記事内に広告が含まれています

山形浩生『断言2 あなたを変える本・世界を変える本』要約・感想

山形浩生『断言2 あなたを変える本・世界を変える本』表紙

  1. 広範な分野を行き来できる男、山形浩生
  2. 現代の必須知識は、進化論、脳科学、情報技術
  3. 読書の真の価値は、知識の蓄積ではなく、行動の変化
  4. 推薦図書は、歴史、地球規模の問題、認知科学の洞察を提供

山形浩生の略歴・経歴

山形浩生(やまがた・ひろお、1964年~)
コンサルタント、評論家、翻訳家。
東京都の生まれ。麻布中学校・高等学校を卒業。東京大学工学部都市工学科を卒業、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程を経て、野村総合研究所の研究員に。マサチューセッツ工科大学不動産センター修士課程を修了。山形浩生のX(旧Twitter)

『断言2 あなたを変える本・世界を変える本』の目次

はじめに
第1章 サイエンス
第2章 科学と歴史
第3章 環境
第4章 震災復興・原発・エネルギー
第5章 建築
第6章 都市計画
第7章 医療・生命
第8章 遺伝・進化
第9章 脳と心
第10章 IT
第11章 ものづくり・Maker・テクノロジー
あとがき

『断言2 あなたを変える本・世界を変える本』の概要・内容

2021年1月23日に第一刷が発行。エレキングブックス。414ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。

副題は「新教養主義書評集 サイエンス・テクノロジー編」。

山形浩生のサイトや、はてなブログで公開している記事をまとめたもの。1991年頃の「CUT」連載書評が最初で、最新は2020年秋頃にかいたものから選び、時折コメントが付されている形式。

シリーズの前作として『断言 読むべき本・ダメな本』 、副題は「新教養主義書評集成 経済社会編」がある。

『断言2 あなたを変える本・世界を変える本』の要約・感想

  • 読書は「行動」。世界の見方を変える知のツール
  • 著者・山形浩生とは何者か?
  • 現代を生き抜くための「三種の神器」
  • 読書の真価は「行動の変化」にある
  • 歴史の「なぜ」を解き明かす一冊
  • データが暴く「世界の本当の問題」とは
  • 「人間の尊厳」を疑う勇気
  • 山形浩生が「この一冊」と断言する本
  • まとめ:あなたの「行動」を変えるための一冊

読書は「行動」。世界の見方を変える知のツール

「本を読んでも、何も変わらないなら時間の無駄だ」

こんなにも挑発的で、本質を突いた言葉から始まる書評集があるだろうか。本書『断言2 あなたを変える本・世界を変える本』は、単なるブックガイドではない。

知の巨人、山形浩生(やまがた・ひろお、1964年~)が選び抜いた数々の本を触媒として、私たちの凝り固まった世界観を揺さぶり、明日からの行動を変えることを迫る、知的挑戦の書である。

本書を手に取るべきは、自らの知識をアップデートし、より解像度の高い視点で世界を捉えたいと願うすべての人々だ。

ページをめくるごとに、これまで当たり前だと思っていた常識が覆され、新たな知の地平が開けていく感覚に興奮を覚えるに違いない。

この記事では、400ページを超える本書の中から、特に私たちの思考に変革をもたらすであろう核心的な部分を抽出し、その魅力の神髄に迫っていく。

著者・山形浩生とは何者か?

本書の説得力を理解するためには、まず著者である山形浩生という人物の特異性を知る必要があるだろう。彼は自身をこう語る。

技術士(建設部門)、だし二種電気工事士だしJE1JJX/KC2OYQだし情報処理技術者だし危険物取扱者だしインフラ屋だし、電子系やIT系の各種ハードやソフトは実地にさわっている。(P.13「はじめに」)

この一文だけでも、彼がいかに広範な専門分野を網羅しているかがうかがえるだろう。ここで挙げられている資格などは、それぞれ専門分野における深い知見を証明するものだ。

技術士(建設部門)は、科学技術に関する高度な応用能力を国が認定する技術者最高の国家資格であり、「建設」はその中でも土木や都市計画などを含む花形分野である。

第二種電気工事士は住宅や小規模店舗の電気工事に必須の資格。JE1JJX/KC2OYQは日本と米国のものとみられるアマチュア無線技士のコールサインであり、無線通信への造詣の深さを示す。

情報処理技術者はITに関する知識・技能を証明する国家試験の総称であり、危険物取扱者は消防法に基づく特定の危険物を扱うための国家資格である。

彼は工学部出身の理系でありながら、ウィリアム・バロウズ(William S. Burroughs、1914年~1997年)などの前衛文学の翻訳家としても知られ、文系的な素養も深い。

さらに、建築や都市計画を専門とし、マイコン黎明期からインターネットの勃興期までITの最前線に身を置いてきた。

つまり、科学、歴史、IT、建築、経済といった複数の専門分野を自在に横断し、それぞれの分野の最先端の知見を高い精度で評価できる「目利き」なのである。

一つの分野に凝り固まった専門家とは一線を画す、その広範で深い知識基盤こそが、山形の言葉に圧倒的な説得力と信頼性を与えているのだ。

彼が「断言」するのには、それだけの理由がある。

現代を生き抜くための「三種の神器」

現代社会は複雑化し、日々膨大な情報が押し寄せる。その中で、私たちは何を「教養」の基盤として備えておくべきなのだろうか。

山形は、この混沌とした世界を見通すための前提知識として、以下の三つを挙げる。

世界のあり方、その方向性を見るにあたって、どんな分野を扱うにしても以下のような知識は前提にせざるを得ない。

  • 進化論的なものの見方
  • 脳と意識
  • 分散型コンピュータとネットの世界(P.15「はじめに」)

これらは、現代における基本的な「OS」とも言える知識体系である。

生物としての人間を理解するための「進化論」、人間の思考や感情の源泉を探る「脳科学」、そして現代社会のインフラそのものである「情報技術」。

これら三つの視点を持つことで、私たちは日々のニュースの裏側にある大きな流れや、社会構造の変化をより深く理解できるようになる。

漠然と「教養が大事だ」と言われることは多いが、このように具体的な指針として示されると、何を学び、何を思考の土台とすべきかが明確になる。

本書は、これら三つのテーマに関連する数々の良書を紹介しており、読者は山形の案内を通じて、現代を生き抜くための知的武装を効率的に進めることができるだろう。

読書の真価は「行動の変化」にある

山形は、読書という行為そのものに対しても、厳しい姿勢を崩さない。知識を頭に詰め込むだけの読書は「クソの役にも立たない」と断言する。

いくら本を読んだところで、それ自体に意味はない。その読んだ結果として何をするか、行動がどう変わるか――それが本を読む意義だ。何も変わらないなら、そんな読書は時間の無駄だ。知識や情報が頭の中にあるだけでは、クソの役にも経たない。でもいまや、単なる理論的なお勉強にとどまらず、ネットでもモノ作りでも、自分で試せることの範囲はすさまじく広がっている。(P.17「はじめに」)

この言葉は、多くの読書好きにとって耳が痛いかもしれない。

しかし、これこそが本書を貫く最も重要なメッセージである。読書はゴールではなく、スタートなのだ。本から得た知識や視点を使い、現実世界で何かを試し、自らの行動を少しでも変えてみること。

それこそが、読書の価値を最大化する唯一の方法である。

幸いにも、現代はインターネットやテクノロジーの発展により、個人が行動を起こすためのハードルが劇的に下がっている。

プログラミングを学んでアプリを作ることも、3Dプリンタで何かを創造することも、ブログやSNSで自らの考えを発信することも、かつてないほど容易になった。

本書は、そうした行動を後押ししてくれる「知の武器」で満ちている。

歴史の「なぜ」を解き明かす一冊

数ある書籍の中で、山形がお勧めの本がある。

それは、歴史の大きな流れを科学的な視点から解き明かした名著、ジャレド・ダイアモンド(Jared Mason Diamond、1937年~)の『銃・病原菌・鉄』だ。

ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』とのその関連書籍は、それをある程度は考えさせてくれるおもしろい本だ。批判もあるけれど、それも含めて第一歩としてはいまでもみんなに進めたい本ではある――その後のダイアモンドの本はすべて、まったく見るに値しないとは思うけれど。(P.58「第2章 科学と歴史」)※「進めたい」は原文ママ

なぜヨーロッパ人がアメリカ大陸を征服できたのか。

なぜ世界の富は特定の地域に偏在しているのか。

こうした壮大な問いに対し、『銃・病原菌・鉄』は人種的な優劣ではなく、「地理的・環境的な要因」という驚くほどシンプルな答えを提示する。

この視点は、私たちが歴史や現代社会を見る目を根底から変えてくれる力を持つ。

注目すべきは、山形のコメントの後半部分である。ダイアモンドの後の著作を「まったく見るに値しない」と切り捨てる潔さ。

これは単なる悪口ではない。彼の批評精神が一貫しており、権威や名声に一切忖度しない姿勢の表れだ。良いものは良い、ダメなものはダメ。

その明確な基準があるからこそ、彼の推薦する本には絶大な信頼が置けるのである。『銃・病原菌・鉄』は、その厳しい選別眼をクリアした、必読の一冊と言えるだろう。

データが暴く「世界の本当の問題」とは

もし、世界が抱える無数の問題を、費用対効果の観点から解決するとしたら、どこから手をつけるべきか。

この途方もない問いに、経済学的なアプローチで答えを出したのが、ビョルン・ロンボルグ(Bjørn Lomborg、1965年~)が主導した「コペンハーゲン・コンセンサス」というプロジェクトである。

山形は、その成果をまとめた2004年の『Global Crisis, Global Solutions』を絶賛する。

結果はきわめておもしろものだった。いま地球上で最大の問題で、しかもすぐに効果のある対策が存在しているのはHIV/AIDSだ。特にアフリカを中心に毎年死んでいる数百万人が、ほんのちょっとの費用で救える。二番目に重要なのが、微栄養素の失調からくる各種の疾患だ。ヨウ素やナトリウムみたいな微栄養素は、子供の成長や知能なんかに大きな影響を与える。そしてちょっと錠剤をあげれば、これはすぐに解決できるし、健康で知能の高い子が増えればその国の未来は大きく開ける。(P.97「第3章 環境」)

気候変動、紛争、教育、栄養失調など、世界中の専門家が様々な問題を提示し、その解決策にかかる費用と効果を見積もる。

そして、ノーベル賞受賞者を含む超一流の経済学者たちが、最も「費用対効果が高い」、つまり「お買い得な」解決策は何かを順位付けした。

その結果は衝撃的だ。メディアで連日報じられる地球温暖化対策は、満場一致で「やっても無駄」という最下位の評価だった。

数百年単位で影響が出る問題に今、巨額の投資をするよりも、はるかに少ない費用で、すぐに何百万人もの命を救える問題が他にあるからだ。

それが、HIV/AIDS対策であり、ヨウ素や鉄分などの錠剤を配るだけの微栄養素失調対策だったのである。

この事実は、私たちが感情やイメージで「重要だ」と感じている問題と、データが示す「本当に優先すべき問題」との間に、いかに大きなギャップがあるかを突きつけてくる。

善意や正義感だけで突っ走るのではなく、限られたリソースをどこに投下すれば最大多数の幸福に繋がるのか。

コペンハーゲン・コンセンサスの試みは、問題解決における冷静で論理的な思考の重要性を教えてくれる、まさに目から鱗が落ちるような事例だ。

2009年には『Global Crises, Global Solutions: Costs and Benefits』が続編として刊行されている。こちらは、電子書籍のkindleでも購入可能。ただ、そこそこのお値段ではある。

「人間の尊厳」を疑う勇気

医療や生命倫理の分野において、私たちはしばしば「人間の尊厳」という言葉を耳にする。

それは絶対不可侵の価値であるかのように語られるが、山形はあえてその前提に揺さぶりをかける。

たぶん、その本自体(そしてそれを採りあげた山形も)ふざけている、人間の尊厳を軽視している、みたいなことを思う人はいると思う。が、たぶん軽視したほうがいろんなものは発展し、全体としての人間は幸せになるはずだ、とは思っている。 そしてこの問題は、次章の遺伝の話にもあてはまる。(P.216「第7章 医療・生命」)

この主張は、一見すると非常に冷徹で、非人間的に聞こえるかもしれない。

しかし、医学の歴史を振り返れば、その発展が常に既存の倫理観や道徳観との衝突の末に成し遂げられてきた事実は否定できない

例えば、かつては冒涜的とされた死体の解剖がなければ、現代の外科手術は存在しなかっただろう。

ウェンディ・ムーア(Wendy Moore、1958年~)が描いた『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』などを読めば、偉大な医学的発見の裏には、常に常識外れの探求者がいたことがわかる。

ちなみに、ジョン・ハンター(John Hunter、1728年~1793年)は、イギリスの解剖学者、外科医である。

「実験医学の父」「近代外科学の開祖」と呼ばれ、近代医学の発展に貢献した人物。

もちろん、倫理や道徳を完全に無視して良いわけではない。

しかし、「尊厳」という言葉を盾に思考停止に陥り、発展の可能性を閉ざしてしまうことの危険性もまた、認識しておく必要がある。

人体をある種、唯物論的に捉え、客観的な分析の対象とすること。

その冷徹な視点なくして、科学の進歩はあり得なかったし、結果として多くの人々を救うこともできなかっただろう。

この逆説的な視点は、生命倫理という複雑な問題を考える上で、新たな切り口を与えてくれるはずだ。

山形浩生が「この一冊」と断言する本

本書では実に100冊以上の本が紹介されているが、その中で山形が「どれか一冊だけ読むなら、これにしてほしい」とまで言い切る、究極の一冊が存在する。

それは、メアリアン・ウルフ(Maryanne Wolf)の『プルーストとイカ』である。

これは本当にすごい本。読書が好きな人――というのはこんな書評集を読んでいる人すべて、ということだ――は、この書評集で採りあげた本の中でどれか一冊だけ読むなら、これにしてほしいとさえ思う。(P.327「第9章 脳と心」)

博覧強記の山形にここまで言わせるとは、一体どのような本なのか。

『プルーストとイカ』は、神経科学の観点から「読書」という行為が人間の脳をいかに作り変えてきたかを解き明かす本である。

人間は、もともと文字を読むように設計されてはいない。既存の脳の機能を「再利用」することで、人類は読書能力を獲得した。

そしてその過程が、私たちの思考様式そのものを深く、そして劇的に変えてきたのだ。

私たちが当たり前のように行っている「読書」という行為が、いかに奇跡的で、脳にとってアクロバティックな作業であるか。

そして、その行為を通じて、私たちはどのようにして論理的思考や内省、共感といった能力を発達させてきたのか。

この本は、その壮大な物語を明らかにしてくれる。

読書好きを自認する人間にとって、自らのアイデンティティの中核をなす「読書」という営みを、科学の光で照らし出してくれる本書は、まさに必読の書と言えるだろう。

山形が最大級の賛辞を贈るのも納得である。

まとめ:あなたの「行動」を変えるための一冊

『断言2 あなたを変える本・世界を変える本』は、400ページを超える分厚い本だが、山形の軽快で歯に衣着せぬ語り口のおかげで、驚くほど読みやすい。

サイエンス、歴史、IT、医療、建築と、普段自分では手に取らないような分野の本にも次々と出会えるため、知的好奇心が絶えず刺激される。

読み終える頃には、あなたの「読みたい本リスト」は、かつてないほど膨れ上がっていることだろう。

しかし、本書の真価は、新たな本との出会いを提供してくれることだけに留まらない。

繰り返しになるが、山形が読者に突きつけるのは、「で、あなたはどうするの?」という問いである。

本書を通じて得た新たな視点や知識を、どう自分の仕事や生活に活かすのか。

世界の本当の問題を知った上で、自分に何ができるのか。

読書という行為が脳にもたらす意味を理解した上で、これからどう本と付き合っていくのか。

この本は、単なる知識のコレクションではない。

世界という複雑なシステムを読み解き、その中でより良く生きるための「思考のフレーム」と「行動のアプリケーション」が詰まった、最強のツールキットなのだ。

もしあなたが、現状の自分や社会に対する漠然とした閉塞感を抱いているのなら、ぜひ本書を手に取ってほしい。

山形浩生の容赦ない「断言」の数々は、あなたの脳を激しく揺らぶり、世界を見る解像度を上げ、そして明日からの具体的な「行動」へと駆り立ててくれるはずだから。

書籍紹介

関連書籍

翻訳書籍

関連スポット

マサチューセッツ工科大学不動産センター

マサチューセッツ工科大学不動産センター(MIT Center for Real Estate)は、建築環境の質の向上を目的として1983年に設立。MITとは、Massachusetts Institute of Technologyで、マサチューセッツ工科大学のこと。

公式サイト:MIT Center for Real Estate