『こころの王国』猪瀬直樹

猪瀬直樹の略歴

猪瀬直樹(いのせ・なおき、1946年~)
作家。
長野県飯山市の生まれ、長野市の育ち。信州大学教育学部附属長野小学校、信州大学教育学部附属長野中学校、長野県長野高等学校を経て、信州大学人文学部経済学科を卒業。明治大学大学院政治経済学研究科政治学専攻博士前期課程で日本政治思想史を研究。
1987年に『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。

菊池寛の略歴

菊池寛(きくち・かん、1888年~1948年)
小説家、劇作家、実業家。
香川県高松市の生まれ。高松市四番丁尋常小学校を経て、高松市高松高等小学校、高松中学校を卒業。東京師範学校を中退、第一高等学校第一部乙類を卒業間際に中退。京都帝国大学文学部英文学科を卒業。「文藝春秋」「オール讀物」「モダン日本」などを創刊。本名は、同じ漢字で「きくち・ひろし」。

『こころの王国』の目次

1 忙中閑
2 謎の美青年
3 かそけきモダン
4 白い蛇の行方
5 霜月酉の市
6 粋な黒塀
7 荒浪の音
8 悪戯と傷
9 接吻せず
10 木村屋のジャムパン
11 焦燥の京都
12 葬式に行かぬ訳
13 夏目漱石の一件
14 曇天の風景
15 憧れの愛蘭土
16 土曜日のマチネ
17 淋しい遊民
18 十年後の日本
19 滅びの予感
20 王の孤独
あとがきにかえて
漱石の「こころ」と菊池寛の「こころ」 井上ひさし 猪瀬直樹
「昭和モダニズム」の時代 久世光彦 猪瀬直樹

概要

2008年1月10日に第一刷が発行。文春文庫。313ページ。

副題は「菊池寛と文藝春秋の誕生」。菊池寛の生涯を辿った評伝小説。

2004年4月に刊行された単行本を文庫化したもの。

初出は「こころの王国」が「文學界」2002年4月号から2003年12月号まで。

「あとがきにかえて」が「読売新聞」の2004年6月15日の夕刊。

「漱石の『こころ』と菊池寛の『心』」が「文學界」2004年7月号。

「『昭和モダニズム』の時代」が「オール讀物」2004年7月号。

菊池寛の秘書であり深い関係であった佐藤碧子(さとう・みどりこ、1912年~2008年)を、モデルにした人物の視点で描かれる。

朝鮮出身で児童文学の作家・馬海松(ま・かいしょう、1905年~1966年)も、重要な登場人物としての役割を担う。「モダン日本」の編集などに携わる美青年。

昭和初期の時代を背景に、菊池寛の人物像に迫った評伝小説である。

「漱石の『こころ』と菊池寛の『心』」は、猪瀬直樹と小説家・井上ひさし(いのうえ・ひさし、1934年~2010年)の対談。

「『昭和モダニズム』の時代」は、猪瀬直樹と演出家、小説家・久世光彦(くぜ・てるひこ、1935年~2006年)の対談である。

感想

菊池寛の作品はあまり知らなかったが、2002年にフジテレビ系列で、話題になったお昼のテレビドラマ「真珠夫人」で、初めてしっかりと認識する。

『真珠夫人』は菊池寛の長編小説で、1920年に約半年、大阪毎日新聞、東京日日新聞に連載。当時も非常に人気があり、書籍も大ベストセラーとなったという。

小説家としては知っていたが、そこまで詳しくは知らなかった。

友人・芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ、1892年~1927年)の業績を記念して、芥川賞を創設したという事くらいは知識としてあったようなくらい。

色々と調べてみると、直木賞も同様の経緯があったり、文藝春秋社を創業したりと、一般的な小説家とは異なる行動。

分かりやすく言うと、実業家である。

若い頃の貧乏や、友人たちが東京帝国大学で過ごす中、自分は京都帝国大学で学んだ事などが、他の小説家たちとは異なる思考を持つ理由のようだ。

この作品の特徴は、女性の視点で語られている点。佐藤碧子の視点である。菊池寛の秘書でもあり、愛人でもあった人物。

実際に猪瀬直樹は佐藤碧子に取材を繰り返して、この作品を書き上げたという。

そのような少し特色のある視点で描かれた評伝小説。菊池寛や文藝春秋、文学などに興味のある人には非常にオススメの作品である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

菊池寛記念館

菊池寛記念館は、菊池寛の出身地である香川県高松市にある記念館。サンクリスタル高松の3階にある。1・2階は高松市中央図書館、4階は高松市歴史資料館。

公式サイト:菊池寛記念館