『急に売れ始めるにはワケがある』マルコム・グラッドウェル

マルコム・グラッドウェルの略歴

マルコム・グラッドウェル(Malcolm Timothy Gladwell、1963年~)
カナダ人のジャーナリスト、作家。
イギリスのハンプシャー州の生まれ。カナダのトロント大学トリニティ・カレッジを卒業。
『ワシントン・ポスト』や『ニューヨーカー』などで執筆。著書、多数。

『急に売れ始めるにはワケがある』の目次

はじめに ティッピング・ポイントとは何か?
第1章 爆発的感染、その3原則
ティッピング・ポイントへ至る指針
第2章 「80対20の法則」から「少数者の法則」へ
感染をスタートさせる特別な人々
第3章 粘りの要素
情報を記憶に残すための、単純かつ決定的な工夫
第4章 背景の力
人の性格に感染する背景
第5章 「150の法則」という背景
人の行動に感染する効果的な集団の規模
第6章 商品はどのようにして感染するのか?
エアウォーク社の販売戦略から学ぶこと
第7章 自殺と禁煙
ティーンエイジャーの感染的行動の謎を探る
第8章 ティッピング・ポイントを押せば世界は傾く
焦点をしぼること、実験すること、そして信念を持つこと
解説 小阪裕司

概要

2007年6月30日に第一刷が発行。ソフトバンク文庫。357ページ。

流行現象を感染や伝染として捉えて、どのような仕組みで広がっていくのかを解説。一気に広がるその瞬間をティッピング・ポイントとして定義。

副題は「ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則」。

原題は『The Tipping Point: How Little Things Can Make a Big Difference』

2000年3月に飛鳥新社から刊行した単行本を文庫化したもの。

訳者は、高橋啓(たかはし・けい、1953年~)。北海道帯広市の出身で、早稲田大学第一文学部を卒業。フランス語と英語などの翻訳に従事。

解説は、経営コンサルタントの小阪裕司(こさか・ゆうじ、生年非公表)。大阪府生まれ、愛知県名古屋市で育つ。山口大学人文学部人文学科美学・美術史専攻を卒業。

経営コンサルタントとして独立後に、工学院大学大学院後期博士課程を修了し、情報学の博士号を取得した人物。

「はじめに」でティッピング・ポイントの定義や内容、具体例を解説。

第2章で、爆発的な感染の原則を3つ紹介。“少数者の法則”、“粘りの要素”、“背景の力”。

第2章~第8章で、それぞれのメカニズムの詳細を考察していくという構成。

感想

マルコム・グラッドウェルの本は、割りと好きで『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』『天才!成功する人々の法則』などは読んでいる。

その流れで読んだ、この著作。

目次の前のページで、既にティッピング・ポイントを解説というか、定義してしまう。

【ティッピング・ポイント】THE TIPPING POINT
あるアイディアや流行もしくは社会的行動が、敷居を越えて一気に流れ出し、野火のように広がる劇的瞬間のこと。

扉と目次の間のページに、上記の文章が掲げられる。

そして、目次があり、「はじめに」に入っていく。

「はじめに」は、12~26ページまでで、5つの項目に分かれて、さらにティッピング・ポイントが何であるのかを、具体的に解説。

ありきたりのような靴の流行、ニューヨークの犯罪の現象を例としながら。他にも、さまざまな分野を簡単に総括。

最初に、ティッピング・ポイントの3つの原則も紹介する。

“少数者の法則”、“粘りの要素”、“背景の力”。

“少数者の法則”は、社交性や影響力のある少数の人物がキーパーソンであるということ。

“粘りの要素”は、記憶への定着、意識の持続性ということ。

“背景の力”は、環境や条件のこと。

これらのメカニズムが、組み合わさって、一気に物事が拡大するティッピング・ポイントを迎える。

著者が強調したい部分は、太字になっているので、読みやすさが増しているかもしれない。

ちなみに、tipには“傾く”という意味がある。

先述した3つの原則をザックリと要約すると、コミュニティー内のインフルエンサーを抑えるということ。

その人物がティッピング・ポイントの大きな要素である。

この辺りは、身近な人物や人間関係などを考慮すると分かりやすい部分である。

その他に、ティッピング・ポイントの分析に付随して、興味深い内容も多い。

「就学前の子供の世界を考えてみると、彼らは自分の理解できないもの、いつも目新しいものに取り囲まれているのです。ということは、就学前の子供を動かす力は、年長の子供のように新しいものを探すことにはなく、むしろ理解と予測を求めているのです」とアンダーソンは言う。(P.173:第3章 粘りの要素)

アメリカの子供向けのテレビ番組づくり携わった人物がアンダーソン。

徹底した研究や調査をしながら、番組づくりを実施。

そして、上記のような事が分かった。

就学前の子供は、何を見ても全てが新しい。そのために、新しいものではなく、まずは、理解を求める。そして、分かっているもの、知っているものから、予測を求める。

上記のような段階がある。

年長の子供になると、知っているものと新しいものが、程よい比率の世界となり、新しいものをより求めるという方向性。

番組の製作というか、番組の放送としては、就学前の子供たち向けに、同じ内容の番組を繰り返し放送するのは、非常に効果的であるということ。

実際、ダンバーはほとんどの霊長類に当てはまる公式をあみだしている。この公式は、それぞれの種に特有の新皮質率――脳全体の大きさに対して新皮質の占める割合――と呼ぶものと結び合わせて、その霊長類が最大どれくらいの規模の集団生活を営んでいるかを算出するものである。新皮質率をホモ・サピエンスに当てはめると、一四七・八人、――ほぼ一五〇人――という結果が出る。(P.242:第5章 「150の法則」という背景)

イギリス人の人類学者であるロビン・ダンバー(Robin Ian MacDonald Dunbar、1947年~)の調査の結果。

脳全体に対する新皮質の割合から出る数字、147.8人。

約150人というのが、一般的に1人の人間が一定の深さの交流を維持できる人数。

この150人という一つの単位。

農業や工業、または軍事的な集団などでも、よく見られる数字というのが面白い。

ティッピング・ポイントのメカニズムに関連した様々な要素も、とても興味深い内容である。

認知バイアス、認知心理学、マーケティングなどに関心の高い人には非常にオススメの本である。

書籍紹介

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トロント大学トリニティ・カレッジ

トロント大学(University of Toronto)は、カナダのオンタリオ州にあるトロントに本部を置く州立大学。1827年の創立。

公式サイト:トロント大学トリニティ・カレッジ