マシュー・サイド『多様性の科学』

マシュー・サイドの略歴

マシュー・サイド(Matthew Syed、1970年~)
イギリスのジャーナリスト、作家、元卓球選手。
オックスフォードのベイリエル・カレッジの卒業。

『多様性の科学』の目次

第1章 画一的集団の「死角」
Ⅰ 取り返しがつかない油断が起こるとき
Ⅱ 人材の偏りが失敗を助長している
Ⅲ 多様性は激しい競争を勝ち抜くカギだ
Ⅳ 異なる視点を持つ者を集められるか
Ⅴ 画一的な組織では盲点を見抜けない
Ⅵ CIAの大きなミス
Ⅶ 多様性が皆無だった当時のCIA
第2章 クローン対反逆者
Ⅰ なぜサッカー英国代表に起業家や陸軍士官が集められたのか
Ⅱ 人頭税の大失敗
Ⅲ 町議会の盲点はこうして見抜かれた
Ⅳ ウサイン・ボルトが6人いても勝てない
Ⅴ 精鋭グループをも凌いだ多様性のあるチーム
Ⅵ 女性科学者には男性科学者が見えないものが見えた
Ⅶ なぜ暗号解読に多様性が必要なのか
第3章 不均衡なコミュニケーション
Ⅰ 登山家たちを陥れた小さな罠
Ⅱ 機長に意見するより死ぬことを選んだ
Ⅲ 落とし穴を作った小さなヒエラルキー
Ⅳ 反逆的なアイデアが示されない会議なんて壊滅的だ
Ⅴ Googleの失敗
Ⅵ 無意識のうちにリーダーを決めてしまう罠
第4章 イノベーション
Ⅰ 世紀の発明も偏見が邪魔をする
Ⅱ イノベーションには2つの種類がある
Ⅲ 世界的に有名な起業家たちの共通点
Ⅳ そのアイデアが次のアイデアを誘発する
Ⅴ なぜルート128はシリコンバレーになれなかったのか
Ⅵ 社員の導線までデザインしたスティーブ・ジョブズ
第5章 エコーチェンバー現象
Ⅰ 白人至上主義
Ⅱ 数と多様性の逆説的結果
Ⅲ 信頼は人を無防備にする
Ⅳ 極右の大いなる希望の星
Ⅴ 傷つけるべきでなかった人々
Ⅵ 政治的信条の二極化はこうして起こる
第6章 平均値の落とし穴
Ⅰ 我々がダイエットの諸説に惑わされる理由
Ⅱ 標準規格化されたコクピット
Ⅲ 標準化を疑う眼があなたにはあるか?
Ⅳ 硬直したシステムが生産性を下げ、離職率を上げる
Ⅴ 独自の環境を作ることで才能は開花する
Ⅵ 標準を疑え! 食事療法は一人ひとりで異なっている
第7章 大局を見る
Ⅰ 個人主義を集団知に広げるために何ができるか?
Ⅱ 人類は本当に他の生物に優っているのか?
Ⅲ 人間が唯一優れている能力とは?
Ⅳ 日常に多様性を取り込むための3つのこと
Ⅴ 自分とは異なる人々と接し、馴染みのない考え方や行動に触れる価値
Ⅵ 変われるか、CIA
謝辞
注記

『多様性の科学』の概要

2021年6月25日に第一刷が発行。ディスカヴァー・トゥエンティワン。366ページ。

副題は「画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織」。

原題は『Rebel Ideas』。副題は「The Power of Diverse Thinking』。2019年9月10日に発売。

翻訳協力として、株式会社トランネット。特に翻訳家の名前の記載はない。

『多様性の科学』の感想

前作『失敗の科学』が面白かったので、『多様性の科学』にも興味を抱いた。

kindle unlimitedにあったので読んでみた。

視点があるからこそ盲点がある。これは本書の主軸の1つとなるコンセプトだ。我々はみな、自分自身のものの見方や考え方には無自覚だ。誰でも一定の枠組みで物事をとらえられているが、その枠組みは自分には見えない。(P.31:第1章 画一的集団の「死角」)

本書の重要なコンセプトの一つが語られているところ。視点があるから、盲点も出てきてしまう、というもの。

自分の視点には気づかない。無自覚、無意識。

強制的な別視点が入り込まないと、認識できない。その時に有効なのが、普段自分とは接点の無い人々と触れ合うこと。

今まで自分が体験したことのないことに挑戦してみること。

そのような機会がないと、自分の視点、自分の盲点、他者の視点、他者の盲点も認識できない。

前提条件や基礎、根本的な部分といった点だから、難しい。かなり意識しないといけないポイントである。

「支配型ヒエラルキーも尊敬型ヒエラルキーも、特定のパターンがあって外から見分けることができます。それぞれ姿勢やしぐさなど、さまざまな特徴が異なるんです」(P.137:第3章 不均衡なコミュニケーション)

アメリカの人類学者であるジョセフ・ヘンリック(Joseph Henrich、1968年~)の発言。

ヒエラルキーの二つの種類。リーダーの二つの種類と言い換えたが方が分かりやすい。支配型と尊敬型。

出現、リーダーの尊敬のされ方、影響の及ぼし方、社会的な人間関係、正確、従属者の視線、従属者の距離感、従属者の姿勢、リーダーの姿勢、社会的行動などの違いがある。

支配型と尊敬型。どちらのヒエラルキーに入るのが自分の性格に合っているのかを考えると良いのかも。

どちらかと言えば、尊敬型の方かな。いや、そもそもヒエラルキーとか組織とかが苦手ではあるけれど。

歴史学者たちが詳細に調べてみると、電動機が使われるようになってから、実際に社会が発展し始めるまでには、奇妙なタイムラグがあったのだ。しばらく何も変化が起こらなかったのである。(P.155:第4章 イノベーション)

産業技術の大きな発展。古い蒸気機関から電動機への転換。

だが、電動機が登場してから社会が発展するまでには、時差があった。

しかも、結構長い。25年という期間。気が付かない。ビジネスにも応用できない。使えると思っても、他の人の心に響かなかったり。

そのような過渡期があった。恐らく今後も何か新しい発展がある時には、そのよう期間があるのかも。

現在から過去を見ると不思議に思うことでも、当時の状況ではその判断が当たり前になってしまうのかも。

変化の時には注意深く行動するのが大事か。

元米陸軍将校で創造性開発の専門家、マイケル・マハルコが提唱するのは、その名も「前提逆転発想法」。これは問題の核となる「前提条件」を逆転させてアイデアを生み出す方法だ。(P.173:第4章 イノベーション)

『アイデア・バイブル』『クリエイティブ・シンキング入門』といった発想法に関する作品を手掛けているマイケル・マハルコ(Michael Michalko)。

ここでは「前提逆転発想法」が紹介される。

例えとして「レストランにはメニューがある」という大前提を逆転させて「レストランにはメニューがない」と考える。

すると、シェフが当日仕入れた食材から客に好きなものを選んでもらって、アレンジした料理を提供する、みたいなサービスを思いつくかも、みたいな。

この発想法、なかなか面白い。前提や常識を疑う方法。頭の片隅に入れておいて、柔軟に使えるようにしておきたい。

「人身攻撃を受けた者は、物証を持って異論を唱えられたときと同じくらい、自身の主張に自信をなくす」。つまり論点ではなく論者を攻めても効くのだ。(P.233:第5章 エコーチェンバー現象)

最後の「効く」には点々が付いている。それくらい強力なものということ。

これは免疫をつけておくのが必要だとは思うけれど、その場で対応できるかどうか。まずは論点がずれていることに驚いてしまうだろうし。

「人身攻撃」に関しては、古代ギリシアの哲学者アリストテレス(Aristotelēs、前384年~前322年)や、イギリスの哲学者ジョン・ロック(John Locke、1632年~1704年)も言及しているという話も。

政治の世界でも、一般的な社会でも、あとは各種のSNSとかでも見られる光景だな。

しかも、効果があるから問題だし。トーンポリシングでもあるし。シンプルに跳ね返すロジックと精神力と耐性を鍛える感じかな。

ただギバーの中でも、最大級の成功を収めた人々は、戦略的でもあり、常に有意義な多様性を求め、搾取されていると感じたときにはコラボレーションを断ち切るというデータも出ている。(P.298:第7章 大局を見る)

これも、なかなか面白い。基本的にはギバーであるけれど、搾取されていると感じたら、颯爽とコラボを断ち切る。

現実的には、当たり障りなく、身を引いていく、といった形だろうな。

いろいろな人に与えられる人物になりたいとは思うけれど。

常に勉強と挑戦といった姿勢が必要か。そこそこ好奇心や行動力はあるとは思うので、今後も楽しく継続していきたい。

まぁ、あとは、ちょっとおかしいな、と思ったら直ぐに距離を置くのも大切だな。違和感や直感も意外と侮れないし。

というわけで、『失敗の科学』に続いて、とても楽しめる内容となっている作品。組織や社会などについて、さまざまな角度で語られた、この『多様性の科学』も非常にオススメ。

『才能の科学』はまだ読んでいないので、そちらもチェックしておこうと思う。

書籍紹介

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