竹内均『人生のヒント・仕事の知恵』

竹内均の略歴

竹内均(たけうち・ひとし、1920年~2004年)
地球物理学者、科学評論家。
福井県大野市の生まれ。東京帝国大学理学部地球物理学科を卒業。東京大学大学院理学研究科を修了。
定年退職まで東京大学に勤務。科学雑誌「Newton」を創刊し、編集長を務める。

カール・ヒルティの略歴

カール・ヒルティ(Carl Hilty、1833年~1909年)
スイスの下院議員。法学者。哲学者。文筆家。
スイスのザンクト・ガルレン州に生まれる。州立ギムナジウムに学ぶ。ドイツのゲッティンゲン大学で法律学、哲学、歴史を学ぶ。ハイデルベルク大学に移り、法律の研究し、博士号を修得。代表作に『幸福論』『眠られぬ夜のために』など。

『人生のヒント・仕事の知恵』の目次

はしがき 私の人生を支えてくれた『幸福論』の英智――竹内均
カール・ヒルティの「足跡」
第一章 いちばん効率のよい仕事のしかた
1 仕事の「おもしろさ」を何倍も大きくする方法
2 ヒルティ&竹内流「仕事を上手にこなす六つのヒント」
第二章 時間を生む知恵・生かす知恵
1 なぜ「時間が足りない」のか、どうすれば時間を生み出せるか
2 頭のいい「時間の生かしかた」九つの秘訣!
3 毎日の生活から「ぜい肉」をはぎとれ!
4 自分の時間を「金」にする法
第三章 よい習慣のもつ力
1 「成功する習慣」の作りかた!
2 「人を見る眼」を鍛える秘訣!
3 人間の大きさ・奥行きは“根のはりかた”で決まる!
第四章 エピクテトス「自己鍛錬の哲学」
1 自分自身を最高に鍛えあげるための「哲学」
2 「つまらない人生」を自分の手で選びとらないために
3 「積善の人」に余慶と自己実現あり
4 「捨て身」になれる人ほど豊かに、大きく生きられる!
5 人生には段階に応じた「充実した生きかた」がある!
第五章 試練・忍耐と向上心
1 人生は「夜明け前」が最も暗い!
2 一度かわききった土にこそ水も涙もよくしみこむ
第六章 自分の幸福をどこに見出すか
1 いつまでも「色あせない幸福」を手に入れる知恵
2 隣人の「赤い花」と自分の「白い花」は比べられない
3 「まじめな生きかた」こそ唯一最高の財産!

『人生のヒント・仕事の知恵』の概要

1991年6月10日に第一刷が発行。三笠書房。217ページ。ソフトカバー。127mm✕188mm。四六判。

地球物理学者の竹内均が、スイスの法学者であるカール・ヒルティの『幸福論』から学んだ人生や仕事に関するヒントや知恵について解説した作品。

正確な題名は、“ヒルティの『幸福論』から私が学んだ 人生のヒント・仕事の知恵”。

副題は、“自分をもっと大きくする生きかた”。

目次の通り、6個の章から構成。それぞれの章で、2~5の項目に分かれる。さらに、その項目も複数に分かれていることもある。

第四章のタイトルになっているエピクテトス(Epiktētos、50年頃~135年頃)は、古代ギリシアのストア派の哲学者。カール・ヒルティの著作の中で、その言葉が、しばしば引用される人物。

『人生のヒント・仕事の知恵』の感想

竹内均の他にも、林学者の本多静六(ほんだ・せいろく、1866年~1952年)や、英語学者の渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)なども、カール・ヒルティを尊敬している。

それぞれの著作の中で、カール・ヒルティの言葉を引用することも多々ある。

今回の作品は、竹内均がカール・ヒルティの『幸福論』を読んで得たものを、解説していくといった内容。

以下、本分の引用などをしながら紹介。

準備不足や体の調子、気分などを口実にせず、ただちに仕事にとりかかれ――これが、ヒルティのすすめであり、私の経験からも仕事を上手にこなす最高の秘訣といえる。(P38:第一章 いちばん効率のよい仕事のしかた)

仕事を遊びと感じられるように、仕事に打ち込むと良い。

そして、仕事は創造と完成の喜びを人に与えて、社会の役にも立ち、働く人を健康にする。

そういった流れから、まずは仕事に取り掛かることが大事だという主旨。

人間は、行動する理由を探すよりも、行動しない理由を探す方が得意だという。

さまざまな言い訳をしないで、まずは仕事を始めてしまえば、ほとんどの問題は解決する、といった感じか。

やる気なんてものが起きるまで待つのではない、といったスタイルでもある。

確か、やる気なんてものは無くて、やり始めたら、やる気が起きてくるという話を聞いたことがある。

取り敢えず、始めるのが大切ということだ。

人間の生理に最も適した働きかたとして、ヒルティは午前と午後に4時間ずつ、晩に2~3時間、合計10~11時間働くことをすすめている。これは、ヒルティが皮肉たっぷりに“あの評判のいい八時間労働”と呼んでいるものを、2~3時間オーバーしている。(P.69:第二章 時間を生む知恵・生かす知恵)

つまり、カール・ヒルティは、午前中に4時間、午後に4時間、夜に2~3時間、合計で10~11時間を、一日の労働時間としている。

そして、一般的な労働者の8時間の勤務を皮肉っている。

ここで大切なのが前提である。

カール・ヒルティは、喜んで働いている。まるで遊びかのように。

そして、一般的な労働者は、嫌々ながら、あるいは、特に喜びを感じずに働いている。

この違いが大きい。

現在でも、働き方改革と呼ばれて、労働時間の制限が叫ばれて久しい。

ただ、働くことが喜びや遊びと感じている人たちは、たっぷりと労働して良いと思う。

そして、それは時間と共に、大きな結果や成果の違いとして表れる。

私も没頭できる仕事を探し続けていこうと思う。

“幸福と自由とを生みだすただ一つの根源”は、絶えることのない心の平静さである。それは、われわれの力の及ぶ範囲にある。財産、名誉、官職などの自分の力の範囲内にないものを断固としてあきらめ、心の平静さを追い求めよ――これがストア哲学の根本原理である。(P.138:第四章 エピクテトス「自己鍛錬の哲学」)

ここは、エピクテトスの文章があり、その文章をカール・ヒルティが解説、さらに総括的に竹内均が解説している部分。

ちなみに、ストア哲学は、ストア派やストア学派と呼ばれる古代ギリシアの哲学の流派の一つ。

古代ギリシアの哲学者ゼノン(Zēnōn、前335年~前263年)が創始者。

つまりは、外部の欲望に惑わされることなく、心の平静があれば、全てにおいて動じることがなく、幸福と自由を手に入れられる、ということか。

常に冷静沈着でいられるようにしたいものである。

心が乱れれば、行動も乱れてしまう。日常生活や仕事にも影響が少なからず出てしまうだろう。

物事に左右されない堅固な自己を持つことでもあるのかもしれない。

幸福や自由、仕事、人生などについて、改めて考察を深めたい人などには非常にオススメの作品である。

書籍紹介

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ゲッティンゲン大学

ドイツのニーダーザクセン州ゲッティンゲンにある1737年に創立の公立大学。正式名称は、ゲオルグ・アウグスト大学ゲッティンゲン(Georg August University of Göttingen)。

公式サイト:ゲッティンゲン大学

ハイデルベルク大学

ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州ハイデルベルクにある1386年に創立のドイツ最古の総合大学。正式名称は、ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク(Ruprecht Karl University of Heidelberg)。

公式サイト:ハイデルベルク大学