- 多様な読書による知の探求
- 個々の思考と実践の反映
- 人間と世界と構造と課題
- 普遍的知恵と自己変革
『新世代CEOの本棚』の目次
#01 堀江貴文(ライブドア元CEO)
「ノーベル賞科学者のプロデュース術」を学ぶ
#02 森川亮(LINE元CEO、C Channel CEO)
自分の脳を「だます」本で、判断力を研ぎ澄ます
#03 朝倉祐介(ミクシィ元CEO)
組織の「グチャグチャ」は歴史本で疑似体験
#04 佐藤航陽(メタップスCEO)
「感情」「経済」「テクノロジー」で未来を俯瞰
#05 出雲充(ユーグレナ社長)
ドラゴンボール「仙豆」から、ユーグレナを着想
#06 迫俊亮(ミスターミニットCEO)
「とりつかれたような読書」から見えてきたもの
#07 石川康晴(クロスカンパニーCEO)
倒産危機を救ってくれた、松下幸之助の『商売心得帖』
#08 仲暁子(ウォンテッドリーCEO)
「採用」「解雇」の二大難問に答えてくれた本
#09 孫泰蔵(Mistletoe CEO)
『ワンピース』は、チーム経営の最高の教科書
#10 佐渡島庸平(コルクCEO)
ストーリーづくりは、「観察力」が9割、「想像力」が1割
『新世代CEOの本棚』の概要・内容
2016年3月25日に第一刷が発行。文藝春秋。253ページ。ソフトカバー。127mm✕188mm。四六判。
登場人物たちの略歴を以下に。
堀江貴文(ほりえ・たかふみ、1972年~)…実業家。福岡県八女市の生まれ。東京大学文学部を中退。大学在学中に有限会社オン・ザ・エッヂ(後のライブドア)を設立。ライブドア元代表取締役社長CEO。
森川亮(もりかわ・あきら、1967年~)…実業家。神奈川県の生まれ。筑波大学第三学群情報学類を卒業、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程を修了。日本テレビ放送網、ソニーを経て、ハンゲームジャパン(現LINE)に入社し、LINE元代表取締役社長CEOを務める。C Channel株式会社代表取締役社長。
朝倉祐介(あさくら・ゆうすけ、1979年~)…実業家。兵庫県西宮市の生まれ。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、大学在学中に設立したネイキッドテクノロジー代表に就任。同社がミクシィに売却された後、ミクシィ代表取締役社長兼CEOに就任。シニフィアン株式会社共同代表。
佐藤航陽(さとう・かつあき、1986年~)…実業家。福島県福島市の生まれ。福島県立福島高等学校を卒業、早稲田大学法学部を中退。2007年にイーファクター株式会社(現メタップス)を設立し、2015年に東証マザーズに上場。現在は株式会社メタップスCEO。2017年には宇宙開発を目的とした株式会社スペースデータを創業。著書『お金2.0』は20万部を超えるベストセラー。
出雲充(いずも・みつる、1980年~)…実業家。広島県呉市の生まれ。神奈川県を経て、東京都の育ち。東京大学農学部を卒業。東京三菱銀行を1年余りで退社後、2004年に米バブソン大学「プライス・バブソン」を修了。2005年に株式会社ユーグレナを創業、同社代表取締役社長に就任。世界で初めて微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。
迫俊亮(さこ・しゅんすけ、1985年~)…実業家。福岡県の生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)社会学部を卒業。2008年三菱商事に入社後、同年にマザーハウスに転職。2013年ミニット・アジア・パシフィック株式会社に入社。ミスターミニットCEO。
石川康晴(いしかわ・やすはる、1970年~)…実業家。岡山県岡山市の生まれ。岡山県立岡山南高等学校を卒業後、専門学校を経て紳士服チェーンに就職。その後、岡山大学経済学部経済学科に社会人入試を経て入学、京都大学大学院経営学修士課程を修了。株式会社ストライプインターナショナル(旧クロスカンパニー)の創業者で元社長。持株会社イシカワホールディングス社長。
仲暁子(なか・あきこ、1984年~)…実業家。千葉県の生まれ。京都大学経済学部を卒業。ゴールドマン・サックスに入社。退職後の2010年にFacebook日本支社の立ち上げに加わる。ウォンテッドリー株式会社代表取締役CEO。
孫泰蔵(そん・たいぞう、1972年~)…実業家。佐賀県鳥栖市の生まれ。久留米大学附設中学校・高等学校を卒業、東京大学経済学部を卒業。大学在学中の1996年にYahoo! JAPANの立ち上げに参画。その後、インディゴ株式会社を設立し代表取締役に就任。ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社の創業者でもある。現在はMistletoe株式会社CEO。ソフトバンクグループ創業者の孫正義(そん・まさよし、1957年~)は兄。
佐渡島庸平(さどしま・ようへい、1979年~)…実業家、編集者。兵庫県神戸市の生まれ。中学時代を南アフリカ共和国で過ごす。灘中学校・高等学校を卒業、東京大学文学部を卒業。2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』、『ドラゴン桜』、『宇宙兄弟』などのヒット作を担当。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社コルクを設立、代表取締役会長。
『新世代CEOの本棚』の要約・感想
- 未来を切り拓く羅針盤、ここにあり。書籍『新世代CEOの本棚』徹底解剖
- 堀江貴文:常識を疑い、知的好奇心を刺激する読書
- 朝倉祐介:歴史に学ぶ、組織運営のリアル
- 佐藤航陽:未来を見通すための「感情」「経済」「テクノロジー」
- 出雲充:先達の足跡を道標に、困難を乗り越える力
- 迫俊亮:経済学と社会学の視点を経営に活かす
- 総括:164冊の知恵が導く、自己変革への羅針盤
未来を切り拓く羅針盤、ここにあり。書籍『新世代CEOの本棚』徹底解剖
現代は、変化の激しい時代である。このような時代において、道を切り拓き、新たな価値を創造し続けるリーダーたちは、何を考え、何に学び、どのように行動しているのだろうか。
その秘密の一端を垣間見せてくれるのが、書籍『新世代CEOの本棚』である。
本書は、日本を代表する新世代の経営者たちが、自身の血肉となった特別な一冊、あるいは人生の転機で出会った運命的な本について語り尽くす、貴重なインタビュー集だ。
彼らが紹介する本は、ビジネス書に留まらず、小説、歴史書、科学書、漫画と多岐にわたる。それぞれの経営者が、どのような問題意識を持ち、本から何を吸収し、どう実践に活かしているのか。
その生の声は、日々の仕事や人生に悩む我々にとって、確かな指針と勇気を与えてくれるだろう。
この記事では、『新世代CEOの本棚』で紹介されている珠玉の言葉や書籍群を、読者の皆様の知的好奇心を刺激し、明日への活力を生み出す一助となるよう、詳細に解説していく。
堀江貴文:常識を疑い、知的好奇心を刺激する読書
ライブドア元CEOとして知られる堀江貴文(ほりえ・たかふみ、1972年~)は、既成概念にとらわれない発想と行動力で時代を切り拓いてきた。彼の読書術もまた、常識に疑問を投げかけ、知的好奇心を刺激するものに満ちている。
本書で堀江が紹介する一冊に、渡辺淳一(わたなべ・じゅんいち、1933年~2014年)の『花埋み』(はなうずみ)がある。
明治時代を生きた日本初の女医、荻野吟子の生涯を描いた『花埋み』とか、いいですよ。(P.14「#01 堀江貴文(ライブドア元CEO)」)
荻野吟子(おぎの・ぎんこ、1851年~1913年)は、数多の困難を乗り越え、日本で最初の国家資格を持つ女性医師となった人物である。
女性が学問を修めることすら困難だった時代に、彼女が示した不屈の精神と社会への貢献は、現代に生きる我々にも深い感銘を与える。
私自身、医療関連の物語には関心があり、有吉佐和子(ありよし・さわこ、1931年~1984年)の『華岡青洲の妻』を読んだ経験がある。また
東京女子医科大学を創設した吉岡弥生(よしおか・やよい、1871年~1959年)の記念館を訪れたこともあるため、荻野吟子の生涯を描いたこの作品もぜひ手に取ってみたいと感じた。
堀江がこの作品を挙げる背景には、既存の枠組みに挑戦し続ける自身の姿勢と、荻野吟子の生き様が重なる部分があるのかもしれない。
また、堀江は歴史小説の面白さについても触れている。
たとえば、冲方丁さんの『天地明察』。江戸時代に実在した囲碁棋士にして天文歴学者、渋川春海が日本独自の歴をつくるストーリーですが、半分は実話じゃないですか。(P.15「#01 堀江貴文(ライブドア元CEO)」)
冲方丁(うぶかた・とう、1977年~)による『天地明察』は、江戸時代前期の天文暦学者、渋川春海(しぶかわ・はるみ、1639年~1715年)が、中国から伝わった暦のズレを修正し、日本独自の暦である貞享暦を作り上げるまでの苦難と情熱を描いた作品である。
この作品は、史実に基づいた重厚な物語でありながら、エンターテイメント性も高く、多くの読者を魅了した。
私自身、この作品を読んだことがあり、その面白さに引き込まれた記憶がある。もしかすると、本書のインタビューがきっかけで手に取ったのかもしれない。
堀江が指摘するように、史実とフィクションが巧みに融合した歴史小説は、読者に過去の偉業を追体験させ、新たな視点を与えてくれる。
こちらの記事「冲方丁『天地明察』あらすじ・感想」もぜひ。
さらに、科学分野の良質な翻訳書を読むことの重要性も強調している。
あと、HONZにたまに寄稿している翻訳家の青木薫さん。彼女が訳した本は読んだほうがいい。サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』と『暗号解読』は鉄板です。(P.17「#01 堀江貴文(ライブドア元CEO)」)
青木薫(あおき・かおる、1956年~)は、数多くの優れた科学ノンフィクションを翻訳してきた翻訳家である。
彼女が手がけたサイモン・シン(Simon Singh、1964年~)の著作、特に『フェルマーの最終定理』や『暗号解読』は、難解な科学の世界を一般読者にも分かりやすく伝え、知的好奇心を大いに刺激する名著として名高い。
私自身、サイモン・シンの著作には以前から興味を持っており、購入済みでありながら未読であった。
堀江の推薦に加え、作家・YouTuberの堀元見(ほりもと・けん、1992年~)なども推奨している作家であるため、これを機に読み進めたいと思う。
堀江がこうした科学ノンフィクションを薦めるのは、複雑な事象を論理的に解き明かす思考プロセスや、未知の領域に挑む科学者たちの情熱が、ビジネスにおける問題解決やイノベーションにも通じるものがあると考えているからだろう。
堀江の読書は、単なる知識の習得に留まらない。歴史上の人物の生き様から不屈の精神を学び、科学の物語から論理的思考と探求心を養う。
彼の多岐にわたる関心と、それを自身の力に変えていく貪欲な姿勢が、その言葉の端々から感じ取れる。
朝倉祐介:歴史に学ぶ、組織運営のリアル
ミクシィ元CEOの朝倉祐介(あさくら・ゆうすけ、1982年~)は、一度大きな岐路に立たされた企業を再建し、成長軌道に乗せた実績を持つ経営者である。
彼の経営哲学の一端には、歴史書から組織運営の複雑さや人間関係の機微を学ぶという姿勢があるようだ。特に、言葉だけでは伝わらない現実の「グチャグチャ」を、歴史を通じて疑似体験することの重要性を指摘している。
彼は、コミュニケーションの難しさについて、以下のように語る。
自分もそうですが、他人の話を真面目に聞く人というのはなかなかいません。たとえ相手が「わかった」と答えたとしても、話した通りに行動してもらえると期待するのがそもそもの間違いです。面従腹背もあれば、単に聞き流されているだけのこともあるでしょう。言葉を尽くすことが大前提ではありますが、自分が何を言っても、何も起こらないとわかっているので、私は相手を取り巻く環境づくりにこそ力を入れます。こうしたあたりは、馬との接し方に近いものがあるように思うのです。(P.74「#03 朝倉祐介(ミクシィ元CEO)」)
この言葉には、組織を率いる上での深い洞察が込められている。
人は基本的に他者に強い関心を持っておらず、他人の話を額面通りに受け取って理解し、行動に移すことは稀である、という現実認識である。
言葉で指示や理念を伝えたとしても、それがそのまま実行されると期待するのはナイーブであり、時には表面的な同意の裏で反発や無関心が渦巻いていることすらある。
この経験則から、朝倉は言葉による直接的な指示よりも、望ましい行動を自然に誘発するような「環境づくり」に注力するという。
この考え方は、彼がかつて競馬の騎手養成学校に在籍し、馬と触れ合う中で培われた経験に根差しているのかもしれない。
馬は言葉を解さない。そのため、乗り手は言葉以外の方法、例えば手綱の操作、体重移動、脚による合図など、全身を使ったコミュニケーションや、馬が安心して能力を発揮できるような環境を整えることが求められる。
このような非言語的なコミュニケーションや環境を通じた相互理解の経験が、彼の組織運営における「環境づくり」重視の姿勢に繋がっているとすれば非常に興味深い。
歴史書、特に組織の盛衰やリーダーたちの葛藤を描いたものは、まさにこの「環境づくり」の成功例や失敗例の宝庫と言えるだろう。
英雄譚だけでなく、内部対立、裏切り、派閥争いといった、組織の「グチャグチャ」とした側面も赤裸々に記録されている。
これらを読み解くことで、朝倉は人間というものの複雑さ、組織というものの扱いづらさを深く理解し、理想論ではない現実的な組織運営の術を磨いてきたのではないだろうか。
言葉だけでは動かない人々を、いかにして同じ目標に向かわせるか。そのヒントを、彼は歴史の中に求めているのである。
佐藤航陽:未来を見通すための「感情」「経済」「テクノロジー」
株式会社メタップス創業者であり、CEOを務める佐藤航陽(さとう・かつあき、1986年~)は、テクノロジーとビジネスモデルの深い理解に基づき、常に未来を見据えた事業展開を行う経営者である。
彼の思考のフレームワークを形作る上で、読書は重要な役割を果たしているようだ。
特に、「感情」「経済」「テクノロジー」という三つのレンズを通して世界を俯瞰し、未来を予測する視点が印象的である。
本書の中で佐藤が言及する一つに、人間行動の根源的な動機に関する洞察がある。
また、世の中は嫉妬とそろばんで動くという話も出てきます。嫉妬というのは感情です。そろばんというのはお金です。
角栄は20代半ばで建設会社を経営していて、人間がお金に対してどう反応するか熟知していた。それが後に金権政治につながっていくわけですが、ただお金を配るだけではなく、どうすれば相手がお金を受け取りやすくなるかまで考えています。(P.91「#04 佐藤航陽(メタップスCEO)」)
ここで触れられているのは、おそらく元内閣総理大臣である田中角栄(たなか・かくえい、1918年~1993年)の人間観や政治手法に関するエピソードであろう。
人は論理や理性だけで動くのではなく、「嫉妬」に代表されるような強烈な感情と、「そろばん」で示される経済的なインセンティブによって大きく左右されるという指摘は、人間社会の本質を突いている。
ビジネスであれ、政治であれ、あるいはもっと身近なプロジェクトであれ、他者を動かし、事を成し遂げるためには、この二つの要素を巧みに操る必要がある。
佐藤がこの点に着目するのは、彼がテクノロジーを基盤としたビジネスを展開する上で、人間の根源的な欲求や行動原理を深く理解することの重要性を認識しているからに他ならない。
感情を動かし、経済的な合理性を示すことで、初めて人は大きく動くのだ。
また、佐藤はスタートアップの投資戦略に関する事例も紹介している。
『Yコンビネータ―』によれば、グレアムは「どのスタートアップが大成功を収めるのかは事前にまったく予想がつかない」から、300万円とか500万円という金額を一律に投資して、わずか1社の大成功によって全額回収するというビジネスモデルをつくり上げた。レバレッジがすごく利くわけです。(P.93「#04 佐藤航陽(メタップスCEO)」)
ここで言及されているのは、著名なプログラマーでありエッセイストでもあるポール・グレアム(Paul Graham、1964年~)が共同設立した、世界的に有名なシードアクセラレーター「Yコンビネーター」の投資戦略である。
スタートアップの世界は、極めて不確実性が高く、成功する企業はほんの一握りである。
この現実を踏まえ、Yコンビネーターは、個々の企業の将来性を正確に予測することの困難さを認め、少額を多数の企業に分散投資し、その中から一社でも大成功が出れば、投資全体を回収し、さらに大きなリターンを得るというモデルを採用している。
これは、金融工学で言うところのポートフォリオ理論や、レバレッジ効果を巧みに応用した戦略と言える。
佐藤がこの事例を挙げるのは、彼自身が起業家であり、また投資家としての側面も持つことから、リスクとリターンを最大化するための戦略的思考を常に巡らせていることの現れだろう。
佐藤航陽の読書と思考は、「感情」という人間的な側面と、「経済」という合理的な側面、そしてそれらが複雑に絡み合う現代社会を、「テクノロジー」という視点から解き明かし、未来のビジネスチャンスを掴もうとする野心的な試みと言える。
章末の彼の紹介する本には、人間の深層心理に迫る書籍、経済のダイナミズムを関連する書籍、そして最先端テクノロジーの未来を予見する書籍が並んでいる。
出雲充:先達の足跡を道標に、困難を乗り越える力
株式会社ユーグレナの創業者であり、代表取締役社長を務める出雲充(いずも・みつる、1980年~)は、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の持つ可能性に着目し、食料問題や環境問題の解決に貢献する事業を力強く推進している。
彼の不屈の精神と事業への情熱は、数々の困難を乗り越えてきた経験と、そこから得た深い洞察に裏打ちされている。
読書は、彼にとって、先人たちの知恵を学び、自らを鼓舞するための重要な手段であるようだ。
出雲は、先人たちの業績、特にその達成年齢を意識することで、自らのモチベーションを高めている。
それに、チキンラーメンは安藤さんが48歳のとき、カップヌードルは61歳のときの新商品でしょう。「30代の自分には、やれることはまだまだある」と前向きにもなれます。仕事の壁にぶち当たったとき、こうした本を読むことで力を取り戻せる。これが、私にとってはストレス発散になるのです。(P.109「#05 出雲充(ユーグレナ社長)」)
ここで言及されている安藤さんとは、日清食品の創業者である安藤百福(あんどう・ももふく、1910年~2007年)のことである。
彼は、48歳で世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を、さらに61歳で「カップヌードル」を発明し、世界の食文化に革命をもたらした。
これらの事実は、何か新しいことを始めるのに年齢は関係ないこと、そして、人生の後半においても大きな革新を成し遂げられる可能性を示している。
先人たちが偉業を成し遂げた年齢を知ることは、自らの現在地を確認し、「自分はまだまだこれからだ」という奮起を促すマイルストーンになる。
出雲にとって、このような先達の物語は、事業を推進する中で直面するであろう様々な困難やプレッシャーを乗り越え、前向きな気持ちを維持するための精神的な支柱となっているのだろう。
また、出雲は、人の信念形成における「尊敬する人からの言葉」の重要性を、感動的なエピソードと共に紹介している。
クリスマス前、主人公のお母さんは当時NASA(米航空宇宙局)の責任者を務めていたフォン・ブラウンに頼み込みます。「うちの子は田舎者で勉強も苦手だけど、NASAに入るために頑張っています。やる気が続くように、ぜひ手紙を書いてやってください」と。
すると、本当にフォン・ブラウンから主人公にクリスマスに手紙が届くんですね。主人公がぶっ続けで30時間も40時間も勉強するような過酷な日々を、なぜ乗り越えられたか。それは、この手紙があったからです。
ティモンズは最後に、「一番尊敬する人からの言葉が、人の信念をかたちづくる」と言いました。(P.117「#05 出雲充(ユーグレナ社長)」)
このエピソードに登場するフォン・ブラウンとは、ドイツ出身のロケット科学者であり、後にアメリカに渡りNASAのアポロ計画を指導したウェルナー・フォン・ブラウン(Wernher von Braun、1912年~1977年)のこと。
この物語の主人公である田舎出身で勉強が苦手だった少年が、憧れの人物からの励ましの手紙を心の支えに、困難な目標に向かって努力を続ける姿は、胸を打つものがある。
そして、「一番尊敬する人からの言葉が、人の信念をかたちづくる」という起業家の研究や教育に携わるアメリカの教授、ジェフリー・ティモンズ(Jeffry Timmons、1941年~2008年)の言葉は、真理を突いている。
上記の引用は、『ロケットボーイズ』を使った起業家のためのティモンズの講義を出雲が受けた時のエピソードである。
私自身、この話には深く感動した。誰しも、尊敬する師やメンターからの言葉に勇気づけられ、困難を乗り越えた経験があるのではないだろうか。
出雲がこのエピソードを大切にしているのは、彼自身もまた、多くの人々の支援や期待を力に変え、ユーグレナという前人未到の事業を推進してきたからかもしれない。
出雲充の読書は、単に知識を得るためだけではなく、自らを奮い立たせ、困難に立ち向かう勇気を得るための糧となっている。
彼の言葉からは、ドラゴンボールの「仙豆」からユーグレナの着想を得たというユニークな発想力と共に、偉大な先人たちへの敬意と、彼らから学ぼうとする謙虚な姿勢がうかがえる。
迫俊亮:経済学と社会学の視点を経営に活かす
アジア太平洋地域で靴修理や鍵複製などのサービスを展開する「ミスターミニット」のCEOを務める迫俊亮(さこ・しゅんすけ、1975年~)は、金融業界での経験も持つ異色の経営者である。
彼の経営判断の根底には、経済学的な合理性と、社会学的な人間組織への洞察があるようだ。そのために、「とりつかれたような読書」を重ねてきたという。
迫が経済学を学ぶ上で指針とした一冊について、本書では次のように紹介されている。
このとき、以前はゴールドマン・サックスのエコノミストを務めていたマザーハウスの副社長、山崎大祐さんに「これを徹底的に読めば、ほかの本は読まなくていいくらいだ」と薦められたのが、『マンキュー経済学』。(P.134「#06 迫俊亮(ミスターミニットCEO)」)
ここで名前が挙がっている山崎大祐(やまざき・だいすけ、1980年~)は、株式会社マザーハウスの代表取締役副社長であり、ゴールドマン・サックス証券出身という経歴を持つ人物である。
彼がそこまで強く推薦する『マンキュー経済学』とは、ハーバード大学教授のN・グレゴリー・マンキュー(Nicholas Gregory Mankiw、1958年~)による経済学の入門テキストであり、世界中の大学で標準的な教科書として採用されている名著である。
この教科書は、経済学の基本的な概念や原理を分かりやすく解説しており、経済の仕組みを体系的に理解するための第一歩として最適とされている。
経済学を学ぶ上でこのような定番書を押さえておくことの重要性は認識しており、迫がこの一冊を徹底的に読み込んだという事実は、彼の経営における論理的思考やデータに基づいた判断の基礎を形作っていることを示唆している。
経済学の知識は、市場分析、価格戦略、投資判断など、経営のあらゆる場面で不可欠なツールとなる。
さらに、迫は社員のミスに対する独特の考え方を持っている。それは社会学的な視点に基づいている。
たとえば、社員がミスを犯したとき。普通であれば怒りたくなるシーンでも、社会学の考え方にのっとれば、それは個人の問題ではないわけです。ミスを誘発させてしまった組織の仕組みの問題であって、怒るべきことではない。問題を起こす構造自体を変えるべきであり、それこそが経営者の役割だ、というのが私の経営者としてのスタンスです。(P.145「#06 迫俊亮(ミスターミニットCEO)」)
この考え方は非常に示唆に富んでいる。
一般的に、職場でミスが発生すると、そのミスを犯した個人に責任を問い、叱責することで再発防止を図ろうとしがちである。
しかし、迫は社会学のレンズを通してこの問題を捉え、個人の資質や注意力の問題ではなく、ミスを誘発するような組織の構造やシステム、あるいは業務プロセスに問題があるのだと考える。
したがって、経営者の役割は、個人を罰することではなく、問題を生み出す構造そのものを見直し、改善することにあるという。
これは、ハインリッヒの法則、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するという法則にも通じる考え方であり、根本的な原因解決を目指すアプローチである。
会社でミスが起きた際に、それを個人の責任に帰結させるのは簡単だが、それでは本質的な解決には至らず、同様のミスが繰り返される可能性が高い。
組織の仕組みや環境に目を向け、構造的な欠陥を修正していくことこそが、持続的な改善と組織全体のパフォーマンス向上に繋がるという迫の経営スタンスは、多くのリーダーにとって学ぶべき点が多いだろう。
彼の「とりつかれたような読書」は、経済学の合理性だけでなく、人間と社会に対する深い洞察をもたらし、それが独自の経営哲学を形成しているのである。
総括:164冊の知恵が導く、自己変革への羅針盤
本書『新世代CEOの本棚』は、まさに知の宝庫である。
10人の新世代経営者たちが、それぞれの人生と経営に影響を与えた書籍を紹介しており、その総数は実に164冊にも及ぶという。これは単なる推薦図書リストではない。
彼らがどのような視点で本を読み、そこから何を学び取り、いかにして自らの血肉としてきたか、その思考のプロセスと実践の軌跡が生々しく語られている。
紹介されている書籍のジャンルは、経営戦略やリーダーシップ論といった直接的なビジネス書に留まらず、歴史、科学、文学、漫画と極めて多岐にわたる。
これは、現代の複雑で変化の激しい時代を乗り切るためには、多様な視点と幅広い教養が不可欠であることを示唆している。あるCEOは歴史上の人物の生き様から普遍的な教訓を学び、またあるCEOは科学的な思考法をビジネスに応用する。
漫画からチームビルディングの極意を見出す経営者もいれば、経済学の古典に立ち返ることで経営の軸を定める経営者もいる。
それぞれのCEOが紹介する書籍の中には、他のCEOもまた影響を受けたと語る「重なっている本」も散見されるという。
これは、時代や業種を超えて重要とされる、普遍的な知恵が存在することの証左であろう。
本書を読むことは、これらの成功した経営者たちの「思考のOS」に触れるような体験である。彼らがどのような問題意識を持ち、情報を処理し、意思決定を行っているのか。
その一端を垣間見ることで、読者自身の思考の枠組みを広げ、新たな気づきを得ることができるだろう。
特に、ビジネスの世界で高みを目指す人々や、これから社会に出ようとする若い世代にとっては、自らのキャリアパスや働き方、学び方について深く考えるきっかけとなるはずだ。
私自身、本書の情報を整理しながら、これまで知らなかった経営者の名前や、彼らが手がける多様な事業について学ぶことができ、非常に勉強になった。
そして何よりも、読みたい本がまたしても山積みになってしまうという、嬉しい悲鳴を上げている。しかしそれは、知的好奇心が刺激され、新たな学びへの意欲が掻き立てられている証拠でもある。
『新世代CEOの本棚』は、単に「おすすめの本」を知るためだけの本ではない。
それは、先行き不透明な時代において、自らの力で未来を切り拓くための知恵と勇気を与えてくれる羅針盤であり、読者一人ひとりの自己変革を促す起爆剤となり得る一冊である。
読書という行為を通じて、彼らと同じように世界を捉え直し、自らの人生と仕事に新たな意味を見出す旅へと、本書は我々を誘ってくれるだろう。
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