柳井正『一勝九敗』

柳井正の略歴

柳井正(やない・ただし、1949年~)
実業家。
山口家宇部市の出身。早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業。実家の小郡商事(ファーストリテイリングの前身)に入社。1984年にユニクロの第一号店を出店。

『一勝九敗』の目次

はじめに
Ⅰ 家業からの脱皮
Ⅱ 挑戦と試行錯誤
Ⅲ 急成長からの転換
Ⅳ 働く人のための組織
Ⅴ 失敗から育てる次の芽
あとがき
経営理念の解説
株式会社ファーストリテイリングの軌跡
文庫版あとがき

『一勝九敗』の概要

2006年4月1日に第一刷が発行。新潮文庫。274ページ。

1984年にユニクロの第一号店が出店。その後の20年の軌跡をエピソードや考察を交えながら、柳井正が綴った作品。

2004年に刊行した単行本を文庫化したもの。

上記に記載した目次の通り、5つの章があり、また、それぞれ約15~20個の項目に分かれている構成。

「はじめに」で、執筆の経緯についての説明。

「経営理念の解説」では、ファーストリテイリングの経営理念の23条が詳細にわたって、解説されている。

単行本のあとがき、文庫版のあとがき、の二つがあり、その2年間の事柄についても、文庫版のあとがきで触れられている。

『一勝九敗』の感想

日本を代表する経営者・柳井正。

前々から興味を持っていて、楠木建の本にも何度か登場していたので、購入。

セミにも入らなかったので、三、四年生になっても、就職のことは考えず、できれば仕事したくないな、と思っていた。(P.28「Ⅰ 家業からの脱皮」)

かなり、早い段階で、できれば仕事したくない、という言葉に、衝撃を受けた。

というか、笑った。

もともと賢い学生ではあったとは思うけれど、割りと何処にでもいるような感じの学生ではあったのかと思った。

ただ、そこから現在までの動きが凄まじい。

一気にとはいかないが、少なくとも地方の小売店が、世界的な規模の企業になったのだから。

物語は、柳井正の物語でもあり、ユニクロ、ファーストリテイリングの物語。

この二つの物語が主軸となりながら、柳井正の企業経営に関する考察が付記されていく。

広告主の側も代理店まかせにせず、会社の方針や経営理念をきっちりクリエイターに伝え理解しもらう必要がある。これは経営者の責任だ。(P.122「Ⅲ 急成長からの転換」)

ここでは、広告代理店やクリエイターとの付き合い方の話。

広告戦略についての考え方が記述される。

経営者が積極的に、広告代理店やクリエイターに、会社の方針や経営理念を伝えて、その中身を理解してもらう。

広告代理店やクリエイターは、その中身を視聴者側に立って、分かりやすい表現を作り出すというのが、理想の流れといった主旨。

商品の販売促進、ブランディングなどに関連してくる事項。

柳井正は、徹底的に考え方や方向性を伝えて、広告を作り上げたという。

スピードがない限り、商売をやって成功することはない。だから、僕は失敗するのであれば、できるだけ早く失敗するほうがよいと思う。早く気づいて、失敗したということのひとつひとつを自分自身で実感する、そこが一番大事。(P.225「Ⅴ 失敗から育てる次の芽」)

スピードを重視している柳井正。

社名にも、ファーストリテイリングといったように、ファーストという言葉が入っているのは、そのため。

むしろ、原動力であると言っている。

また失敗は、当たり前といった主張。そのため、スピードがあれば、その失敗を活かして、即座に工夫する。

工夫すれば、失敗の確率は減る。つまり、成功しやすい。

そのまま続いて、本書のタイトルの由来となる記述。

当社のある程度の成功も、一直線に、それも短期間に成功したように思っている人が多いのだが、実態はたぶん一勝九敗程度である。(P.226「Ⅴ 失敗から育てる次の芽」)

失敗は多いけれど、そこから改善を重ねて、成功に導く。

その繰り返し。

実際には、1/10の勝率。

ただし、失敗があっても、致命的な失敗をしないように配慮をしているというのもポイントである。

ここで思い出したのが、柳井正が卒業した早稲田大学の創立者・大隈重信(おおくま・しげのぶ、1838年~1922年)の言葉。

諸君は必ず失敗する。成功があるかもしれませぬけど、成功より失敗が多い。失敗に落胆しなさるな。失敗に打ち勝たねばならぬ。(1897年7月15日、東京専門学校の卒業式・創立15周年祝典の演説)

ほぼ同じような方向性の発言である。

一度や二度の失敗、あるいはそれ以上の失敗に、へこたれるな、ということ。

その失敗から学んで、次に活かすこと。

なるほど、大切である。

続いて「あとがき」には、起業家十戒と経営者十戒も。

起業家や経営者に対する助言が簡潔に書かれている。

ぼくは、経験したこと以外でも小売業の情報に関して言えば、日本の中で良く知っている方だと思う。アメリカの小売業のことも評論家や学者以上に知っていると、自分では思っている。皆さんも、評論家や学者以上に学び、研究し、記憶しようと努力してほしい。(P.248「経営理念の解説」)

物凄い自信である。

こういった書物に、このように明言できるということは、かなりの勉強をしているのだろう。

勉強⇒記憶⇒実行。

上記が非常に大切であると助言。

私もしっかりと日々勉強しなくてはならないと改めて身が引き締まった。

また、難しいと思うことに果敢に挑戦しなさい、といった言葉も。

かなり励みになるアドバイスである。

柳井正やユニクロ、ファーストリテイリングの物語を楽しみながら、柳井正の経営者としての考え方も、学べる作品。

経営者や個人事業主、フリーランスだけではなく、小売事業や衣料品、広告、マーケティング、経営について勉強したい人にも、非常にオススメの本である。

書籍紹介

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