
- 書籍『ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS』は、現代社会での幸福を現実的に追求するための戦略を、著者の経験に基づいて紹介。
- 凡人であることを認め、地に足つけた努力をし、仕事以外の趣味を大切にし、悲しみを受け止めて前に進むことが、幸福の基盤に。
- 欲望を明確にし、拒絶を恐れず行動し、パートナーとの愛情や身体的親密さを重視することで、成功と人間関係を強化。
- 幸福の形は人それぞれで、本書をきっかけに生の有限性を意識し、自分だけの価値観で内省し、独自の人生を設計すべき。
スコット・ギャロウェイの略歴・経歴
スコット・ギャロウェイ(Scott Galloway、1964年~)
アメリカのマーケティングの教授。作家。起業家。
カリフォルニア州ロサンゼルスの出身。カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カリフォルニア大学バークレー校、モルガン・スタンレーを経て独立。
『ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS』の目次
はじめに ニューヨーク大学人気講義「ハピネス」
第1講 幸福の講義――激変する世界で幸せになる
第2講 成功の講義――格差が広がる世界で金を手にする
第3講 愛の講義――残酷な世界を生き抜く
第4講 健康の講義――無慈悲な世界で活力を保つ
エピローグ
謝辞
NOTES
『ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS』の概要・内容
2019年11月7日に第一刷が発行。東洋経済新報社。257ページ。ソフトカバー。127mm✕188mm。四六判。
副題は「GAFA時代の人生戦略」。GAFAの読み方は「ガーファ」。Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字を使った略語。
原題は『THE ALGEBRA OF HAPPINESS』で、2019年5月14日に刊行している。
翻訳は、翻訳家の渡会圭子(わたらい・けいこ、1963年~)。東京都の生まれ。上智大学文学部を卒業。
『ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS』の要約・感想
- 著者スコット・ギャロウェイとは何者か
- あなたはスティーブ・ジョブズにはなれない
- 仕事以外の「何か」は人生に深みを与える
- 失敗を乗り越える力、悲しむことの重要性
- 欲しいものを知り、拒絶を恐れない勇気
- 逆境からの再起:ギャロウェイのMBA時代
- 人間は「動物」であるという事実
- 幸福の「型」を押し付けられていないか?
- 死を意識して今を生きる
- 本書は幸福への「思考の出発点」である
「幸福とは何か?」
この問いは、人類が数千年にわたって考え続けてきた根源的なテーマである。
哲学者や宗教家、そして現代の心理学者や脳科学者までが、それぞれの立場から幸福の本質に迫ろうと試みてきた。
我々もまた、日々の生活の中で「もっと幸せになりたい」と願い、そのための道筋を探している。
しかし、現代社会はあまりにも複雑で、変化の速度も速い。
かつて幸福の条件とされた安定した職業や家庭を持つことだけが、もはや唯一の正解ではないことは、多くの人が肌で感じているだろう。
そんな混迷の時代に、一つの羅針盤となりうる書籍がある。それが、今回紹介するスコット・ギャロウェイの著書『ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS』だ。
本書は、ニューヨーク大学経営大学院で教鞭をとる著者が、学生に向けて語る「人生の戦略」をまとめたものである。
その内容は、単なる耳障りの良い理想論ではない。
成功、愛、健康、そして幸福といった普遍的なテーマについて、格差が広がり、無慈悲な側面も持つ現代社会を生き抜くための、極めて現実的かつ実践的なアドバイスに満ちている。
この記事では、『ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS』で語られる厳しい現実と、その中で我々が幸福を掴むための具体的な戦略を、本書からの引用を交えながら深く掘り下げていく。
人生という航海において、自分だけの幸福の島を見つけるための、確かなヒントがここにあるはずである。
著者スコット・ギャロウェイとは何者か
本書の提言に説得力を与えているのは、著者であるスコット・ギャロウェイ(Scott Galloway、1964年~)自身の波乱に満ちた経歴だろう。
彼は連続起業家として、Eコマース分析会社「L2 Inc.」やオンラインギフト販売の「Red Envelope」など、9つもの会社を立ち上げてきた。
その道のりは決して順風満帆ではなく、本書でも語られているように、設立した会社を潰した経験も持つ。
また、ニューヨーク大学スターン経営大学院の教授として、マーケティングやブランド戦略に関する講義を担当しており、その明快かつ歯に衣着せぬ語り口で、学生から絶大な人気を誇る「伝説の教授」としても知られている。
彼の講義は常に満席で、多くの学生が彼の言葉から未来への指針を得ようと集まってくる。
さらに、ポッドキャスト「Pivot」や「The Prof G Pod」のホスト、多数のメディアへの寄稿、ベストセラー作家としての顔も持つ。
彼の分析は、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)をはじめとする巨大テック企業から、現代社会が抱える構造的な問題にまで及び、その鋭い洞察は世界中のビジネスパーソンや政策立案者に影響を与えている。
ギャロウェイの言葉が人々の心を捉えるのは、彼自身が成功の光と失敗の影の両方を深く知っているからに他ならない。
輝かしい成功の裏で、結婚生活の破綻や、最愛の母親の死といった個人的な悲劇も経験してきた。
彼の語る人生の戦略は、安全な場所から語られる高尚な理論ではない。
傷つき、転び、それでも立ち上がって前に進んできた一人の人間が、自らの血と汗と涙の中から掴み取った、生々しい実践哲学なのである。
だからこそ、彼の言葉は我々の心に深く突き刺さるのだ。
あなたはスティーブ・ジョブズにはなれない
現代社会には、成功に関する数多の神話が溢れている。
特に、大学を中退して巨大企業を創り上げた天才たちの物語は、多くの若者を魅了してやまない。
しかし、ギャロウェイはそうした幻想に、冒頭から冷や水を浴びせる。
スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのように、大学を中退しても大成功を収める人はこれからも出てくるだろう。けれどもそれはあなたではない。(P.31「第1講 幸福の講義――激変する世界で幸せになる」)
これは、夢を追いかける若者の心を折るための言葉ではない。
むしろ、大多数の人間がより確実性の高い道で幸福を追求するための、現実的なエールである。
メディアは一握りの例外的な成功者を大きく取り上げるが、その裏には、同じように挑戦し、夢破れていった無数の人々が存在する。
その現実に目を向けず、自分も例外になれると信じ込むのは、人生戦略として極めて危険な賭けだと言えるだろう。
作家であり、Youtuberでもあり、さまざまな事業を手掛ける堀元見(ほりもと・けん、1992年~)も、「君はホリエモンじゃない、大学へ行け」的な同様の主旨を語っている。
彼は、多くの人が堀江貴文(ほりえ・たかふみ、1972年~)のようなカリスマになれるわけではないと指摘。
大多数の凡人にとっては、大学で学び、堅実にキャリアを築くことの方が、結果的に豊かな人生に繋がる可能性が高いと説く。
我々の多くは、残念ながら天才ではない。
非凡な才能や、時代を動かすほどの強運を持ち合わせているわけではない。
その事実を冷静に受け入れること。
それが、幸福な人生を設計するための、揺るがすことのできない第一歩なのである。
自分の立ち位置を正確に認識し、過度な期待を抱かずに、地に足の着いた努力を重ねる。
それは決して退屈な道ではない。
むしろ、実現不可能な夢を追いかけて消耗するのではなく、着実に達成可能な目標をクリアしていくことで、自己肯定感を育み、持続可能な幸福を築いていくための、最も賢明な戦略なのだ。
仕事以外の「何か」は人生に深みを与える
多くの人は、人生の成功を仕事のキャリアと同一視しがちである。
もちろん、仕事を通じて達成感や経済的な安定を得ることは重要だ。
しかし、人生の幸福を仕事だけに依存するのは、非常に脆い生き方だとギャロウェイは指摘する。
料理、カポエイラ、ギター、マウンテンバイク。何であれ、仕事以外のものへの関心や趣味は、あなたの人格に味わいを加えてくれる。(P.33「第1講 幸福の講義――激変する世界で幸せになる」)
なぜ、仕事以外の活動が重要なのか。それは、人間としての幅と深みを与えてくれるからだ。
我々の人格は、職業や肩書だけで形成されるものではない。
何に心を動かされ、何に時間を忘れて没頭するのか。
そうした個人的な情熱こそが、「あなた」という人間を唯一無二の存在にする。
心理学者のミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi、1934年~2021年)が提唱した「フロー」という概念がある。
これは、ある活動に完全に没入し、我を忘れるほど集中している状態を指す。
フロー状態にあるとき、人は時間を忘れ、最高のパフォーマンスを発揮し、深い満足感と幸福感を経験するという。
確かに、仕事でこのフロー状態を経験できる人もいるだろう。
それは非常に幸運なことだ。
しかし、多くの人にとって、仕事は義務や責任、あるいは生活の糧という意味合いが強い。
心から没頭できる瞬間は、むしろ趣味や個人的な探求の中に見出されることが多いのではないだろうか。
ギターのコードを必死に覚えたり、週末にマウンテンバイクで山道を駆け抜けたり、新しい料理のレシピに挑戦したりする時間。
そうした一見すると「無駄」に見える時間が、実は我々の精神を豊かにし、人生の満足度を高める上で不可欠な役割を果たしている。
また、趣味は新たな人間関係の扉を開くこともある。
同じ興味を持つ仲間との交流は、仕事上の利害関係とは異なる、純粋な繋がりをもたらしてくれる。
それは、人生の困難な時期において、大きな支えとなるだろう。
仕事一筋の人生も尊い。
しかし、それだけが全てではない。
仕事以外の世界に自分の居場所を持つこと。
それが、予期せぬキャリアの停滞や挫折に見舞われた際のセーフティネットとなり、あなたの人格に他者にはない輝きと深みを与えてくれるのである。
失敗を乗り越える力、悲しむことの重要性
人生は、成功や喜びだけで満たされているわけではない。
誰もが、失敗、喪失、裏切りといった、心の痛みを伴う経験をする。
重要なのは、そうしたネガティブな出来事が起きたときに、どう向き合うかである。
ギャロウェイは、悲しみを無理に避けたり、蓋をしたりするのではなく、その感情を真正面から受け止めることの重要性を、自らの経験を通して力強く語る。
成功するのに重要なのは、きちんと嘆き悲しみ、そのあと前に進む力を得ることだ。
私は結婚で失敗し、設立した会社をつぶし、(当時)私を確実に愛してくれていた唯一の人物である母を亡くした。それらすべて40歳になる以前のことだ。(P.43「第1講 幸福の講義――激変する世界で幸せになる」)
我々は、特に現代社会では、「ポジティブであること」を過剰に強要されがちだ。
悲しみや怒りといった感情は、まるで弱さの象徴であるかのように扱われる。
しかし、それは大きな間違いである。
心の傷を癒やすプロセスは、体の傷が治る過程と似ている。
傷口を無視すれば、そこから細菌が入って化膿し、より深刻な事態を招く。
同様に、心の痛みも、きちんと見つめ、感じ、嘆き悲しむというプロセスを経なければ、癒えることはない。
それはトラウマとして残り、その後の人生に長い影を落とすことになる。
ギャロウェイが40歳以前に経験したという、結婚の失敗、事業の倒産、そして母の死。
これらは、一つひとつが人生を根底から揺るがすほどの深刻な出来事だ。
しかし彼は、その都度、徹底的に悲しみ、自分の無力さや不甲斐なさと向き合った。
そうして、悲しみの感情が出尽くしたとき、心には不思議とスペースが生まれる。
その空いた場所に、少しずつ「これからどうするか」という前向きなエネルギーが湧き上がってくる。
これが、「前に進む力」の正体だ。
もちろん、他人の悲しみに対して軽々しく同情したり、安易な励ましの言葉をかけたりすることは慎むべきだ。
それぞれの痛みは、その人にしか分からない固有のものである。
しかし、もしあなたが今、何らかの困難に直面し、深い悲しみの中にいるのなら、その感情を否定する必要はない。
泣きたいときには泣き、怒りたいときには怒ればいい。
時間をかけて、自分の心と対話すること。
その先にこそ、真の回復と、再び立ち上がるための力が待っているのである。
欲しいものを知り、拒絶を恐れない勇気
成功を収めるためには、才能や努力、環境といった要素が重要であることは言うまでもない。
しかし、それ以上に根本的な推進力となるのが、「自分は何を欲しているのか」を明確に理解し、それを手に入れるために行動する勇気であるとギャロウェイは説く。
自分が何を欲しいのかわかっているのはいいことだ。そして拒絶に対する恐怖は、才能の欠如や市場よりも大きな障害である。
毎日、何らかのリスク(昇給を願い出る、パーティーで自己紹介する)に耐えられるよう自分を鍛え、手が届く以上のものをつかむことに慣れよう。(P.111「第2講 成功の講義――格差が広がる世界で金を手にする」)
これは、成功哲学の核心に迫る指摘だ。
多くの人は、自分が本当に何を望んでいるのか、深く考えることを避けている。
なぜなら、望みを明確にすればするほど、それが手に入らなかったときの失望もまた、大きくなるからだ。
しかし、目的地が分からなければ、航海に出ることはできない。
キャリアにおける昇進、経済的な目標、築きたい人間関係。
まずは、自分の心の奥底にある欲望に正直になることからすべては始まる。
そして、次なる障壁が「拒絶への恐怖」である。
昇給を願い出て上司に断られたらどうしよう。
気になる異性に声をかけて無視されたらどうしよう。
新しい事業計画を提案して、一笑に付されたらどうしよう。
この恐怖が、我々の行動にブレーキをかける最大の要因なのだ。
ギャロウェイの処方箋は明快だ。
それは、拒絶されることに「慣れる」こと。
拒絶を、人格否定や能力不足の証明と捉えるのではなく、単なる確率的な出来事として捉える訓練をするのだ。
そのために、彼は日々の小さなリスクテイクを推奨する。
普段なら話しかけない人に自己紹介をしてみる。
会議で、少しだけ背伸びした意見を言ってみる。
こうした小さな挑戦の積み重ねが、拒絶に対する免疫力を高めてくれる。
バッターボックスに立たなければ、ホームランを打つことは絶対にできない。
そして、優れたバッターでさえ、打率3割、つまり10回中7回は失敗するのである。
人生における挑戦も同じだ。失敗や拒絶は、目標に向かって進んでいる証拠に他ならない。
自分の欲望を直視し、拒絶を恐れずに行動を起こす。
このシンプルだが強力な原則を実践できるかどうかが、才能や環境といった初期条件以上に、人生の成果を大きく左右するのである。
逆境からの再起:ギャロウェイのMBA時代
人間は、過去の失敗や惰性から抜け出し、人生を大きく転換させることができる。
その力強い証明が、スコット・ギャロウェイ自身の経験に見て取れる。
彼は、順風満帆なエリート街道を歩んできたわけではない。
私は心を入れ替えて生活を改め、MBAを取得していた。卒業式では学生代表としてスピーチをした。(P.54「第2講 成功の講義――格差が広がる世界で金を手にする」)
この短い一文の裏には、劇的な変化の物語が隠されている。
本書の他の部分で語られているように、彼の大学時代は、決して模範的な学生とは言えなかった。
勉学よりも、仲間との気ままな時間を優先する、ごく普通の若者だったのだ。
しかし、彼はある時点で「このままではいけない」と決意する。
そして、ニューヨーク大学の経営大学院(MBAプログラム)に進学し、人が変わったように勉学に打ち込んだ。
その結果、卒業式で学生代表としてスピーチを行うほどの優秀な成績を収めたのである。
このエピソードが我々に教えてくれるのは、人間の持つ驚くべき可塑性、つまり変わりうる力である。
過去がどうであれ、現在の境遇がどうであれ、「心を入れ替える」という内的な決意さえあれば、未来は自分の手で切り開くことができる。
さらに、この卒業式の場面には、愛に満ちた感動的な逸話が添えられている。
当時、すでに癌に冒されていた彼の母親が、式典の会場で、息子の晴れ姿を見て我慢しきれずに立ち上がり、両手を振って祝福したというのだ。
この光景は、我々の努力や成功が、自分一人のためだけのものではないことを象徴している。
それは、我々を愛し、支えてくれる人々への、最高の恩返しにもなりうるのだ。
格差が広がり、一度つまずくと這い上がるのが難しいとされる現代社会において、ギャロウェイの物語は希望の光となる。
重要なのは、過去に囚われることなく、未来を変えるために今この瞬間に何をするか。
その意志と行動こそが、逆境を乗り越え、成功を掴むための最も強力なエンジンなのである。
人間は「動物」であるという事実
我々は、高度な知性と言語を持つ理知的な存在である。
しかし、その一方で、食欲や性欲、承認欲求といった、根源的な欲求を持つ「動物」でもある。
この事実を無視して、人間関係や幸福を語ることはできないとギャロウェイは断言する。
私たちは動物である。愛情とセックスは、何よりも本当の自分でいられるところだ。求められていると感じない人は、不安を抱えて、自分を好きになれない可能性が高くなる。
そしてそれは人間関係のがんとも言える、無関心と軽蔑に変わることもある。(P.139「第3講 愛の講義――残酷な世界を生き抜く」)
これは、特に親密なパートナーシップにおいて、極めて重要な指摘である。
愛情や性的な繋がりは、単なる快楽や種の保存のためだけのものではない。
それは、「自分は他者から求められる価値のある存在だ」という、自己肯定感の根幹を支える行為なのだ。
パートナーから求められていない、と感じる状態が続くと、人は深い不安と自己嫌悪に陥る。
そして、その満たされない欲求は、やがて相手への「無関心」や「軽蔑」という、関係性を破壊する最も危険な毒へと変化していく。
これは、決して単純な性欲の話をしているのではない。
ハグやキス、手をつなぐといった日常的な身体的接触も含め、相手との親密さを確認し合う行為全般を指している。
そうした繋がりを通じて、我々は自分が孤独ではないこと、愛されていることを実感するのである。
現代社会では、精神的な繋がりや知的な会話が重視される一方で、こうした動物的で身体的な側面は、どこか軽視されがちな風潮があるかもしれない。
しかし、我々の脳と体は、何十万年もの進化の過程で、他者との物理的な繋がりを求めるようにプログラムされている。
この根源的な欲求から目を背けることは、幸福な人間関係を築く上で大きな障害となる。
自分が動物であることを認め、パートナーとの愛情や身体的な親密さを大切に育むこと。
それこそが、長期的に安定した関係を維持し、人生の満足度を高めるための、避けては通れない道なのである。
幸福の「型」を押し付けられていないか?
ここまで、スコット・ギャロウェイが提唱する、幸福になるための現実的な戦略を見てきた。
彼の言葉は鋭く、示唆に富み、多くの人にとって有益であることは間違いない。
しかし、本書を読み進める中で、ある種の違和感を覚える人もいるかもしれない。
それは、本書で語られる幸福の形が、どこかアメリカ的な成功物語のテンプレートに沿っているように感じられるからだ。
良い大学を出て、キャリアで成功し、富を築き、美しい家庭を持つ。
それが幸福な人生である、という価値観が、行間から滲み出ているように思えるのだ。
もちろん、これは一つの真実であり、多くの人が目指す幸福の形だろう。
だが、これが唯一の正解なのだろうか。
この「出来上がった幸福のイメージ」を押し付けられているように感じ、息苦しさを覚える人もいるのではないか。
特に、近年の日本では、こうした画一的な幸福観とは異なる価値観を提示する知識人が注目を集めている。
例えば、作家の森博嗣(もり・ひろし、1957年~)は、他者との比較や社会的な成功ではなく、個人の内面にある主観的な満足こそが重要だと説く。
彼は、人間関係の煩わしさから距離を置き、趣味の世界に没頭することに、至上の幸福を見出している。
また、経営学者の楠木建(くすのき・けん、1964年~)は、「好き嫌い」を仕事や人生の判断軸に据えることの重要性を語る。
社会的な評価や損得勘定ではなく、自分が「好き」だと心から思えることに時間とエネルギーを注ぐことが、結果的にユニークで満足度の高い人生に繋がるという。
興味深いのは、森博嗣も楠木建も、かなり早く家庭を持ち、後に社会的な成功を収めている人物であるという点だ。
彼らは、ギャロウェイが示すような成功の道を歩んだ上で、なお、その先にある個人の内的な幸福を探求している。
これは、どちらが正しくてどちらが間違っているという話ではない。
幸福の形は、一つではないということだ。
ギャロウェイの提唱する「家族や友人との繋がりを重視する幸福」もあれば、森博嗣や楠木建が示すような「個人の趣味や探求を重視する幸福」もある。
本書『ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS』は、そうした多様な幸福のあり方を考える上で、非常に優れた比較対象、あるいは思考の叩き台となってくれる。
本書の主張を鵜呑みにするのではなく、自らの価値観と照らし合わせながら、「自分にとっての幸福とは何か?」を問い直すきっかけとして活用すること。
それが、本書から最も多くのものを得るための、賢い読み方と言えるだろう。
死を意識して今を生きる
様々な幸福論を比較検討していくと、最終的に我々は一つの根源的な事実に突き当たる。
それは、「人生には終わりがある」ということだ。
この当たり前の事実を、我々は日常の中で忘れがちである。
しかし、自分がいつか必ず死ぬということを意識したとき、初めて「今、この瞬間をどう生きるか」という問いが、真の重みを持って我々の前に立ち現れる。
本書を読んで、最終的に心に残るのは、この人生の有限性という厳粛な事実かもしれない。
ギャロウェイが語る成功への渇望も、愛の重要性も、すべては限られた時間の中で、いかに人生を充実させるかという問いに繋がっていく。
スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs、1955年~2011年)が、スタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチの中で、次のように語っている。
「もし今日が人生最後の日だとしたら、今からやろうとしていたことを、本当にやりたいと思うだろうか?」
この問いを、我々は毎日自分に投げかける必要がある。
家族や友人との繋がりを大切にするのか、個人の趣味に没頭するのか、あるいは富や名声を追い求めるのか。
どの道を選ぶにせよ、残された時間は刻一刻と減っている。
人生の終わりを意識することは、決してネガティブな思考ではない。
むしろ、それは今を最大限に輝かせるための、最も強力なモチベーションとなる。
無駄な見栄や、他人の評価を気にしている暇はない。
自分が本当に価値があると信じることに、限られたリソースを集中投下すべきなのだ。
本書が、幸福や成功の具体的な方法論を超えて我々に訴えかけるのは、この「死」という絶対的な視点から、自らの人生を再評価せよというメッセージなのかもしれない。
まずは、経済的な基盤を固めることが最優先だと感じる人もいるだろう。
それもまた、一つの真実だ。しかし、その先に何を見据えるのか。
自分自身の幸福とは何か。その答えは、誰かが与えてくれるものではない。
人生の終着点から逆算して、今この瞬間をどう生きるか。その真剣な問いと実践の中にしか、見出すことはできないのである。
本書は幸福への「思考の出発点」である
『ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS』は、幸福になるための絶対的な答えが書かれたマニュアルではない。
むしろ、この本は、読者一人ひとりが自分自身の幸福について深く考えるための「思考の出発点」を提供するものである。
スコット・ギャロウェイが示すのは、激変する現代社会を生き抜くための一つの、非常に現実的で力強いモデルだ。
凡人であることを自覚し、堅実な努力を重ね、拒絶を恐れずに挑戦し、愛する人々との繋がりを大切にする。
この戦略は、多くの人にとって、幸福な人生を築くための確かな土台となるだろう。
しかし、同時に、我々はこのモデルを盲信するべきではない。
本書を鏡として、そこに映る自分の姿を見つめ、自問自答する必要がある。
「自分は本当にこの道を望んでいるのか?」
「自分にとっての喜びとは、社会的な成功なのか、それとも内面的な充足なのか?」
「誰の人生を生きようとしているのか? 他人の価値観か、それとも自分自身の価値観か?」
本書は、その明快さと力強さゆえに、読者にこうした内省を迫る。
彼の意見に共感する部分、反発を覚える部分、その両方と向き合うプロセスを通じて、我々は自分だけの幸福の輪郭を、より鮮明に描き出していくことができる。
もしあなたが、人生の岐路に立ち、これからどこへ向かうべきか迷っているのなら、本書は力強い水先案内人となるだろう。
しかし、最終的に舵を取るのは、あなた自身だ。
本書を片手に、自分自身の心と深く対話し、あなただけの幸福の形を見つけ出してほしい。
その知的で誠実な旅こそが、幸福な人生そのものなのかもしれない。
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書籍紹介
関連書籍
関連スポット
カリフォルニア大学ロサンゼルス校
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles、UCLA)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスにある総合州立大学。
公式サイト:カリフォルニア大学ロサンゼルス校
カリフォルニア大学バークレー校
カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley、UC Berkeley、UCBl)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州アラメダ郡バークレー市に所在する州立大学。
公式サイト:カリフォルニア大学バークレー校










