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安宅和人『イシューからはじめよ』要約・感想

安宅和人『イシューからはじめよ』表紙

  1. イシュー特定の重要性
  2. 仮説ドリブンなアプローチ
  3. 脳科学的視点と分析の基本
  4. 知的生産の思考と実践

安宅和人の略歴・経歴

安宅和人(あたか・かずと、1868年~)
情報学者、脳科学者。
富山県の生まれ。東京大学大学院生物化学専攻にて修士号を取得。
マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。イェール大学・脳神経科学プログラムに入学し、博士号を取得。再びマッキンゼーに勤務。

『イシューからはじめよ』の目次

はじめに 優れた知的生産に共通すること
序章 この本の考え方――脱「犬の道」
第1章 イシュードリブン――「解く」前に「見極める」
第2章 仮説ドリブン①――イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
第3章 仮説ドリブン②――ストーリーを絵コンテにする
第4章 アウトプットドリブン――実際の分析を進める
第5章 メッセージドリブン――「伝えるもの」をまとめる
おわりに 「毎日の小さな成功」からはじめよう

『イシューからはじめよ』の概要・内容

2010年11月24日に第一刷が発行。英治出版。248ページ。電子書籍は2018年12月7日に発行。

副題は、“知的生産の「シンプルな本質」”。

2024年9月22日には、『イシューからはじめよ[改訂版]』も刊行。旧版との違いは、「課題解決の2つの型」、「なぜ今『イシューからはじめよ』なのか」などが新たに収録されている点。

『イシューからはじめよ』の要約・感想

  • 思考を研ぎ澄まし、生産性を爆発的に高めるための一冊
  • 著者・安宅和人とは? その思考の源泉
  • 「悩む」ことの不毛さと「考え抜く」ことの価値
  • 仮説を立てる:言葉と思考の力
  • よいイシューの3条件とは?
  • 脳の仕組みと「理解」の本質
  • イシュー特定のための情報収集:外部の視点の価値
  • 分析の基本:比較・構成・変化
  • 知覚の特徴から見た分析の本質:ヘッブ則と記憶
  • トラブルをさばく:フェルミ推定の応用
  • 軽快に答えを出すための心構え
  • ストーリーラインを磨き込む:エレベータテストの威力
  • 『イシューからはじめよ』は難しい? 本書の魅力と活用法
  • まとめ:『イシューからはじめよ』で知的生産の達人へ

思考を研ぎ澄まし、生産性を爆発的に高めるための一冊

現代社会は情報に溢れ、日々の業務や学業において、私たちは数多くの「問題」に直面する。

しかし、その問題すべてに全力で取り組むのは賢明とは言えない。

限られた時間とリソースの中で、本当に価値のある成果を生み出すためには、何に取り組むべきかを見極める「イシュー特定」こそが最も重要である。

本書『イシューからはじめよ』は、まさにそのための思考法と実践術を、惜しみなく提示してくれる一冊である。

著者は、情報学者であり脳科学者でもある安宅和人(あたか・かずと、1968年~)。

東京大学大学院で修士号を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。その後、イェール大学で脳神経科学の博士号を取得し、再びマッキンゼーで活躍した経歴を持つ。

本書は、その安宅が自身の経験と深い洞察に基づき、知的生産性を劇的に向上させるための羅針盤として記したものである。

この記事では、『イシューからはじめよ』の核心に迫り、その要約、そして時に難しいとされる内容の具体的な理解、さらには改訂版の違いや中古での入手方法に至るまで、多角的に解説していく。

本書を手に取り、実践することで、あなたの日常はより生産的で意義深いものへと変わるだろう。

著者・安宅和人とは? その思考の源泉

『イシューからはじめよ』の著者である安宅和人は、1968年、富山県に生まれた。東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程を修了後、世界的なコンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。

ここで彼は、多種多様な業界のトップ企業が抱える複雑な課題解決に携わることになる。

その後、学問の世界へと再び身を投じ、アメリカの名門イェール大学の脳神経科学プログラムにて博士号(Ph.D.)を取得。

この脳科学者としての知見が、彼の問題解決アプローチに独自の深みを与えていることは想像に難くない。

再びマッキンゼーに復帰し、数々のプロジェクトを成功に導いた後、現在はヤフー株式会社のCSO(チーフストラテジーオフィサー)などを務め、日本のデータサイエンス分野を牽引する存在としても知られている。

本書は、こうしたコンサルタント、科学者、そしてビジネスリーダーとしての安宅の豊富な経験と知見が凝縮されたものであり、その内容は普遍的かつ実践的である。

『イシューからはじめよ』の作者として、彼の言葉は多くの人々に影響を与え続けている。

「悩む」ことの不毛さと「考え抜く」ことの価値

本書の冒頭で、安宅は「悩む」と「考える」の違いを明確に示している。

「悩む」というのは「答えが出ない」という前提に立っており、いくらやっても徒労感しか残らない行為だ。(P.46「はじめに:優れた知的生産に共通すること」)

この言葉は強烈である。

私たちは往々にして、答えの出ない問題について延々と時間を浪費し、それを「努力」と勘違いしてしまうことがある。

しかし、それは単なる「悩み」であり、生産的な行為ではない。この「悩む」という行為の定義を知るだけでも、無駄な時間を減らす意識が芽生えるはずだ。

意味がないと分かっている行為に時間を割くのは避けたい。

「悩まない」というのは、僕が仕事上でもっとも大事にしている信念だ。(P.60「はじめに:優れた知的生産に共通すること」)

安宅自身が最も大事にしている信念として「悩まない」ことを挙げている点は、本書のメッセージを象徴している。

もちろん、これは思考停止を推奨しているわけではない。

むしろ、答えの出る「イシュー」に対して徹底的に「考え抜く」こと、そしてそのために「悩む」時間を極力排除することの重要性を訴えているのである。

悩まずに進むことが、いかに大切であるかを痛感させられる。

仮説を立てる:言葉と思考の力

イシューを見極める上で不可欠なのが「仮説を立てる」ことである。

初期段階から「おそらくこれが答えではないか」という仮説を持つことで、検証すべきポイントが明確になり、情報収集や分析の効率が格段に向上する。

そして、その仮説を明確に表現する上で「言葉」の力が極めて重要になると安宅は指摘する。

言葉(数式・化学式を含む)は、少なくとも数千年にわたって人間がつくりあげ磨き込んできた、現在のところもっともバグの少ない思考の表現ツールだ。言葉を使わずして人間が明晰な思考を行うことは難しいということを、今一度強調しておきたい。(P.497「第1章 イシュードリブン――「解く」前に「見極める」:仮説を立てる」)

この指摘は非常に重要である。

私たちは曖昧な思考を曖昧な言葉でごまかしてしまうことがあるが、それではイシューをシャープにすることはできない。

言葉、数式、化学式といったものは、思考を明確化し、他者と共有するための強力なツールなのだ。

このツールを意識的に使うことで、仮説の精度も高まり、イシュー特定がより容易になる。

よいイシューの3条件とは?

では、どのようなイシューが「よいイシュー」と言えるのだろうか。

本書では、3つの明確な条件が提示される。

  1. 本質的な選択肢であること:その答えによって、その後の分析の方向性や取るべき行動が大きく変わる。
  2. 深い仮説があること:常識を覆すような、あるいは新しい構造を提示できるような、洞察に満ちた仮説がある。
  3. 答えを出せること:現在の技術やリソースで、実際に検証し、答えを出すことができる範囲のものである。

これらの条件を満たすイシューを見つけ出すことが、知的生産の出発点となる。歴史上の科学的な大発見も、こうした「よいイシュー」の設定から始まっている。

科学におけるほかの大きなイシューとしては、古くは「天動説・地動説」が有名であるし、最近ではインドネシアの洞窟で見つかった「ホモフロレシエンシス」という小型人類は現在の人類とつながる系統か否か、というものもある。(P.555「第1章 イシュードリブン――「解く」前に「見極める」:よいイシューの3条件」)

こうした科学史における大きな問いは、まさに「よいイシュー」の典型例と言えるだろう。

それらは当時の常識に挑戦し、答えが出ることで世界の理解を大きく変えた。ビジネスや研究の現場においても、こうしたスケールの大きなイシューに挑戦する気概が求められる。

 脳の仕組みと「理解」の本質

安宅は脳科学者としての知見も動員し、「理解」とは何かという根源的な問いにも触れている。

これがイシュー発見のヒントにもなる。

脳はコンピュータでいうところの「メモリ」も「ハードディスク」にあたる記憶装置もなく、神経がつながりあうだけのつくりをしている。つまり、神経間の「つながり」が基本的な「理解」の源になる。よって、これまであまり関係していないと思っていた情報の間につながりがあるとなると、僕たちの脳は大きなインパクトを感じる。「人が何かを理解する」というのは、「2つ以上の異なる既知の情報に新しいつながりを発見する」ことだと言い換えられる。(P.646「第1章 イシュードリブン――「解く」前に「見極める」:よいイシューの3条件」)

この洞察は非常に興味深い。

「理解する」とは、既存の知識と新しい情報が結びつき、新たなネットワークが形成されるプロセスだということだ。

一見関係なさそうな情報同士を結びつけること、あるいは既知の情報の中に新しい関係性を見出すことが、深い理解、そして質の高いイシューの発見につながるのである。

常識にとらわれず、多様な視点から物事を見る重要性を示唆している。

イシュー特定のための情報収集:外部の視点の価値

質の高いイシューを特定するためには、質の高い情報収集が不可欠である。

しかし、やみくもに情報を集めるのではなく、仮説を検証するために必要な情報に絞り込むことが重要だ。

また、自分自身がその分野の専門家であればあるほど、無意識のバイアスや固定観念にとらわれやすくなる危険性も指摘されている。

業界に精通した専門家をたくさん抱えているはずの一流の会社が高いフィーを払ってコンサルタントを雇うのは、自分たちは知り過ぎているが故に、その世界のタブーや「べき論」に束縛されてしまい、新しい知恵が出にくくなっていることが大きな理由のひとつだ。(P.840「第1章 イシュードリブン――「解く」前に「見極める」:イシュー特定のための情報収集」)

これは、いわゆる「象牙の塔」現象や組織内部の硬直化を示唆している。

内部の人間は、その組織の常識や過去の成功体験に縛られ、斬新な発想や客観的な視点を持ちにくくなることがある。だからこそ、外部のコンサルタントのような第三者の視点が価値を持つのだ。

「岡目八目」という言葉があるように、当事者よりも第三者の方が問題の本質を見抜きやすいことは往々にしてある。

この教訓は、個人レベルでも、意識的に多様な意見に耳を傾け、自分の思考を相対化する努力が必要であることを示している。

分析の基本:比較・構成・変化

ストーリーラインに沿って仮説を検証していく過程では、様々な分析が行われる。

特に定量分析においては、その表現方法は多岐にわたるように見えるが、本質的な考え方は限られていると安宅は言う。

定性分析の設計は、意味合い出しに向けて情報の整理とタイプ分けを行うことが中心となるが、分析の大半を占める定量分析においては、比較というものは3つの種類しかない。表現方法はたくさんあるが、その背後にある分析的な考え方は3つなのだ。このことを押さえておくだけで分析の設計がぐっとラクになる。では、この3つの型とは何だかわかるだろうか?答えは次のようなものだ。
1.比較
2.構成
3.変化
どれほど目新しい分析表現といえども、実際にはこの3つの表現のバラエティ、および組み合わせに過ぎない。(P.1379「第2章 仮説ドリブン①――イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる:STEP1・軸を整理する」)

この指摘は、複雑に見える分析作業をシンプルに捉え直す上で非常に有効である。

「比較」は2つ以上の対象を比べること、「構成」はある全体がどのような要素で成り立っているかを見ること、「変化」は時間軸や条件の変化によって何が変わるかを見ることである。

どのような複雑な分析も、突き詰めればこの3つの型、あるいはその組み合わせで説明できるという視点は、分析の設計を格段に容易にする。

この普遍的な分析の型を理解しておくことは、問題解決能力を高める上で不可欠だ。

知覚の特徴から見た分析の本質:ヘッブ則と記憶

本書では、分析や理解のプロセスを脳科学的な知見からも解説している。

特に、記憶の定着に関する「ヘッブ則」の紹介は興味深い。

これはヘッブという人が提唱したことから「ヘッブ則」と呼ばれているが、何度も情報のつながりを想起せざるを得ない「なるほど!」という場面を繰り返し経験していると、その情報を忘れなくなる。当たり前のように思えるが、これは日常ではあまり意識されていない。(P.1578「第3章 仮説ドリブン②――ストーリーを絵コンテにする:コラム 知覚の特徴から見た分析の本質」)

ドナルド・ヘッブ(Donald Olding Hebb、1904年~1985年)はカナダの心理学者で、神経心理学の開拓者の一人であり、「ヘッブの法則(ヘッブ則)」で知られている。

「ニューロンAの発火が繰り返しニューロンBを発火させると、AからBへのシナプスの伝達効率が増強される」というもので、学習と記憶の基本的なメカニズムを説明するものだ。

つまり、ある情報と別の情報が同時に、あるいは連続して活性化される経験を繰り返すことで、それらの間の神経結合が強固になり、記憶として定着しやすくなる。

この「なるほど!」という腑に落ちる体験、納得感を伴う理解を繰り返すことが、知識やスキルの習得において極めて重要であるというわけだ。

これは、イシューの発見や仮説検証の過程においても、深い洞察や気づきを何度も経験することが、本質的な理解と記憶の定着につながることを示唆している。

トラブルをさばく:フェルミ推定の応用

分析の過程では、予期せぬトラブルやデータの不足といった問題に直面することも少なくない。

そのような状況でも、思考停止に陥らず、柔軟に対応する能力が重要となる。ここで役立つ思考法の一つとして、本書では「フェルミ推定」が紹介されている。

理論と実験双方に秀でた希有の物理学者、エンリコ・フェルミは、「米国を走っている電車の数」「(フェルミが教授として教えていた)シカゴにいるピアノ調律師の数」など、世の中のどんな数字でもざっくりと推定することができたという。一見、どうやって出したらよいのかわからないような数字だが、前提(世帯数・ピアノをもつ世帯率・ピアノを調律する頻度など)と枠組みを使って出していく。このような推論の方法は「フェルミ推定」として知られてきたが、これも構造化によって数字を出す例だ。(P.1757「第4章 アウトプットドリブン――実際の分析を進める:トラブルをさばく」)

エンリコ・フェルミ(Enrico Fermi、1901年~1954年)は、イタリア出身のノーベル物理学賞受賞者であり、その卓越した概算能力でも知られている。

「フェルミ推定」とは、このように直接的なデータがない場合でも、論理的な推論といくつかの仮定を積み重ねることで、おおよその数値を推定する手法である。

例えば「シカゴのピアノ調律師の数」であれば、シカゴの人口、一世帯あたりの人数、ピアノ保有率、ピアノの調律頻度、一人の調律師が年間に調律できるピアノの数、といった要素を仮定し、それらを組み合わせて算出する。

この思考法は、手元に十分なデータがない場合でも、問題の規模感や構造を把握し、次のアクションを考える上で非常に有効である。

ビジネスの現場でも、市場規模の推定や新規事業のポテンシャル評価など、様々な場面で応用できる。

軽快に答えを出すための心構え

分析作業は、時に泥臭く、困難を伴うものだが、その中でも軽快さを失わずに進めることが重要だと安宅は言う。

ものごとを表すのに多くのやり方を持つ。一つの方法がうまく行かなければ、さっと他の方法に切り替える。(P.1757「第4章 アウトプットドリブン――実際の分析を進める:軽快に答えを出す」)

この言葉は、柔軟性とスピード感の重要性を示している。

一つのアプローチに固執せず、複数の選択肢を持ち、状況に応じて最適な方法に素早く切り替える。

これは、問題解決のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを高速で回すことに他ならない。

多くの試行錯誤を軽快に行うことで、結果的に質の高い答えにたどり着く可能性が高まる。

これは、統計学における「大数の法則」にも通じる考え方かもしれない。試行回数を増やすことで、より本質的な結果に近づくというわけだ。

ストーリーラインを磨き込む:エレベータテストの威力

最終的なメッセージをまとめる際には、第2章で構築したストーリーラインを再度見直し、磨き込むことが重要になる。

ここで役立つのが「エレベータテスト」という考え方だ。

エレベータテストとは「仮にCEO(最高意思決定者)とエレベータに乗り合わせたとして、エレベータを降りるまでの時間で自分のプロジェクトの概要を簡潔に説明できるか」というものだ。時間にすれば20~30秒程度で複雑なプロジェクトの概要をまとめて伝える、ということのスキルは、トップマネジメントをクライアントとして仕事を行うコンサルタントや大規模プロジェクトの責任者には必須のものだ。そのような立場にいない人でも、このテストによって、「自分がそのプロジェクトや企画、論文についてどこまで本当に理解し、人に説明し、ひいては売り込めるようになっているか」について測ることができる。(P.1910「第5章 メッセージドリブン――「伝えるもの」をまとめる:ストーリーラインを磨き込む」)

これは非常に実践的なテストである。

エレベーターに乗っているわずか20~30秒という極めて短い時間で、自分の考えや提案の核心を伝えきる。

これができれば、そのプロジェクトやアイデアに対する自分自身の理解度が非常に高いことの証左となる。

商品やサービスを売り込む際にも、この短時間で相手の心を掴む簡潔な説明ができるかどうかは、成否を分ける重要な要素となるだろう。

日頃から、自分が関わる物事について、このエレベータテストを意識して思考を整理する訓練は、コミュニケーション能力全般の向上にもつながるはずだ。

このテストは、複雑な情報を単純化し、本質を抽出する訓練として、誰にとっても有効である。

『イシューからはじめよ』は難しい? 本書の魅力と活用法

『イシューからはじめよ』は、多くのビジネスパーソンや学生にとってバイブル的な一冊とされている一方で、「内容が難しい」「抽象的で具体例が少ない」といった声も聞かれることがある。

確かに、本書が扱うテーマは思考法の核心に迫るものであり、表面的なテクニック集ではない。そのため、一度読んだだけでは完全に消化しきれないと感じる人もいるかもしれない。

しかし、その「難しさ」こそが、本書の奥深さと価値の裏返しでもある。

著者の安宅和人は、深い洞察と思考力を持っている。本書は、その思考のプロセスやエッセンスに触れることができる貴重な機会を提供してくれる。

平易な言葉で書かれてはいるものの、その内容は本質的かつ抽象度が高いため、読者自身が自分の仕事や研究に置き換えて具体化し、何度も反芻することで、徐々にその真価が理解できるようになる。

私自身も、本書を読んで多くの新しい発見があり、再読したいと強く感じている。

特に、分析の根本的な考え方や、グラフやチャートといったアウトプットを効果的に用いる手法など、具体的な視点を得ることができたのは大きな収穫だった。

本書は、単に情報をインプットするだけでなく、それを自分の中で醸成し、実践を通じて血肉化していく種類の書籍であると言えるだろう。

もし「難しい」と感じるのであれば、まずは全体を読み通し、特に共感した部分や、すぐに実践できそうな箇所から取り組んでみるのが良いかもしれない。

『イシューからはじめよ』の具体例を求める声もあるが、本書の提供するフレームワークを自身の課題に当てはめてみること自体が、最良の具体例作りとなるだろう。

まとめ:『イシューからはじめよ』で知的生産の達人へ

『イシューからはじめよ』は、単なる問題解決のテクニック本ではない。

それは、私たちの働き方、学び方、そして生き方そのものに対する深い洞察に満ちた「思考のOS」をインストールしてくれるような一冊である。

本書で提示される「イシューからはじめる」という原則、仮説ドリブンなアプローチ、そしてメッセージを磨き込む技術は、あらゆる知的生産活動において強力な武器となるだろう。

本書を読むことで、私たちは「何に答えを出すべきか」という最も重要な問いに立ち返り、無駄な努力や「犬の道」から脱却するための指針を得ることができる。

そして、それは日々の小さな成功体験の積み重ねから始まる、と安宅は「おわりに」で語っている。

本書の教えを実践し、「イシュー」を見極め、質の高いアウトプットを生み出すサイクルを回し始めることで、あなたの知的生産性は飛躍的に向上し、より充実したプロフェッショナルライフ、あるいはアカデミックライフを送ることができるはずだ。

本書の内容を完全に自分のものにするには時間がかかるかもしれないが、その過程で得られる思考の深化は、計り知れない価値をもたらすだろう。

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イェール大学

イェール大学(Yale University、略称YU)は、コネチカット州ニューヘイブンに本部を置くアメリカ合衆国の私立大学。

公式サイト:イェール大学