『お金・仕事に満足し、人の信頼を得る法』本多静六

本多静六の略歴

本多静六(ほんだ・せいろく、1866年~1952年)
林学者、造園家、株式投資家。
武蔵国埼玉郡河原井村(現在の埼玉県久喜市菖蒲町河原井)の生まれ。帝国大学農科大学(現在の東京大学農学部)を首席で卒業。ドイツへ留学し、ターランド山林学校を経て、ミュンヘン大学で林学の博士を取得。
日比谷公園などをはじめとする多くの公園の設計や改良に携わり“公園の父”とも呼ばれる。また貯蓄と投資で富を築いたことでも有名。

『お金・仕事に満足し、人の信頼を得る法』の目次

1章 「より強い自分」の確立法
1 この「約束ごと」を守れば必ず自己実現できる
2 この“五つの落とし穴”に気づくと人生はうまくいく
2章 人生の常識と仕事の秘訣
1 “不安知らず・不幸知らず”のこんな生き方
2 すべて“善意に解釈”すれば気持ちよく辛抱できる
3 見栄を捨て、生活をもっと合理化する
4 富は精神的に楽しむことで二倍にも三倍にも
3章 成功する人の頭と行動
1 頭と身体はどうしたら最高に鍛えられるか
2 これこそ人生成功の決め手!
4章 人を育て、人を動かす
1 「いちばん幸福に生きる」方法
2 “妻難”は人生最大の災難に
3 客は金より手間をかけてもてなす
4 反対を容れる雅量と負けても勝つ法
5 怒りを仕事の“純エネルギー”に転化させる法
6 人間関係で全く困らなかった私の“処世術”
7 本多流の「人をよく動かす」秘訣
5章 自分の「品格」を高める
1 自分の「品性」を高めるにはどうしたらよいか
2 友情と金の貸し借りはまったくの別物
3 無用な“敵”をつくらない生き方
4 創造的日常生活の知恵――形式を捨て“心”を贈る
5 私流の“病気に打ち克つ”法
6 “視野”が広がれば人生はもっともっと豊かになる!
7 たゆみなく強く生きた私の人生
特別解説――竹内均

概要

2005年9月25日に第一刷が発行。三笠書房。238ページ。ハードカバー。127mm×188mm。四六判。

大学教授でありながら蓄財と株式投資で富を築いた本多静六の実践的な処世術がまとめられた書籍。お金、仕事、人間関係など、さまざまな部分に触れられている。

1978年7月に『わが処世の秘訣』が実業之日本社から刊行。

1992年2月に『わが処世の秘訣』を改題・再編集した『自分を生かす人生』が三笠書房から刊行。

『お金・仕事に満足し、人の信頼を得る法』は、『自分を生かす人生』を改題・再編集したもの。

特別解説は、地球物理学者で、科学評論家の竹内均(たけうち・ひとし、1920年~2004年)。

福井県大野市の生まれ。東京帝国大学理学部地球物理学科を卒業。東京大学大学院理学研究科を修了。定年退職まで東京大学に勤務。科学雑誌「Newton」を創刊し、編集長を務めた人物。

感想

既に、少なくとも二度は読んでいる『お金・仕事に満足し、人の信頼を得る法』

何となく気持ちや仕事が停滞している時に読むと元気をもらえる本である。

苦学して大学を卒業し、さらにドイツにも留学した人物、本多静六。

解説の竹内均も尊敬しているし、英語学者の渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)も折りに触れて、著作などで尊敬の念を書き記している。

この著作の中には、さまざまな人物の名言なども記載されている。その辺りも特徴の一つである。

以下、引用しながら紹介していく。

自らの幸福というものは、他者とは関係がない。自らの精神状態が重要であるから、精神の修養が大切であると説き、さらに以下のように繋がっていく。

いったい人生の幸福は、現在の生活程度自体よりはむしろその生活の方向が上り坂か下り坂か、上を向くか下を向くかで決定せられるものである。つまり、人の幸福は出発点の上下によるのではなく、出発後の方向いかんにあるのだ。(P.22:1章 「より強い自分」の確立法)

幸福というものは、現時点ではなく、現時点から未来への方向性にあるというもの。

なるほど、考えてみたら、そういうものかもしれない。

そして、そのためには、自己の努力と成長が必要といった主張。

「この秋は水か嵐か知らねども、今日の勤めに田草取るなり」という態度こそ、われわれの日常生活の銘とすべきである。(P.34:1章 「より強い自分」の確立法)

周りは関係なく、自らの今日の仕事を淡々とこなしていくという姿勢の話。

「この秋は水か嵐か知らねども、今日の勤めに田草取るなり」という言葉は、今でいうところの経営コンサルタントであった二宮尊徳(にのみや・そんとく、1787年~1856年)の言葉とも伝わるもの。

とても良い言葉である。

また、スイスの下院議員を務めた法学者、哲学者のカール・ヒルティ(Carl Hilty、1833年~1909年)の言葉も引用される。

・仕事の変化は、ほとんどまったく休息と同様の効果がある。この方法にある程度まで熟達する時は――これは熟考よりも練習によって得られるものだが――われわれはほとんど終日働き続けることができる。(ヒルティ)(P.39:1章 「より強い自分」の確立法)

自らの仕事に没頭することが幸福である。

さらに、自らの仕事の種類を複数持って、切り替えて集中していけば、気分も変化して、休息と同様の効果があり、長時間働き続けることができるという。

ちなみにカール・ヒルティには『幸福論』という有名な著作がある。

満二十五歳の九月から毎日十四行三十二字詰めの文章、しかも印刷価値のある文章を一枚以上ずつ、五十歳まで、必ず書くという行を始めた。(P.52:2章 人生の常識と仕事の秘訣)

ライターの仕事に携わっている自分にとって、かなり関心の高い部分。

14行×32字=448字。

商品となる文章を一日に最低でも448字以上、書き続けたというエピソード。

竹内均の特別解説にも書かれているが、最終的に本多静六は、一生の間に、376冊の本を刊行した。

精神力も体力も凄いものである。

釈尊は今より二千四百余年前、「人間は誰でも職業を持つべく、はじめはまさに技術を学び、後に財産を求めよ(阿含経)」と、精神の救済の前に物質の救済を説かれ、心の安住を説く前にまずその境遇の整頓を断行せよと教えられているが、これなど私の職業教育説と一致するものである。(P.75:3章 成功する人の頭と行動)

釈尊(しゃくそん)は、釈迦(しゃか)の尊称のことで、仏教の開祖。正確な生没年は不詳で、紀元前7~5世紀頃の人物とされている。

「阿含経」(あごんきょう)とは、初期仏教の経典の総称。

仏教でも、まずは仕事や技術を学んで、財産の基盤をつくり、そこから、心の安定に向かうというもの。

中国の戦国時代の儒者の孟子(もうし、紀元前372年?~紀元前289年?)も、「恒産なくして恒心なし」と言っている。

とくに専心その業に励んでいれば、「精出せば怒るひまなし人心」で、不平や怒りは自然に消えてしまうものである。(P.103:3章 成功する人の頭と行動)

忙しく自らの仕事に集中していれば、煩悩に左右されないとも。

忙しい方が、病気もしないとも。

さらに、病気や憤怒や苦痛は意気地なしの怠け者が背負う荷物であると断言している。

『礼記』「大学」の一節に由来する言葉でも、“小人閑居して不善を為す”とあるから、きっとそうなんだろうな。

常に収入の四分の一と臨時歳入の全部を蓄えることは富をなす基礎であるだけでなく、それがすでに克己心の強い発露である。(P.132:3章 成功する人の頭と行動)

本多静六の基本方針で有名な四分の一貯金である。

収入の四分の一を必ず貯金して、さらに臨時の収入も貯金。

そこで蓄えられた資金を株式投資に回すという手法。

そのような貯金を地道にしていくことそのものが、精神修養の一環であり、克己心を育てていくという。

ただ、貯金は出来ても、株式投資で利益を上げるのは難しいとは思うけれど。

まだ、私には勉強と精神修養が足りないのかもしれない。

ヨーロッパでは「独立した生活」は「不労所得でも生活できる」ことを意味する。給料をもらってする生活は「自立」であっても「独立」ではないのである。(P.229:特別解説)

竹内均の特別解説に書かれている部分。

本多静六は、ドイツの財政学を学び、さらにドイツの教授から、精神と生活の「独立」のために、財産をしっかりと築くようにとのアドバイスを受けたという逸話が書かれる。

「自立」ではなく「独立」というのがポイントである。

自らの仕事に没頭しながら、倹約、貯金、投資して、経済的な独立を得ることが重要。

本多静六の考えなどに触れたい人には、非常にオススメの著作である。単なる精神論ではなく、具体的な事例やエピソードも豊富なので、とても参考になる書籍である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

本多静六記念館

本多静六の生誕地・埼玉県久喜市菖蒲町にある記念館。2013年に菖蒲総合支所5階にオープン。入場無料。周辺には、本多静六博士の森、本多静六博士生誕地記念園も。

公式サイト:本多静六記念館等

ターランド山林学校(ドレスデン工科大学)

ターランド山林学校は、現在のドレスデン工科大学(Technische Universität Dresden)で、ドイツのザクセン州立の大学。1828年の設立で、1961年にドレスデン工科大学という名称になる。

公式サイト:ドレスデン工科大学

ミュンヘン大学

ミュンヘン大学は、ドイツのバイエルン州の州都ミュンヘンにある1472年に設置された総合大学。正式名称は、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(Ludwig-Maximilians-Universität München)。

公式サイト:ミュンヘン大学