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山形浩生『断言 読むべき本・ダメな本』要約・感想

山形浩生『断言 読むべき本・ダメな本』表紙

  1. 山形浩生の書評スタイル
  2. 幅広いジャンルの書籍推薦
  3. 翻訳と分析の信頼性
  4. 知的好奇心への広範な刺激

山形浩生の略歴・経歴

山形浩生(やまがた・ひろお、1964年~)
コンサルタント、評論家、翻訳家。
東京都の生まれ。麻布中学校・高等学校を卒業。東京大学工学部都市工学科を卒業、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程を経て、野村総合研究所の研究員に。マサチューセッツ工科大学不動産センター修士課程を修了。山形浩生のX(旧Twitter)

『断言 読むべき本・ダメな本』の目次

はじめに:書評について
第1章 経済
第2章 ピケティ/格差
第3章 ケインズ
第4章 クルーグマン
第5章 ファイナンス
第6章 経営
第7章 ビジネス
第8章 政治
第9章 歴史
第10章 思想・ノンフィクション
おわりに

『断言 読むべき本・ダメな本』の概要・内容

2020年2月22日に第一刷が発行。エレキングブックス。445ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。

副題は「新教養主義書評集成 経済社会編」。

山形浩生のサイトや、はてなブログで公開している記事、約30年にわたって執筆してきた書評などから選定し、編集、加筆したもの。

シリーズとして『断言2 あなたを変える本・世界を変える本』 、副題は「新教養主義書評集成 サイエンス・テクノロジー編」もある。

『断言 読むべき本・ダメな本』の要約・感想

  • 書評の哲学:明確さと誠実さの基準
  • 経済学入門:基礎を築く良書ガイド
  • 格差とピケティ:翻訳と分析の視点
  • ケインズ再考:翻訳と理解の課題
  • ファイナンスの罠:行動経済学からの教訓
  • 経営の本質:ドラッカーの不朽の知恵
  • ビジネスの洞察:組織とリーダーシップの良書
  • 政治と戦争:社会システムの冷徹な分析
  • 知の羅針盤:山形浩生の断言が導くもの

知の海を渡るための羅針盤

現代社会は情報に溢れ、何を読み、何を信じるべきかを見極めることがますます困難になっている。そんな時代において、確固たる基準を持って良書と悪書を断言する書評は、我々にとって羅針盤のような役割を果たすだろう。

今回紹介する書籍、山形浩生(やまがた・ひろお、1964年~)による『断言 読むべき本・ダメな本』は、まさにそのような一冊である。

山形浩生は、翻訳家、評論家として多岐にわたる分野で活躍し、その歯に衣着せぬ物言いは、時に物議を醸しながらも多くの読者から支持されている。

彼の運営する「山形浩生 の『経済のトリセツ』」などのブログや、時に垣間見えるX(旧twitter)での発言からも、その鋭い知性と独自の視点が見て取れる。一部では天才と称されるその分析力は、本書でも遺憾なく発揮されている。

本書は、経済、格差、ケインズ、クルーグマン、ファイナンス、経営、ビジネス、政治、歴史、思想・ノンフィクションといった幅広いジャンルから、読むに値する本、そして読む価値のない本を、その理由とともに明確に提示していく。

書評の哲学:明確さと誠実さの基準

山形浩生は、自身の書評スタイルについて冒頭で次のように述べている。

ぼくが理解できるからといって、みんなが理解できるとは限らないだろう。でもぼくがわからなければ、それはたぶんほとんどの人にはわからないはずだ。ぼくが知らないことは、多くの人が知らないはずだ。そして、ぼくが聞いて変な理屈に思えるものは、多くの人にとっても変な理屈に感じられるはずだ。(P.16「はじめに:書評について」)

これは、彼の書評が一つの基準となり得ることを示唆している。

難解な専門書であっても、彼が理解できるレベルであれば、多くの読者もまた理解の糸口を見つけられるはずだという。逆に、彼が理解に窮するようなものは、一般の読者にとってはさらに難解である可能性が高い。

このスタンスは、読者にとって非常に心強いものであろう。

さらに、山形浩生は言葉を濁さず、はっきりと意見を表明することの重要性を強調する。

それと関連して、ぼくが書評で心がけているもう一つのことは、なるべく言葉を濁さずはっきり言うことだ。(P.17「はじめに:書評について」)

関連する主要な書籍や類書を徹底的に読み込み、その上で書評を行い、問題点を指摘する。

これは、読者にとって時間の無駄を省き、本質的な情報に素早くアクセスするための配慮でもある。曖昧な表現や前置きを排し、核心を突く姿勢は、梅田望夫(うめだ・もちお、1960年~)のような他の識者も同様に重要視する点である。

そして、その「断言」の背景には、彼なりの誠実さがある。

どのみち、人間のあらゆる発言は絶対正しかったり絶対確実だったりするものじゃない。その人が、その人なりの知見と判断力の限界の中で言っているだけのことだ。それが絶対確実ではないというのは、改めていう必要すらないことであるはずだ。それでも、その不確実性の中で精一杯の断言をするのが、ぼくは正しいやり方だと思っている。(P.17「はじめに:書評について」)

絶対的な正しさを主張するのではなく、自身の知見と判断力の範囲内で最大限の誠意をもって断言する。

この姿勢は、読者との信頼関係を築く上で不可欠な要素であり、藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)のような数学者であり随筆家も、同様のニュアンスの発言をしていたように記憶している。

本書は、このような山形浩生の批評眼を通して、数多くの書籍が紹介され、あるいは批判されていく。

経済学入門:基礎を築く良書ガイド

経済学は、現代社会を理解する上で避けて通れない学問分野である。

しかし、その専門性の高さから、どこから手をつけて良いか分からないと感じる人も少なくないだろう。山形浩生は、経済学の基礎を学ぶための良書を提示してくれる。

その中で、若くして亡くなったエコノミスト、岡田靖(おかだ・やすし、1955年~2010年)への敬意とともに、彼が関わった書籍が推薦されている。

残されたぼくたちが、その衣鉢を少しでも継がなくてはならない。岡田靖の手に取りやすい本としは、飯田泰之他『経済成長って何で必要なんだろう?』(光文社)に収録された対談を読もう。そしてこの本全体が、経済学的な常識の基礎の基礎を作ってくれる。(P.55「第1章 経済」)

岡田靖は、中央大学経済学部を卒業後、上智大学大学院経済学研究科博士課程前期を修了し経済学修士を取得。大和證券経済研究所やクレディスイスファーストボストン経済調査部長などを経て、内閣府経済社会総合研究所主任研究官を務めた人物である。

本書で推薦されている対談を含む『経済成長って何で必要なんだろう?』は、経済学の入門書として、その「常識の基礎の基礎」を築くのに役立つとされている。

経済の勉強を始めたいと考える者にとって、こうした具体的な推薦は非常に有益である。

また、片岡剛士(かたおか・ごうし、1972年~)の著作『円のゆくえを問いなおす――実証的・歴史的にみた日本経済』についても、その内容の濃密さを高く評価している。

片岡剛士は、慶應義塾大学商学部卒業後、三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に入社し、後に慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程を修了したエコノミストである。

むろんそのためには流し読みではすまず、腰を据えてかかる必要はある。が、無内容な凡百の説教新書とは一線を画する本書は、十分にその努力に応えてくる。(P.70「第1章 経済」)

この評価は、手軽な新書が溢れる中で、真に内容のある書籍を見分けるための一つの指針となる。

「腰を据えてかかる必要」があるということは、それだけ深く学べる内容であることの裏返しでもあるだろう。

格差とピケティ:翻訳と分析の視点

近年、経済格差は世界的な問題として注目されており、フランスの経済学者トマ・ピケティ(Thomas Piketty、1971年~)の著作『21世紀の資本』は大きな話題を呼んだ。山形浩生は、この著作を翻訳したことから、ピケティ関連の書籍や格差問題について論じる本を取り上げている。

興味深いのは、翻訳の過程における山形浩生のスタンスである。彼は、ある翻訳書について、主に英語訳からの重訳であるという指摘に対し、次のように補足している。

ま、翻訳しながら、必要ならフランス語も部分的に目を通すので(かなり錆び付いているけど。独語訳も手に入れておこう)多少は補正もかかるんじゃないのかな。(P.88「第2章 ピケティ/格差」)

この記述からは、彼が単に英語から日本語へ翻訳するだけでなく、原書のフランス語や、さらにはドイツ語訳にも目を通すことで、より正確な理解と翻訳を目指している姿勢がうかがえる。

山形浩生が翻訳者として世に出た初期の仕事にはドイツ語からの翻訳もあったと記憶しており、その語学力の高さは、彼の書評や翻訳の信頼性を支える重要な要素の一つと言えるだろう。

ケインズ再考:翻訳と理解の課題

20世紀最も影響力のあった経済学者の一人、ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes、1883年~1946年)の思想は、現代経済学を理解する上で欠かせない。

山形浩生は、ケインズに関する書籍についても鋭いメスを入れる。

ある翻訳書、具体的には間宮陽介(まみや・ようすけ、1948年~)によるケインズ関連の翻訳について、山形浩生は極めて厳しい評価を下している。

間宮陽介は、東京大学経済学部卒業後、同大学院を経て神奈川大学経済学部教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを歴任し、京都大学名誉教授の称号を持つ経済学者である。

昼休みに本を開いてこれだけ見つけるのにわずか十分。すでにぼくは、間宮陽介の英語力も、そしてケインズの主張に対する理解度も、まったく信用できなくなっている。この先も少し読んではみるけれど、当てにはできない。(P.131「第3章 ケインズ」)

わずか十分で翻訳の問題点を見抜く能力は、まさに天才と評される所以かもしれない。

この指摘は、単に翻訳の技術的な問題に留まらず、原著者の主張に対する理解度の欠如にまで踏み込んでおり、読者に対して、どの翻訳書を選ぶべきかという実践的な示唆を与えてくれる。

ちなみに山形浩生は、『要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論』の翻訳も手掛けている。

ファイナンスの罠:行動経済学からの教訓

お金に関する知識、すなわちファイナンスの知識は、個人の資産形成から企業経営に至るまで、あらゆる場面で重要となる。この章で山形浩生は、ファイナンス理論や投資に関する書籍を紹介している。

例えば、行動経済学の知見を取り入れたリチャード・セイラー(Richard Thaler、1945年~)の著作『市場と感情の経済学』(日本経済新聞社)を推薦している。

さらにいま挙げたポートフォリオ理論の問題点みたいなことを考えたければ、セイラー『市場と感情の経済学』(日本経済新聞社)をおすすめしておく。必ずしも橘玲が言うほどは合理的にはなってないのだ。(P.183「第5章 ファイナンス」)

これは、橘玲(たちばな・あきら、生年不詳)のような論者が主張する市場の合理性に対して、人間の感情や心理が市場に与える影響を考慮に入れるべきであるという視点を提供するものである。

セイラー『市場と感情の経済学』は、改訂版として『セイラー教授の行動経済学入門』(ダイヤモンド社)が出ているので、現在はこちらが推奨されるだろう。

また、お金に関する意思決定で陥りがちな罠について警鐘を鳴らす本として、トーマス・ギロヴィッチ(Thomas Gilovich、1954年~)と、ゲイリー・ベルスキー(Gary Belsky、生年不詳)の共著『賢いはずのあなたが、なぜお金で失敗するのか』(日本経済新聞社)も薦めている。

それとこの手のお金儲け本全般に対して眉にツバがつけられるようになる本ほして、ベルスキー&ギロヴィッチ『賢いはずのあなたが、なぜお金で失敗するのか』(日本経済新聞社)を薦めておこう。(P.183「第5章 ファイナンス」)

ここで言う「この手のお金儲け本」とは、橘玲の著作や、あるいはセイラーの著作も含め、安易な成功法則を説くような書籍全般を指しているのかもしれない。

こうした批判的な視点を持つための本を紹介するところに、山形浩生らしさが表れている。

ベルスキー&ギロヴィッチ『賢いはずのあなたが、なぜお金で失敗するのか』は、改訂版として『お金で失敗しない人たちの賢い習慣と考え方』が出ているので、現在はこちらを確認するのが良いだろう。

経営の本質:ドラッカーの不朽の知恵

経営学の巨人、ピーター・ドラッカー(Peter Drucker、1909年~2005年)の著作は、今なお多くの経営者やビジネスパーソンに読み継がれている。

山形浩生は、ドラッカーの数ある著作の中でも特に『企業とは何か――その社会的な使命』の重要性を強調している。

買って二回くらい読むべし。長期的に絶対お得よ。(P.222「第6章 経営」)

この短い推薦文には、本書の価値に対する絶対的な自信が込められている。

「長期的に絶対お得」という表現は、単なる知識の習得を超えて、実践的な知恵を与えてくれる本であることを示唆している。

企業の本質や社会における役割を理解することは、どのような立場の人にとっても有益であるに違いない。

ビジネスの洞察:組織とリーダーシップの良書

ビジネスの世界で役立つ知識や視点を提供してくれる書籍は数多く存在するが、玉石混淆であるのもまた事実である。山形浩生は、独自の視点から価値あるビジネス書を選び出している。

まず、英国の歴史学者・社会学者であるシリル・ノースコート・パーキンソン(Cyril Northcote Parkinson、1909年~1993年)による風刺的な組織論『パーキンソンの法則』(至誠堂)を、ある雑誌の読者に向けて当然知っているべき本として挙げている。

本誌の読者たる再考の知識人諸子は、疑いもなく『パーキンソンの法則』(至誠堂)について熟知されていることであろう。(P.243「第7章 ビジネス」)

「本誌」とは、1998年5月号の雑誌「CUT」を指している。

この法則は、官僚制や組織の非効率性をユーモラスに描き出しており、現代の組織運営にも通じる普遍的な洞察を含んでいる。

また、開発コンサルタントという山形浩生自身の仕事にも関連して、関満博(せき・みつひろ、1948年~)の『現場主義の知的生産法』(ちくま新書)を推薦している。

関満博『現場主義の知的生産法』(ちくま新書)(P.248「第7章 ビジネス」)

特に研究者にとっては必読であり、フィールド調査を行う際に非常に役立つと述べている。

現場の情報をいかにして知的な成果に結びつけるかというテーマは、多くの分野で応用可能な普遍性を持っている。

さらに、リーダーシップ論として、ロバート・ヤング・ペルトン(Robert Young Pelton、1955年~)の『危機察知の鉄則 生き残る人・ダメな人』(講談社)、原著『Come Back Alive』を挙げている。

そして最後にロバート・ペルトン・ヤング『危機察知の鉄則 生き残る人・ダメな人』(講談社)。厳密にはこれはサバイバル本だ。(P.255「第7章 ビジネス」)※人名表記は引用ママ。

サバイバルという極限状況における判断や行動は、組織を率いるリーダーにとって多くの学びがあるという。危機管理能力は、現代の不確実な時代においてますます重要性を増していると言えるだろう。

一方で、山形浩生は、内容が薄いと判断した本に対しては容赦ない批判を加える。

サミュエル・ライダー(Samuel Ryder、1963年~)の『トラ・トラ・ライオン!』という本に対しては、代わりに読むべき本として具体的な書名を複数挙げている。

では、かわりに何を読むべきか? まずいまの不況や経済学についてきちんと理解しようよ。この本の主張のまぬけさは、たとえば原田泰『奇妙な経済学を語る人々』(日本経済新聞社)を読むとよくわかるし、日本の不況についてなら、こんど出る拙訳のポール・クルーグマン『クルーグマン教授の<ニッポン>経済入門』(春秋社)を読もうぜ。あと、本書で生半可に言及されている環境問題についてはロンボルグ『環境危機をあおってはいけない』(文藝春秋)を読もう。(P.289「第7章 ビジネス」)

ここで名前が挙がっている原田泰(はらだ・ゆたか、1950年~)は、東京大学農学部卒業後、ハワイ大学マノア校で経済学修士号を取得し、学習院大学で経済学博士号を取得したエコノミストである。

また、ビョルン・ロンボルグ(Bjørn Lomborg、1965年~)はデンマークの統計学者で、環境問題に対して従来の悲観論とは異なる視点を提示している人物である。

このように、質の低い情報に惑わされず、信頼できる情報源に基づいて知識をアップデートすることの重要性を示唆している。

ちなみに、クルーグマンとロンボルグの翻訳は山形浩生が担当しているので、安心である。

政治と戦争:社会システムの冷徹な分析

政治と戦争の関係は、古来より多くの思想家や戦略家によって論じられてきた。

山形浩生は、このテーマを掘り下げる上で重要な古典的言説と、衝撃的な内容を持つ報告書を紹介している。

まず、プロイセンの軍事学者カール・フォン・クラウゼヴィッツ(Carl von Clausewitz、1780年~1831年)と、中国の革命家であり軍事戦略家でもあった毛沢東(もう・たくとう、1893年~1976年)の言葉を引用している。

クラウゼヴィッツは、「戦争とは政治の一種であり、その現れ方がちがうのだけだ」と言っている。また一層透徹した軍事理論家である毛沢東は、これをさらにすすめて「政治は血を流さない戦争であり、戦争は血を流す政治である」と述べている。(P.295「第8章 政治」)

これらの言葉は、戦争と政治が表裏一体のものであることを示している。この導入に続いて、山形浩生は『アイアンマウンテン報告』(ダイヤモンド社)という、その内容の真偽を巡って議論を呼んだ書籍を紹介する。この報告書は、戦争が持つ社会経済的な機能について、冷徹なまでに分析しているとされる。

曰く:戦争は、軍需産業を成立させ、経済を安定化させる。戦争は、軍事費の形で無駄な消費を喚起し、生産力の余剰を吸収する。戦争は技術革新を促進し、技術の発展に寄与する。戦争は国家の内外に対する強制力を顕示して規範力の根拠となり、国家の存在基盤をつくる。戦争は明確な敵の選定により、社会に目標と秩序をもたらす。戦争は過剰な人口を刈り取って、地球生態系の安定に寄与する。軍隊は社会落伍者の居場所を提供して社会の安定に寄与する。戦争は充足して退屈した社会の欲求不満のはけ口を提供する。そして共通の「敵」を通じて社会に共通の価値観をもたらすことで、それに基づく文化の発展をうながす。(P.296「第8章 政治」)

ここに列挙されているのは、一般的には語られることの少ない、戦争の「メリット」とされる側面である。

これらの主張は倫理的な是非は別として、社会システムとしての戦争の機能を極めて論理的に、しかし衝撃的に提示している。この報告書を読むことで、平和を維持することの難しさや、戦争に代わる社会安定機能の必要性について深く考えさせられるだろう。

また、リスク管理や人間の本質を理解する上で、先述した人物ロバート・ヤング・ペルトンの『世界の危険・紛争地帯体験ガイド』、原著『The World’s Most Dangerous Places』のような書籍も重要であると示唆している。

前世紀、二十年以上前の文ながら、まったく意義を失っていない本だと思う。その後邦訳『世界の危険・紛争地帯体験ガイド 』も出たけれど、確かに普通の海外旅行客の読む本ではないし、なかなか読む者を選ぶ。(P.303「第8章 政治」)

世界の紛争地帯や危険地域に関するルポルタージュは、国際情勢の現実や、極限状態における人間の行動様式を浮き彫りにする。

それは、普段安全な環境にいる我々にとって、想像もつかないような世界であり、人間の持つ動物的な側面や本能について考えさせられる機会となるだろう。

知の羅針盤:山形浩生の「断言」が導くもの

本書『断言 読むべき本・ダメな本』は、単なるブックガイドに留まらない。

山形浩生というフィルターを通して、数々の書籍が新たな光を当てられ、その価値が再評価される。彼の「断言」するスタイルは、情報過多の現代において、読者が質の高い情報にたどり着くための一助となる。

彼の文章は軽妙な口語体で書かれており、一見読みやすい。

しかし、その背後には膨大な読書量と深い思索があり、決して表面的なものではない。むしろ、そのポップな語り口こそが、難解なテーマや専門的な内容を、より多くの読者に届けようとする彼の工夫の表れなのかもしれない。

本書を読むことで、知的好奇心が刺激され、次に読むべき本が見つかることは間違いないだろう。

そしてそれは、単に「積ん読」が増えるという以上の意味を持つ。良書との出合いは、我々の思考を深め、視野を広げ、そして時には人生を変える力さえ持っているからである。

また、本書を読んでいると、原書が英語で書かれている書籍については、可能であれば英語で直接読んでみたいという欲求に駆られるかもしれない。

山形浩生自身、多くの洋書を読みこなし、翻訳していることからも、外国語で情報を得る能力の重要性が伝わってくる。

英語で読書ができれば、翻訳にかかるタイムラグなしに最新の情報にアクセスできたり、時には邦訳よりも安価に電子書籍などで手に入れたりすることも可能になる。これは大きなアドバンテージである。

彼の他の著作や翻訳書と合わせて手に取ってみるのも良いかもしれない。

情報が溢れる現代だからこそ、信頼できる案内人の言葉に耳を傾け、自らの知性を磨いていくことが求められている。本書は、そのための確かな一歩となるはずだ。

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