『仕事で成長したい5%の日本人へ』今北純一

今北純一の略歴

今北純一(いまきた・じゅんいち、1946年~2018年)
経営コンサルタント。
広島県の生まれ。東京大学工学部応用物理学科を卒業。東京大学大学院化学工学科修士課程を修了。
旭硝子、英国オックスフォード大学、仏国ルノー公団、エア・リキードで勤務。

『仕事で成長したい5%の日本人へ』の目次

まえがき
ステップ1 自分の仕事の「相場観」を持つ
ステップ2 評論家ではなく実践家になる
ステップ3 他人を手本にはしても、憧れは抱かない
ステップ4 成長願望と上昇志向を混同しない
ステップ5 対決から逃げない
ステップ6 夢とパッションとコミュニケーション
ステップ7 仕事を究めた先にあるもの
あとがき
著者略歴

概要

2010年5月20日に発行。新潮新書。207ページ。

グローバルにビジネスで活躍した今北純一が、志のある少数の人達に向けたアドバイスをまとめた作品。

「階層社会においては、有能な人間も能力の限界まで出世して、無能な管理職となる。無能な人間はその地位にとどまり続ける。よって、すべての階層は無能な人間で埋め尽くされる」という、有名な「ピーターの法則」がありますが、組織に所属する構成員がみな、「ランキング」にとりつかれた考え方をする限り、この法則から逃れられないでしょう。(P.95「ステップ4 成長願望と上昇志向を混同しない」)

ここでは、組織構成員の労働に関する社会学の法則であるピーターの法則が引用されている。

教育学者のローレンス・J・ピーター(Laurence Johnston Peter、1919年~1990年)によって、著述家であるレイモンド・ハル(Raymond Hull、1919年~1985年)との共著『ピーターの法則』(原題“THE PETER PRINCIPLE”)で提唱された法則。

今北純一は、ランキング及び上昇志向の考え方を止めた方が良いと説く。

上昇には切りがなく、会社員であれば、社長になれるのは一人であるから。またその過酷なランク意識の中では、惨めな思いを多くの人がするから。

上昇志向ではなく、成長願望の方が、自らコントロールができて、健康的であるとも。

「ここでやったら沈没する」「ここはやらないとあとで沈没する」という判断は、一種の知恵だと思います。そして、こういった知恵は実践を通してしか身に付かないものです。本をいくら読んでも血となり肉とはならないのです。(P.139「ステップ5 対決から逃げない」)

「まえがき」の部分にも、さまざまな対決についての記述がある。

他者との対決もあれば、自分自身との対決も。羞恥心やフラストレーション、不安、無力感、無駄など。

ここでは、他者との対決の今北純一の実体験。失礼な同僚がいて面会を申し込んだが断られることが重なった。

意を決して、秘書を通さず、ノックもせずに同僚の部屋に入り、挨拶をして、一時間近くディスカッションをして、良好な関係を築けたというエピソード。

どこまで行けるか、どこで退くのか、というのは実際に経験してみないと分からない。だから対決から逃げてはいけないと。

逃げた場合には、後から状況がさらに悪化することも。

「探しまくっていれば、いずれ夢やパッションは見つかる。好きなことはどこかにある。人生は長いのだから、慌てる必要はない」。初めは半信半疑でしたが、今はこのことを確信しています。(P.166「ステップ6 夢とパッションとコミュニケーション」)

今北純一の略歴を見ると分かる通り、かなり理想的なキャリアを積んでいるように見える。

東大の工学部を卒業、大学院修士課程を修了、旭硝子への入社。

しかし、そこから飛び出した。

特に将来の展望は持っていなかったという。

ただ仕事をしながら自分の理想を追い求めていたとのこと。夢やパッションは、なかなか持てないと悩みながら、それでも手探りで色々と動いていたら、現在に繋がる道筋ができたという。

なので、読者も慌てずに自分の好きなことを探し続けるようにと励ます。

「何を求める、風の中ゆく」。これは、流浪詩人として知られた山頭火の句です。人生とは、この句のようなものかもしれません。大それたことを成し遂げようなどと力まず、自分の身の丈にあったミッション/ビジョン/パッションのMVPをもって、仕事に本気で取り組んでいけば、成長は自然について来ます。(P.205「あとがき」)

自由律俳句の俳人・種田山頭火(たねだ・さんとうか、1882年~1940年)の句が紹介される。この句のように、無理をせず、自分の好きなことを求め続けなさいと。

「まえがき」にも記述があるが、ミッションとビジョンとパッションが大切だと今北純一は語る。

ミッションは目標。ビジョンは具体的な道筋。パッションは情熱。

また、この文章の前には、江戸時代の川柳「まだ足りぬ、学び学ぶてあの世まで」も引用されている。

人間の成長、もしくは人生とは、このようなものであると。

感想

今北純一の書籍の大半は読んでいると思う。どこまで自分の血肉となっているのかは疑問であるが。

IT企業経営コンサルタントの梅田望夫(うめだ・もちお、1960年~)の本の中で知った人物。

この著書の中では、東大の先輩で同様にイギリスに渡った数学者・藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)に関する記述も少しあったので、ちょっと嬉しかった。

二人とも好きな人物である。

「ステップ3 他人を手本にはしても、憧れは抱かない」という章のタイトルも考察が必要な部分。

今北純一は、誰かに対する憧れは、いつコンプレックスに反転するか分からないから危険であると説く。また、優秀さの内容も多種多様であるから注意が必要であると。

どこにフォーカスするかというと、自分の好きなことや自分に向いていること、自分をより強化したり、成長させたりできることに、特に注力せよと。

この指摘も勉強になる。私は多くの人物をロールモデルとして捉えていて、憧れも抱いているので、そのような視点は持ってはいなかった。

より自分の内側の好奇心の部分に焦点を当てていこうと思う。

タイトルは、なかなか刺激的というか、具体的な数字が出ている。

5%である。日本の人口は2021年では約1億2500万人。その5%であるとするならば、625万人。つまり、約625万人に向けられた書物であると。

これが多い数のか少ない数のか分からないが。

成長願望がある全ての人々にオススメの本ではある。

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オックスフォード大学

イギリスのオックスフォードにある11世紀末に設立した名門の総合大学。

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