『楽しくなければ仕事じゃない』干場弓子

干場弓子の略歴

干場弓子(ほしば・ゆみこ、1955年~)
編集者、実業家。
愛知県の出身。愛知県立旭丘高校、お茶の水女子大学文教育学部を卒業。
世界文化社に入社。1984年から出版社のディスカヴァー・トゥエンティワンの設立に参画。1985年4月1日、同社設立に伴い、30歳で取締役社長に就任。
2019年12月末日をもって任期を終え、ディスカヴァー・トゥエンティワンから独立し「干場弓子事務所」を設立。
2021年5月にビジネス書を扱う出版社の株式会社BOW&PARTNERSを設立。

『楽しくなければ仕事じゃない』の目次

はじめに
CHAPTER 1 働く人を惑わす10の言葉 1 キャリアプラン
CHAPTER 2 働く人を惑わす10の言葉 2 効率
CHAPTER 3 働く人を惑わす10の言葉 3 好きを仕事にする
CHAPTER 4 働く人を惑わす10の言葉 4 夢をかなえる
CHAPTER 5 働く人を惑わす10の言葉 5 ロールモデル
CHAPTER 6 働く人を惑わす10の言葉 6 ワークライフバランス
CHAPTER 7 働く人を惑わす10の言葉 7 嫌われてはいけない
CHAPTER 8 働く人を惑わす10の言葉 8 リーダーシップ
CHAPTER 9 働く人を惑わす10の言葉 9 自己責任
CHAPTER 10 働く人を惑わす10の言葉 10 自己成長
おまけ 視点を変える 明日を変える
おわりに

概要

2019年11月7日に第一刷が発行。東洋経済新報社。ソフトカバー。278ページ。四六判。127mm×188mm。

副題は、“「今やっていること」がどんどん「好きで得意」になる働き方の教科書”。

感想

ディスカヴァー・トゥエンティワンの書籍を、何だかんだで色々と読んでいて、その経営者にも興味が湧いたから購入。

結論としては、予想以上に面白かった。逆張り思考的な、というか、著者にとっては、当たり前の思考なのかもしれないが。

一般論とか常識とかを疑う。むしろ、自分の思考や感性を信じるというもの。

自分を主張する、好きなもの、楽しいものへと向かう、といった感じ。

かなり頭の良い人で、行動力も、情熱もあるという、まさに経営者。積んでいるエンジンが違う人種系。

自分の意見を持つことは、自分のビジョンを持つことであり、ミッションを持つことであり、さまざまな判断の基準を持つことだ。それがあればこそ、さまざまなアイデア、発想も生まれる。それがなくなってしまうということは……?(P.45:CHAPTER 1 キャリアプラン・解説するな。意見を言え」)

自分の意見を持つことが大事。そして発信、発言すること。

理想や計画、使命、道徳、倫理。そこから独自のアイデアや発想が生れる。

それがないなら、誰の人生になるのか、という結論。

怖い怖い。他の人の人生を歩んでも何の意味もないので、自分の人生を歩んでいかないと。知らず知らずの内に、別の道を歩まされている場合もあるかもしれないので、気を付けたい。

どのテーマもコンパクトにまとめられているのも特徴。そのため、サクサクと読み進められる。出版社でのキャリアが長いので、当然文章も上手い。

その次の部分では、恩に関しても。人から受けた恩は忘れずに、人に与えた恩は忘れる、のが良いと。

あれも無駄、これも無駄、とやっていったら
最後はいちばん無駄な存在は自分だ、ってことにならないか?
生きることそのものが無駄な行為にならないか?(P.62:CHAPTER 2 効率・無駄のすすめ」)

哲学的に効率を考えていったら、自分自身の存在意義まで到達してしまう。

生きることは無駄なことをすることでもある。楽しむことが大事である。

効率の前に考えることがあると。「断捨離」というのが好きではない、とも。その前のところでは、あまりにもコスパ、コスパ言うのも、どうなのか的な話もある。

無駄というか、回り道というか、寄り道というか、そういったものが重要ではないのかと。

仕事では結果が大事、ではあるが、人生では過程が大事と。

一見、無駄に見えるようなものが緩衝材になったり、アイデアの源泉になったりすることも。

だいたいが、「本当に」というのが出てきたら、用心したほうがいい。(P.72:CHAPTER 3 好きを仕事にする・そもそも好きなことなんてないのがデフォルト)

「本当に?」と言い出したら疑いが生れる。立ち止まってしまう。

そのようなことを言い出したら、先述の「効率」と同じように深い哲学的思索に入ってしまう。

「本当に?」などと考えずに、まずは目の前のことに集中する。

無理に好きになることもないが、無理に嫌いになることもない。

フラットでニュートラルな心持ちで物事に対処していく中で、好きなもの、また得意なものも見えてくる、というもの。

「道路清掃人となるべき運命の人間は、ミケランジェロが絵を描くように、ベートーヴェンが作曲するように、シェークスピアが詩を書くように、道路を掃除しなければならない」(P.91:CHAPTER 3 好きを仕事にする・仕事に価値の違いはないが、誰がやるかによって違いはある)

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(Martin Luther King Jr.、1929年~1968年)の有名な演説からの引用。

原文は以下。

If a man is called to be a street sweeper, he should sweep streets even as Michelangelo painted or Beethoven composed music or Shakespeare wrote poetry.

カッコいい。

仕事には、それを行なう人間の価値が表れるということ。どのような小さな仕事でも一生懸命やるべしだな。

引用に出てくる人物に関しては以下。

ミケランジェロ・ブオナローティ(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni、1475年~1564年)は、イタリア盛期ルネサンス期の彫刻家、画家、建築家、詩人。

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven、1770年~1827年)は、ドイツの作曲家、ピアニスト。

ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare、1564年~1616年)は、イングランドの劇作家、詩人。

この3人を例えに出したというのは、誰もが知っている芸術家で偉人であるということか。

この言葉は不勉強で知らなかったので、記憶にとどめておこう。

さて、思考より行動、というか、行動こそ思考である。というわたしの信条は、まさに、世代的に知らず知らずのうちに、実存主義とプラグマティズムの影響を受けていることの表れなのかもしれない。(P.132:CHAPTER 4 夢をかなえる・四の五の言わずに、手を動かせ、足を動かせ、結果で示せ)

「実存主義」は、人間の現実存在を中心に置く思想的立場。本質存在と対になるもの。

“世代的に”というのは、著者が十代半ばであった1960年代の学生運動の思想的背景がポイントとなる。

つまり、フランスの哲学者であるジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Charles Aymard Sartre、1905年~1980年)の『実存主義とは何か』の影響があったということか。

「プラグマティズム」(pragmatism)は、ギリシア語の「行為」や「実行」を意味するプラグマ(pragma)に由来し、実用主義、道具主義、実際主義とも訳される考え方。行為や行動を重視するもの。

行動が思考の表現形態。行動が人生。行動が表明。

分かりやすい。要約してしまえば、考えて、行動しなさい、という極めてシンプルな結論になってしまうけれど。

夢を語るのは結構。ただ、本当に実現したかったら、「◯◯します!」と言おう。(P.132:CHAPTER 4 夢をかなえる・「思いが実現する」ときとしないとき)

筆者は「◯◯したいと思います!」というのには注意が必要だと主張。それは、ただの願望であるから。

本当に実現したいのであれば、しっかりと意思表明として「◯◯します!」と宣言する。

大事だな。

言葉と行動。行動による意志の表明。宣言。

行動が伴わない人間は苦手。自分も可能な限り行動で表現していきたい、いや、表現します!

というわけで、老若男女問わずに、非常にオススメの本である。

書籍紹介

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ディスカヴァー・トゥエンティワン

東京都千代田区平河町にある、1985年に代表取締役会長の伊藤守(いとう・まもる、1951年~)と取締役社長の干場弓子によって設立された出版社。

公式サイト:ディスカヴァー・トゥエンティワン