記事内に広告が含まれています

石原明『気絶するほど儲かる絶対法則』要約・感想

石原明『気絶するほど儲かる絶対法則』表紙

  1. 世界は自分のための実験場
  2. 感謝して、さらに要求する
  3. ファンとしての顧客を創造
  4. 400回繰り返す教育の原則

石原明の略歴・経歴

石原明(いしはら・あきら、1958年~2021年)
経営コンサルタント。
静岡県の生まれ。駒澤大学を卒業。ヤマハ発動機、外資系教育会社を経て独立。

『気絶するほど儲かる絶対法則』の目次

はじめに~世の中は自分のためにお金を出して実験してくれている~
1章 伸びる会社には伸びる理由がある
2章 絶対に売れるしかけと勝てるしくみはこうつくる
3章 ものはなぜ売れるのか
4章 勝手に発展する組織をつくるには
おわりに

『気絶するほど儲かる絶対法則』の概要・内容

2014年7月10日に第一刷が発行。サンマーク出版。158ページ。

副題的に“「売れるしかけ」と「勝てるしくみ」の作り方”と表紙に書かれている。

『気絶するほど儲かる絶対法則』の要約・感想

  • 石原明が説く経営の本質
  • 世界の見方が変わる「壮大な実験」という思考法
  • 感謝の先にある「さらなる要求」という逆説
  • 「顧客」を定義する石原流マーケティングの本質
  • 「名簿は現金」が意味する顧客との永続的な関係
  • なぜ売れる?「よさそうに見せる」という絶対技術
  • 人を育てる「400回」という反復が持つ驚異の力
  • 本書の総論:ビジネスの基礎を固める最強の羅針盤
  • まとめ:石原明から学ぶ、普遍的で強力な成功法則

石原明が説く経営の本質

ビジネスの世界は、まるで広大な海原のようである。羅針盤なくして航海に出れば、たちまち嵐に飲まれ、方向を見失ってしまうだろう。

今回紹介する一冊は、そんなビジネスの海を渡るための、シンプルかつ強力な羅針盤となり得る書籍である。

その名も、『気絶するほど儲かる絶対法則』

タイトルだけを見ると、やや過激で扇情的に感じるかもしれない。しかし、ページをめくれば、その印象は良い意味で裏切られることになる。

本書で語られるのは、奇をてらった秘策や、一攫千金を狙うような投機的な手法ではない。

むしろ、商売の原点に立ち返り、顧客と向き合い、堅実に事業を成長させていくための、普遍的で本質的な法則である。

著者は、経営コンサルタントとして数多くの企業の成長を支援してきた石原明(いしはら・あきら、1958年~2021年)。

ヤマハ発動機、外資系教育会社といったキャリアを経て独立し、多くの経営者から絶大な信頼を寄せられた人物である。

この記事では、石原明が遺した『気絶するほど儲かる絶対法則』の中から、特に核心的と思われるいくつかのエッセンスを抽出し、独自の視点から深く掘り下げていく。

ビジネスの荒波を乗り越え、確かな成功を掴みたいと願うすべての人にとって、この記事が新たな航路を照らす灯台となることを願ってやまない。

世界の見方が変わる「壮大な実験」という思考法

ビジネスや人生において、私たちは日々、無数の情報に晒されている。成功事例、失敗事例、新しいトレンド、様々な言説。

これらを前にして、何が正しく、何を信じれば良いのか、混乱してしまうこともあるだろう。

本書の冒頭で、石原明はそんな私たちに、世界を全く新しい視点から捉えるための、ユニークな考え方を提示する。

それは、「世の中は自分のために実験してくれている」という視点である。

ゴールは、世の中でだれかがやっていることを通して、意味がわかること。そう考えると、この世の中はみんな真剣になって自分のためにアイデアを実験してくれている、自分が成功するために世界中の人が頑張ってくれている、ということになります。(P.5「はじめに~世の中は自分のためにお金を出して実験してくれている~」)

この発想は、まさにコペルニクス的転回と呼べるかもしれない。

他者の成功や失敗を、単なる傍観者として眺めるのではなく、「自分のために行われた貴重な実験データ」として捉え直すのである。

例えば、ある企業が画期的な新商品を発売し、大ヒットしたとする。
多くの人は「すごいな」「あの会社は運が良かった」と感想を抱くだけで終わる。

しかし、石原明の視点に立てば、「なぜその商品は売れたのか?」「どのようなマーケティング戦略が功を奏したのか?」「価格設定の根拠は何か?」といった問いが自然と湧き上がってくる。

その企業の成功は、自社が将来成功するための、極めて価値の高い先行事例、つまり「公開実験」となるのだ。

逆に、鳴り物入りで始まったプロジェクトが、あえなく失敗に終わったケースも同様である。

失敗の原因を分析することで、「このアプローチはうまくいかない」という貴重な教訓を得ることができる。

他者が時間と費用をかけて証明してくれた「失敗の法則」を、自分はコストを払わずに学べるのである。

この考え方は、ビジネスの領域にとどまらない。

エンターテインメントの世界における評論家のレビューや、SNSで話題になる様々なコンテンツも、すべてが「自分の知見を広げるための実験」と見なすことができる。

もちろん、そこには個々の立場からのポジショントークが含まれている可能性も否定できないため、情報を鵜呑みにせず、批判的に吟味する姿勢は必要不可欠である。

だが、根底に「世界は自分のために実験してくれている」という視座を持つことで、世の中のあらゆる事象に対する感度が高まる。

単なる情報の受け手から、能動的な学習者へと変貌を遂げることができるのだ。そして、他者の挑戦に対して、より寛容で優しい視線を向けられるようになるかもしれない。

彼らの試行錯誤の一つひとつが、巡り巡って自分の成功の糧となるのだとすれば、世の中の出来事すべてが、自分ごととして捉えられるようになるだろう。

この心構えこそが、儲かる絶対法則を探求する旅の、第一歩なのである。

感謝の先にある「さらなる要求」という逆説

成功への道筋において、「感謝の心」が重要であることは、古今東西、多くの賢人たちが説いてきたことである。

顧客への感謝、従業員への感謝、社会への感謝。これらがなければ、長期的な事業の発展は望めないだろう。

しかし、石原明は本書の中で、その「感謝」の概念を、さらに一歩押し進めた、驚くべき姿勢を提唱する。

それは、「感謝をして、さらに要求する」という、一見すると強欲にも思える行動様式である。

感謝をして、さらに要求する。すごいですね。牧師さんは「これを一生忘れるな」と言っていました。ですからみなさんも、感謝をしたら、そこでさらに要求するくせをつけるといいと思います。(P.35「伸びる会社には伸びる理由がある」)

この引用は、石原明が聞いたという、ある牧師のエピソードに基づいている。

その牧師は、困窮していた時期に、ある親切な行為によって白米を得ることができた。彼は神に深く感謝した。

そして、その感謝の祈りの直後に、「神様、ありがとうございます。次はどうか、おかずも与えてください」と願ったというのだ。

この話だけを聞くと、厚かましいと感じるかもしれない。だが、ここにはビジネスと人生における、極めて重要な真理が隠されている。

それは、「現状維持は、緩やかな後退である」という事実だ。ビジネスの世界は常に変化し、競争は激化していく。

たとえ今が「良いとき」であったとしても、それに満足し、安住してしまえば、成長は止まり、やがては衰退の道を辿ることになる。

「感謝」は、過去と現在の成功に対する肯定であり、不可欠なものである。しかし、それだけで終わってしまっては、未来への扉を開くことはできない。

未来を創造するためには、感謝を土台とした上で、「もっと良くしたい」「さらに高みを目指したい」という健全な「要求」=向上心が必要なのである。

この考え方は、有名な聖書の言葉、「求めよ、さらば与えられん」にも通じるものがある。

この言葉は、新約聖書のマタイによる福音書に記されており、本来は神への信仰を促す文脈で使われる。

しかし、転じて、物事を成し遂げるためには、ただ待っているのではなく、自ら積極的に働きかける姿勢が重要である、という意味で広く解釈されている。

石原明の言う「感謝して、さらに要求する」は、まさにこの精神の実践と言えるだろう。

得られた成果に心から感謝する。その上で、満足することなく、次なる目標を掲げ、それを達成するために行動を起こす。

このサイクルを回し続けることができる企業や個人だけが、持続的な成長を手にすることができるのだ。

これは、決して単なる精神論ではない。良いときにこそ、次の布石を打つ。

売上が好調なときにこそ、新しい商品開発や販路開拓に投資する。顧客からの評価が高いときにこそ、さらなるサービス向上を目指して改善を重ねる。

「感謝」という謙虚な心と、「要求」という野心的な向上心。

この二つを両輪として駆動させることが、気絶するほど儲かるための、重要なエンジンとなるのである。

「顧客」を定義する石原流マーケティングの本質

ビジネスの目的が、突き詰めれば「顧客の創造と維持」にあることは、経営学の父と称されるピーター・ファーディナンド・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker、1909年~2005年)も指摘している通りである。

しかし、一言で「客」と言っても、その関与の度合いは様々だ。

石原明は、『気絶するほど儲かる絶対法則』の中で、この「客」を明確に3つのカテゴリーに分類し、真に注力すべき対象を明らかにしている。

それは、見込み客、ユーザー(使用者)、そして「顧客」である。多くの人が混同しがちなこれらの言葉を、彼は独自の視点で鋭く定義する。

そして、いつも買ってくれる人、新しい商品を提供したときに「待ってました」と言って使ってくれる人、自分の会社のファンになってほかのお客さんを紹介してくれたりする人、これが顧客です。(P.47「絶対に売れるしかけと勝てるしくみはこうつくる」)

この定義は、マーケティングの本質を的確に射抜いている。

第一段階の「見込み客」とは、自社の商品やサービスに興味を持つ可能性のある、不特定多数の人々を指す。

広告やプロモーションの主なターゲットは、この層である。

第二段階の「ユーザー」とは、一度でも商品やサービスを購入、利用したことのある人々だ。

多くの企業は、このユーザーの数を増やすことに躍起になりがちである。しかし、石原明に言わせれば、それはまだ本当の意味での成功ではない。

そして、第三段階にして最も重要な存在が、彼が定義する「顧客」である。

この「顧客」とは、単なるリピーターではない。彼らは、企業の理念や商品の価値を深く理解し、共感している「ファン」なのだ。

新しい商品が出れば「待ってました」と喜び、自らの意思で積極的に購入してくれる。それだけではない。

彼らは、熱心な伝道師となって、自らの友人や知人にその素晴らしさを語り、新たなファンを連れてきてくれる。

いわゆる「口コミ」や「紹介」を、無償で、かつ熱意を持って行ってくれる存在。これこそが、石原明の言う「顧客」の姿である。

現代のマーケティング理論では、このような顧客がもたらす価値をLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)という指標で測ることが一般的だ。

一人の優良顧客が、その生涯にわたって企業にもたらす利益は、一過性のユーザーの数十倍、数百倍にもなることがある。

ビジネスを安定させ、持続的に成長させるためには、いかにしてこの「ファン」としての顧客を創造し、その関係を維持していくかにかかっている。

そのためには、単に良い商品を売るだけでは不十分だ。

顧客との継続的なコミュニケーションを通じて、信頼関係を構築し、期待を超える価値を提供し続ける努力が求められる。

この「顧客」の定義を胸に刻むだけで、日々のビジネス活動の優先順位は劇的に変わるはずだ。

新規顧客の獲得に奔走するだけでなく、今いる大切なお客様を、いかにして「ファン」へと育てていくか。

その視点こそが、儲かる絶対法則の核心の一つなのである。

「名簿は現金」が意味する顧客との永続的な関係

前項で、真に目指すべきは「ファン」としての顧客を創造することであると述べた。

では、具体的にどうすれば、一度接点を持ったユーザーを、熱心なファンへと育成していくことができるのか。

そのための最も強力な武器として、石原明が一貫してその重要性を説いているのが「名簿」の獲得である。

ですから住所と連絡先が見つかっただけでも、もう集客は完成だということです。私はいつもこれを「名簿は現金」と言っています。(P.54「絶対に売れるしかけと勝てるしくみはこうつくる」)

「名簿は現金」というフレーズは、非常に直接的で、強烈なインパクトを持つ。

これは、ダイレクト・レスポンス・マーケティング(DRM)の世界では古くから知られる鉄則であるが、その本質的な意味を理解している経営者は意外と少ない。

石原明が言う「名簿」とは、単なる連絡先リストではない。

それは、顧客と直接、そして継続的にコミュニケーションを取るための「許可証」であり、企業にとって最も価値のある資産の一つである。

考えてみてほしい。

テレビCMや新聞広告、あるいはインターネットのバナー広告といった、いわゆる「マス広告」は、不特定多数に向けた一方通行の情報発信である。

そのメッセージが、本当に届けたい相手に届いている保証はない。多くの場合、その広告費は空中に霧散してしまう。

しかし、一度「名簿」を手に入れれば、状況は一変する。住所、電話番号、そして現代においてはメールアドレスやLINEのID。

これらは、企業側が能動的に、好きなタイミングで、伝えたい情報を、届けたい相手に直接届けることを可能にする。

定期的にニュースレターを送る。新商品の案内や、お得なキャンペーン情報を知らせる。顧客にとって有益な情報や、企業の裏側を見せるような親しみやすいコンテンツを提供する。

このような継続的な接触を通じて、顧客は企業のことを忘れなくなり、徐々に親近感や信頼感を深めていく。

一方的な売り込みではなく、価値ある情報提供を続けることで、「この会社は自分のことを気にかけてくれている」と感じるようになる。

この関係性の構築こそが、ユーザーをファンへと昇華させるプロセスそのものなのである。

もちろん、現代においては個人情報保護の観点から、その取り扱いには細心の注意を払わなければならない。

顧客の許可なく情報を利用したり、望まない連絡を執拗に繰り返したりすれば、信頼関係は一瞬で崩壊する。

「名簿は現金」という言葉の真意は、リストを金儲けの道具として無機質に扱うことではない。

むしろ、その逆である。それは、一人ひとりの顧客との対話の権利を得たことへの感謝と責任を意味する。

手に入れた連絡先を、顧客との絆を育むための神聖なパイプラインとして、大切に活用すること。

この思想を徹底できるかどうかが、オープンマーケット(不特定多数の市場)での消耗戦から抜け出し、クローズドマーケット(自社が囲い込んだ顧客市場)で安定した収益を上げ続けるための、決定的な分水嶺となるのだ。

なぜ売れる?「よさそうに見せる」という絶対技術

「良いものを作れば、必ず売れるはずだ」。多くの作り手や技術者は、そう信じている。

品質へのこだわり、機能性の追求。それ自体は、間違いなく尊い努力である。

しかし、市場の現実は、時として非情である。

品質は劣るはずの競合製品が、なぜか自社製品よりも売れていく。そんな理不尽な光景を、誰もが一度は目にしたことがあるのではないだろうか。

この現象について、石原明は本書で、身も蓋もない、しかし否定しようのない真実を突きつける。

それは、モノが売れる理由は、そのモノが「良いから」ではなく、「よさそうに見えたから」であるという事実だ。

ものはどうして売れるかというと、よさそうに見えたら売れるのです。商品がいいから売れるわけではなく、まずよさそうに「見えれば」売れるというわけです。
実はプレゼンテーションや告知というのは、すべてこの「よさそうに見せるという技術」なのです。(P.83「ものはなぜ売れるのか」)

この指摘は、消費者の購買行動の根源を鋭く捉えている。

考えてみれば当然のことだが、顧客は、商品やサービスを購入する「前」には、その真の価値を体験することはできない。

高級レストランの料理も、実際に口にするまではその味を知ることはできない。高性能なソフトウェアも、インストールして操作してみるまでは、その利便性を実感できない。

購入を決定する段階では、顧客は限られた情報から「おそらく、これは自分にとって価値があるだろう」「これは良さそうだ」と「推測」するしかないのだ。

その推測の根拠となるのが、パッケージデザインであり、キャッチコピーであり、営業担当者の説明であり、ウェブサイトのデザインであり、利用者のレビューといった、あらゆる「外側の情報」である。

石原明が言う「プレゼンテーションや告知」とは、まさにこれらの「外側の情報」を駆使して、商品の価値を魅力的に伝え、「よさそう」という期待感を顧客の心の中に醸成する技術の総称である。

もちろん、これは中身を伴わない、虚偽の誇大広告を推奨しているわけではない。

もし「よさそう」に見せて売った商品が、実際には粗悪品であったなら、顧客は二度と戻ってこないばかりか、悪い評判をまき散らすことになるだろう。

それは長期的に見れば、企業の寿命を縮める自殺行為に他ならない。

ここで重要なのは、順番である。

まず、「よさそうに見せる技術」によって、顧客に興味を持ってもらい、試してもらう機会を得る。

そして、実際に体験してもらったときに、その期待を裏切らない、あるいは上回るだけの「本物の良さ」を提供する。

この両輪が揃って初めて、ビジネスは好循環を描き始める。どんなに素晴らしい商品やサービスも、その存在が知られ、その魅力が伝わらなければ、売れることはない。

「良いものを作る努力」と、それを「よさそうに見せる努力」。この二つは、車の両輪であり、どちらが欠けても前には進めないのだ。

自社の商品やサービスは、顧客の目に「よさそう」に映っているだろうか。その価値は、専門知識のない人にも、直感的に伝わる形で表現されているだろうか。

この問いを自らに投げかけることこそ、売上を劇的に変えるための、極めて実践的な第一歩なのである。

人を育てる「400回」という反復が持つ驚異の力

企業が持続的に発展していくためには、優れた組織を構築することが不可欠である。

そして、組織の根幹を成すのは、言うまでもなく「人」である。しかし、人の教育ほど、難しく、根気のいる仕事はない。

一度教えただけでは、人はなかなか変わらない。

何度も同じことを繰り返し伝えなければならない現実に、多くのリーダーや管理職は疲弊し、苛立ちを覚える。

そんな悩めるリーダーたちに対して、石原明は、ある社長から教わったという、強烈な指針を示す。それは、教育の本質を、驚くべき回数で表現した言葉である。

これは私が以前、知り合いの社長から教わったことなのですが、その人はこう言っていました。
「教育とは、同じ人間に同じ話を四〇〇回言えるかどうか」(P.158「勝手に発展する組織をつくるには」)

「400回」。

この数字に、多くの人は唖然とするかもしれない。常識的に考えて、同じ相手に同じ話を400回も繰り返すのは、ほとんど狂気の沙汰に思える。

しかし、ここには、人間の学習と定着に関する、深い洞察が込められている。

ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus、1850年~1909年)が提唱した「忘却曲線」が示すように、人間は一度学習したことでも、時間の経過とともに驚くべき速さで忘れていく生き物である。

それを脳に刻み込み、無意識レベルで実践できる「スキル」へと昇華させるためには、途方もない回数の反復練習が必要となるのだ。

この「400回」という法則のベクトルを、他者への教育だけでなく、自分自身の成長に向けてみることも極めて有益である。

新しい知識を学ぶ。新しいスキルを習得する。その際、一度や二度の挑戦で諦めてしまう人がいかに多いことか。

例えば、プレゼンテーションの技術を磨きたいのであれば、同じテーマで400回練習してみる。

プログラミングのコードを書きたいのであれば、同じような処理を400回書いてみる。

スポーツのスイングを改善したいのであれば、400回素振りをする。

そこまで徹底的に繰り返せば、その行為はもはや「意識して行う作業」ではなく、「無意識に行える習慣」へと変わるだろう。

思考が行動に直結し、体が自然に動く。いわゆる「熟達」の境地である。この「400回」という数字は、単なる精神論ではなく、確率論的な裏付けを持つと考えることもできる。

例えば、成功率がわずか1%しかない困難な挑戦があったとしよう。一度の失敗で諦めれば、成功確率はもちろん0%だ。

しかし、この挑戦を何度も繰り返したらどうなるだろうか。

失敗する確率は99%(0.99)である。
成功確率を計算する式は、1 – (0.99)^n、であり、nは試行回数となる。

この式に、いくつかの数字を当てはめてみよう。100回挑戦した場合、少なくとも1回成功する確率は、約63.4%にまで上昇する。

そして、試行回数を459回まで増やすと、その確率は約99.1%となり、ほぼ確実に成功する領域に達する。

もちろん、これは単純な確率計算であり、ビジネスや自己成長のすべての側面に当てはまるわけではない。

しかし、試行回数を増やすことが、成功の確率を劇的に高めるという原理は、紛れもない事実である。

「400回」。

それは、相手を変え、自分を変え、そして未来を変えるための、途方もないが、しかし確実な成功の回数なのである。

諦めずに繰り返し続けること。その地道な努力こそが、気絶するほどの成果を生み出すための、隠された絶対法則なのかもしれない。

上記の確率の話は、こちらの記事「成田修造『逆張り思考』要約・感想」で詳しく触れられている。

本書の総論:ビジネスの基礎を固める最強の羅針盤

ここまで、『気絶するほど儲かる絶対法則』に記されたいくつかの重要な法則について掘り下げてきた。

本書を読み終えて、ある種の読者はこう感じるかもしれない。「書かれていることは理解できるが、そこまで斬新な内容ではなかった」と。

確かに、本書で語られる一つひとつの法則は、どこかで聞いたことがあるような、ビジネスにおける「基本」や「常識」に近いものが多い。

派手な成功事例が次々と紹介されるわけでも、すぐに使える魔法のテクニックが網羅されているわけでもない。

しかし、その「初歩的」とも思える内容こそが、本書の最大の価値であると、私は断言したい。本書は、一発逆転を狙うための起爆剤ではない。

むしろ、ビジネスという大海原で道に迷わないための、正確無比な「羅針盤」なのである。

多くの企業や個人がなぜ失敗するのか。

その根本的な原因は、奇策に走りすぎたり、流行に流されたりして、この「羅針盤」が示す基本の方向を見失ってしまうことにある。

  • 顧客との関係を築くことよりも、目先の売上を追いかけてしまう。
  • 自社の強みを磨くことよりも、競合の真似ばかりしてしまう。
  • 地道な努力を続けることよりも、安易な成功を夢見てしまう。

石原明は、そんなビジネスの「病」に陥りがちな私たちに、平易で、力強い言葉で、常に立ち返るべき原理原則を示してくれる。

彼の言葉は、複雑化する現代ビジネスにおいて、物事の本質を見抜くための、鋭い切れ味を持ったメスのようなものだ。

本書は、これからビジネスを始めようとする人にとっては、最高の入門書となるだろう。

難しい専門用語を避け、誰にでも分かる言葉で商売の核心が語られているため、最初に読むべき一冊として、これ以上のものはないかもしれない。

同時に、すでにある程度の経験を積んだビジネスパーソンにとっても、本書は多くの気づきを与えてくれる。

日々の業務に追われる中で、忘れかけていた「基本」を再確認させてくれる。自分のビジネスが、原理原則から外れていないかをチェックするための、優れた試金石となるのだ。

著者の石原明は、本書の先に、より専門的な研修やコンサルティングサービスを用意していたのかもしれない。

そういった意味では、本書は彼の壮大なビジネスモデルへの入り口であったとも考えられる。

しかし、そうだとしても、本書単体で提供される価値が損なわれることは全くない。むしろ、これだけの本質的な知見を、一冊の書籍という形で広く公開した彼の姿勢には、敬意を表すべきだろう。

もし、あなたがビジネスの成長に悩み、進むべき方向を見失いかけているのなら、ぜひ本書を手に取ってみてほしい。

『気絶するほど儲かる絶対法則』は、あなたの足元を固め、未来への確かな一歩を踏み出すための、力強い伴走者となってくれるはずである。

まとめ:石原明から学ぶ、普遍的で強力な成功法則

今回は、経営コンサルタント石原明の著書『気絶するほど儲かる絶対法則』を、多角的な視点から徹底的に解説した。

本書は、扇情的なタイトルとは裏腹に、ビジネスにおける極めて普遍的で本質的な成功法則を、誰にでも分かる平易な言葉で解き明かした名著である。

  • 世界を「自分のための実験場」と捉える視点の転換。
  • 「感謝してさらに要求する」という持続的成長のサイクル。
  • ユーザーではなく「ファン」としての顧客を創造するマーケティング。
  • 「名簿は現金」という、顧客との関係構築の重要性。
  • 「よさそうに見せる」という、購買決定の真理。
  • そして、「400回繰り返す」という、教育と自己成長の原則。

これらの法則は、どれも小手先のテクニックではない。時代や業種を超えて通用する、ビジネスの根幹を成す考え方である。

ビジネスの世界は、常に新しい理論やトレンドが生まれては消えていく、変化の激しい場所だ。

しかし、そんな激流の中にあっても、決して揺らぐことのない「幹」となる部分が確かに存在する。石原明が本書で語っているのは、まさにその「幹」の部分に他ならない。

彼の言葉は、シンプルであるがゆえに、力強い。そして、本質的であるがゆえに、応用範囲が広い。

もし、あなたが自身のビジネスやキャリアにおいて、確かな成果を求め、本質的な成長を遂げたいと願うのであれば、本書に記された「絶対法則」は、必ずやあなたの力となるだろう。

一読すれば、ビジネスを見る目が、そして世界を見る目が、少し変わっていることに気づくはずだ。

書籍紹介

関連書籍