『残酷すぎる成功法則』エリック・バーカー

エリック・バーカーの略歴

エリック・バーカー(Eric Barker)
作家。人気ブログの“Barking Up The Wrong Tree”の執筆者。
脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経験を持つ。
ペンシルベニア大学で哲学の学士、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で美術学の修士、ボストン大学キャロル経営大学院で経営学の修士を、それぞれ取得。

『残酷すぎる成功法則』の目次

監訳者序文
序章 なぜ、「成功する人の条件」を誰もが勘違いしているのか
第1章 成功するにはエリートコースを目指すべき?
第2章 「いい人」は成功できない?
第3章 勝者は決して諦めず、切り替えの早い者は勝てないのか?
第4章 なぜ「ネットワーキング」はうまくいかないのか
第5章 「できる」と自信を持つのには効果がある?
第6章 仕事バカ……それとも、ワーク・ライフ・バランス?
結論 本当に人生を成功に導く法則は何か
特別付録 コロナ時代を生き抜くために
監訳者解説
<巻末>参考文献・邦訳文献

概要

2020年7月3日に第一刷が発行。飛鳥新社。文庫版・電子書籍。523ページ。

2017年10月25日に刊行された単行本を文庫化したもの。

副題は、“9割まちがえる「その常識」を科学する”。

2017年5月16日に、原著が発行。原題は『Barking Up the Wrong Tree』。副題は「The Surprising Science Behind Why Everything You Know About Success Is (Mostly) Wrong」。

監訳者は、作家の橘玲(たちばな・あきら、1959年~)。早稲田大学第一文学部ロシア文学科を卒業。出版社勤務、編集プロダクションの共同設立などを経てフリーランスになった人物。

訳者は、翻訳家の竹中てる実(たけなか・てるみ)。上智大学大学院修士課程(国際関係論専攻)修了している人物。

感想

ネットで知った書籍。kindle unlimitedにあったので読んでみた。

目次からも面白そうな雰囲気が漂っている。

「スープキッチンでは、トヨタのエンジニアのおかけで、夕食の待ち時間が九〇分から一八分に短縮されました。また、ボランティアによるハリケーン・サンディの被災者向け物資の箱詰めでは、トヨタからの指導を一回受けただけで、一箱あたりの作業時間が三分から一一秒に短縮されたのです」(P.51:第1章 成功するにはエリートコースを目指すべき?・成功には「環境」と肝に銘じる)

常に工程の改善と効率アップを追求するトヨタ。いわゆる、「カイゼン」。

さまざまな慈善活動も行なっている。ただ企業として献金だけではなく、専門的技能である「効率」そのものを寄付したという話。

90分から18分への短縮と、180秒から11秒への短縮。
効果抜群の成果。

お金だけではなく、技術・知識の寄付。

何かの災害時だけでなく、日頃の人間関係から仕事などにも役立ちそうなエピソードである。

お金を介在させないやり取り。ポイントだ。

お世辞は強力で、「たとえ見え透いていても」効果を発揮するとの調査結果もある。カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・チャットマン教授は、調査でお世辞が逆効果になる限界点を探ろうとしたが、なんと限界点は見つからなかった。(P.57:第2章 「いい人」は成功できない?・親切な人はこれだけ損をする! 残酷な統計)

これは驚き。お世辞には限界が無いのか。

発言する側として、お世辞はかなりの有効な手段ということ。

発言を受ける側、つまりお世辞を受け取る側としては、そのような言葉には、意識的な注意、警戒が凄く必要。

まぁ、お世辞でも嬉しいものは嬉しいからな。

ただ相手の目的や論点をしっかりと把握しておくことが大切か。

自分としては、なるべくお世辞というか、相手を褒めるようにしていこうかな。

これまでとは異なる何かしらの変化が起きるのだろうか。

迷惑なことをされても何一つ抵抗しなければ、なめられるのは人間社会の常だ。だから完璧な聖人になる必要はない。実際、聖人でいることは、成功するには不利な戦略だ(少し安心しただろうか?)。(P.89:第2章 「いい人」は成功できない?・エビデンスからわかる最強の対人ルール)

この文章に到るまでに、あるゲームでの実験も。

コンピュータープログラムの実験で、最終的には協力的で、寛容、さらに必要とあらば報復もする、といった要素があると、より多くの利益を得られたという結果。

単に寛容だけでは、利益を相手に奪われてしまう。

引用の部分が、さらに同様の内容を伝えている。

実業家・渋沢栄一(しぶさわ・えいいち、1840年~1931年)も「無欲は怠慢の基である」と『渋沢栄一訓言集』で語っている。

健康的な欲望を持って行動し、場合によっては反撃も辞さないという姿勢が重要なんだろうな。

頭文字を取って「WNGF」だ。なぜなら、面白いゲームに含まれる共通要素は勝てること(Winnable)、斬新であること(Novel)、目標(Goals)、フィードバック(Feedback)の四つだからだ。(P.131:第3章 勝者は決して諦めず、切り替えの早い者は勝てないのか?・どんな成功法則よりも役に立つ! 「面白いゲームの四つの条件」)

面白いゲームの4つの要素。この要素があると熱中しやすくなる。

自分の人生にもこの4つの要素を上手に取り入れれば、熱中しながら成果を上げることができる。仕事にしろ、プライベートにしろ。

自分の人生に没頭できる。かなり幸福な状態である。

ほどほどに勝てるような条件で、新しいことを取り入れ、目標を設定し、フィードバックを得て、課題をクリアしていく。

ゲームの上手い人は、人生にも成功しているような気もする。

「あなたがどんな人間になるかは、関わるグループによって決まることが多い。たとえば健康状態を良くしたいなら、健康な人びととつき合うことが、最も効果的で、体調改善への早道である」。(P.213:第4章 なぜ「ネットワーキング」はうまくいかないのか・時間もプレッシャーもかからない人脈作りの五ステップ)

1000人の被験者を、その幼少期から死亡まで追跡調査した「ターマン調査」から。

アメリカの心理学者であるルイス・ターマン(Lewis Madison Terman, 1877年 – 1956年)の調査の結果。

つまり、付き合う人がとても大切。誰と付き合うのかで、自分も、どのような人物になるのか、が決まってしまう。

意識的に、関わる人を考慮しなければならない、ということ。

人生は有限なので、誰と仲良くなるかは、しっかりと考えないといけないな。

同時に、自分の時間の使い方も上手くしていかないと。

研究者のクリスティン・ネフはこう述べている。「生涯でただ一人、四六時中あなたに寄り添い、優しくケアしてくれるのは誰だろう? そう、あなた自身だ」。(P.280:第5章 「できる」と自信を持つのには効果がある?・成功において自信よりも大切な概念「セルフ・コンパッション」)

当然、自己と常に一緒にいるのは、他者ではなく、自分。

他責思考は良くないが、間違った他責思考も良くはない。適切な自省をしながら、自分自身を慰め鼓舞するのが大切。

傲慢にならない程度の自信をしっかりと持つのが良い感じか。

クリスティン・ネフ(Kristin Neff)は、『セルフ・コンパッション』という書籍も刊行している。

原題は『Self-Compassion』で、副題は「The Proven Power of Being Kind to Yourself 」。

Amazonで見る限り、日本国内でも、海外でも評判の良い本のようだ。

一九世紀の思想家、ラルフ・ウォルド・エマーソンの名言にもあるように、「私たちはいつも生きる準備に余念がなく、決して今を生きていない」のである。(P.336:第6章 仕事バカ……それとも、ワーク・ライフ・バランス?・「世界のエリート」は幸せじゃない)

あまりにも、多くのことを求め過ぎて、その準備に追われてしまう。

先々のことを考えて走り回っていると、現在という時が疎かになる。

次々と目標が現れて、それに向かっていく。自分で選んだのか、他人によって設定されたのか、考えもせず。

怖い、怖い。

他人の人生を生きているような感じになってしまう。

自分の人生を、現在にも焦点を当てて生きよう。

ラルフ・ウォルド・エマーソン(Ralph Waldo Emerson、1803年~1882年)は、アメリカの思想家。日本語訳の作品も多いみたいだから、今度チェックしておこう。

だがアウレリウスはこうも言っている。
「朝起きたら、自分にこう言おう。今日私がかかわる相手はおせっかいで、恩知らずで、傲慢で、不誠実で、嫉み深く、不機嫌だろう……」(P.412:特別付録 コロナ時代を生き抜くために・非常時における毎日の習慣)

第16代ローマ皇帝のマルクス・アウレリウス・アントニヌス(Marcus Aurelius Antoninus、121年~180年)の言葉。『自省録』が有名。

ここの前では、朝起きた時に生きていることに感謝しよう的な表現が並んでいる。そこからの上記の言葉。

ポジティブとネガティブの良い感じ。

ある種、『葉隠』に近いか。

『葉隠』では、朝起きて様々な死をイメージした。アウレリウスは、様々な嫌な人間をイメージした。

ワクチンのように、機能させる。これはなかなか面白い発想。先に困難を想像しておく。基本的に人生に失敗が多いという風に。

精神的なダメージを減少させる手法。イメージによるワクチン。

ある種のダメージ・コントロールだな。さすがアウレリウスである。

というわけで、様々な歴史的事項や幅広いテーマに関して、成功するためのヒントがまとめられたオススメの本。

題名はちょっと胡散臭いけれど。

多くの研究者や偉人たちのエピソードも出てくるので、巻末の「参考文献・邦訳文献」をチェックして、深掘りしていくのも面白いと思う。

書籍紹介

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