『日本を造った男たち』竹内均

竹内均の略歴

竹内均(たけうち・ひとし、1920年~2004年)
地球物理学者、科学評論家。
福井県大野市の生まれ。東京帝国大学理学部地球物理学科を卒業。東京大学大学院理学研究科を修了。
定年退職まで東京大学に勤務。科学雑誌「Newton」を創刊し、編集長を務める。

『日本を造った男たち』の目次

創始者の足跡と企業展開図
住友政友と蘇我理右衛門 江戸時代の先端技術から生まれた住友財閥
三井高利 三百年間の三井財閥の基礎を築いた財政家
三野村利左衛門と広瀬宰平 三井家と住友家を飛躍させた二大番頭
岩崎弥太郎 明治維新の混乱を利して三菱を築いた反逆の子
大倉喜八郎 政権に密着して企業集団を築き上げた海外進出の先駆者
安田善次郎 逆境をうまく利用してのしあがった金融資本家
渋沢栄一 倫理道徳と商売を一致させた大実業家
根津嘉一郎 電燈と鉄道に生涯をかけた村会議員
豊田佐吉 自動織機に生涯をかけた現代の発明王
藤原銀次郎 日本近代の製紙業を確立した福沢諭吉の弟子
小林一三 鉄道と興行に生きる道を求めた文学青年
松永安左衛門 失業・投獄・闘病に鍛えられた電力の鬼
鮎川義介 工員から始めて日産コンツェルンを築いた帝大出
五島慶太 苦学して東急王国をつくりあげた風雲児
森矗昶 川の開発で森コンツェルンを築いた網元の子
出光佐三 人間経営をつらぬいた石油業界の異端児
伊藤忠兵衛 海外貿易に大成功をおさめた呉服屋の子
堤康次郎 西武鉄道を興した暴れん坊代議士
石橋正二郎 足袋屋からブリヂストンをつくった美術愛好家
松下幸之助 日本中に家電製品を普及させた経営の神様
本田宗一郎と藤沢武夫 オートバイ作りとその販売に夢をかけた同志
井深大と盛田昭夫 世界のソニーを目指した技術者と国際人

概要

1993年11月1日に第一刷が発行。同文書院。254ページ。ソフトカバー。127mm✕188mm。四六判。

表紙には副題的に、“財界創始者列伝”と書かれている。

経済によって日本に貢献してきた26人の男たちの軌跡を辿る作品。地球物理学者・竹内均が、客観的な情報を基に構成。それぞれの生涯や業績がコンパクトにまとめられている。

1989年12月1日に刊行された単行本『代表的日本人―自己実現に成功した43人』を加筆、改題、再編集したもの。

ポイントとしては、『日本を造った男たち』は、総勢26人だが、『代表的日本人』は、総勢43人。

目次に記載された人物たちの概要は以下の通り。

住友政友(すみとも・まさとも、1585年~1652年)…住友家の初代。住友では、家祖と呼ばれる。福井県坂井市の生まれ。僧侶を経て、出版業や薬種業を始める。

蘇我理右衛門(そが・りえもん、1572年~1636年)…銅商。住友では、業祖と呼ばれる。大阪府東大阪市の生まれ。粗銅から銀を分離する精錬技術、“南蛮吹き”を完成させ広める。銅山の経営や銅貿易も。

三井高利(みつい・たかとし、1622年~1694年)…商人。三井の中興の祖と呼ばれる。三重県松阪市の生まれ。金融業を営み、米の売買なども。江戸に越後屋を出店。

三野村利左衛門(みのむら・りざえもん、1821年~1877年)…三井組の大番頭。三井の中興の祖と呼ばれる。山形県鶴岡市の生まれ。両替商を経て、三井に務める。

広瀬宰平(ひろせ・さいへい、1828年~1914年)…住友の初代総理事。滋賀県野洲市の生まれ。住友で銅山の近代化に貢献。また大阪財界の発展にも寄与。

岩崎弥太郎(いわさき・やたろう、1835年~1885年)…三菱財閥の創業者。高知県安芸市の生まれ。海運業で成功。

大倉喜八郎(おおくら・きはちろう、1837年~1928年)…大倉財閥の創業者。新潟県新潟県新発田市の生まれ。武器の売買、貿易業、建設業などで成功。

安田善次郎(やすだ ぜんじろう、1838年~1921年)…安田財閥の創業者。富山県の生まれ。乾物と両替を扱う安田商店を開業、後に安田銀行を設立。損保会社や生命保険会社、不動産会社などにも従事。

渋沢栄一(しぶさわ・えいいち、1840年~1931年)…実業家。埼玉県深谷市の生まれ。金融関連をはじめ多種多様な企業や経済団体、教育機関などの設立に関与。

根津嘉一郎(ねづ・かいちろう、1860年~1940年)…根津財閥の創業者。山梨県の生まれ。地元の議員を経て、株で成功。東武鉄道や南海鉄道などの鉄道事業に関わり、鉄道王とも呼ばれる。

豊田佐吉(とよだ・さきち、1867年~1930年)…トヨタグループの創始者。静岡県湖西市の生まれ。様々な自動織機で成功。生涯で発明特許84件、外国特許13件、実用新案35件を発明。

藤原銀次郎(ふじわら・ぎんじろう、1869年~1960年)…実業家、政治家。長野県長野市の生まれ。慶應義塾を経て、三井銀行、三井物産で勤務。王子製紙の社長に。後に商工大臣、国務大臣、軍需大臣を歴任。

小林一三(こばやし・いちぞう、1873年~1957年)…阪急東宝グループの創業者。山梨県韮崎市の生まれ。慶應義塾を経て、三井銀行で勤務。阪急電鉄を設立、阪急百貨店などを開店。

松永安左衛門(ますなが・やすざえもん、1875年~1971年)…電力業界の実業家。長崎県壱岐市の生まれ。慶應義塾で学ぶが中退して、日本銀行などを経て、東邦電力の社長に。

鮎川義介(あゆかわ・ぎすけ、1880年~1967年)…日産コンツェルンの創始者。山口県山口市の生まれ。東京帝国大学工科大学機械科を卒業。身分を隠して工員として働き、後に鋳物の会社を創立。吸収合併などを経て、幅広い事業を展開。

五島慶太(ごとう・けいた、1882年~1959年)…東京急行電鉄の事実上の創業者。長野県小県郡の生まれ。東京帝国大学法学部を卒業。農商務省を経て、武蔵電気鉄道の常務へ。競合を吸収合併し拡大。

森矗昶(もり・のぶてる、1884年~1941年)…森コンツェルンの創業者。千葉県勝浦市の生まれ。高等小学校を卒業後、見習い工に。水産会社を設立、後に水力発電、化学肥料、アルミニウムなどの事業を展開。

出光佐三(いでみつ さぞう、1885年~1981年)…出光興産の創業者。福岡県宗像市の生まれ。神戸高等商業学校を卒業。出光商会を設立し、機械油や石油関連で成功。

伊藤忠兵衛(いとう・ちゅうべえ、1886年~1973年)…伊藤忠財閥の2代目。滋賀県犬上郡の生まれ。滋賀県立商業学校を中退して丸紅伊藤本店に入社。総合商社の伊藤忠商事と丸紅の基礎を築く。

堤康次郎(つつみ・やすじろう、1889年~1964年)…西武グループの創業者。滋賀県愛知郡の生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業。不動産事業に携わりながら衆議院議員としても活躍。

石橋正二郎(いしばし・しょうじろう、1889年~1976年)…ブリヂストンの創業者。福岡県久留米市の生まれ。久留米商業学校を卒業。足袋の製造とゴム工業で成功。

松下幸之助(まつした・こうのすけ、1894年~1989年)…パナソニックホールディングスの創業者。和歌山県和歌山市の生まれ。大阪電灯を経て独立。事業拡大に伴い、松下電気器具製作所を創業。家電製品の普及に貢献。経営の神様とも呼ばれる。

本田宗一郎(ほんだ そういちろう、1906年~1991年)…本田の創業者。静岡県浜松市天竜区の生まれ。高等小学校を卒業。自動車修理工場を経て独立。二輪車や四輪車で成功。

藤沢武夫(ふじさわ たけお、1910年~1988年)…ホンダの参謀。茨城県結城市の生まれ。私立京華中学校を卒業。鋼材小売店を経て独立。本田宗一郎と出会い、ホンダの常務に就任。経営を担う。

井深大(いぶか・まさる、1908年~1997年)…ソニーの創業者の一人。栃木県日光市の生まれ。早稲田大学理工学部を卒業。写真化学研究所を経て独立。株式会社化し、東京通信工業を設立。

盛田昭夫(もりた・あきお、1921年~1999年)…ソニーの創業者の一人。愛知県名古屋市の生まれ。大阪帝国大学理学部物理学科を卒業。海軍技術見習尉官、航空技術廠を経て、東京通信工業の取締役に。

以上の26人である。

「創始者の足跡と企業展開図」では

住友グループ
三井グループ
三菱グループ
芙蓉グループ
大倉関連企業
東武グループ・日清製粉関連企業
トヨタグループ
阪急グループ
日産グループ・日立グループ
東急グループ
西武グループ(西武鉄道グループ・セゾングループ)

以上の展開図が書かれている。

感想

竹内均の本が好き。伝記物が好き。鮎川義介のことを知りたい。

という事で購入。

とても面白かった。新しい人物を知り、知っている人物の知らない面も知った。

以下、引用をしながら紹介。

目次に記載はないが、「はじめに」的な「はしがき」というものが、最初にある。

その中の一部分。

登場人物に対する私自身の好き嫌いや評価もまるでしなかった。たたひたすらこれらの人たちがたどった道を客観的に描いただけである。文化系の人たちの書いた本のほとんどすべてはこれとはまるで逆のいき方をしている。データの部分がほとんどなく、信仰告白に近い主観的な考えが述べられているだけである。(P.5「はしがき」)

非常に大切な考え方。

さらに続いて、客観的なデータの重要性と永続性を説く。

また地球物理学といった自然科学を勉強してきた竹内均には、主観的な書き方の本は、理解できないといった主旨の発言も。

確かに、これだけ客観性を保った本は、時代を経た2020年代の現在でも、充分に読み応えがある。

嘉一郎は生前、書画骨董の趣味があった。昭和一五年(一九四〇)に彼が亡くなった後で、それらを青山の私邸に集めて作られたのが根津美術館である。そこには国宝七点、重要文化財数十点を含む一万余点の収蔵品が保存されている。(P.110「根津嘉一郎」)

事業家や経営者は、美術愛好家が多い。

根津嘉一郎もそうだったとは知らなかった。根津美術館の存在は知っていたけれど、根津嘉一郎の集めた作品が展示されていたのか。

なるほど。今度行ってみようと思う。

ちなみに関連スポットとして後半に、上述の人物たちの美術館をまとめてみた。

訪問済みの場所もあれば、行った事がない施設もあるので、地道に巡っていくとしよう。

藤原にもまた子供がなかった。そこで禄子婦人と相談し、その同意を得て藤原工業大学をつくることにした。この大学では学者ならぬ技術者を養成するのをねらいとした。昭和一九年(一九四四)には、藤原は藤原工大のすべてを慶應義塾に寄贈し、慶應義塾はこれを慶応大学工学部として運営することになった。(P.130「藤原銀次郎」)

1935年にアメリカを視察しスタンフォード大学の創立エピソードを知る藤原。

感銘を受けて、実業界を退いた1939年に800万円(現在の約280億円)をかけて藤原工業大学を創設。

とても素晴らしい逸話である。

1959年には、科学技術の振興のために、藤原科学財団も創設。

というか、藤原工業大学を創設する以前に、東京大学、東京工業大学、京都大学、早稲田大学他の主要大学に、総額267万円(現在の約90億円)を寄付していた。

スケールが大き過ぎて、意味が分からない。後世に対する慈悲という感じか。凄過ぎる。

山口や東京での名門子弟とのつきあいによって、義介は「立身出世主義」に嫌気がさしていた。それよりもむしろ大きい仕事をして国家の役に立とう、と彼は考えた。(P.155「鮎川義介」)

誰もがみな立身出世主義であったかのように思っていたが、やはり、一味違う鮎川義介。

ただ、鮎川義介も名門であり、大叔父には政治家・井上馨(いのうえ・かおる、1836年~1915年)がいる。

なかなか面白い。

恵まれた環境と野心的な精神。そして、個人や血縁ではなく、国家というかなり大きなものへの貢献を考えている。

これまたスケールが大きい。

もともと作家・北康利(きた・やすとし、1960年~)の『叛骨の宰相 岸信介』で、興味を抱いた鮎川義介。

巣鴨プリズンで、落ち込むこともなく、余っている食事をよこせ、と食って掛かるという勇ましさが描かれている。

やはり、これくらいのバイタリティーや自我が必要である。大きな事をするには。

そこで昭和一〇年(一九三五)に浜松高等工業に頼みこんで聴講生にしてもらった。鋳物にシリコンを混ぜることによって問題が解決することがわかり、それを確かめるためにその後本田は東北大学・室蘭製鋼所・北海道大学などをめぐった。(P.231「本田宗一郎と藤沢武夫」)

ピストンリングの製造で、なかなか上手くいかない本田宗一郎。

これまでの技術は、全て経験に基づくもので、対応してきた。

だが行き詰まる。功績から金属を取り出し、精製する冶金(やきん)技術を基礎から学ぶしかない。

という経緯がある。

技術者の技術や知識に対する好奇心、欲求、探究心が凄い。

まぁ、地元の浜松の学校の聴講生までは、予測がつくし、理解できる。

学んだことを確認するために、さらに東北や北海道の専門機関というか施設を巡るというのが、やはり本田宗一郎の技術者、実践者としての真骨頂かも。

ビジネスに興味のある人、歴史に関心の高い人、伝記物が好きな人などに非常にオススメの本である。

書籍紹介

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三井家が所蔵する社会経済資料を保存するため、1965年に三井文庫が設立。三井家にある文化財の散逸を防ぎ、保存及び公開するために三井文庫別館が開設。

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出光美術館は、東京都千代田丸の内にある1966年に開館の私立美術館。出光佐三が収集してきたコレクションなどを保存、展示。

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アーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館):石橋正二郎

アーティゾン美術館は、東京都中央区京橋にある2020年に開館の私立美術館。旧名称は、1952年に開館のブリヂストン美術館。石橋正二郎が収集してきたコレクションなどを保存、展示。

公式サイト:アーティゾン美術館