加藤周一の略歴
加藤周一(かとう・しゅういち、1919年~2008年)
評論家、作家。
東京の生まれ。東京帝国大学医学部を卒業。東京帝国大学医学部附属医院に勤務。
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学、ドイツのベルリン自由大学、アメリカのイェール大学などで教鞭を執る。
『読書術』の目次
まえがき
Ⅰ どこで読むか
1 寝てもさめても
2 幾山河
Ⅱ どう読むか、その技術
3 おそく読む「精読術」
4 はやく読む「速読術」
5 本を読まない「読書術」
6 外国語の本を読む「解読術」
7 新聞・雑誌を読む「看破術」
8 むずかしい本を読む「読破術」
あとがき、または三十年後
『読書術』の概要
1993年2月15日に第一刷が発行。岩波書店。ソフトカバー。220ページ。文庫より少し大きいサイズ。
岩波書店から「同時代ライブラリー」という名称で発売。1962年に光文社から出版された著作を、少しだけ手直ししたものである。
2000年11月16日には岩波現代文庫としても発売されている。
なにを読んだらよいかは、一般論として成りたたない。どう読んだらよいかは、一般論としても成り立ちます。すなわち「読書術」です。(P.ⅳ:まえがき)
ここでは、目的となる本を一般化させるのは、その読者の状況によって異なるので不可能。
ただ、本の読み方であれば、ある程度の一般化ができると説明している部分。
好きな相手を誰にしたら良いかではなく、好きな相手と仲良くなるための方法であれば、対策が可能ということ。
読書において、加藤周一のさまざまな方法を分かりやすく紹介する本であると「まえがき」で宣言している。
「正しい姿勢」というときの「正しい」は、どうも意味がはっきりしません。意味のはっきりしない文句には、あまり長くかかわらぬほうが、時間の経済というものでしょう。(P.14:1 寝てもさめても)
正座、横座り、寝たまま、という姿勢がある。その中で別に正座が「正しい」姿勢というわけではない。
それは、単に文化や習慣に従うだけのこと。読書は、楽な姿勢で行なうのが良い。寝転がって読むのが負担が少なくて良いと。
また、抽象的で、明確でない表現や言葉には付き合わない方が良いとも。時間の無駄であると切り捨てている。この辺りも単純明快で面白い部分。
そういうときにいくら相手が偉い人でも、こちらに備えがなければいらいらしてきます。ところが懐から一巻の森鴎外(1862-1922)をとり出して読みだせば、私のこれから会う人がたいていの偉い人でも、鴎外ほどではないのが普通です。待たされるのが残念などころか、かえってその人が現れて、鴎外の語るところを中断されるのが、残念なくらいになってきます。(P.18:2 幾山河)
著作内に出てくる西暦は、漢数字で書かれているが、読みやすさを重視して、アラビア数字に変更して表記。
例えば、人と待ち合わせた時に、相手の都合で待たされることもある。そのような際には、読書が良いと。
しかも、明治の文豪・森鴎外(もり・おうがい、1862年~1922年)などを読んでいたら、大抵の人でも森鴎外よりは偉くはないから、その人が現われてしまうと……。といった文章。
お気に入りの部分。今であれば、スマホやタブレットで電子書籍を読めるので、物理的な紙の本を選んで、持ち歩くという必要もない。
日本人の立場から見ても、西洋との因縁が深い以上、また地球が小さくなり、その地球の大部分の地に圧倒的な影響を及ぼしているのが西洋思想である以上、新約聖書を繰り返し、できるだけゆっくり読むことは、おそらく論語の場合と同じように、時間のむだにはならないでしょう。(P.50:3 おそく読む「精読術」)
論語は、日本では昔から読まれる古典。
現代では西洋世界との繋がりはさらに密接になっている。この著作が書かれた時代よりも、約60年も経ているのだから尚更かもしれない。
旧約聖書は、キリスト(Jesus Christus、1年~33年)以前の話で、ユダヤ教の書で、かなり膨大。
新約聖書は、キリスト自身の言行を伝えているので、そこまでの分量はないので、読んでみてはいかがだろうか、という提案をしている。
そして、異なる時代や地域の古典であれば、ゆっくりと考察しながら読むのが良いと助言。
小林さんは、外国語の本を読むのにも、一日一冊を片づけられる程度の速さがなければ、そもそも外国の知識というものは使い物にならない、という演説をしました。(P.95:4 はやく読む「速読術」)
加藤周一が高校生の時に、評論家の小林秀雄(こばやし・ひでお、1902年~1983年)が講演をしに学校へとやってきて、外国語について語ったという逸話。
外国語を読むのであれば、スピートが必要ということ。
では、どのように外国語を勉強すれば良いのかというと、翻訳書と原書を用意して、翻訳書を1ページ読んだら、原書を1ページ読む。
辞書は使わないで、飛ばす。一日に一冊を読み切る。これを一年続けると、外国語の書物を、辞書なしで、速く読む能力が完成すると、小林秀雄はアドバイスをしたとのこと。
前章では、遅く読む方法、ここでは、速く読む方法を提示。状況や環境に応じて、使い分ける読書術である。
私は外国語を覚えようとしていたのではなく、その外国語で書かれた本の内容をどうしても知ろうとしていたのです。(P.130:6 外国語の本を読む「解読術」)
外国語の習得の真髄かもしれない文章。目的は、本の内容。手段が、外国語。外国語の習得が目的になってしまう人も多いようだ。
いわゆる、手段の目的化。外国語を使って何がしたいのかという点を忘れてはいけないということ。
ちなみに加藤周一は、英語・ドイツ語・フランス語ができる。幼少時には漢文に親しんで、大学時代にはラテン語も勉強したようだ。
文章があいまいなのは、多くの場合に、単なる技術面ばかりではなく、言おうとすることを筆者がよく考えていなかったということ、あるいは文章の内容を、作者自身が十分に理解していなかったということを意味するでしょう。筆者当人さえもよく理解していない内容を、読者がどうして十分に理解することができるでしょうか。(P.178:8 むずかしい本を読む「読破術」)
フランスの詩人ニコラ・ボアロー=デプレオー(Nicolas Boileau-Despréaux、1636年~1711年)の「よく考えられたことは明瞭に表現される」という言葉を紹介した後に上記の文章が続く。
特に翻訳書の場合が多いという。外国語ができても、その書物の内容が分かっていなければ、翻訳はできない。
なので、場合によっては、ドイツ語を日本語に翻訳した書物を読むよりも、ドイツ語を英語に翻訳した書物を読んだ方が、理解が深まることもあると。
論理的に曖昧なもの、分かりにくいもの、難しいもの、は避けた方が良いと。
その選別の基準として、カタカナや漢字の連続が多い本は、読みにくい傾向があるので、別の本にした方が無難だとも。
カタカナや漢字の連続が多いものは、定義があいまいな言葉であったり、抽象的な表現が多いという状況。
そのような本は読むのに苦労するだけで、得るものが少ない。明瞭で分かりやすい文章の本を選んで読むのが良いと。
『読書術』の感想
具体的な読書術がふんだんに書かれている本。たぶん、知的生活系の何かの著作で紹介されていて、初めて読んだと思う。
歯切れが良い文章、明瞭で爽快。外国語も堪能。知識の幅の広さも驚く。ところどころ、ユーモアを交えているので、クスッと笑いながら読めるのもポイントかもしれない。
この『読書術』を読んで、加藤周一の他の著作にも興味を持ち『羊の歌』などをさらに読み進めていった記憶がある。
世界各国の歴史や偉人たちも引き合いに出てくるので、歴史や文化の勉強にもなる。
状況に応じた読書術が、各種紹介されていて、自分も読書の仕方を改めて考えさせられた。
また、実際に意識して、どのように読んでいるかも考えるようにり、読書の方法も使い分けるようになったと思う。
単なる娯楽のため、情報収集のため、細かく知るため、大枠を知るため、などの目的意識と読書法の選択。
もう少し上手く読書をしたいという人には、非常にオススメの本である。
書籍紹介
関連書籍
関連スポット
ブリティッシュ・コロンビア大学
ブリティッシュ・コロンビア大学(The University of British Columbia、略称:UBC)は、カナダにあるブリティッシュコロンビア州が設置した公立大学。
公式サイト:ブリティッシュ・コロンビア大学
ベルリン自由大学
ベルリン自由大学(独: Freie Universität Berlin、英: Free University of Berlin、略称:FU)は、ドイツの国立総合大学。
公式サイト:ベルリン自由大学
イェール大学
アメリカのコネチカット州ニューヘイブン市に本部を置く、1701年創設の私立大学。
公式サイト:イェール大学
立命館大学国際平和ミュージアム
立命館大学国際平和ミュージアムは、京都府京都市北区にある平和をテーマとした博物館。
加藤周一が館長などを歴任。立命館大学国際関係学部の客員教授の経歴もある。
公式サイト:立命館大学国際平和ミュージアム