『マイケル・ポーターの競争戦略〔エッセンシャル版〕』ジョアン・マグレッタ

ジョアン・マグレッタの略歴

ジョアン・マグレッタ(Joan magretta、1948年~)
作家、編集者。
ミシガン大学で文学博士号を取得後、ハーバード・ビジネス・スクールで経営学修士号を取得。
ペイン・アンド・カンパニーのパートナーを経て、『ハーバード・ビジネス・レビュー』の戦略担当編集者として、1990年代初頭からマイケル・ポーターと数多くの仕事を共にする。

マイケル・ポーターの略歴

マイケル・ポーター(Michael Porter、1947年~)
アメリカの経営学者。
ミシガン州アナーバーの生まれ。プリンストン大学航空宇宙機械工学科を卒業。ハーバード大学で、経営学修士号を、ハーバード大学経営大学院で、経済学博士号を取得。

『マイケル・ポーターの競争戦略〔エッセンシャル版〕』の目次

謝辞
はじめに
Ⅰ 競争とは何か?
第1章 競争 正しい考え方
第2章 五つの競争要因 利益をめぐる競争
第3章 競争優位 バリューチェーンと損益計算書
Ⅱ 戦略とは何か?
第4章 価値創造 戦略の核
第5章 トレードオフ 戦略のかすがい
第6章 適合性 戦略の増幅装置
第7章 継続性 戦略の実現要因
終章 本書の実践的な意味
よくある質問:マイケル・ポーター インタビュー
ポーターを読み解くための基本用語集
注釈と出典
索引

概要

2012年9月25日に第一刷が発行。早川書房。ハードカバー。127mm×188mm。四六判。318ページ。

マイケル・ポーターの研究について、戦略と競争に絞り、経営者や管理職に向けて、端的にまとめた著作。

原題は、『UNDERSTANDING MICHAEL PORTER: The Essential Guide to Competition and Strategy』

原著は、2011年12月6日に刊行されている。

翻訳者は、櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)。京都大学経済学部経済学科を卒業。大手都市銀行に勤務しながらオックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得した人物。

「競争とは何か?」「戦略とは何か?」の二つに大きく区分された構成。

「はじめに」は、「なぜいまポーターなのか?」「なぜ私が?」「大いなる飛躍」「各章のロードマップ」「本書でとりあげる事例に関する注意書き」。

上記により、この著作の内容や想定読者、全体の概要などが、俯瞰的に紹介される。

想定読者は経営者と管理職、そして彼らに助言を与え共に働く人たちだ。(P.15「はじめに」)

このように、想定読者も明確にしている。

感想

マイケル・ポーターは、アメリカの経営学者。その著作のエッセンシャル版である。

名前は知っていたが、今まで一度も読んでいなかったので、取り敢えず、エッセンシャル版からということで、読んでみた。なかなか面白かった。

エッセンシャル版でも、相当に深い内容である。

具体的な事例なども織り交ぜて、解説してあるので理解しやすい構成。

53ページには、最高を目指す競争と独自性を目指す競争を比較した表がある。

結論は、最高ではなく、独自性を目指す競争をしなさいというもの。

よく「市場シェア1位」という広告文を見ることがある。市場シェアがあったところで、利益を重視していなければ意味がない。

最高を目指す、つまり、1位を目指してしまう。1位を目指すよりも、収益を高めることの方が大切である。

業界最大手というのも、その言葉だけでは無意味に近いということ。

その手前の45ページには、破綻してしまったゼネラル・モーターズと、継続的な収益を上げているBMWの事例もある。

これらの五つの競争要因――既存の競合企業同士の競争、買い手(業界にとっての顧客)の交渉力、サプライヤーの交渉力、代替品の脅威、新規参入者の脅威――が業界の構造を決定する。(P.56「第2章 五つの競争要因 利益をめぐる競争」)

5つの競争要因は、ファイブフォース、five forcesなどと呼ばれる。

マイケル・ポーターの経営の分析手法の重要な要素のこと。

その分析は、ファイブフォース分析、Porter’s Five Forces Framework、5Fとも呼ばれる。

割高な価格を要求できることが、差別化の本質である。(P.101「第3章 競争優位 バリューチェーンと損益計算書」)

非常に分かりやすいシンプルな言葉。

サービスや事業を維持するためには、利益が必要。

そのためには、顧客に対して、良い意味で割高な価格を提示。最終的に、顧客に納得して、もしくは、喜んで了承してもらうこと。

そのような体制を整えることが差別化。

ちなみに章題にあるバリューチェーンについて。

購買物流 (inbound logistics)、オペレーション(製造)、出荷物流 (outbound logistics)、マーケティング・販売、サービスの5つ。

調達、人材資源管理、技術開発、企業インフラの4つ。

上記、合計9つで構成されるのが、バリューチェーン。前者5つが主活動、後者4つが支援活動に分類される。

第Ⅱ部では、優れた戦略が満たすべき五つの条件を網羅する。五つの条件とは以下の通り。

◎特徴ある価値提案
◎特別に調整されたバリューチェーン
◎ライバル企業とは異なるトレードオフ
◎バリューチェーン全体の適合性(フィット)
◎長期にわたる持続性
(P.133「Ⅱ 戦略とは何か?」)

上記のように、戦略の条件が提示される。

さらに航空会社のサウスウエストについての事例。

基本サービスを限定。便数の増加。繁忙期の価格の上乗せ。閑散期の価格の値引など。

それらなどを組み合わせて、独自の戦略で、継続的に成功しているという逸話。

戦略がなければ、何もかもが重要になってしまう。だが戦略があれば、何が重要かを見きわめられる。(P.248「第7章 継続性 戦略の実現要因」)

これも、とても大切なポイント。

選択と集中と言っても良い。「はじめに」も書かれているが、「何をしないか」に焦点を当てることも大事。

そこで、バリューチェーンの特徴や構成を考える。

当たり前であるが、高収益で低コストの体制を作り上げていく。

全員を満足させるのではなく、ターゲットの顧客を満足させること。

などなど、重要な要素が詰まった著作。

所々、図や表、グラフがあったり、ちょっとしたコラムも差し込まれていたりするので、構成に抑揚がある。

読者を飽きさせない編集の意図も感じられる。

経営者、管理職だけではなく、競争や戦略に対して興味ある人に、非常にオススメの著作である。

マイケル・ポーターの初心者の方、もしくはマイケル・ポーターの考え方を復習した人にも、最適である。

さらに深めていきたい人、エッセンシャル版ではなく最初からガッツリといきたい人は、『[新版]競争戦略論Ⅰ』『[新版]競争戦略論Ⅱ』をチェックしてみては、どうだろうか。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

ミシガン大学:ジョアン・グレッタ

ミシガン大学(University of Michigan)は、アメリカ合衆国ミシガン州立の研究型総合大学。1817年に創立。

公式サイト:ミシガン大学

ハーバード・ビジネス・スクール:ジョアン・グレッタ

ハーバード・ビジネス・スクール(Harvard Business School)は、アメリカのマサチューセッツ州にある1908年に設立のハーバード大学の経営大学院。

公式サイト:ハーバード・ビジネス・スクール

プリンストン大学:マイケル・ポーター

プリンストン大学(Princeton University)は、ニュージャージー州プリンストンに本部を置くアメリカの私立大学。1746年に創立。アイビー・リーグの一つ。

公式サイト:プリンストン大学

ハーバード大学:マイケル・ポーター

ハーバード大学(Harvard University)は、アメリカ合衆国のマサチューセッツ州ケンブリッジに位置する総合私立大学。1636年に創立したアメリカ最古の大学。アイビー・リーグの一つ。

公式サイト:ハーバード大学