『努力論』斎藤兆史

斎藤兆史の略歴

斎藤兆史(さいとう・よしふみ、1958年~)
英文学者。
栃木県の生まれ。東京大学文学部英語・英米文学科を卒業。
東京大学大学院人文科学研究科英語英文学専攻修士課程を修了。米国インディアナ大学英文科修士課程を修了。英国ノッティンガム大学英文科博士課程を修了。

『努力論』の目次

まえがき
第一章 立志編
第二章 精進編
第三章 三昧編
第四章 艱難編
第五章 成就編
あとがき
参考文献

概要

2007年8月10日に第一刷が発行。ちくま新書。197ページ。

過去の日本人の努力に関して紹介している書籍である。

「千里の道」を行くにも「ひと足宛はこぶ」しかないのである。「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬と」して、毎日毎日、目標達成に向けて一歩ずつ着実に歩んでいかなければならないのだ。(P.51「第二章 精進編」)

上記の鉤括弧の部分は、剣術家・宮本武蔵(みやもと・むさし、1584年頃~1645年)の『五輪書』の「水之巻」に出て来る記述。

宛は、ずつ。

目標ばかり高く掲げても口先だけでは何にもならない。小さな一歩でも良いので、日々積み上げていくしかない。

そして、大きな目標を目指すのであれば、それに見合った努力をしていかなければならない。

人間は弱いもので意外と毎日の努力が出来ない事が多い。その分、継続的な修練が出来たら、一歩抜きん出る事が出来る。

いくら努力しても自分のように才能のない人間には限界があると考えている人は、非才を言い訳にして努力を怠っていることが多い。(P.57「第二章 精進編」)

この記述の前には、棋士・升田幸三(ますだ・こうぞう、1918年~1991年)、後には、地理学者・測量家の伊能忠敬(いのう・ただたか、1745年~1818年)の逸話が記載。

どちらも努力の重要性を語る。

また、伊能忠敬は全国各地を歩いて回ったから、人並み外れた体力や脚力の持ち主かと思いきや、実は平均よりも脚力が弱かったという話も。

何よりも、目標を掲げて一歩目を踏み出す事の大切さ。そして、継続性も肝心であるという事。

仕事において英語という言語と専門的に付き合う研究・教育者、あるいは英語文学の翻訳家などになりたいのであれば、純粋に英語の勉強として、毎日英書を平均五十ページくらいは読んでほしいものだ。(P.69「第二章 精進編」)

英語を学ぶ上での学習量というか、練習量の目安になる。

同時に、何かの専門家やプロフェッショナルになるのであれば、一般の人達が追いつけない程の大量の経験、知識、情報を常に吸収して、自分のものにする必要がある。

質と量の問題もあるが、良質を大量に、というのが結論であろう。

そして、その道の名人たちは、楽しみながらナチュラルに、大量に毎日、その分野に触れている。

一流の料理人は料理の素材や調理法を気前よく教えてくれるそうだ。素材や調理法がわかったところで、普通の人間にはとても同じ味は出せない。素材の選定から調理、盛りつけまで、高度な技に支えられた気脈が貫いているからこそ、極上の料理ができあがる。素材や調理法を教えて簡単に盗まれてしまうような技は、大した技ではない。(P.109「第三章 三昧編」)

方法論や技術論は、秘密でもなく、公に出来る。

それで簡単に他者に真似が出来てしまうものは、最初から別に大した物ではない、という事。

また、一流であれば、体系的に言語化も可能である、という事も言えるかもしれない。

肉体化した技。様々な変数を瞬時に処理して形に出来るのが、プロの技。

方法論や技術論を開示しても、誰にも模倣が出来ないような領域に到達すべし、という事か。

今日からでも遅くはない。いまだ努力の大道に足を踏み入れていない読者諸氏は、今日の自分が一番若いことを自覚し、己の人生を成就するための一歩を踏み出していただきたいと思う。(P.190「第五章 成就編」)

まずは一歩を踏み出す事。

人生で一番若いのが、今この瞬間。

自分の速度で、着実に進めば良いという話。間違えたら、方向を修正すれば良い。進んで入れ良い。

といった感じで、最後には読者を優しく励まして、送り出す。

感想

もともとは、斎藤兆史の英語関連の本を読んでいて、その流れで手にした書籍。

自分の気持ちが下がっていたり、停滞している時に読み返すと、元気の出て来る著作である。

この本には、様々な偉人の話や推奨する本が多く掲載されているし、巻末には参考文献として29冊の本が紹介されている。

その中で興味を持った作品を読み進めていくのも良い。実際に私も、この書籍で紹介されている本を幾つか購入して読了している。

藤原てい(ふじわら・てい、1918年~2016年)の『流れる星は生きている』や、団鬼六(だん・おにろく、1931年~2011年)『真剣師 小池重明』など。

その他に、福沢諭吉(ふくざわ・ゆきち、1835年~1901年)や、新渡戸稲造(にとべ・いなぞう、1862年~1933年)などの関連本も読んだ。

どれも非常に感銘を受けたものばかり。とても勉強になった。

またこの『努力論』は、ちくま新書で出たものであるが、2013年に『努力論 決定版』として中公文庫で新たに発売されている。

オススメの本なので、確認をして購入をして欲しい。再読を兼ねて、新しい方も読み進めていこうと思う。

書籍紹介

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インディアナ大学:斎藤兆史

インディアナ大学(Indiana University)は、1820年に設立されたアメリカ合衆国インディアナ州にある大学。8つのキャンパスから成立するが、基本的にインディアナ大学と言った場合、インディアナ大学ブルーミントン校。

公式サイト:インディアナ大学

ノッティンガム大学:斎藤兆史

ノッティンガム大学(University of Nottingham)は、1881年に設立されたイギリスのノッティンガム市にある大学。

公式サイト:ノッティンガム大学