『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー

ダン・アリエリーの略歴

ダン・アリエリー(Dan Ariely、1967年~)
イスラエル系アメリカ人の教授、作家。
アメリカのニューヨーク市の生まれ。3歳でイスラエルに戻る。
イスラエルのテルアビブ大学で心理学を学び、ノースカロライナ大学チャペルヒル校で認知心理学の修士号と博士号を修得。
デューク大学で経営学の博士号を修得。その後、各大学や大学院、研究所などで教員や研究員として務める。

『予想どおりに不合理』の目次

はじめに
1章 相対性の真相
なぜあらゆるものは――そうであってはならないものまで――相対的なのか
2章 需要と供給の誤謬
なぜ真珠の値段は――そしてあらゆるものの値段は――定まっていないのか
3章 ゼロコストのコスト
なぜ何も払わないのに払いすぎになるのか
4章 社会規範のコスト
なぜ楽しみでやっていたことが、報酬をもらったとたん楽しくなくなるのか
5章 無料のクッキーの力
無料!はいかにわたしたちの利己心に歯止めをかけるか
6章 性的興奮の影響
なぜ情熱はわたしたちが思っている以上に熱いのか
7章 先延ばしの問題と自制心
なぜ自分のしたいことを自分にさせることができないのか
8章 高価な所有意識
なぜ自分の持っているものを過大評価するのか
9章 扉をあけておく
なぜ選択の自由のせいで本来の目的からそれてしまうのか
10章 予測の効果
なぜ心は予測したとおりのものを手に入れるのか
11章 価格の力
なぜ一セントのアスピリンにできないことが五〇セントのアスピリンならできるのか
12章 不信の輪
なぜわたしたちはマーケティング担当者の話を信じないのか
13章 わたしたちの品性について その1
なぜわたしたちは不正直なのか、そして、それについて何ができるか
14章 わたしたちの品性について その2
なぜ現金を扱うときのほうが正直になるのか
15章 ビールと無料のランチ
行動経済学とは何か、そして、無料のランチはどこにあるのか
謝辞
共同研究者
訳者あとがき
参考文献
原注

概要

2013年8月23日に第一刷が発行。ハヤカワ・ノンフィクション文庫。496ページ。

行動経済学に注目を集めることになったベストセラー。人間の不合理な行動を実験などを通して解明していく作品。

副題は、“行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」”。

原題は、「Predictably Irrational: The Hidden Forces That Shape Our Decisions」

2008年11月に早川書房から刊行され、2010年10月には増補版も出ている単行本を文庫化したもの。

訳者は熊谷淳子(くまがい・じゅんこ、生年不詳)で、新潟県生まれ、大阪教育大学を卒業、コロラド大学修士課程を修了している人物。

感想

前々から気になっていた作品。

kindleで安くなっていたことや、たまたま別の本を読んでいて行動経済学や認知バイアスについての興味が湧いたから。

実際、読了してみて、とても面白かった。

文体や構成も良く、非常に読みやすかった。和訳も良かったのかもしれない。

特に4章の「社会規範のコスト」とかは、物凄く興味深った。

以下、引用しながら紹介。

たいていの人は、メニューのなかでいちばん高い料理は注文しなくても、つぎに高い料理なら注文するからだ。そのため、値段の高い料理をひとつ載せておくことで、二番めに高い料理を注文するようお客をいざなうことができる(P.27「1章 相対性の真相」)

レストランでは、値段の高いメイン料理をメニューに載せる。すると、その料理を注文する人がいなくても、レストラン全体の収入は増えるという話の解説。

日本とかで言えば、定食や割烹とかの松竹梅みたいな。

サービスとかでも、プレミアム、スタンダード、ベーシックみたいな。

最上位のものが注文されなくても、その次のものが売れやすいということ。

さらに、販売者側から考えると、次のものにしっかりと利益が出るように設計しておくという。

自分の消費行動などを振り返っても、納得する部分。

提供側としても、この点はちゃんと活かしていきたいポイントでもある。

スターバックスでは、ショート、トール、グランデ、ベンティのサイズがあり、カフェアメリカーノ、カフェミスト、マキアート、フラペチーノなどの高貴な名前の飲み物を売った。つまり、入店の経験がほかとはちがったものになるように、できることをすべてやった。(P.70「2章 需要と供給の誤謬」)

これは、他の競合他社との比較を避ける手法。

大きさに関して、スモール、ミディアム、ラージといった名称にしてしまうと、他の企業や商品と同列に並んで、比べられてしまう。

それを避けるために、全く別のオシャレな名称を使って差別化。

そういったものを、徹底的に実施すると、より効果があり、独自のポジションを得ることができる。

かなり勉強になる部分。

可能な限り、比較をさせないオリジナルの世界観を強調するということ。

そのような施策をすることで、価格競争などからも少し距離を置くことができるのか。

実は、お金の話が出たとき、弁護士たちは市場規範を適用したため、市場での収入に比べてこの提示金額では足りないと考えた。ところが、お金の話抜きで頼まれると、社会規範を適用し、進んで自分の時間を割く気になった。(P.117「4章 社会規範のコスト」)

かなり興味深った4章の社会規範と市場規範。市場規範とは経済規範とも呼ばれる。

弁護士たちに、安い報酬で困っている人たちを助けて欲しいと頼んだ。しかし、弁護士たちは市場規範で考えてしまい、断ってしまう。

だが、無報酬で困っている人たちを助けて欲しいと頼むと。弁護士たち多くが喜んで引き受けた。

それは、社会規範、つまり、道徳や倫理、博愛精神、ボランティア精神、互助精神を刺激したから。

人間関係において、市場規範を取り入れてしまうと、関係が悪化してしまうことがある。

そのため、市場規範の取り扱いには注意が必要。対策としては、お金ではなく、プレゼントなどを活用すると良いという助言も。

変率強化スケジュールは、人間をやる気にさせる場合も驚くほど効きめがある。これはギャンブルや宝くじの根底にある魔術(いや、もっと正確には黒魔術)だ。(P.207「7章 先延ばしの問題と自制心」)

人間のやる気について。ついつい物事を先延ばしにしてしまうことがある。

それを防ぐためには、報酬が得られる確率を変動させること。

常に得られるとなると、やる気は減退してしまう。だから、得られるかもしれないし、得られないかもしれない、という変率が良いというもの。

ギャンブルや博打の本質でもある。

また、その前の部分では、人をやる気にさせるには、外圧も一定の効果はあるが、本人に決意表明をさせる、というもの。

これも面白い。所謂、認知バイアスの一貫性の原理みたいなものだろうか。

目標と締め切りを、本人に表明させると良いのか。

「8章 高価な所有意識」では、認知バイアスのオンパレードである。

所有に関して。

人は、自分の所有物を過大評価してしまう。人は、得るものではなく、失うものにより大きく注目してしまう。他者も自分と同じ視点、基準で考えると思い込んでしまう。

この辺りは、日々の生活で、気を付けたいポイント。

「仮想の所有意識」が広告業の推進力のひとつになっているのは言うまでもない。(P.227「8章 高価な所有意識」)

マーケティングとしては、失うものにより大きく注目してしまう、という部分を活用して、広告を頻繁に流して、既に所有しているような錯覚を起こさせるというものもあるとか。

プロスペクト理論の損失回避性の応用といった感じである。

そのまま続いて、「9章 予測の効果」では、失ってしまうものに、より注目してしまうので、決断や選択を保留してしまい、最終的には、大した成果が得られないことが多いという話も。

ほとんどの人にとって、この絵が美しく、微笑みが謎めいているのは、そう教えられたからだ。(P.278「10章 予測の効果」)

この絵というのは、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci、1452年~1519年)の「モナ・リザ」のこと。

見た目や前提の知識などについての章。

実際に「モナ・リザ」を鑑賞して、その素晴らしさを計測できる人々は非常に稀である。

では何故、多くの人々が「モナ・リザ」を名画として、称えているいるのか。

それは、名画として、教えられたから、というもの。

この辺りも、冷静に考えてみると、かなり恐ろしいことである。

上記のような内容が、全編にわたって詳しく書かれている作品。

行動経済学や認知バイアス、心理学などに興味のある人、ビジネスなどに活用したい人、あるいは不合理な判断をしたくない人には、非常にオススメの本である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

テルアビブ大学

テルアビブ大学(Tel Aviv University)は、イスラエルのテルアビブにある1956年に設立の公立の研究大学。

公式サイト:テルアビブ大学

ノースカロライナ大学

ノースカロライナ大学(University of North Carolina)は、アメリカのノースカロライナ州にある1789年に設立の公立大学。複数のキャンパスを持ち、旗艦校はチャペルヒル校。

公式サイト:ノースカロライナ大学

デューク大学

デューク大学(Duke University)は、アメリカのノースカロライナ州ダーラムに本部を置く、起源は1838年、設立は1924年の私立大学。

公式サイト:デューク大学