『英語辞書の使いかた』外山滋比古

外山滋比古の略歴

外山滋比古(とやま・しげひこ、1923年~2020年)
英文学者。評論家。
愛知県幡豆郡寺津町(現・西尾市)の生まれ。
東京高等師範学校英語科を卒業。東京文理科大学(現・筑波大学)文学部英文学科を卒業。

『英語辞書の使い方』の目次

Ⅰ 辞書を使いこなすために
1 辞書がなければ
2 north
3 “I”
4 辞書を食べる
5 finger
6 house
7 「日本にないもの」
8 club
9 farmer
10 public school
11 Faulkner
12 大は小を兼ねるか
13 merchant
14 bus
15 派生語(1)
16 your
17 head
18 派生語(2)
19 ten
20 float
21 語源
22 climax
23 humor
24 ~ing形の形容詞
25 interesting
26 today
27 イディオム
28 not at home
Ⅱ 辞書を使って英文を読む
29 cats & dogs
30 バリエイションの妙
31 said
32 in fact
33 名詞構文
34 and
35 school
36 二つの意味
37 love
38 ash
39 外来語
40 “nighter”
41 do
42 イーソップ
43 ボディ・ラングェイジ
44 パーキンソンの法則
45 雑誌を読む
46 使用説明書
47 ことわざ
Ⅲ 辞書のいろいろ
48 オックスフォード系辞書
49 ウェブスターの辞書
50 ジョンソンの辞書
51 斎藤秀三郎の辞書
52 引用句辞典
53 雑学辞典
54 『悪魔の辞典』
55 和英辞典の賢い使い方

概要

1983年12月12日に第一刷が発行。岩波ジュニア新書。201ページ。

ホレイショーは哲学の学生だが、まだ自分の体系をもったりする哲学者ではない。とすれば your philosophy を「きみの哲学」とするのはおかしい。(P.53「16 your」)

ここでは、日光の華厳の滝で投身自殺をした第一高等学校の学生・藤村操(ふじむら・みさお、1886年~1903年)の「巌頭之感」(がんどうのかん)の話。

イングランドの劇作家であるウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare、1564年~1616年)の悲劇『ハムレット』(Hamlet)。

その第一幕第五場に、主人公ハムレットが親友ホレイショーに言う台詞。

There are more things in heaven and earth, Horatio, than are dreamt of in your philosophy.

藤村操の「巌頭之感」には「ホレーショの哲学」という言葉が出てくる。つまり、your=Horatioの、として考えた。しかし、yourには、いくつかの意味がある。

このことばには、「きみたちのいう、例の」という多少、軽べつや非難の気持ちをこめたいい方がある。「きみの哲学」ではなくて、「哲学なんか(に)」の意味になる。(P.53「16 your」)

とういう理由で、外山滋比古の訳では「ねえ、ホレイショーくん、この天地の間には哲学なんかの思いもよらないことがいろいろとある」となる。

また明治の日本人では、なかなか知ることは難しかったであろうと語っている。

裸の意味に、当面の文脈に合った着物をきせてやる。これが辞書をひくということである。それができなければ、ひいても本当にひいたことにはならない。(P.160「36 二つの意味」)

辞書に載っているのは、裸の言葉の意味。私たちが現実に本などの中で、接するのは着物を着ている言葉の意味。

なので、意味が分からない英文に出合ったら、まずは前後の脈絡などを読んで、どういった主旨であるのかをしっかりと確認する。

その後に辞書で、裸の言葉の意味を調べて、実際の文章と照らし合わせ、着物の言葉の意味に調整してあげる。

つまり、現実の文章にピッタリ当てはまる言葉の意味は辞書に載っていない場合も多々あるということ。

そのため、自分でその文章の大まかな文脈を捉えて、辞書に載っている意味を少し補正して、現実の文章に合わせるということ。

pains このsに注目。このために、「痛み」でなくて、「骨折り、苦労」となる。語尾にはいつも気をつける。それができない人は外国語に上達しないといってよい。(P.142「42 イーソップ」)

「Ⅱ 辞書を使って英文を読む」からは、実際に英文を読んでいく章となる。

ここでは、いわゆる「イソップ寓話」(Aesop’s Fables)。外山滋比古の小見出しでは「イーソップ」の表記。

イソップとは、古代ギリシアの作家・アイソーポス(Aísōpos、前619年~前564年)のこと。イソップ寓話は、アイソーポスが作ったとされる寓話を集めたと言われている。

英語の名詞は、単数形か複数形かで意味合いが変わってくる。そのため、語尾には特に注意する必要がある。

もしくは、辞書を引いた時に、複数形で意味が変化するかどうかをチェックしておくように習慣を付けておくと良いということか。

二度でそれができなければ、三度通読する。「ゆっくり急げ!」これが外国語を勉強するときの心がけである。(P.158「45 雑誌を読む」)

分からない単語が出て来るのは、当たり前だから驚かない心構えが大切。そして、その後は、どういった文法や文章の構造がポイントになっているのかを確認する。

分からないのであれば、繰り返し繰り返し読む。そうすると分かって来ることがある。

ちなみに、「ゆっくり急げ」は、ラテン語のFestina lente(フェスティナ・レンテ)で、ヨーロッパで古くから使われている格言。

和文英訳には、まず、和文和訳●●●●をして、なるべく自分の知っている単語や構文の範囲へ原文をひきよせる。三角形の面積は、底辺と高さによってきまるから、この二つさえ等しければ、どんな形をした三角形も同面積である。それとにたことを和文和訳でもする。(P.200「和英辞典の賢い使い方」)

ここでは、和文を英文に訳すときの注意事項。

和文をより英語にしやすい和文にする。これが、和文和訳。英語の勉強のためには、日本語の勉強というか、日本語の下地、基礎力が必要。

そこで、初めて和英辞典を使う。

和英辞典も英和辞典も、やみくもに引いてはいけない。引く前の考察が重要であるということ。

また英語は基本的に、動詞構文ではななく、名詞構文が好きな傾向があるので、その辺りも押さえておくと良いというアドバイスも。

感想

岩波ジュニア新書から出ているということで、とても分かりやすい文章。漢字も少ないし、ルビも豊富に付いている。

岩波ジュニア新書は、岩波書店のホームページを確認したところ、「小中学生から大人世代まで、幅広く読める入門新書」と書かれている。

小中学生でも読める。小学生でも読めるということ。

実際には、小学校の高学年くらいから。頭の良い子であれば、小学校の低学年、中学年くらいからでも読めるかもしれないが。

ただ、大人が読んでも充分に勉強になる。

というか、大人でも岩波ジュニア新書を、しっかりと読めるのは、どれくらいの割合になるのだろうか、という風にも見ることができる。

この本では、とても丁寧に、英語辞書の使い方、英語の勉強の仕方、英語の文章の読み方が書かれている。

英文学者・外山滋比古の真骨頂。本当に、大人でもオススメの本である。

話はそれてしまうが、岩波ジュニア新書を出版している人物は、何となく信用しやすい。

小中学生にも、分かるように丁寧に、分かりやすく、順序立てて、文章を書くというのは、とても高次元の作業だと思っているから。

外山滋比古はもちろん、その他に、コンサルタント・今北純一(いまきた・じゅんいち、1946年~2018年)の『自分力を高める』や、詩人・茨木のり子(いばらぎ・のりこ、1926年~2003年)の『詩のこころを読む』なども、岩波ジュニア新書で好きな作品。

今北純一も、茨木のり子も、とても尊敬する人物である。

機会があれば、他の岩波ジュニア新書も、いろいろと読み進めたい。

幅広い世代にオススメの英語に関する本。お子さんのいる方にも最適かもしれない。お子さんと一緒に読めるので。

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