『失敗の科学』マシュー・サイド

マシュー・サイドの略歴

マシュー・サイド(Matthew Syed、1970年~)
イギリスのジャーナリスト、作家、元卓球選手。
オックスフォード大学哲学政治経済学部を首席で卒業。

『失敗の科学』の目次

第1章 失敗のマネジメント
1 「ありえない」失敗が起きたとき、人はどう反応するか
2 「完璧な集中」こそが事故を招く
3 すべては「仮説」にすぎない
第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む
4 その「努力」が判断を鈍らせる
5 過去は「事後的」に編集される
第3章 「単純化の罠」から脱出せよ
6 考えるな、間違えろ
7 「物語」が人を欺く
第4章 難問はまず切り刻め
8 「一発逆転」より「百発逆転」
第5章 「犯人探し」バイアスとの闘い
9 脳に組み込まれた「非難」のプログラム
10 「魔女狩り」症候群
第6章 究極の成果をもたらすマインドセット
11 誰でも、いつからでも能力は伸ばすことができる
終章 失敗と人類の進化
12 失敗は「厄災」ではない
エピローグ
謝辞
注記

概要

2016年12月25日に第一刷が発行。ディスカヴァー・トゥエンティワン。348ページ。

副題は「失敗から学習する組織、学習できない組織」。

さまざまな失敗を分析して、成功のためのヒントを解説していく書籍。具体的に医療や航空、企業、プロスポーツなどの事例が挙げられながら進行していく構成。

原題は『Black Box Thinking』で、2015年9月に刊行。

翻訳者は、有枝春(うえだ・はる)。大阪府生まれで、大阪外国語大学地域文化学科を卒業している人物。

感想

kindle unlimitedで読む。

興味深い事例が多く、また構成も流れも分かりやすくて、あっという間に読み終えてしまった。

以下、引用をしながら解説。

かつて米第32代大統領夫人、エレノア・ルーズベルトはこう言った。
「人の失敗から学びましょう。自分で全部経験するには、人生は短すぎます」(P.36「第1章 失敗のマネジメント」)

アナ・エレノア・ルーズベルト(Anna Eleanor Roosevelt、1884年~1962年)は、アメリカ合衆国・第32代の大統領フランクリン・ルーズベルト(Franklin Delano Roosevelt、1882年~1945年)の妻、アメリカ国連代表、婦人運動家、文筆家。

この言葉は、かなり大切だと思う。自らで全てを実行して、失敗したり、成功したりすると、かなりの時間と労力が掛かってしまう。

だが、既に過去の事例や歴史を振り返れば、どのような失敗があるったのかは、分かる。

わざわざ自分で失敗をしなくても済むという話である。情報収拾というか、常に勉強は大切である、という事でもある。

調査によれば、どのケースでもクルーは時間の感覚を失っていた。集中力は、ある意味恐ろしい能力だ。ひとつのことに集中すると、ほかのことには一切気づけなくなる。(P.40「第1章 失敗のマネジメント」)

この直ぐ次の小見出しには「集中力は時間感覚」と書かれている。

この文章の前には、複数の航空機事故の事例が列挙。

集中力はプラスに働けば素晴らしいが、マイナス面もあるので、取り扱い注意である。

問題は当事者の熱意やモチベーションにはない。改善すべきは、人間の心理を考慮しないシステムの方なのだ。(P.42「第1章 失敗のマネジメント」)

やる気や根性の話ではない。

改善するべきなのは、システムや体制、制度。

さらに次の部分も重要。

失敗は、予想を超えて起こる。世界は複雑で、すべてを理解することは不可能に等しい。だから失敗は、「道しるべ」となり我々の意識や行動や戦略をどう更新していけばいいのかを教えてくれる。(P.45「第1章 失敗のマネジメント」)

失敗は予想を超える。つまり、失敗は予想できない。

過去の事例や改善案から学んで、失敗の可能性を低くする。

失敗の可能性が低くなるということは、相対的に成功の可能性が高くなる。

また失敗の調査・分析に費用対効果についての話に繋がっていく。

航空業界や医療業界などの損害賠償を考慮しても、失敗を徹底的に調査・分析することは、経済的にも有効な資金の節約手段になるという。

まさに認知的不協和の「ドミノ倒し」だ。何かひとつ勝手な解釈をすると、次から次へと連鎖反応が起こり、もう止められない。(P.106「第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む」)

冤罪事件のプロセスが描かれた部分。

恐怖である。

警察、検察、弁護士、被害者、法体制などなど。

過去の記憶の編集も。人間の記憶力の脆弱さ。認知的不協和。バイアスなどなど。

哲学者カール・ポパーもこう言った。「批判的なものの見方を忘れると、自分が見つけたいものしか見つからない。自分が欲しいものだけを探し、それを見つけて確証だととらえ、持論を脅かすものからは目をそむける。このやり方なら、誤った仮説にも(中略)都合のいい証拠をなんなく集めることができる」(P.122「第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む」)

カール・ライムント・ポパー(Sir Karl Raimund Popper、1902年~1994年)は、オーストリア出身のイギリスの哲学者。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授。

純粋な科学的言説の必要条件として、反証可能性を提起。批判的合理主義に立脚した科学哲学及び科学的方法の研究をした人物。

反証可能性は、誤りをチェックできること、そのチェックの方法があること、観察や実験の結果によって、否定や反論される可能性があることなど。

冷静で批判的な視点を持つことの大切さと、困難さを感じる。

常に、自分がバイアスなどの罠に陥らないように気を付けなければならない。

実は、我々は自分が「実際に見たこと」より「知っていること」に記憶を一致させる傾向がある。(P.135「第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む」)

ここでは、アメリカの天体物理学者の誤った発言の真実についてが紹介された後の部分。

さらに、何の罪もない乗客が銃殺されてしまったロンドンの事件。新聞記事に影響を受けてしまった目撃者の証言。

そして、どちらも本人は、全く嘘を付いているとは思ってもいない。シンプルに真実を話していると思っているという事実。

これまた恐ろしい。

本来彼らがすべきなのは検証作業であり、何をどうすれば本当に規律が高まるのか、何が役に立たないのかを一つひとつ実際に試すことだ。もちろん失敗の数は増えるだろう。しかし、だからこそ多くを学べる。(P.158:第3章 「単純化の罠」から脱出せよ)

ここまでの間に、完璧主義者の二つの欠点を考察。机上で答えを出そうとすること。失敗を恐れすぎること。

改善策というか、シンプルな方法は、量をこなすこと。

そして、検証する。小さな失敗を繰り返し、検証、小さな改善をして、小さな成功を積み重ねていくこと。

学び続けて、成長し続けること。

公正な文化では、失敗から学ぶことが推奨される。失敗の報告を促す開放的な組織文化を構築するには、まず早計な非難をやめることだ。哲学者カール・ポパーは言った。
「真の無知とは、知識の欠如ではない。学習の拒絶である」(P.246:第5章 「犯人探し」バイアスとの闘い)

第5章では、犯人探しや非難合戦は無意味と断言。

その場しのぎの満足が得られるだけ、という主旨。

個人の行動の説明について、性格面を重視し、状況面を軽視する傾向である「根本的な帰属の誤り」の記述も。

何かの失敗があった際に、個人を非難するのではなく、状況を正確に分析して、システムや体制を改善していくことが重要。

他の章でも悲劇的なエピソードが掲載されているが、この第5章のパイロットの結末部分は悲し過ぎる。

人間は一度意見を決めると(それが一般的に認められているものであろうと、自分自身が信じているものであろうと)、何事もその意見を支持するものとしてとらえる。たとえばその向こうに数々の反証が存在していようとも、見て見ぬ振りをして決して受け入れず、有害な固定観念によって、もとの解釈を神聖化し続ける。(P.293「終章 失敗と人類の進化」)

上記は、本文に引用されたイギリスの哲学者であるフランシス・ベーコン(Francis Bacon、1561年~1626年)の言葉。

第2章でも書かれている「確証バイアス」の危険性を説いている部分である。

それほど「確証バイアス」というのは、取り扱いに注意しなければならないということである。

ちなみ、フランシス・ベーコンは、色々な人が影響を受けている。

投資家で大学教授だった瀧本哲史(たきもと・てつふみ、1972年~2019年)、PayPalの創業者で、実業家のピーター・ティール(Peter Andreas Thiel、1967年~)も。

また確か経営コンサルタントの今北純一(いまきた・じゅんいち、1946年~2018年)も著作の中で、フランシス・ベーコンについて書いていたような気がする。

自分は、まだしっかりとフランシス・ベーコンは読んでいないので、読んでみたい。というか、何度か挫折している。諦めずに、挑戦してみよう。

その他に、あるプロジェクトを始める前に、「何故このプロジェクトは失敗したのか」ということを分析・検証する「事前検死(pre-mortem)」という手法の説明も。

徹底的に、事前に、失敗を予測して、洗い出すという手法。

これは、かなり使えるかもと思った。

検証と小さな改善、先に失敗を学ぶこと、が特に記憶に残った。生活や仕事に活かしていくようにしないとな。

ビジネスマンだけではなく、学生や主婦、個人事業主、フリーランスなど、関係なく、失敗からの学びが得られるオススメの書籍。

特に組織づくりやチームづくりなどにも応用しやすいので、リーダーや経営者は、より参考になると思う。

書籍紹介

失敗の科学
ディスカヴァー・トゥエンティワン