- 人間関係と影響力の普遍性
- 非合理性への合理的対処
- 問題解決のための考え方
- プロフェッショナルの姿勢
G・M・ワインバーグの略歴・経歴
G・M・ワインバーグ(Gerald Marvin Weinberg、1933年~2018年)
アメリカのコンピューター科学者、作家、心理学教師、ソフトウェア開発の人類学者。
シカゴの出身。ネブラスカ州オマハ中央高等学校を経て、ミシガン大学でコミュニケーション科学の博士号を取得。IBMにて勤務。
『コンサルタントの秘密』の目次
まえがき
推薦の辞
訳者緒言――特に日本の読者のために――
第一章 コンサルタント業はなぜ大変か
第二章 逆説的思考育成法
第三章 わからないことをしているときでも有効であるの法
第四章 そこにあるものを見るの法
第五章 そこにないものを見るの法
第六章 わなから逃れるの法
第七章 インパクトをふくらますの法
第八章 変化を飼い慣らすの法
第九章 変化を安全に起こすの法
第十章 抵抗に出会ったら
第十一章 サービスの売り出しかた
第十二章 自分に値段をつけるの法
第十三章 信頼を勝ち得るの法
第十四章 アドバイスを人に聞いてもらうの法
参考書およびその他の経験――もっと知りたい人のためのガイド
法則集索引
索引
『コンサルタントの秘密』の概要・内容
1990年12月25日に第一刷が発行。共立出版。254ページ。ソフトカバー。148mm✕210mm。A5版。
副題は「技術アドバイスの人間学」。
原題は『The Secrets of Consulting: A Guide to Giving and Getting Advice Successfully』で、1985年に刊行されている。
訳者は、ソフトウェア工学の研究者で教授の木村泉(きむら・いずみ、1935年~2019年)。
東京大学理学部物理学科を卒業、理学博士。東京大学理学部助手、東京教育大学理学部講師、東京工業大学理学部助教授、東京工業大学大学院理工学研究科教授、中京大学情報科学部教授などを経た人物。
『コンサルタントの秘密』の要約・感想・書評
- コンサルタントの本質と「第三の道」
- 問題解決の終わりなき連鎖とは
- 交渉を円滑に進める明確な提示
- 行き詰まりを打開する次の一手
- 執着を手放すことで得る自由
- 当事者意識を問う究極の質問
- 危機感の正体は幻想の終わり
- 専門家必読の書とその著者
- ノーと言える勇気が信頼を生む
- 自己不信の兆候と再生への道
- 実践的知恵と再読に値する価値
現代社会は、予測不可能な変化と複雑な問題に満ち溢れている。そのような中で、私たちは日々、何らかの形で他者に影響を与え、また影響を受けながら生きている。
今回紹介する一冊は、コンサルタントという職業に焦点を当てつつも、その本質を通じて、あらゆる人々にとって有益な洞察を与えてくれる名著。
ジェラルド・M・ワインバーグ(Gerald Marvin Weinberg、1933年~2018年)による『コンサルタントの秘密』である。
この書籍は、単なる技術やノウハウ集ではない。人間関係の力学、問題解決の本質、そして変化とどう向き合うかという普遍的なテーマについて、深い示唆を与えてくれる。
もしあなたが、自身の仕事や人間関係において、より良い影響力を持ちたい、困難な状況を打開したい、あるいは自分自身を見つめ直したいと考えているなら、本書は必ずやその一助となるだろう。
G・M・ワインバーグが長年の経験を通して見出した「秘密」は、時を経ても色褪せることなく、現代を生きる私たちに多くの示唆を与えてくれるはずである。
コンサルタントの本質と「第三の道」
G・M・ワインバーグは、本書の冒頭でコンサルタントの仕事を次のように定義している。
コンサルタントの仕事とは、私の定義によれば「人々に、彼らの要請に基づいて影響を及ぼす術」というものである。人々はあるの種の変化を望み、またはある種の変化を恐れてコンサルタントの何ら中の形の手助けを求めるのである。(P.ⅰ「まえがき:コンサルタントの定義」)
「影響を及ぼす術」という定義は非常に明快であり、コンサルタントに限らず、他者と関わる全ての人にとって示唆に富む。
私たちは意識的か無意識的かに関わらず、日々他者に影響を与え、また与えられている。
それは、職場での同僚や部下とのやり取り、顧客への提案、友人や家族との会話、あるいはソーシャルメディアを通じた発信など、多岐にわたる。
その影響力をより建設的なものにするためのヒントが、本書には詰まっているのである。特に、人々が「変化を望み、または変化を恐れて」助けを求めるという部分は、
- 現代社会の変動性(Volatility)
- 不確実性(Uncertainty)
- 複雑性(Complexity)
- 曖昧性(Ambiguity)
いわゆるVUCAと呼ばれる状況において、ますますその重要性を増していると言えるだろう。
多くの人が、既存のやり方では対応しきれない課題に直面し、新たな方向性や解決策を模索している。そのような時代背景において、G・M・ワインバーグの洞察は一層の輝きを放つ。
さらにG・M・ワインバーグは、コンサルタントとして活動する中で直面する困難について、当初は二つの道しかないように感じていたと述べている。
「一、合理的であり続け、発狂する」か、「二、非合理的になって、気違いと呼ばれる」か。
これは、理想と現実の狭間で葛藤する多くの人々が共感する部分ではないだろうか。
論理的に正しいことを主張しても、感情的な反発や組織の壁に阻まれて前に進めない経験は、誰しも一度や二度はあるはずだ。
かといって、周囲の非合理性に完全に同調してしまっては、本来の目的を見失い、プロフェッショナルとしての矜持も保てなくなる。
しかし、彼は長年の経験と思索の末、第三の道を見出す。
だがついに私は、第三の道があることに思い当たった。それは、
三、非合理性に大して合理的にになること
だった。この本は、影響してくれという要請をめぐる、一見非合理的な行動にひそむ合理性に関しての、私の発見をを述べたものである。それがコンサルタントの秘密である。(P.ⅳ「まえがき:非合理性への合理的対処」)
この「非合理性に対して合理的にになること」こそ、本書を貫く重要なテーマである。
世の中は、論理だけでは割り切れない非合理な出来事や感情に満ちている。例えば、データ上は明らかにA案が優れていても、長年の慣習や人間関係のしがらみからB案が採用される、といったケースは枚挙にいとまがない。
それらを否定したり、感情的に反発したりするのではなく、その存在を前提とした上で、いかに合理的に対処していくか。
この視点は、コンサルタント業のみならず、あらゆる人間関係や問題解決において極めて重要である。
G・M・ワインバーグ自身も、この発見はコンサルタントだけでなく、より広い範囲の人々に適用できると述べており、本書が多くの読者層にとって価値を持つ所以と言えるだろう。
非合理な状況に直面したとき、感情的に反応するのではなく、一歩引いて状況を分析し、その背後にある、一見非合理に見える行動の、合理性や動機を理解しようと努める。
その上で、現実的な落としどころや次善の策を冷静に模索していく。このアプローチは、困難な状況を乗り越え、建設的な成果を生み出すための強力な武器となる。
問題解決の終わりなき連鎖とは
コンサルタントの仕事は、クライアントが抱える問題を解決へと導くことである。しかし、G・M・ワインバーグは、問題解決という行為の本質について、現実的な視点を提供している。
第一番の問題を取り除くと、第二番が昇進する。(P.17「第一章 コンサルタント業はなぜ大変か:問題の連鎖」)
これは、一つの問題を解決しても、また新たな問題が浮上してくるという、ある種の真理を突いた言葉である。
完全に問題のない状態を作り出すことは不可能であり、むしろ問題は常に存在し続けるものだと認識することが重要なのである。
これは仕事の現場だけでなく、私たちの日常生活においても同様である。何かを達成したり、困難を乗り越えたりしても、また次の課題が現れる。
例えば、あるプロジェクトで納期遅延という最大の問題を解決したとしても、次は品質の問題がクローズアップされたり、あるいはメンバーのモチベーション維持という新たな課題が出てきたりする。
この「問題の連鎖」を理解することで、私たちは一つ一つの問題に過度に一喜一憂することなく、継続的に対処していく冷静さと持久力を養うことができる。
コンサルタントがクライアントの問題を綺麗サッパリ片付けることを目指すのではなく、クライアント自身が次なる課題に主体的に取り組めるよう支援すること。
あるいは問題解決のプロセスそのものを組織に根付かせることの重要性を示唆しているとも言えるだろう。
この考え方は、一種の諦観ではなく、現実を直視した上での前向きな姿勢と言える。問題が存在することを前提とすれば、それに対処していくプロセス自体が成長の機会となり得るからである。
交渉を円滑に進める明確な提示
コンサルタントとして、あるいはビジネスパーソンとして、交渉は避けて通れない場面である。その際、G・M・ワインバーグは非常にシンプルかつ効果的なアプローチを提示する。
それはできますよ。で、それにはこれだけかかります。(P.37「第二章 逆説的思考育成法:価値の明確化」)
これは、相手の要求に対して、金銭的なものに限らず、時間や労力なども含めて、実現可能性とそれに伴うコスト、を明確に伝えることの重要性を示している。
曖昧な返答や期待を持たせるような言い方は、後々のトラブルの原因となりかねない。
「できる限り頑張ります」「善処します」といった言葉は、一見すると相手に寄り添っているように聞こえるが、実際には責任の所在を曖昧にし、期待値のズレを生む可能性がある。
それよりも、提供できる価値とその対価をはっきりと示すことで、判断の主導権を相手に委ねることができる。
これにより、双方が納得感のある合意に至りやすくなり、健全な関係性を築く上で非常に有効なコミュニケーション方法である。
自分の能力や提供できるサービスに対する自信と、それを客観的に評価する視点があって初めて可能になるアプローチとも言えるだろう。
また、この言葉の裏には、相手の要求を真摯に受け止め、その上でプロフェッショナルとして誠実に対応するという姿勢が感じられる。
安請け合いをせず、できないことはできないと伝える勇気も時には必要であり、それがかえって長期的な信頼につながることもある。
行き詰まりを打開する次の一手
問題解決に行き詰まった時、私たちはしばしば同じような思考や行動を繰り返してしまいがちである。しかし、それでは状況が好転することは稀である。
G・M・ワインバーグは、このような状況を打開するためのシンプルな指針を示している。
もし彼らがこれまでしてきたことが問題を解決しなかったのなら、何か違うことをするように勧めるのがよい。(P.44「第三章 わからないことをしているときでも有効であるの法:現状打破の提案」)
これは、一見すると当たり前のことのように聞こえるかもしれない。しかし、実際には、過去の成功体験や慣習にとらわれ、同じ過ちを繰り返してしまうケースは少なくない。
特に、組織が大きくなればなるほど、あるいは個人の経験が豊富になればなるほど、「これまでこうやってきたから」という惰性が働きやすい。
コンサルタントがクライアントにアドバイスをする場面を想定した言葉であるが、これは私たち自身が何らかの課題に直面した際にも当てはまる。
これまで試してきた方法でうまくいかないのであれば、勇気を持って異なるアプローチを試みるべきである。
なぜなら、クライアントがコンサルタントに助けを求めるのは、まさに既存の方法では解決できなかったからであり、これから試す新しい施策は、少なくともまだ「失敗していない」ものだからである。
これはある種の消去法とも言えるが、変化を恐れず新たな可能性を探る上で、非常に実践的な考え方である。「何か違うこと」を試す際には、必ずしも大きな変革である必要はない。
例えば、会議の進め方を少し変えてみる、情報共有の方法を新しいツールにしてみる、といった小さな変更でも、思わぬ突破口が開けることがある。
重要なのは、現状維持に甘んじることなく、常に改善の余地を探し、試行錯誤を続ける姿勢である。
執着を手放すことで得る自由
私たちは、時に物事や人間関係、あるいは過去の成功体験などに強く執着してしまうことがある。しかし、G・M・ワインバーグはそのような執着がもたらす結果について、鋭い洞察を示している。
何かを失うための最良の方法は、それを離すまいともがくことだ。(P.138「第八章 変化を飼い慣らすの法:喪失と執着」)
この言葉は、逆説的でありながらも、真理を突いている。
何かを失いたくない一心で必死にしがみつこうとすればするほど、かえってそれを失う結果を招いてしまうというのである。
これは、恋愛関係や友人関係といった個人的なつながりだけでなく、仕事上のプロジェクトや特定の地位、あるいは大切にしている信念や価値観など、様々な場面で当てはまるだろう。
過度な執着は、相手にプレッシャーを与えたり、自分自身の視野を狭めたり、柔軟な対応を妨げたりする。
結果として、関係が悪化したり、プロジェクトが頓挫したり、あるいは自分自身が苦しむことになったりする可能性を高めてしまう。この教訓から学ぶべきは、手放す勇気を持つことの重要性である。
それは、諦めることとは違う。むしろ、変化を受け入れ、より大きな流れに身を任せることで、新たな可能性が開かれることを信じる積極的な行為である。
そして、そのためには心に余裕を持つことが不可欠である。経済的な余裕もまた、心の余裕を生み出す一因となるだろう。
変化を恐れず、流れに身を任せる柔軟性こそが、結果的に大切なものを守ることにつながるのかもしれない。あるいは、失ったとしても、その経験から学び、次へと進む強さを与えてくれるだろう。
当事者意識を問う究極の質問
他者に何かを提案したり、システムを導入したりする際、その実効性や安全性について深く考える必要がある。G・M・ワインバーグは、そのような場面で本質を突く強力な問いを投げかける。
あなたはそのシステムに、自分の命をあずける気がありますか。(P.146「第八章 変化を飼い慣らすの法:当事者意識の確認」)
この質問は、提案者自身に強烈な当事者意識を求めるものである。
「あなたが自分で起業してみたらどうか」「あなたがその金融商品を購入してみたらどうか」といった具体的な問いかけを、より抽象的かつ根源的なレベルに高めたものと言える。
もし、提案するシステムや計画に対して、自分自身の命運を託すほどの覚悟や確信が持てないのであれば、それは他者に勧めるべきものではないのかもしれない。
この問いは、他者に対する提案の質を吟味する際に有効であると同時に、自分自身が何か新しいことを始めようとするときの自己点検としても機能する。
その決断や行動に、真の責任とコミットメントがあるのかを厳しく問いかける、深遠な問いである。
例えば、新しいソフトウェアを開発するエンジニアが、「このソフトウェアが自分の生活に不可欠なものだとしたら、本当に安心して使えるだろうか?」と自問自答する。
あるいは、新しい教育プログラムを提案する教育者が、「自分の子供にこのプログラムを受けさせたいと心から思えるだろうか?」と考える。
このような問いかけは、単に品質を高めるだけでなく、提供するものの本質的な価値や倫理的な側面についても深く考察するきっかけを与えてくれる。
危機感の正体は幻想の終わり
予期せぬ困難やトラブルに直面したとき、私たちはしばしば「危機だ」と感じ、動揺してしまう。
しかし、G・M・ワインバーグは、そのような「危機」の本質について、異なる視点を提供してくれる。
それは危機のように見えるかもしれないが、実は幻想の終わりにすぎない。(P.162「第九章 変化を安全に起こすの法:危機の本質」)
この言葉は非常に深く、示唆に富んでいる。
私たちが危機だと感じる状況は、多くの場合、それまで無意識のうちに抱いていた「大丈夫だろう」「こうなるはずだ」といった幻想や希望的観測が崩れ去ったときに訪れる。
つまり、問題が突如として発生したのではなく、見過ごしていた、あるいは楽観視していた現実が露呈したに過ぎない、という解釈である。
例えば、長年安定していると思われていた業界が、新しい技術の登場によって急速に衰退し始めたとき、それは「危機」であると同時に、これまでの安定が永続するという「幻想の終わり」でもある。
このように捉えることで、過度なパニックに陥ることなく、状況を冷静に分析し、坦々と対処する道が開ける。
これは、まえがきで述べられていた「非合理性に対して合理的にになること」というテーマとも通底する考え方であり、予期せぬ出来事に対する心の持ちようとして、非常に重要である。
幻想の終わりを認識し、現実と向き合うことから、真の解決策が見えてくるのである。そして、それは新たな現実への適応であり、成長の機会でもある。
この視点は、変化の激しい現代において、個人や組織がレジリエンス、つまり回復力や適応力を高める上で不可欠と言えるだろう。
専門家必読の書とその著者
G・M・ワインバーグは、自身の著作の中で、他の優れた専門家の業績にも敬意を払い、読者に紹介することを惜しまない。その一つが、コンサルティングの世界で高く評価されている書籍である。
彼の本
Flawless Consulting: A Guide to Getting Your Expertise Used
【完全なコンサルタント――あなたの専門能力を使ってもらう法】
は、すべてのコンサルタントにとっての必読書である。(P.166「第十章 抵抗に出会ったら:推薦図書」)
ここで言及されているのは、ピーター・ブロック(Peter Block、1939年~)の著作『Flawless Consulting: A Guide to Getting Your Expertise Used』である。
G・M・ワインバーグ自身が「すべてのコンサルタントにとっての必読書」とまで評するこの本は、専門知識やスキルを持つ人々が、それをいかにして他者に効果的に活用してもらうか、というテーマを扱っている。
残念ながら、この記事を執筆している時点では、日本語訳の入手は容易ではないようで、というか、邦訳は無さそうであり、原書のKindle版の新版も比較的高価である。紙の本の旧版でもkindle版に比べて多少は安いが、それなりの価格である。
しかし、G・M・ワインバーグがこれほどまでに強く推薦する書籍であるからには、コンサルティングに関わる人々、あるいは専門性を活かして仕事をしたいと考える人々にとって、一読の価値があることは間違いないだろう。
このような形で他の専門家の知見を紹介する姿勢もまた、G・M・ワインバーグの懐の深さを示していると言える。
彼は自身の考えを絶対視するのではなく、常に学び続け、他者の優れた業績を認める謙虚さを持っていた。これは、私たちが見習うべきプロフェッショナルとしての姿勢でもある。
ノーと言える勇気が信頼を生む
クライアントや他者との関係において、「ノー」と断ることは勇気がいる行為である。
しかし、G・M・ワインバーグは、その重要性を強調し、安易にイエスマンになることの危険性を指摘する。
依頼主に対してノーというのを恐れるようになったとき、人はコンサルタントとしての有効性を失う。また人は依頼主の敬意を失う。その結果として、ついには職を失うという確率が増してゆく。(P.187「第十一章 サービスの売り出しかた:断る重要性」)
これは、コンサルタントに限らず、あらゆるプロフェッショナルにとって真実を突いた言葉である。
相手の要求をすべて受け入れてしまうことは、短期的には関係を円滑にするように見えるかもしれない。
しかし、長期的には、自身の専門性や価値を損ない、相手からの信頼を失うことにつながりかねない。
なぜなら、プロフェッショナルは、単に言われたことをこなすだけの存在ではなく、専門的な知見に基づいて最善の道筋を示し、時には相手にとって耳の痛いことであっても、率直に意見を述べるべき存在だからである。
G・M・ワインバーグは、コンサルタントが一つのクライアントからの収益を、自身の総収入の四分の一以下に抑えるべきだという具体的な基準も示している。
これは、特定のクライアントへの経済的な依存度が高まることで、「ノー」と言いづらくなり、結果として相手の言いなりになってしまうことを避けるための知恵である。
断るべきときにはっきりと断る勇気を持つこと、それがプロフェッショナルとしての尊厳を保ち、長期的な信頼関係を築く上で不可欠なのである。
もちろん、単に拒絶するのではなく、代替案を提示したり、理由を丁寧に説明したりするコミュニケーション能力も同時に求められる。
自己不信の兆候と再生への道
長年プロフェッショナルとして活動していると、時にスランプに陥ったり、自身の能力に自信を失ったりすることがある。
G・M・ワインバーグは、そのような状態から生じる「怒り」の感情について、その根源を深く洞察している。
ときとともに私は自分の怒りが、実はほかのものからきた兆候にすぎないのだ、ということを理解するようになった。そのほかのものとは、自分はもう駄目だ、という強い感情にほかならない。(P.190「第十一章 サービスの売り出しかた:活力の枯渇」)
例えば、新しいアイデアを生み出すことへの恐れや、過去の成功体験にしがみついてしまう傾向は、実は内面に潜む「自分はもう駄目かもしれない」という自己不信の表れである可能性がある。
これは、創造性や活力が枯渇しかけているサインとも言える。
このような状態に陥ったときの対処法として、G・M・ワインバーグは、一度仕事から離れて休養を取り、何か新しいことに挑戦し、そしてまた仕事に戻る、というサイクルを提案している。
常に自分自身をリフレッシュし、新たな刺激を取り入れることで、創造性を維持し、プロフェッショナルとしての活力を保ち続けることの重要性を示唆している。
これは、燃え尽き症候群を予防し、長期的にキャリアを継続していくための実践的なアドバイスと言えるだろう。自己不信は誰にでも訪れる可能性のある感情であり、それを認識し、適切に対処することが、持続的な成長と貢献には不可欠である。
趣味に没頭する、新しいスキルを学ぶ、信頼できる人に相談するなど、自分なりのリフレッシュ方法やサポートシステムを持つことの重要性も、このG・M・ワインバーグの言葉から読み取ることができる。
実践的知恵と再読に値する価値
『コンサルタントの秘密』は、アメリカの書籍特有の、エピソードを交えながら結論へと導くスタイルで書かれている。
このような形式に若干の読みづらさを感じる読者もいるかもしれないし、出版から時間が経過している部分もあるかもしれない。
しかし、それらを差し引いても、本書から得られる学びは非常に大きく、深い。
G・M・ワインバーグが、単なる理論家ではなく、長年にわたりコンサルティングの現場で実践を重ねてきた人物であるからこそ、その言葉には重みと説得力がある。
G・M・ワインバーグが提示する数々の法則や洞察は、コンサルタントという特定の職業を超えて、人間関係、問題解決、自己成長といった普遍的なテーマに鋭く切り込んでいる。
読者自身の経験や知識レベルによって、本書から受け取るメッセージの深さや広がりは変わってくるだろう。再読するたびに新たな発見があるはずだ。
一度読んだだけでは気付かなかったG・M・ワインバーグの言葉の真意が、数年後に読み返したときに、まるで雷に打たれたかのように腑に落ちる、といった経験をするかもしれない。
本書で語られる「秘密」とは、小手先のテクニックや裏技のようなものではない。それは、人間と組織、そして変化の本質を見抜くための、深く、そして時に逆説的な知恵の結晶である。
例えば、「非合理性に対して合理的にになる」という考え方は、一見矛盾しているように聞こえるかもしれないが、複雑な現実世界でしなやかに生き抜くための極意と言えるだろう。
『コンサルタントの秘密』は、単に情報を得るためだけでなく、自身の思考を深め、行動を省みるための伴侶として、長く手元に置いておきたい一冊である。
変化の激しい現代において、羅針盤となるような普遍的な知恵を求めるすべての人々にとって、本書は貴重な導き手となるに違いない。
ぜひ一度手に取り、G・M・ワインバーグの思索の深淵に触れてみてほしい。そこには、あなたの日常や仕事に新たな光を当てる「秘密」が隠されているはずである。
そして、その「秘密」を自分なりに解釈し、実践していく中で、あなた自身の「コンサルタントの秘密」が見つかるかもしれない。
それは、より良い影響力を持ち、困難を乗り越え、変化を恐れずに未来を切り開いていくための、あなただけの鍵となるだろう。
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