『本の「使い方」』出口治明

出口治明の略歴

出口治明(でぐち・はるあき、1948年~)
実業家、ライフネット生命保険の創業者。
三重県津市の生まれ。三重県立上野高等学校、京都大学法学部(専攻:憲法)を卒業。日本生命保険相互会社に勤務し、ロンドン現地法人の社長、国際業務部長などを歴任。退社後にライフネット生命保険を設立。読書家としても知られる。

『本の「使い方」』の目次

はじめに
1章 本とは「何か」 ――教養について考える
1 「教養」と「教育」の違い
2 教養を得るための効率的なツール
3 どのジャンルを学んだらいいか
4 リベラルアーツの必要性
5 本、新聞、インターネットの違い
6 本を読まない人が増えると、どんな影響があるのか
2章 本を「選ぶ」 ――「面白うそうな本」という鉄則
1 未知の分野の勉強のしかた
2 どうして古典が難しく感じるか
3 古典を読む意義
4 古典の選び方
5 現代の本の選び方
6 図書館を活用する
7 本の薦め方
3章 本と「向き合う」 ――1行たりとも読み飛ばさない
1 読書の作法
2 本は、人
3 歴史書の読み方
4 速読より「熟読」
5 ビジネス書との距離の取り方
4章 本を「使う」 ――著者に左右される人、されない人
1 数字・ファクト(事実)・ロジック(論理)
2 本に即効性を求めない
3 本の再読
4 考えるとは、言語化すること
5 目的別のお薦め本
5章 本を「愛する」 ――自分の滋養、他者への架け橋
1 本との出会い
2 小学生時代
3 中学生時代
4 高校生時代
5 大学生時代
6 社会人時代
7 読書が与えてくれるもの
おわりに
編集後記
本書内での紹介書籍一覧

概要

2014年9月10日に第一刷が発行。角川oneテーマ21。237ページ。

副題は「1万冊を血肉にした方法」。

実業家であり読書家としても有名な出口治明が、本の使い方を解説した作品。自らの経験談も豊富に掲載された内容。

角川書店の編集者の間孝博とライターの藤吉豊が、出口治明に合計5回のインタビューを実施して、まとめたもの。

「本書内での紹介書籍一覧」では、169冊の本の一覧も。

感想

この作品を読むと分かるけど、本当に凄い教養の持ち主だ、出口治明は。

しかも、子供の頃からの読書家で、相当な本物。そりゃ、京大法学部に入って後に金融保険業界で出世するような、という感じ、である。

多くの本の紹介もあるので、読みたい本がドンドン増えてしまう。

嬉しい悲鳴である。

以下、引用などをしながら紹介。

長野県・小諸市にある藤村記念館には、島崎藤村の「三智」の色紙が展示してあります。「人の世には三智がある。学んで得る智 人と交わって得る智 みづからの体験によって得る智がそれである」(P.29:1章 本とは「何か」)

島崎藤村(しまざき・とうそん、1872年~1943年)は、詩人であり小説家。岐阜県中津川市の生まれ。1881年に上京。明治学院を卒業。本名は、島崎春樹(しまざき・はるき)。

島崎藤村は、本を読んだり、話を聞いたりして得る知恵、他者との交流によって得る知恵、自分の体験から得る知恵を、大切にしていた。

同様に、出口治明も、本から、人から、旅から、といった形で学んでいるという話の流れ。

自分を振り返ってみると、出口治明と同様に、本、人、旅から学んでいるのかもしれない。

しかも、その三つは関連している。

本で得た知識から、旅に出たくなる。知人が遠い場所に住んでいるから、旅をしながら会いに行く。

旅や人から得た知識で、さらに本を読むなど。

この三つは意識して、継続していきたい部分でもある。

たとえば、紀元前6世紀のギリシャの賢人、ピュタゴラス。「ピュタゴラスの定理(3平方の定理)」で知られる彼は、音の協和性を数学的に探求した人で、音楽理論の祖としても知られています。(P.44:1章 本とは「何か」)

ピュタゴラス(Pythagoras、前582年~前496年)は、古代ギリシアの数学者、哲学者。

さらに、『ピュタゴラスの音楽』という本も紹介。

数学者としか認識していなかったが、音楽的な領域でも活躍していたのか。全く知らなかった。

教養というのは、分野を問わないというか、超越するというか、多岐に渡るといった感じ。

また、アメリカのマサチューセッツ工科大学は、一般的に理系の大学でありながら、リベラルアーツにも力を入れているという話も。

マサチューセッツ工科大学の交響楽団は、全米の大学の中でも、トップクラスの演奏技術を誇っているとか。

週末のゴルフやテレビは早くから捨てて、本も、週に10冊ぐらいは読んでいましたし、読む本の範囲も広かった。旅も大好きで、たとえば海外なら70ヵ国1000都市以上は自分の足で歩いていると思います。(P.55:1章 本とは「何か」)

時々、異次元レベルのエピソードが入ってくる。

まずは、組織で働くサラリーマンでありながら、ゴルフは捨てていたというもの。

しかも、出口治明の若い頃であれば、尚更異端的な感じであったであろう。

さらに、テレビも所有していなかった。本を読むために。

この辺りは、有能で仕事が出来ていたから、ゴルフが無くても問題が無かったといったものだと推測。

サラリーマンで、そこまで尖っていなかったら、取り敢えず、波風立てないように、ゴルフとかにも行く人は多いと思う。

加えて、旅の話も。

70カ国、1000都市。

連休とかに、海外旅行に行くといった感じだろうか。

ただ、出口治明の場合には、イギリスに住んでいたこともあるから、ヨーロッパとかの国々にはアクセスしやすかったのかも。

その点を考慮したとて、かなりの旅好きではあるけれども。

なかなかのスケールの違いを、サラリと披露してくれる。

もちろん、解説書の中にも、優れた作品がないことはありません。「最初から原点を読むのはしんどいし、厄介だな」と感じたなら、岩波書店の『書物誕生』シリーズ(全30巻)から始めることもできます。(2章 本を「選ぶ」)

可能な限り、原典を読む。なるべく解説書は避ける。

といった方針の出口治明。

ただし、だからと言って、最初から原典だと難しい場合もある。

そこで、優れた解説書として、岩波書店の『書物誕生』シリーズを紹介。

このシリーズは知らなかったので、今後利用していきたいと思う。

原典を読みたいけれど、そこまでの知識や、まさに教養が足りないために読めないことも多い。

地道に階段を登っていくイメージで、少しずつ読んでいきたい。

たとえば、私が「江戸時代」に最低の評価を下しているのは、江戸時代が「栄養失調の社会」だったことが数字でわかっているからです。(P.146:4章 本を「使う」)

江戸時代を否定的に捉えている出口治明。

というのも、特に江戸時代の末期は酷く、飢饉が起きても、食料の輸入が上手く出来ずに、日本人男性の平均身長は、150センチ台、体重は50キロ台だったとか。

このように、事実、数字、論理を大切にする出口治明。

そのため、江戸時代が豊かな時代だったという風には思えないとも。

また、本好きだからといって、本の内容を鵜呑みにせずに、事実、数字、論理を使って、頭を働かせながら、読むことが重要である。

男性は女性によってコントロールされること。何よりも友情が尊いこと。自然と人間はときに対立すること。教育によって人は成長することなど、現代にも当てはまる人間の本質が、4000年前にはすでに記されていたことに驚かされます。人間の感情も、喜怒哀楽も、行動も、いつの時代も変わらないのです。(P.190:4章 本を「使う」)

ここでは、『ギルガメシュ叙事詩』について触れている。

そして、結局のところ、人間は、4000年前から変らないということを伝える。

出口治明が他の本やメディアなどでも言っているが、人間は大したことない残念な動物である、的な主旨の内容と重なる。

そういったことから、過剰に人間に期待せずに、事実、数字、論理と使って生きていくのがベターである。

歴史を学ぶと人間は過去から現在まで、全く変わっていないというのも分かる。

面白い。

出口治明のファンや本好きの人、また歴史や教養などに興味のある人には非常にオススメの本である。

書籍紹介

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