『マイ・ビジネス・ノート』今北純一

今北純一の略歴

今北純一(いまきた・じゅんいち、1946年~2018年)
経営コンサルタント。
広島県の生まれ。東京大学工学部応用物理学科を卒業。東京大学大学院化学工学科修士課程を修了。
旭硝子、英国オックスフォード大学、仏国ルノー公団、エア・リキードで勤務。

『マイ・ビジネス・ノート』の目次

文庫版のためのまえがき
第一章 欲望とジェラシーの時代
第二章 今こそ必要なグランド・デザイン
第三章 左岸からの発想
第四章 突破口は「個人」のミッション
付記 資本主義とは何か
エピローグ
あとがき
文庫版のためのあとがき
解説 梅田望夫

概要

2009年2月10日に第1刷が発行。文春文庫。234ページ。

2006年11月に文藝春秋から出版された単行本『ビジネス脳はどうつくるか』を一部加筆の上、改題し文庫化したもの。

≪Yesterday is history. Tomorrow is mystery. Today is a gift. That’s why it’s called “the Present”.≫きのうは(過去の)歴史、明日は(未知という)神秘、今日は(神様からの)贈り物。だから、Today(今日)は Present(“現在”と“贈り物”の二つの意味を重ねている)というのです。

これは「カンフー・パンダ」という二〇〇八年公開のアニメ映画のセリフの一節です。(P.22:文庫版のためのまえがき)

英語の掛詞。Presentの二つの意味を説明。とても素晴らしい文章。

2008年に公開されたアニメーション映画『カンフー・パンダ』に出て来る言葉。主人公の怠け者のパンダに、導師の亀が話した言葉である。

少し調べてみたら、もともとはアメリカの歴史家で作家のAlice Morse Earle (1851年~1911年)の 『Sun Dials and Roses of Yesterday』に出て来るようだ。

ここでは、今北純一がこれからの時代は個人が重要であると説き、そのために毎日、楽しく挑戦して欲しいとの思いを伝えている。

表紙には、「Carpe Diem」、今日一日の花を摘め、つまり、今を楽しめ、という古代ローマの詩人であるホラティウス(Quintus Horatius Flaccus、紀元前65年~紀元前8年)の言葉も使われている。

当たり前のことですが、豊かさや幸福の基準は「個」によって異なるのです。ましてや、GDPをもってその国を構成する個々の人々の豊かさなど計れない。また、計る必要もありません。(P.47:第一章 欲望とジェラシーの時代)

個の幸せの基準は異なってくる。個人それぞれの豊かさは計れるものでもないし、計る必要もない。

経済に関するさまざまの数値や指標も同じで、大局を読んだり、おおよその方向を見定めたりするためのもの。一つの参考となる資料程度であると。

後段では、足るを知るということについて。

例えば、年収であれば、どこまで多くなっても不安が付きまとうもの。そのような不安の対策としては、自分が好きで、これさえあれば幸せだ、というものを持つこと、と述べる。

元来、ロジスティクスは、兵力を展開するのに必要な兵器・燃料・食糧などの調達や配送を意味する軍事用語で、日本語では「兵站」「補給」などと訳されます。この考え方がビジネスに応用され、原材料の調達から製品の販売までに関わるトータルなモノの流れを指す経済用語として使われるようになりました。(P.93:第二章 今こそ必要なグランド・デザイン)

戦争もビジネスも、必要な物資の調達や配送の流れが止まってしまうと、壊滅的なダメージを受けてしまう。

現代のビジネスでは、グローバル化によって、海外との流れも考える必要がある。

そのため、日本はどのような対応策があるのかを考えていかなければならないと。長期的に視点に立って、複数の選択肢を準備しておくのが大切。

これは個人の生活でも同じこと。例えば、複数の収入源を持つこと、複数のコミュニティに参加していることなどは、リスク回避となる。

マーケット・インのコンセプトづくりの根底にあるのは、知識やロジックではなく、構想力、想像力、知恵、感性です。それらすべての根源には、アートを含めたさまざまな知的好奇心がある。子供の時から知的好奇心を持って育ってきた人は、マーケット・インで大きな力を発揮するように思います。(P.134:第三章 左岸からの発想)

マーケット・インは、市場が求める商品とサービスの提供。対比される言葉として、プロダクト・アウト。プロダクト・アウトは、優れた技術に基づく商品とサービスの提供。

今後は、マーケット・インの時代であり、そのコンセプトづくりはには、知的好奇心が鍵であると。

今まで日本はプロダクト・アウトで成功してきているので、そこから抜け出すのはなかなか難しい。マーケット・インに対応していくには、個人が知的好奇心に従って、ビジネスをしていくと良いと助言。

「オールドエコノミー対ニューエコノミー」のように、ものごとを単純に二分して論じるやり方は頻繁に行われます。わかりやすい方法ではありますが、深く考えるまでもなく、「わかりやすい」と思われるものには、たいていウソやごまかしが潜んでいるので、気をつけてください。(P.165:第四章 突破口は「個人」のミッション)

一般的に「わかりやすい」ということが、とても重要な判断基準になっている気がする。では、それは、誰にとっての「わかりやすい」なのだろうか。

今北純一は、ここで「わかりやすい」ということについての危険性を指摘。

この後には、「勝ち組と負け組」「官と民」についての考察が続く。世の中で、出回っている二項対比は、単なる言葉遊びにすぎない、とも。

別の選択肢があったり、解決する目的などを見誤ったりしてはいけないということ。

感想

今北純一の影響を多大に受けたというIT企業の経営コンサルタントである梅田望夫(うめだ・もちお、1960年~)が、解説を書いているのも興味深いところ。

梅田望夫のおかげで、私は今北純一を知ったと思う。

二人とも海外でもビジネスを続けて、個人として生きる強さを多くの人々に示す。

この書籍も、今北純一の著作を読み続ける流れで手に取った。

後半には、企業の在り方や労働、人生の価値などに触れながら、社会哲学者のエリック・ホッファー(Eric Hoffer、1902年~1983年)の言葉も引用されている。

「産業社会においては、多くの職業が、それだけを仕上げても無意味だとわかっている仕事を伴っているのです。そういうわけで、私は、一日六時間、週五日以上働くべきではないと考えています。本当の生活が始まるのは、その後なのです」(P.179:第四章 突破口は「個人」のミッション)

これは、『エリック・ホッファー自伝』からの引用。

今北純一は、この文章を引用しながら、仕事に関して、過剰な期待をしてはいけない、個人として、充実させた人生を送ることが大切と、エリック・ホッファーの言葉を読み解く。

エリック・ホッファーという人物を知らなかったので、勉強にもなったし、仕事や自己の幸福についても改めて考える契機にもなった。

現在、私は個人事業主として働いているので、割と時間は自由に使えているし、そこまでの長時間労働もしていないとは思う。

ただ、自分の楽しみと労働の境目が、曖昧な状態なので、良いのか悪いのか分からない。むしろ、理想的な常態なのか。

まぁ、いろいろと生活や仕事に関しては、改善したい部分が多いので、再点検していこうと思う。

仕事や個人の幸福を再考したいと時にオススメの本。基本的に、今北純一の書籍はどれもオススメ。

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オックスフォード大学

イギリスのオックスフォードにある11世紀末に設立した名門の総合大学。

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