- 独自の価値で競争を回避
- サービス単位のブランド戦略
- 特定の顧客への深い訴求
- 三位一体のチーム編成
小出正三の略歴・経歴
小出正三(こいで・しょうぞう、1963年~)
マーケター。経営者。
新潟県長岡市の生まれ。国際基督教大学教養学部社会科学科を卒業。
大広、マッキャンエリクソン、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンなどの外資広告代理店に勤務。
専門は消費者調査、コンセプト開発、ブランド開発・管理に関わる教育及びコーチング。
『ガバガバ儲けるブランド経営』の目次
この本を開いたあなたへ
PART 1 「儲けの論理」をつかめ ブランドが見せる21世紀の儲け
第1章 20世紀と21世紀の間に儲けの断層がある
第2章 高価格への挑戦
第3章 高品質・高生産性への挑戦
第4章 ブランドの定義
PART 2 「ブランド」を設定しよう 客単価アップの実践
第1章 「何」に名前を付けるのか?
第2章 名付けの「単位」は?
第3章 「ソリューション」に名前を付ける
第4章 「メソッド」に名前を付ける
第5章 「お客さま」に名前を付ける
第6章 「場」に名前を付ける
PART 3 「ブランディング」を整備しよう 品質アップ・生産性アップの実践
第1章 「誰」にやらせるのか?
第2章 「バカ者」
第3章 「キレ者」
第4章 「ヨソ者」
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『ガバガバ儲けるブランド経営』の概要・内容
2005年11月10日に第一刷が発行。株式会社サイビズ。206ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。
副題は“コスト0円で「儲け体質」に会社を変える”。
『ガバガバ儲けるブランド経営』の要約・感想
- 『ガバガバ儲けるブランド経営』流の賢い稼ぎ方とは?
- 時代の変化が生んだ「儲けの断層」を理解する
- 競争からの脱却:「ビジネス幅の設定」という妙手
- 企業名よりサービス名?「儲け」視点のブランド活用
- 狙い撃ち戦略:特定顧客を魅了するブランド構築
- ブランディングを駆動する三位一体の人材
- 「バカ者」「キレ者」「ヨソ者」という名の才能
- 「差別化」と「ブランド」の決定的な違いを認識する
- 設立趣意書に宿るブランドの原点と求心力
- まとめ:『ガバガバ儲けるブランド経営』から未来を切り拓く
『ガバガバ儲けるブランド経営』流の賢い稼ぎ方とは?
「もっと利益を伸ばしたいけれど、どうすれば良いのだろうか」「価格競争に巻き込まれず、独自の価値で勝負したい」そう考える方は少なくないだろう。
現代のビジネス環境は変化が激しく、従来の成功法則が通用しにくくなっている。
そんな中、確固たるブランドを築き上げ、安定した収益を目指すための指南書として注目したいのが、小出正三(こいで・しょうぞう、1963年~)による著書『ガバガバ儲けるブランド経営』である。
本書は、21世紀の「儲けの論理」を解き明かし、実践的なブランド構築法を提示する一冊だ。
小出正三は、経営者であり、消費者調査、コンセプト開発、ブランド開発・管理に関する教育やコーチングを専門としている。
新潟県長岡市に生まれ、国際基督教大学教養学部社会科学科を卒業後、大広、マッキャンエリクソン、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンといった名だたる外資広告代理店でキャリアを積んできた。
その豊富な経験に裏打ちされたブランド戦略論は、多くの企業にとって新たな視点を与えてくれるはずである。
この記事では、『ガバガバ儲けるブランド経営』の中から、特に現代のビジネスパーソンにとって示唆に富むポイントを抽出し、その核心に迫っていく。
時代の変化が生んだ「儲けの断層」を理解する
本書のPART 1「『儲けの論理』をつかめ ブランドが見せる21世紀の儲け」では、まず20世紀型のビジネスモデルと21世紀型のビジネスモデルの間には大きな「儲けの断層」が存在すると指摘する。
大量生産・大量消費を前提とした薄利多売の戦略は過去のものとなりつつあり、これからは独自の価値を提供し、適正な価格で利益を確保する高価格への挑戦が求められる。
また、単に高品質な製品やサービスを提供するだけでなく、高い生産性を維持することの重要性も説かれている。
そして、これらを実現するための鍵となるのが「ブランド」の確立である。
ブランドとは何か、その本質的な定義についても、このパートで深く掘り下げられている。
時代の変化を的確に捉え、新しい儲けの仕組みを構築するための土台となる考え方を、ここでまず理解することが肝要である。
競争からの脱却:「ビジネス幅の設定」という妙手
「何に名前を付けるのか?」という問いから始まるこのセクションでは、ブランド構築における根本的なアプローチが示される。
ブランドづくりにとって優先されるのは、他社と比較されない(つまり、ブランド相互の比較を不可能にするような)、実体のある「ビジネス幅の設定」です。(P.89:PART 2「ブランド」を設定しよう・第1章 「何」に名前を付けるのか?)
これは非常に重要な指摘である。他社と同じ土俵で性能や価格を競うのではなく、そもそも比較の対象とならない独自の領域を創造することが、ブランド戦略の第一歩となるのだ。
例えるなら、それは自分だけの競技場を作り、そこで自分に有利なルールを設定するようなものである。
スターバックスのドリンクサイズの呼称「ショート」「トール」「グランデ」「ベンティ」などが、一般的なS・M・L表記と異なるのは、まさにこの「比較されない」状況を作り出すための一つの工夫と言えるだろう。
顧客は他店のサイズ表記と単純比較できなくなり、スターバックス独自の価値基準の中で商品を選ぶことになる。
このように、比較不可能な状態を作り出すことで、価格競争から距離を置き、独自の価値を顧客に訴求することが可能になるのである。
目指すべきは、競争のない市場、つまり独占的なポジションの確立だ。
企業名よりサービス名?「儲け」視点のブランド活用
ブランドを冠する対象として、企業名、つまりコーポレートブランドと、製品やサービス名、つまりプロダクトブランドやサービスブランドのどちらを優先すべきか、という議論は尽きない。
この点に関して、著者は明確な指針を示す。
さて企業ブランドを使うべきか、使わざるべきか。それは、企業の自由ですが、少なくとも「儲け」を主体に考えるならば、企業ブランドは使うべきではありません。(P.94:PART 2「ブランド」を設定しよう・第1章 「何」に名前を付けるのか?)
この主張の背景には、いくつかの理由が存在する。
大企業の場合、事業部やサービス単位でブランドを独立させることにより、組織の視線が社内(上司)向きから顧客向きへとシフトしやすくなる。
官僚的な意思決定プロセスを避け、市場の変化に迅速に対応できるようになるのだ。
一方、中小企業にとっては、新しいビジネスへの挑戦のしやすさが大きなメリットとなる。
企業名という大きな看板を背負うのではなく、個別のサービス名でブランド展開することで、フットワーク軽く新規事業に取り組むことができる。
万が一、その事業が期待通りに進まなかったとしても、企業全体のイメージダウンを最小限に抑えることが可能だ。
逆に、事業が成功し、将来的に売却を考える際にも、サービス単位のブランドの方がスムーズに進む場合が多い。
このように、特に「儲け」を重視するならば、企業ブランドよりもサービスごとのブランドを前面に出す戦略が有効なのである。
狙い撃ち戦略:特定顧客を魅了するブランド構築
ブランド戦略において、「誰に買ってほしいのか」というターゲット設定は極めて重要だ。
本書では、「お客さまに名前を付ける」というユニークな表現で、顧客ターゲティングの重要性を説いている。
たとえば、あなたは「源吉兆庵」という和菓子屋をご存じでしょうか?(P.132:PART 2「ブランド」を設定しよう・第5章 「お客さま」に名前を付ける)
ここで例として挙げられている宗家・源吉兆庵(そうけ・みなもときっちょうあん)は、非常に巧みなブランド戦略を展開している和菓子屋である。
1947年に岡山県で創業し、1977年に株式会社として設立された比較的新しい企業ながら、国内外で高い評価を得ている。その成功の秘訣の一つが、明確な顧客ターゲティングだ。
源吉兆庵は、「国内外の趣味人」という特定の顧客層を狙い撃ちしている。
その象徴的な取り組みが、古都・鎌倉に美術館併設の本店を構えていたことである。
これは単なる和菓子の販売に留まらず、日本の伝統文化や美意識といった価値観を共有する顧客層への強いアピールとなっていた。
2013年には岡山にも吉兆庵美術館が開設。2025年に鎌倉の吉兆庵美術館は老朽化のため閉館。
さらに、銀座、日本橋といった国内の主要都市の一等地だけでなく、ロンドン、ニューヨーク、パリ、シンガポール、台北、香港など、海外の主要都市にも積極的に店舗を展開。
日本の四季折々の風情を映した和菓子を通じて日本文化を発信している。
このような戦略は、まさしく「特定のお客さま」に深く刺さるブランド体験を提供することで、熱心なファンを獲得し、高い収益性を実現している好例と言えるだろう。
闇雲に全ての人にアピールするのではなく、自社の価値を最も理解してくれる顧客層を見定め、その心を掴むことがブランド成功の鍵なのである。
ブランディングを駆動する三位一体の人材
ブランド構築を効果的に進めるためには、どのような役割分担が必要なのだろうか。著者は、ブランディングに関わる人材を三つのタイプに分類する。
ブランディングを展開するには、次に上げる三つの役割が必要になります。
①「個の価値観を提示できる」企画者
②価値観を「やる気や熱意に転換できる」管理者
③「お客さまの目(主観)をフィードバックできる」観測者(P.167:PART 3「ブランディング」を整備しよう・第1章 「誰」にやらせるのか?」)
これらの役割は、単なる人事配置ではなく、戦略的な「キャスティング」として捉えるべきだと著者は述べる。
それは、ブランディングという創造的な活動において、それぞれの才能が最大限に発揮されるような適切な配置こそが成功の鍵を握るからだ。
従来の組織論とは異なる視点から人材を見つめ直し、プロジェクトを推進するエンジンとして機能させる必要がある。
「バカ者」「キレ者」「ヨソ者」という名の才能
前述の三つの役割は、さらにユニークな呼称で言い換えられる。
このネーミングセンス自体が、既成概念にとらわれないブランド的思考の表れと言えるかもしれない。
「バカ者」=「オリジナルな価値観を提示できる」企画者
「キレ者」=価値観を「やる気や熱意に転換できる」管理者
「ヨソ者」=「お客さまの目(主観)をフィードバックできる」観測者(P.169:PART 3「ブランディング」を整備しよう・第1章 「誰」にやらせるのか?)
「バカ者」とは、常識にとらわれず、他人から見れば突拍子もないようなアイデアや独自の価値観を打ち出せる人物を指す。彼らの存在なくして、新しいブランドの種は生まれない。
「キレ者」とは、その「バカ者」が生み出した価値観を具体的な形にし、組織全体のモチベーションを高め、プロジェクトを力強く推進していく管理者のことである。
情熱と実行力を兼ね備えたリーダーシップが求められる。
そして「ヨソ者」とは、常に顧客の視点を持ち、ブランドが提供する価値が本当に顧客に届いているか、独りよがりになっていないかを客観的に観察し、フィードバックする役割を担う。
社内の論理ではなく、外部の新鮮な目で評価することが重要となる。
これら三者がそれぞれの役割を全うし、連携することで、ブランドは生命力を持ち、成長していくのである。それぞれの特徴や具体的な動き方については、本書でさらに詳しく解説されている。
「差別化」と「ブランド」の決定的な違いを認識する
ブランド構築においてよく聞かれる言葉に「差別化」がある。しかし、著者はこの二つを明確に区別する。
差別化とブランドは違う(P.172:PART 3「ブランディング」を整備しよう・第2章 「バカ者」)
一般的に「差別化」とは、競合他社との違いを際立たせることを目的とする。
しかし、それはあくまで他社と同じ土俵の上で、既存のルールの中で優位性を示そうとする行為に過ぎない。例えば、価格の安さ、機能の多さ、品質の高さといった軸で比較されることが多いだろう。
それに対して「ブランド」とは、自分自身で土俵を作り上げ、その土俵において自分に有利な独自のルールで戦うことだと著者は定義する。
つまり、他社との比較ではなく、自らの強みを最大限に活かせる市場を選び、独自の価値を持つ製品やサービスを提供することに主眼が置かれる。
これは、先に述べた「比較されないビジネス幅の設定」にも通じる考え方だ。
真のブランド構築とは、単に他と違うことを目指すのではなく、自分だけの価値基準を創造し、それを顧客に認めてもらう活動なのである。
そのためには、自社の核となる強みを見極め、それを最も評価してくれる市場で、独自の物語を語ることが不可欠となる。
設立趣意書に宿るブランドの原点と求心力
本書のPART 3では、ソニーやベネッセ、ユニクロといった名だたる企業の設立趣意書や行動指針が紹介されている箇所があり、これが非常に興味深い。
これらの文書には、創業者の情熱や企業が目指すべき理想像、社会に対する約束などが凝縮されており、ブランドの根幹を成すDNAとも言える。
一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設(ソニーの設立意見書・会社設立の目的)
Benesse それはあなたの「よく生きる」をともに考え、創り出していくこと(ベネッセコーポレーション)
ユニクロは、あらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする新しい日本の会社です。(ユニクロ、ファーストリテイリング)
※本書の刊行当時のもの。
設立趣意書や行動指針は、単なるお題目ではない。組織のメンバーが同じ方向を向いて進むための羅針盤となり、日々の業務における判断基準となる。
また、困難に直面したり、進むべき道に迷ったりした際には、原点に立ち返り、自らの存在意義を再確認するための拠り所ともなるだろう。
このような理念や価値観を明確に言語化し、組織内外に共有することは、強力な求心力を生み出す。
同じ志を持つ人材が集まりやすくなり、一体感のある組織文化が醸成される。そして、その一貫した姿勢が顧客からの信頼と共感を呼び、強固なブランドイメージへと繋がっていくのである。
本書のタイトルは一見すると非常に直接的で大胆であるが、その内容は、このようなブランドの本質に迫る深い洞察に満ちている。
まとめ:『ガバガバ儲けるブランド経営』から未来を切り拓く
『ガバガバ儲けるブランド経営』は、小出正三の豊富な経験と鋭い分析に基づき、21世紀におけるブランド戦略の要諦を分かりやすく解説した一冊である。
変化の激しい現代において、いかにして独自の価値を創造し、持続的な成長を遂げるか。そのための具体的なヒントと勇気を与えてくれるだろう。
本書で語られる「比較されない土俵作り」、「サービス単位のブランド展開」、「特定顧客への集中」、「バカ者・キレ者・ヨソ者によるチーム編成」、そして「ブランドと差別化の本質的な違い」といったコンセプトは、業種や規模を問わず、あらゆるビジネスに応用可能な普遍性を持っている。
また、設立趣意書や行動指針の重要性に触れている点は、単に儲けるためのテクニックに留まらず、企業や事業の存在意義という根源的な問いにも光を当てる。
自社の「らしさ」とは何か、社会にどのような価値を提供したいのかを深く考えるきっかけとなるはずだ。
もし、あなたが日々のビジネスの中で、価格競争の激化や差別化の難しさに直面しているのであれば、本書を手に取り、じっくりと読み解いてみることを強くお勧めする。
きっと、停滞感を打破し、新たな成長軌道を描くための道筋が見えてくるに違いない。ブランドという強力な武器を手に、未来の市場を切り拓くための第一歩を踏み出そう。
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