上出遼平『ありえない仕事術』

上出遼平の略歴

上出遼平(かみで・りょうへい、1989年~)
テレビディレクター、プロデューサー、作家。元テレビ東京。東京都の生まれ。早稲田大学法学部を卒業。2011年にテレビ東京に入社。2022年に退社。

『ありえない仕事術』の目次

はじめに
第一部 そもそも「仕事」とどう向き合うべきか
〔総論〕その成功の先に幸福は用意されているか
あなたは天才ではなく、奇跡は起きず、歳ばかりとる
ズルはしない方がいい
無駄なものなど存在しない
すべての原因は睡眠不足にある
「飲み」は控えよう
その仕事は結局、誰のためになされるべきなのか
〔各論〕「世界は私に興味をもっていない」から始めよう
入口は欲望によって開かれる
他者の欲望を知りたい欲望
伝家の宝刀「Q&A」
そのことはあなたしか知らない
なぜドキュメンタリーが求められ始めているか
生き残るのは真実
言葉をどう扱うか
カメラの存在
第二部 ドキュメンタリーシリーズ『死の肖像』
「死」をテーマとする意味
チーム編成
取材対象の検討
取材許諾取付
ファーストコンタクト
撮影プラン
進捗報告
事件の発生
責任の所在
番組の成功
課題の整理
一人を対象とする危険
取材交渉
罪と謝罪
泊まり込んでカメラを回す
ゴールの設定
カメラを持たない時間
生きるか死ぬかを選ぶこと
家族の声を聞く
秘密を知ってしまった時
ハゲワシとドキュメンタリー
取引
人を殺すこと
積み上がる成功
疑惑の浮上
刺激の不足
処理
帰省
家族の苦しみ
終わりの始まり
拘置所にて

あとがきにかえて

『ありえない仕事術』の概要

2024年2月29日に第一刷が発行。徳間書店。326ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。

副題は「正しい“正義”の使い方」。

『ありえない仕事術』の感想

上出遼平を知ったのは何だったのか。恐らくテレビ番組の「ハイパーハードボイルドグルメリポート」か。

その後に書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を読む。

映像とはまた一味違った文章による作品。とても良かった。

その後は定期的に動きは観測していたけれど、あまり自分の情報アンテナには入って来なかった。

多分、同じく元テレ東のプロデューサー・佐久間宣行(さくま・のぶゆき、1975年~)関連を調べていたら、上出遼平の新しい書籍が出ると知る。

しかも、仕事術!

何だかちょっと違和感というか、あまりそういったイメージがなかったので、意外な感じがした。

口コミとか調べてみたら好評、しかもちょっと「匂わせ」というか、「何か」あるような作品、ということまで分かった。

俄然、興味が湧いて、速攻で購入。

読む。

面白い。色々と面白い!

といのがこの『ありえない仕事術』である。

先述の佐久間宣行に加えて、テレビ東京の先輩である伊藤隆行(いとう・たかゆき、1972年~)、高橋弘樹(たかはし・ひろき、1981年~)も書籍を出している。

『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』
『佐久間宣行のずるい仕事術』
『TVディレクターの演出術』

しかも、この4人は、全員が早稲田大学を卒業している。共通項がなかなか面白い。

佐久間宣行、高橋弘樹、上出遼平と、3人はテレビ東京を退社しているし。

取り敢えず、内容に入っていく。

私は今、完全にとは言わないまでも、競争の原理から距離をとって生きることができています。依頼されたら本を書き、雑誌の連載をし、企業のブランディングの相談を受け、洋服を作り、映像を作っている。(P.20:第一部 そもそも「仕事」とどう向き合うべきか・〔総論〕その成功の先に幸福は用意されているか)

雑誌の連載とかは想像がついたけれど、企業のブランディングとか洋服を作るとかは、全く知らなかった。そんなことまでやっているのか。

あとは文章から、それなりの読書量も分かるし、文章を書き慣れていることも分かる。そして、文才が有ることも。

後からドキュメンタリーの手法が、他業種で使われやすくなっているという話も。真実の強さか。

事実、私も入社半年ほど経った時に突然限界を感じ、東京タワーの足元にあった編集所から逃げ出し新幹線に飛び乗って京都に行ったことがあります。(P.29:第一部 そもそも「仕事」とどう向き合うべきか・無駄なものなど存在しない)

これは驚いた。こんな経験もしていたのか。

佐久間宣行も、ポッキリと折れたことがあると言っていたしな。テレビ業界は特に凄まじい体力が必要と言うし。

いやはや、凄い。

佐久間宣行や上出遼平の才能はもちろんではあるが、では現在もテレビ東京に残って出世していく人たちは、もっとヤバい体力とか精神力を持っているのだろうか。

テレビ東京に残って出世をしていった伊藤隆行が一番ヤバいということか。

でも、伊藤隆行の本でも、最後に「奥さん」の文章が掲載されていて、伊藤隆行がお風呂場でシャワーを浴びながら叫んでいることもある、みたいな話があったしな。

うーん、凄い世界だな。

あなたにも私にも、世間は一ミリも興味を持っていない。だから、人の欲望を利用する。欲望をくすぐり、振り向いてもらう。振り向いてもらったら、逃さない。そのためには問いを立てる。(P.67:第一部 そもそも「仕事」とどう向き合うべきか・伝家の宝刀「Q&A」)

そして、問われた読者は、答えが知りたくなるので、そのまま捕らえられ続ける。これが、マス・コミュニケーションの原則、基本的な思考法だというもの。

ここでは、欲望を上手く利用して作品づくりをしている、先輩である高橋弘樹の話も。

人の欲望を使う。捕らえる。逃さない。

そして、問いと答えと問いと答えと…の繰り返し。

欲望を捕らえるか。これはビジネスでしっかりと意識しておかないといけないな。商品・サービスづくり。広告・広報と、色々と役立ちそうだ。

端的に言って、自分をいかに疑い続けることができるかこそが、優秀な作り手とそうでない作り手を隔てる大いなる溝なのです。(P.75:第一部 そもそも「仕事」とどう向き合うべきか・そのことはあなたしか知らない)

常に自分を疑い続ける。大変だし、ストレスフルで、コストもかかる、時間や費用が必要。

でも、それがプロ、という結論。

自分に正直である、という感じでも良いのかも。いつだって、自分は自分を見ているわけだから。

ただあまりにも自己満足というか、オーバースペックの商品やサービスになってはいけないけれど。

相手の要求の少し上を目指す。もしくは、物差しの異なるプラス・アルファを加える。

「セリフ」を捨て、その代わりにどのような状況を作れば、狙った「言葉」や「表情」が発せられるのかを考えよう。それが受け手から嘘くさいと思われないための第一歩です。(P.87:第一部 そもそも「仕事」とどう向き合うべきか・言葉をどう扱うか)

脚本で、台詞を言わせるのではない。演出で、状況を設定させて、言わせる、もしくは表情・行動させる。

すると、嘘くさくないものが出来上がる。他の仕事でも使えそうだな。

だからと言って簡単ではないけれど。インタビューとかでも結構、誘導尋問ぽくなる場合もあるしなぁ。

ただ交渉とかで上手く活用すれば良いのか。でも自分が誘導されたら、めっちゃ嫌だけど。分かった瞬間に反故にしそう。

気分良い状況を作るようにすれば問題は無いか。

ここまでが第一部。

そして、第二部が始まる。ここからは物語形式。

普段、小説とか読んでいない人でも、読みやすいと思う。それくらいの筆力がある。物語の吸引力も素晴らしいと思う。

というわけで、第一部がビジネス書的な仕事術、第二部が物語といった構成の本。

上出遼平の好きな人や、ビジネス書が好きな人、あるいは一般的なビジネス書に飽きている人には非常にオススメの本である。

ちなみに、伊藤隆行や佐久間宣行、高橋弘樹の本もオススメなので、続けて読むの良いかも。

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