『場を支配する「悪の論理」技法』とつげき東北

とつげき東北の略歴

とつげき東北(とつげき・とうほく、1976年~)
研究者、学者、作家。
兵庫県の生まれ。東北大学工学部通信工学科を卒業。北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科を中途退学。中央省庁で勤務。著書に『科学する麻雀』など。

『場を支配する「悪の論理」技法』の目次

まえがき 物事を正しく考えるための処方箋
Ⅰなぜ、あなたの主張は通じないのか?
■ダメな議論
■ダメな議論リターンズ
■知性が足りない人たちの「悪の名言」を分析する
Ⅱ悪の論法の見破り方と使い方
■代表的な詭弁術を分析する
■詭弁の矛盾を突く方法・利用する方法
Ⅲパワーゲームと論理、そして非論理
■「権力」――論理と詭弁の彼岸
■「道徳」という非論理の典型と排他性
■本物の「自由」を手に入れるための思考実験
付録 悪の名言辞典
答え合わせ なぜ人を殺してはいけないのか?
あとがき 思想で遊んで楽しく生きる

概要

2018年11月1日に第一刷が発行。フォレスト出版。262ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。

副題的に「常識・道徳・権力からの解放と、思想で遊ぶ快楽」。

「まえがき」では、題名にある「悪の論理」または、文中では「名言」とも書かれている言葉に関しての説明が以下のようにある。

これは端的に言うと、「理屈では間違っているのに、一見正しいとされる論理」のことだ。(P.7「まえがき」)

上記のように「悪の論理」を定義している。

感想

ネットで知って、面白うそうだと思い、購入。かなり楽しめた。

特に後半の部分で勉強になったり、興味深かかったりした。

「Ⅲパワーゲームと論理、そして非論理」の『「道徳」という非論理の典型と排他性』では、日本が冬季五輪で活躍すると、スキー板の制限について、アメリカに有利になるように実行したというエピソードが記載。

さらにその注釈として、1815年のワーテルローの戦いにおけるロスチャイルド家の莫大な富の獲得についても。

あくまでも創作という説もあるという話ではあるが。本筋とは多少ズレるが興味が湧いたので詳細を補足しながら、まとめてみる。

ロスチャイルド家(Rothshild)は、ドイツ系ユダヤ人の富豪。宮廷ユダヤ人であったメイヤー・アムシェル・ロスチャイルド(Mayer Amschel Rothschild、1744年~1812年)が、銀行業を確立したことで隆盛を極めた。

その三男で、イギリスのロンドンに住むネイサン・メイアー・ロスチャイルド(Nathan Mayer Rothschild、1777年~1836年)が、ここでは主人公となる。

ワーテルローの戦いは、ベルギーのワーテルロー近郊で、イギリス、オランダをはじめとする連合軍及びプロイセン軍と、フランス軍の間に行なわれた一連の戦闘。

連合軍・プロイセン軍 vs フランス軍。

連合軍・プロイセン軍が勝つと、イギリスのコンソル公債は暴騰する。負ければ、暴落する。

ネイサンは、コンソル公債を大量に売り始めた。他の投資家たちも、イギリスの敗北を確信して投げ売り。

すると、紙くず同然に暴落したコンソル公債を、ネイサンは大量に買い戻した。

実は、連合軍・プロイセン軍は戦いに勝利していた。コンソル公債は暴騰。

つまり、ネイサンはコンソル公債を非常に安く買い入れて、暴騰により莫大な富を得たというもの。

ネイサンは、自分が回りから、どのように思われているのか知っていて、他の人間たちを動かすために、最初にコンソル公債を売りまくった。

凄いな。

全く知らないエピソードだったので、勉強になった。ロスチャイルド家の本も読んでみようと思う。

意味の対義語が、「強度」である。これは瞬間的な「濃密さ」を表す。脳内に快感をもたらす化学物質が劇的に放出されるあの瞬間である。(P.178:Ⅲパワーゲームと論理、そして非論理・「道徳」という非論理の典型と排他性)

あまりにも、あらゆることに対して意味を求めてしまうと、人生は無味乾燥で、つまらないものになってしまう。

その時に重要となるのが、意味の対義語としての「強度」。

意味と同時に、強度も考慮する。「強度」が分かりにくければ、「健全な欲望」といった感じだろうか。

意味と強度を前提にすることで、より一層、合理的に物事を考えられるという主張。

自分の行動だけではなく、他者の行動を考えるときにも有効な思考方法のひとつだと思う。

強度、欲望、本能。

そのような物を前提条件として取り入れることで、思考の明るさや軽やかさも得られるという話に続いていく。

怒りとは、「~~であるべき」という理想に対して、現実がそうならなかったときに生ずる不快な感覚である。平等主義的な理想は、何気ない日常的風景の中に各種の苛立ちを持ち込む。(P.182:Ⅲパワーゲームと論理、そして非論理・本物の「自由」を手に入れるための思考実験)

平等主義的理想は、道徳的幻想。そのため、権力的構造では簡単に無効となる。

といった論理展開に繋がる。

これは本当に注意しないといけないところ。世の中には怒っている人が多いように感じるし。特にSNSなどでは。

自分の中での怒りや苛立ちも、明確に分析する必要があるな。

権力的構造を認識する。あとは、平等主義的理想に陥っていないかの確認も。

「付録 悪の名言辞典」も面白い。二段組の構成になっている。

224ページの上段に「自分で考える」というものがある。

あれこれ例を挙げて、「これらはすべて、低俗な体験主義につながるものである」とバッサリ。笑える。

大衆は、「自分で考える」といったばかばかしい行為のほうが、なぜ、先人や先端の研究者らのさまざまな考えから学ぶことよりも優れているのかを「自分で考え」て判断できない程度に思考停止しているのだ。(P.224・下段「付録 悪の名言辞典」)

これは本当にそう思う。先人の知恵にあやかりながら、上手いこと生きていきたいところである。

あとは簡単に「自分で考える」や「思考停止」という言葉を使う人に対しては、程良く距離を保った方がいいかなとも思う。

そういった人こそ、このような本を読んだらいいのにと思うけれど、まぁ、読むことはないんだろうな。残念ながら。

ただ自分は特にこの「付録 悪の名言辞典」は、ニタニタと笑いながら読んでしまった。いやはや面白かった。

というわけで、論理や思考を柔軟にしたい人、理屈や合理が好きな人には非常にオススメの本。

一年に一回くらいは頭を柔らかくするために読み直しても良いかも。

書籍紹介

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