『日本語力と英語力』齋藤孝/斎藤兆史

齋藤孝の略歴

齋藤孝(さいとう・たかし、1960年~)
教育学者、著述家。
静岡県静岡市の生まれ。東京大学法学部を卒業。
東京大学大学院教育学研究科学校教育学専攻博士課程を満期退学。

斎藤兆史の略歴

斎藤兆史(さいとう・よしふみ、1958年~)
英文学者。
栃木県の生まれ。東京大学文学部英語・英米文学科を卒業。東京大学大学院人文科学研究科英語英文学専攻修士課程を修了。米国インディアナ大学英文科修士課程を修了。英国ノッティンガム大学英文科博士課程を修了。

『日本語力と英語力』の目次

序――「英語が使える日本人」幻想から醒めよ 斎藤兆史
1章 英語力の基礎は日本語力
2章 英語教育のここを改めよ
3章 上達の法則
4章 右手に素読、左手に文法
5章 日本の教育を変える斎藤メソッド
6章 教材選びのポイント
7章 「本物」だけを見続けよ
8章 21世紀の「英語達人」のすがた
あとがき

概要

2004年4月10日に発行。中公新書ラクレ。196ページ。

教育学者の齋藤孝と英文学者の斎藤兆史の共著。

 でも、そういう形でラッセルに限らず、高級な英語の文章をひたすら読み、それで内容も理解できたんですからね。
兆史 当時、名文の数々を何度も何度も素読、暗誦したことが、英語の基礎体力づくりに役立っていることは確かですね。(P.94:4章 右手に素読、左手に文法)

ラッセルとは、イギリスの哲学者、論理学者、数学者のバートランド・アーサー・ウィリアム・ラッセル(Bertrand Arthur William Russell、1872年~1970年)のこと。

齋藤孝も斎藤兆史も、受験生の時にバートランド・ラッセルなどの英文を何度も読んで勉強をしたという経験を持ち、とても役に立っているという。

バートランド・ラッセルでは特に『幸福論』などが有名。この『日本語力と英語力』にも、一部分ではあるが『幸福論』の英文と斎藤兆史の和訳が掲載されている。

その続きで、英文解釈は、日本人にとって、思考訓練にも言語訓練にもなると齋藤孝が述べる。つまり、英語の勉強は、思考力も日本語力にも効果的であると。

兆史 熊楠は筆写癖と言うんでしょうか、何でも書き写す癖がついていたようです。自分の娘には、「同じ本を五回読むなら、二回筆写しろ」と。(P.148:6章 教材選びのポイント)

熊楠とは、博物学者、生物学者、民俗学者の南方熊楠(みなかた・くまぐす、1867年~1941年)のこと。

膨大な量の読書と筆写をしていた南方熊楠のエピソードが紹介され、上記の文章が続く。

南方熊楠の勉強法は、本を読み、記憶して、自分の家に帰ってから、書き写すというもの。その方法によって、同じものを完成させていた。

暗唱や筆写が、勉強に効果的であるという主旨。

兆史 そのほかとなると……量があって、名文で、比較的読みやすいと定評があるのは、ちょっと昔の純文学になりますが、ジョージ・オーウェル。サマセット・モームも名文家ですね。(P.152:6章 教材選びのポイント)

英文に慣れ親しむために、どのような作家の文章を読めば良いのかを選定している部分。

この文章の前には、イギリスの推理作家であるアガサ・メアリ・クラリッサ・クリスティ(Agatha Mary Clarissa Christie、1890年~1976年)も紹介。

昔の推理小説ということで、トリックなどは古くなってしまっている場合もあるが、英語のリズムや慣用表現などの勉強にもなるし、翻訳も多いので扱いやすいメリットがあるとのこと。

151、153、155ページには、アガサ・クリスティの作品一覧も掲載されている。

引用されている二人の作家については、以下の通り。

ジョージ・オーウェル(George Orwell、1903年~1950年)は、イギリスの作家、ジャーナリスト。ディストピアSF小説『1984』などが有名。

ウィリアム・サマセット・モーム(William Somerset Maugham、1874年~1965年)は、イギリスの小説家、劇作家。『月と六ペンス』で人気作家となった人物。

 どういう人にもわかるのが本物の良さなんですね。本物ほど相手を問わないと言ってもいい。(P.165:7章 「本物」だけを見続けよ)

イギリスの劇作家であるウィリアム・シェークスピア( William Shakespeare、1564年~1616年)の『ジュリアス・シーザー』の演説部分の文章を子供向けの塾で利用しているという齋藤孝。

子供たちにも好評で、本物ほど相手を選ばずに、しっかりと感動させるというか、心を掴むものであるという。

またその続きで、具体的な例として、ドイツの作曲家、ピアニストのルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven、1770年~1827年)の『運命』も挙げる。

さらにスポーツであれば、一流の選手は区別がつかないけれど、超一流の選手になると、どんな素人が見ても分かると齋藤孝は主張する。

 英語、英語というほどには、実際にはそれほど必要ではなかったりします。自分にとって英語の必要性がどのくらいか、認識することも大事です。(P.191:21世紀の「英語達人」のすがた)

英語の必要性は、人によって多岐に渡る。ビジネスなのか、旅行なのか、海外サイトでの買い物なのか。海外赴任のためなのか、昇進試験のTOEICのためなのか。

自分に必要な英語力を見極めることが重要であると。さらに話は進んで、小学校や中学校では、基礎力を積み上げておくことが大切と斎藤兆史は述べる。

皆が英語を使えるようにするために膨大な予算を充てるのではなく、必要な人に充てるようにした方が無駄がないということ。

感想

日本語にも英語にも興味があり、齋藤孝も斎藤兆史も二人とも好きなので、読んでみた本である。

構成がなかなか面白い。目次の通りに章ごとに分かれているが、合間合間にちょっとしたコラムとして、日本の過去の英語の達人について、勉強に関する話なども。

思想家の岡倉天心(おかくら・てんしん、1863年~1913年)、教育者の新渡戸稲造(にとべ・いなぞう、1862年~1933年)、英語学者の斎藤秀三郎(さいとう・ひでざぶろう、1866年~1929年)。

その他に、先述した南方熊楠なども。

章末には、まとめとして、上達の法則が書かれている。復習にもなって丁度良い。

昔から英語は好きであるが、なかなか上達しない。なので、いろいろと英語の勉強法などの本を読み漁っていた。学習塾で英語なども教えていた時期もあるので、指導のための意味もあったけれど。

最近はあまりしなくなった。というのも、取り敢えず、日本語の英語勉強法よりも、英語の文章を読もうと実践しているからである。

まずは、英語で小説やノンフィクションを楽しめるようになりたい。その後には、海外ドラマや映画などを字幕なしで、直接楽しめるようになりたい。

といったところか。仕事では、多少調べ事の際というか、ネットで調べる時に、ちょっと使う程度か。

本書でも書かれている通り、英語を勉強するのは、日本語の勉強にもなるので、英語の勉強を継続している感じではある。

メインは趣味的要素が大きいが、仕事などにも上手く活かせていけたらとは思う。

日本語や英語、言語などに興味のある人、もしくは英語の勉強法のヒントについて知りたい人にはオススメの本である。

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