条の光となり得る、非常に力強いメッセージを内包している。
斎藤祐馬が提唱する「ミッション志向」という考え方は、目先の報酬や地位、あるいは社会的な評価といった外的要因に振り回されることなく、自らの内なる声に耳を傾けることである。
そして、本当に大切なものを見出し、それを行動の原動力としていく生き方であり、混迷の時代を生き抜くための確かな羅針盤のような役割を果たし得る。
自分にとって本当に価値があると感じるものは何か、どのような状態にあるときに心が満たされるのか、何に対して自分の時間とエネルギーを注ぎ込みたいのかを真剣に問い続けること。
自分なりの「小さなミッション」あるいは「日々の指針」を見つけ出すことは、より充実した、後悔のない人生を送る上で不可欠なプロセスであろう。
本書を手に取り、そこに記された斎藤祐馬の熱い言葉や、具体的な問いかけ、そして数々の事例と真摯に向き合うことで、これまで気づかなかった自分自身の可能性が見えてくるかもしれない。
心の奥底に眠っていた情熱に光が当たり、あなた自身の「登るべき山」、すなわち一生を賭けてでも追い求めたい、あなただけのミッションへと繋がる道筋が、徐々に明らかになるかもしれない。
それは、決して楽な道のりではないかもしれないが、その探求の旅路こそが、自己成長を促し、生きる喜びを深めてくれるはずである。
本書が、その最初の一歩を踏み出すための勇気と知恵を与えてくれることを願ってやまない。
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