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フィリップ・A・フィッシャー『株式投資で普通でない利益を得る』要約・感想

フィリップ・A・フィッシャー『株式投資で普通でない利益を得る』表紙

書籍紹介

  1. 本書は、成長株投資の原則を解説した名著で、徹底した企業調査と周辺情報の収集と長期的な視点に基づいて「普通でない利益」を目指す。
  2. 投資判断の核心は経営陣の資質と企業の生産力・販売力・研究力を見極めることであり、規模や短期的な利益率ではなく未来の成長力を重視。
  3. 株の買い時は優良企業の短期的な下落時、売り時は当初の前提が変わった場合のみで、経済予測や市場の感情・過去チャートに惑わされず忍耐強く保有。
  4. 真の成長株は利益を再投資して複利効果を発揮し、永久保有が理想。時代のトレンドに乗る姿勢と、失敗から学ぶ姿勢が資産形成の鍵。

フィリップ・A・フィッシャーの略歴・経歴

フィリップ・A・フィッシャー(Philip Arthur Fisher、1907年~2004年)
アメリカの株式投資家。
カリフォルニア州サンフランシスコの出身。スタンフォード大学経営大学院を中退。アングロ・ロンドン銀行、証券取引所を経て、1931年に資産運用会社のフィッシャー&カンパニーを設立。
ウォーレン・バフェット(Warren Edward Buffett、1930年~)に影響を与えたことで有名。

『株式投資で普通でない利益を得る』の目次

監修者まえがき
まえがき ――父の本から学んだこと ケネス・L・フィッシャー
父について ケネス・L・フィッシャー
まえがき
第1章 過去から学べること
第2章 「周辺情報利用法」から分かること
第3章 何を買うべきか―株について調べるべき一五のポイント
第4章 どんな銘柄を買うべきか―自分のニーズに合う株を買う
第5章 いつ買うべきか
第6章 いつ売るべきか―そして、いつ売ってはならないか
第7章 配当金をめぐるさまざまな言い分
第8章 投資家が避けるべき五つのポイント
第9章 ほかにも避けるべき五つのポイント
第10章 成長株を探す方法
第11章 まとめと結論

『株式投資で普通でない利益を得る』の概要・内容

2016年8月3日に第一刷が発行。パンローリング。274ページ。ハードカバー。127mm×188mm。四六判。

原題は『Common Stocks and Uncommon Profits』(1960年)。

「まえがき――父の本から学んだこと」「父について」は、フィリップ・A・フィッシャーの三男で投資家のケネス・L・フィッシャー(Kenneth Lawrence Fisher、1950年~)によるもの。

カリフォルニア州サンフランシスコの生まれ、サンマテオの育ち。高校を中退し、カリフォルニア州立工科大学ハンボルト校で林業を学び、1972年に経済学の準学士号を取得して卒業した人物。

監修は、長岡慎太郎(ながおか・しんたろう) 。東京大学工学部原子力工学科を卒業。北陸先端科学技術大学院大学で修士(知識科学)を取得。日米の銀行、投資顧問会社、ヘッジファンドなどを経て、大手運用会社の会社員という人物。

訳者は、井田京子(いだ・きょうこ)。アメリカのマサチューセッツ州のスミス大学を卒業。シティバンク東京支店での勤務を経て翻訳家になった人物。

『株式投資で普通でない利益を得る』の要約・感想

  • 偉大な投資家の息子が語る真実
  • 最高学府で採用される実践的理論
  • 老いとリスクに対する冷徹な視点
  • 市場の罠を避けるための二つの要素
  • 企業の未来を決めるのは規模ではない
  • 経営陣の資質を見極める
  • 企業の心臓部となる三つの力
  • 低い利益率に隠された未来への布石
  • 守りを捨てることによる最強の防御
  • 割安株の限界と成長株の爆発力
  • 配当の罠と再投資の魔法
  • 経済予測という無意味な努力
  • 失敗という最高の教師
  • 絶好の買い場を見極める条件
  • 市場を動かす五つの強力な力
  • 株を手放すべき三つの明確な理由
  • 投資家に求められる処理能力
  • 最も愚かな感情という名の罠
  • 企業が輝きを失う二つの原因
  • 究極の理想形としての永久保有
  • 配当への執着がもたらす逆説
  • 新規事業に潜む未知のリスク
  • 企業の特性に応じた分散投資の考え方
  • ポートフォリオ構築の具体的な指針
  • 有事の際の冷徹な投資行動
  • 過去の株価チャートという亡霊
  • 事実と市場の感情の狭間で
  • 15のポイントを調べる前の予備段階
  • 模倣の容易さと参入障壁
  • 時代のうねりに身を任せて
  • 総論とこれからの投資の在り方

資本主義の社会において、自らの資産をどのように管理し、いかにして増やすかという問いは、誰もが一度は直面する重要な課題である。

ちまたには無数の投資手法があふれ、短期的な利益を追い求めるための情報が日々飛び交っている。

しかし、本質的な企業価値を見抜き、長期的な視野で莫大な利益を手にするための王道は、決して多くは語られない。

本稿で紹介する書籍は、まさにその数少ない王道を示した歴史的な名著である。

その書の名は『株式投資で普通でない利益を得る』である。

著者は、伝説的な投資家として知られるフィリップ・A・フィッシャー(Philip Arthur Fisher、1907年~2004年)である。

彼はカリフォルニア州サンフランシスコに生まれ、スタンフォード大学経営大学院で学んだ後、証券業界に身を投じた人物である。

その後、自らの資産運用会社を設立し、徹底した調査に基づく独自の成長株投資手法を確立した。

彼の投資哲学は、のちの歴史に名を残す世界一の投資家、ウォーレン・バフェット(Warren Edward Buffett、1930年~)にも影響を与えたことで知られている。

バフェット自身が、フィリップ・A・フィッシャーから学んだものを投資法に取り入れていると公言もしている。

本書は、1960年に出版された原著を現代の日本の読者に向けて丁寧にまとめ直したものであり、2016年にパンローリング社から発行されている。

日本語版の刊行にあたっては、大手運用会社で実務経験を持つ長岡慎太郎(ながおか・しんたろう)が監修を務めた。

さらに、金融業界での勤務経験を持つ翻訳家の井田京子(いだ・きょうこ)が翻訳を担当しており、専門用語の正確さと読みやすさが両立されている。

本書は単なるノウハウ本ではなく、企業の真の価値をどのように測るかという、深い洞察に満ちた哲学書のような側面も持ち合わせている。

それでは、彼が残した普遍的な投資の原則について、具体的な内容を紐解いていこう。

偉大な投資家の息子が語る真実

本書の冒頭には、著者自身の言葉の前に、彼の三男による特別なまえがきが添えられている。

その人物こそ、投資アナリストであり作家としても成功を収めているケネス・L・フィッシャー(Kenneth Lawrence Fisher、1950年~)である。

彼はカリフォルニア州立工科大学ハンボルト校で経済学を学び、自らも独自の理論を構築して『ケン・フィッシャーのPSR株分析』という名著を世に送り出している。

同じく投資の世界で生きる息子が、父親の書いた本をどのように評価しているのかは、非常に興味深い視点である。

彼はまえがきの中で、次のように述べている。

当時の父よりも率直で、さまざまな面において父よりも内省的な私は、本書を投資人生のなかで何回も読み返すことを勧めている。(P.18「まえがき――父の本から学んだこと」)

身内である息子が、父親の著書を単なる身内贔屓ではなく、実用的な指南書として繰り返し読むように勧めているという事実は驚嘆に値する。

親子という関係性を超えて、投資家として客観的に評価したうえで、そこに普遍的な価値を見出しているのである。

また、ケネス・L・フィッシャーは、父親が提唱した「周辺情報」を利用することの重要性を改めて強く指摘している。

机上の数字だけではなく、企業の内部や外部の人間に直接触れることでしか得られない情報にこそ、真の価値があるという教えである。

さらに彼は、父親が投資先企業を見極める際に用いていた秀逸な質問の意図についても言及している。

「まだ同業他社がしていないことで、御社がしていることは何ですか」という質問は、製品の市場を牽引し、他社の先を行き、顧客や社員や株主の状況を向上させる非常に素晴らしい会社だということを教えてくれるのである。(P.21「まえがき――父の本から学んだこと」)

この質問は、企業の独自性と唯一性がどれほど重要であるかを浮き彫りにするものである。

実はこの鋭い質問は、フォーブスの編集者として名を馳せた著名なジャーナリスト、ジェームス・ウォーカー・マイケルス(James Walker Michaels、1921年~2007年)が、フィリップ・A・フィッシャーの複雑な思考を美しくシンプルに要約したものである。

他社との明確な違いを自らの言葉で語れる企業こそが、厳しい競争を生き抜き、市場を支配することができる。

企業の経営陣の資質を測るための、これ以上ないほど最適な質問のテンプレートだと言えるだろう。

最高学府で採用される実践的理論

本書の理論がどれほど優れているかを示すエピソードは、個人の成功談にとどまらない。

アカデミズムの最高峰においても、その価値は長年にわたって認められてきたのである。

スタンフォード大学経営大学院の投資のカリキュラムでは、本書が長年教材として使われてきた。(P.27「まえがき――父の本から学んだこと」)

世界最高峰のビジネススクールであるスタンフォード大学経営大学院において、公式の教材として採用されていたという事実は、本書の信頼性を強烈に裏付けている。

実践の場で叩き上げられた投資の知恵が、厳しい学術的な検証にも耐えうる論理性を持っていることの証明でもある。

この一文を知るだけでも、本書に対する興味と敬意が一気に湧き上がってくるのは私だけではないはずだ。

そして、ケネス・L・フィッシャーは、この長いまえがきの最後に、最も伝えたいメッセージを端的に記している。

「父の書いたものを読んで、それを実践してください」。このまえがきに書きたかったものもそういうことだ。(P.30「まえがき――父の本から学んだこと」)

どれほど優れた理論であっても、本を読んだだけで満足していては一円の利益も生み出さない。

知識を現実の世界に適用し、行動に移すことの重要性を、読者の心に強く刻み込もうとしているのである。

まさに、まえがきの目的を凝縮したような力強い言葉だった。

老いとリスクに対する冷徹な視点

息子から見た父親の姿は、投資の手法だけでなく、人生の引き際やリスク管理の面でも多くの教訓を与えてくれる。

投資は知的なゲームであるがゆえに、判断力の衰えは致命的な結果をもたらす。

私はすべての投資家に、自分で老いを感じるときが来たら、投資判断は下さないよう勧めたい。老いる前にやめてほしい。(P.44「父について」)

ケネス・L・フィッシャーは、老いてもなお優れた判断力を維持できている投資家を、一人も知らないと断言している。

これは、偉大な父親であるフィリップ・A・フィッシャーでさえも、晩年は判断能力の低下を免れなかったという残酷な現実を目の当たりにしたからこその意見である。

自らの能力の限界を冷静に見極め、引き際を誤らないこと。

これもまた、資産を守るために不可欠な、非常に重要な考え方であると言えよう。

また、莫大な富を築くためのリスクの取り方についても、興味深い推測が語られている。

つまり、父は大きなリスクをとらなかった。ちなみに、大金持ちになった人たちは、父がけっしてとらないような大きなリスクを計算したうえでとっていた。(P.64「父について」)

フィリップ・A・フィッシャーは、あらゆる情報を考え抜き、徹底的に分析したうえで、安全だと確信できるリスクしかとらなかった。

そのため、投資家として大成功を収めたものの、天文学的な資産を持つ大金持ちにまではなれなかったというのである。

大富豪になるためには、時には常人には理解できないような、計算された巨大なリスクをとる必要がある。

安全と確実性を重んじる彼の性格が、結果としてその領域への到達を阻んだのかもしれないという、息子ならではの鋭い分析である。

市場の罠を避けるための二つの要素

ここからは、いよいよ著者自身による本編の記述へと入っていく。

彼は本書を執筆するに至った動機について、自らの経験と他者の記録を徹底的に分析した結果、ある結論に達したからだと述べている。

私は自分やほかの人たちの投資記録を分析して二つの重要な考えに至り、それが本書執筆につながった。(P.78「まえがき」)

その二つの重要な考えとは、ずばり「忍耐」と「騙されないこと」である。

株式投資で大きな利益を得るためには、種をまいてから果実が実るまで、じっと待つ忍耐力が絶対に不可欠である。

彼は、株価に何が起こるかを予測することは、それがいつ起こるかを予測することよりもはるかに簡単だと説いている。

つまり、短期的なタイミングを当てることは神技に近いが、長期的な企業の成長の方向性はある程度の確度で予測できるということだ。

だからこそ、短期的な視野ではなく、何年、何十年という長期的な視野が必要になるのである。

また、株式市場というものは、常にあの手この手で多くの人を欺こうとする性質を持っている。

一時的な流行や、根拠のない悲観論、メディアの煽りなどに踊らされてはならない。

周囲のノイズに流されることなく、自らが見定めた企業の価値を信じ抜くことが大事だと主張しているのである。

企業の未来を決めるのは規模ではない

過去の歴史から私たちが学ぶべき最大の教訓は、数字の表面的な大きさにとらわれないことである。

現在どれほど巨大な企業であっても、未来永劫その地位が約束されているわけではない。

大事なことは規模ではなく、経営陣がさらに大きな成長を遂げる決意と、それを達成する能力を持っているかどうかなのだ。(P.92「第1章 過去から学べること」)

現在の会社の規模の大小は、本質的な問題ではない。

本当に重要なのは、経営陣の未来に対する熱烈な心持ちと、描いたビジョンを実現するための確かな能力である。

組織を牽引する人間の精神性こそが、未来の企業価値を決定づける最も強力なエンジンになるという真理である。

経営陣の資質を見極める

投資先を探す際、著者は企業の成り立ちを大きく二つのタイプに分類して考えている。

一つは「運も能力もある会社」であり、もう一つは「能力が運をもたらした会社」である。

しかし、どちらのタイプであったとしても、最終的に確認すべきポイントは一つに行き着く。

どちらのタイプの会社でも、最高の能力を持った経営陣が現在も将来も存在することを、投資家は常に確認しておく必要があるということだ。そうでなければ、売り上げの伸びを維持することはできない。(P.104「第3章 何を買うべきか――株について調べるべき一五のポイント」)

本書では繰り返し述べられていることだが、やはり最終的な拠り所となるのは経営陣の質である。

どんなに素晴らしい商品やサービスを持っていても、それを管理し、次の時代へと適応させていく人間の能力が劣っていれば、成長はすぐに止まってしまう。

投資家は決算書を見る以上に、経営陣の行動や思想を厳しくチェックしなければならないという教訓である。

企業の心臓部となる三つの力

著者は、投資対象としてふさわしい企業を見つけるために、15もの詳細なチェックポイントを設けている。

その中でも、競争の激しい現代社会において生き残るための根幹となる要素を、三つに絞って提示している。

今日のような競争が激しい世界では、会社の成功にとって重要なことがたくさんある。しかし、主なものを挙げるとすれば、①優れた生産力、②販売力、③研究力――の三つだろう。(P.118「第3章 何を買うべきか――株について調べるべき一五のポイント」)

生産力、販売力、研究力。

驚くべきことに、彼はこの三つの要素が人間の臓器のように有機的な繋がりを持っており、どれか一つが欠けても機能しないと述べている。

良いものを作る力(研究)、それを効率よく形にする力(生産)、そして世の中に広く届ける力(販売)。

この考え方は非常に汎用性が高く、巨大企業だけでなく、一個人が事業を起こす際にも見事に応用できる真理である。

例えば個人で活動する場合でも、コンテンツの質を高める研究を行い、効率的な作業環境を構築し、SNSなどを駆使して認知度を高める販売力を持たなければならない。

今、自分はどの能力を鍛えている段階なのかを意識するだけでも、視界は大きく開けるはずである。

低い利益率に隠された未来への布石

企業の財務状況を見る際、多くの人は利益率の高さに目を奪われがちである。

しかし、彼は安易に高い利益率だけを追い求める姿勢に警鐘を鳴らしている。

長期的に最高の投資利益を得たいならば、このように将来の成長を見据えて意図的に利益率を下げている会社でないかぎり、利益率が引き会社や末端企業は避けるべきだろう。(P.122「第3章 何を買うべきか――株について調べるべき一五のポイント」)

基本的には利益率の低い企業への投資は避けるべきである。

しかし、その低さが「未来への投資」によるものである場合は、まったく意味合いが変わってくる。

利益をそのまま溜め込むのではなく、次世代のための研究開発や、新たな設備投資、そして将来の市場を獲得するための強力な販売促進に資金を投じている企業がある。

そうした前向きな理由で一時的に利益率が下がっている企業こそが、将来的に巨大なリターンをもたらす原石となるのである。

守りを捨てることによる最強の防御

企業が自らの利益を守るために、特許や法的な権利に依存することはよくある。

しかし、技術の進歩が激しい時代において、特許という盾はそれほど強固なものではない。

つまり、特許の保護だけに頼るよりも、製品を常に改善していくことのほうがずっと効果があるということだ。(P.135「第3章 何を買うべきか――株について調べるべき一五のポイント」)

現状に満足して守りに入るのではなく、常に自らを否定し、攻めの姿勢で製品を改善し続けること。

もちろん、最低限の権利を保護する守りの姿勢も必要ではある。

だが、基本的には改善や発展といった前進の姿勢を継続することこそが、結果的に他社を寄せ付けない最大の防御壁となるのである。

これは企業の経営戦略にとどまらず、個人のスキルアップやキャリア形成においても、まったく同じことが言えるだろう。

割安株の限界と成長株の爆発力

投資の手法には、大きく分けて成長株投資と割安株(バリュー株)投資の二つの潮流がある。

著者は、この命題に対して明確に成長株投資の優位性を主張している。

成長株のほうが良い理由は、一〇年単位で価値が何百%も上昇しているからだ。しかし、割安株ならば五〇%上昇するものもほとんどない。成長株の累積効果は明らかだ。(P.145「第4章 どんな銘柄を買うべきか――自分のニーズに合う株を買う」)

本来の価値よりも安く放置されている株を買う割安株投資は、適正価格に戻った段階で利益の限界を迎えてしまう。

一方で、真の成長株は企業の業績そのものが複利で拡大していくため、時間とともにその価値は何倍、何十倍にも膨れ上がっていくのである。

ただ、本物の成長株を見つけ出すためには、途方もない時間と労力が必要になる。

彼は机の上のデータだけに頼らず、実際に経営者と面会し、従業員の声を聴き、さらには競合他社や関係者への地道な取材まで行っていた。

このような徹底した周辺情報(スカットルバットと呼ばれる情報収集の手法)の活用こそが、大きな果実を得るための代償だったのである。

配当の罠と再投資の魔法

投資家の中には、定期的に支払われる高い配当金に魅力を感じる人も多い。

しかし、長期的な資産形成という観点からは、必ずしも高配当が正解とは限らない。

五年後と一〇年後の結果の両方で、後者の成長株投資の資本価値のほうがはるかに上回っていたのである。(P.154「第4章 どんな銘柄を買うべきか――自分のニーズに合う株を買う」)

ここで比較されているのは、利益の多くを配当として還元する企業と、配当を抑えて利益を事業の再投資に回す成長企業である。

長期間で比較した場合、後者のように再投資によって複利の力を使った企業のほうが、株主にもたらす総資産価値ははるかに大きくなる。

配当利回りがあるかないか、あるいは高低だけで判断するのではなく、生み出された利益が効果的に再投資されているかどうかを確認することが極めて重要なのである。

さらに驚くべきことに、成長株の威力は資本の増加だけにとどまらない。

つまり、成長株は資本増加率で上回っていただけでなく、ある程度の期間を経過すると配当利回りでも上回ってくるのである。(P.154「第4章 どんな銘柄を買うべきか――自分のニーズに合う株を買う」)

真に優れた成長株を見つけ出して投資を続けると、当初は低かった配当金も、業績の拡大とともに増配されていく。

その結果、買値に対しての配当利回りが劇的に上昇し、最終的には高配当株として買った企業よりも高い利回りをもたらすことすらあるのだ。

時間の経過とともに、資本の増加と高い利回りの両方を手に入れることができるのが、成長株投資の最大の醍醐味なのである。

経済予測という無意味な努力

株を買うタイミングを図るために、マクロ経済の動向を一生懸命に分析しようとする投資家は後を絶たない。

しかし、著者はそのような努力を根本から否定している。

私がこの手法に反対するは、これが非論理的だからではない。現在分かっている経済知識を総動員しても、将来の景気動向を予想するのは不可能だということを考えれば、この手法は実践的ではないからだ。(P.156「第5章 いつ買うべきか」)

膨大な量の経済データを集めて、数カ月後や数年後の景気を予想しようとする試みは、一見すると論理的で知的な行為に見える。

しかし、人間の行動や複雑な社会情勢が絡み合う経済の未来を、正確に予測することなど誰にもできない。

不可能である以上、そこに時間と労力をかけるのは実践的な投資行動とは呼べないのである。

短期的、中期的な未来は誰にも分からないが、優れた企業が長期的に成長していくという大局的な方向性だけは信じることができる。

だからこそ、経済予測よりも企業分析に全力を注ぐべきだという結論に至るのである。

失敗という最高の教師

投資の世界において、最初から最後まで一度もミスをしない人間など存在しない。

重要なのは、失敗を犯した後にどのような行動をとるかである。

ただ、過去の間違いを見直すことは、過去の成功を見直すよりもはるかに得ることが多い。(P.164「第5章 いつ買うべきか」)

偶然の要因が含まれやすい成功体験よりも、自らの判断ミスや見落としによって引き起こされた失敗体験のほうが、改善のためのヒントに満ちている。

これは株式投資という狭い世界にとどまらず、あらゆる学問やビジネス、人生そのものにも適用できる普遍的な教えである。

彼はこの文章の続きで、次の第6章を読んだあとに、再びこの第5章を読み返すようにと読者に勧めている。

非常に手厚く、配慮に満ちた助言である。

絶好の買い場を見極める条件

では、具体的にどのような時に株を買うべきなのだろうか。

著者は、優良企業の株価が一時的な要因で下落した時こそが最大のチャンスであると述べている。

そのうえで、もしその問題が株価を大きく下げても、何カ月かのうちに(何年かではなく)解決するものであれば、それはかなり安全な買い時と考えてよいだろう。(P.172「第5章 いつ買うべきか」)

ここで重要な前提となるのは、その企業が間違いなく優れた能力を持った経営陣によって運営されているということである。

そのうえで、工場でのトラブルや一時的な供給網の寸断など、明確な理由で株価が暴落している状況を想定する。

その問題が数年単位の致命的なものではなく、数カ月の努力で解決できる見込みがあるならば、それは恐怖に怯える市場を尻目に買い向かうべき、絶好のタイミングだということである。

市場を動かす五つの強力な力

個別企業の分析が最重要であるとはいえ、マーケット全体を揺るがす大きな力について無知であってよいわけではない。

彼は、市場に影響を与える強力な要因として、景気循環の影響に加えて四つの要素を挙げている。

そのほかの四つの力は、金利の傾向、投資や民間企業に対する政府の全体的な姿勢、インフレを加速させる長期的な傾向、そしてもしかしたら最も強力なのが、古い業界に影響を及ぼす新しい発明や技術である。(P.176「第5章 いつ買うべきか」)

金利の変動、政府の規制や優遇措置、インフレーションの進行、そして既存のビジネスモデルを破壊するイノベーション。

これら五つの要因が組み合わさって、株価の大きなうねりが形成される。

特に最後にあげられた「新しい発明や技術」は、現代のIT革命や人工知能の台頭を見れば、どれほど恐ろしく、かつ強力な影響力を持っているかが容易に理解できるだろう。

株を手放すべき三つの明確な理由

買うタイミングと同じか、それ以上に難しいのが、保有している株をいつ売るべきかという判断である。

彼は、自らが定めた厳格な原則に従って買った株であれば、売る理由は三つしかないと断言している。

私は、前述の投資原則にしたがって買った株を売る理由は、三つしかないと考えている。一つ目は分かりやすい。最初に買ったことが間違いで、その会社の実情が最初の想定よりもはるかに悪かったことが時間の経過とともに明らかになっていった場合だ。(P.177「第6章 いつ売るべきか――そして、いつ売ってはならないか」)

保有している会社が時間の経過とともに、第3章で挙げた一五のポイントを満たさなくなったら、その株は売るべきである。(P.179「第6章 いつ売るべきか――そして、いつ売ってはならないか」)

株を売る三つ目の理由は、より魅力的な銘柄が出てきたときである。ただ、正しい原則に従って株を買った人は、この理由に至ることはほとんどないだろう。(P.181「第6章 いつ売るべきか――そして、いつ売ってはならないか」)

一つ目の理由は、自分自身の最初の分析が間違っていたと気付いた時である。

二つ目の理由は、企業を取り巻く環境や内部の質が変化し、当初の条件を満たさなくなってしまった時である。

三つ目の理由は、保有している株よりも遥かに資金効率の良い、魅力的な別の投資先が見つかった時である。

しかし、彼によれば、本当に正しい原則で見つけ出した素晴らしい銘柄を保有している場合、それを上回る投資先に出会うことは極めて稀だという。

つまり、基本的には最初の間違いを正す時か、企業が劣化してしまった時の二つの理由でしか売却を検討すべきではないのである。

投資家に求められる処理能力

大きな利益を上げるためには、銘柄選びと同等に、その後の管理が重要になってくる。

株式投資で重要なことは二つある。一つは、大きな利益を確保するための適切な処理で、もう一つはその処理をするための高いスキルと知識と判断力だ。(P.178「第6章 いつ売るべきか――そして、いつ売ってはならないか」)

株を買う際にも細心の注意が必要だが、買った後の運用にも高い能力が求められる。

間違った判断を下したと気付いたら、感情を排して速やかに売却する。

そして、本当に価値のある正しい株に資金を移していく。

これは二つのことというよりも、適切な処理を実行するための、総合的な「処理能力」が問われているということだろう。

技術と知識、そして冷徹な判断力こそが、資産を守り育てるための盾と剣になるのである。

最も愚かな感情という名の罠

投資において、人間が最も陥りやすい心理的な罠がある。

それは、損失を認めたくないという人間の本能から来るものである。

株の投資でおそらく最大の損失につながるのは、望まない株を「せめてトントンになるまで」保有することだ。(P.178「第6章 いつ売るべきか――そして、いつ売ってはならないか」)

買った時の値段から大きく下がってしまい、企業の状況も悪化しているにもかかわらず、「買値に戻るまで待とう」と考えてしまう。

これは投資の世界では致命的な間違いである。

資金が拘束されるだけでなく、さらなる下落によって傷口を広げる結果になりかねない。

間違いを認めたら、感情を切り離して早急に損切りをすることが、長期的に生き残るための鉄則なのである。

企業が輝きを失う二つの原因

どれほど優秀な企業であっても、永遠に成長を続けられるわけではない。

成長が止まり、衰退が始まる兆候を見逃してはならない。

会社の成長力が衰えていく理由は、主に二つある。経営陣の質が落ちたか、その製品がかつてほど拡大する見通しがなくなった場合だ。(P.179「第6章 いつ売るべきか――そして、いつ売ってはならないか」)

企業の命運を握る経営陣の情熱や能力が低下してしまうこと。

あるいは、主力製品の市場が飽和状態になり、それ以上のシェア拡大が見込めなくなってしまうこと。

この二つの兆候が現れた企業は、過去の栄光にとらわれることなく手放さなければならない。

企業が生き残り続けるためには、常に新しいアイデアを生み出し、商品やサービスを改善し続けるための研究と再投資が絶対に必要なのである。

究極の理想形としての永久保有

売却の条件について詳しく述べてきた著者だが、真に素晴らしい銘柄に出会えた場合の結論は、非常にシンプルで力強いものだった。

ここまで読み進めてきた熱心な読者ならば、ごく少数の成功した投資家だけしか理解しなであろう基本的な投資原則を、おそらく理解できていると思う。これは、適切な銘柄を選び、時の試練を耐えたならば、それを売る理由はあまりないということである。(P.182「第6章 いつ売るべきか――そして、いつ売ってはならないか」)

徹底的な調査によって選び抜かれ、幾度もの経済危機や困難な時代を乗り越えて成長し続けるような、本物の銘柄。

もしそのような奇跡的な株を手に入れることができたならば、生涯手放す必要はないのである。

永遠に持ち続けることこそが、最も利益を最大化する手段となる。

もっとも、そのような完璧な銘柄は市場にほとんど存在しないため、見つけ出すこと自体が至難の業ではあるのだが。

配当への執着がもたらす逆説

配当金についての著者の見解は、多くの個人投資家の常識を覆すものである。

これまで配当についてたくさん書いてきたが、一番おもしろいのは、配当について最も考えなかった人が、結果的には最も高い配当利回りを得ている場合が多いということだ。(P.200「第7章 配当金をめぐるさまざまな言い分」)

目先の配当金に目がくらみ、高配当株ばかりを追い求めている人は、結果的に資産を大きく増やすことができない。

逆に、配当金など一切気にせず、稼いだ利益をすべて事業の拡大と再投資に回す成長企業に資金を投じた人がいるとする。

5年から10年という長期的な視点で見ると、企業が巨大化した結果、後者のほうが圧倒的に高い配当利回りを手に入れているという痛快な事実である。

急がば回れという言葉の通り、目先の利益を捨てることで、後から巨大な富が転がり込んでくるという逆説的な真理である。

新規事業に潜む未知のリスク

未来の成長を期待して、立ち上がったばかりの新会社や、未知の分野への新規事業に投資をしたくなることもあるだろう。

しかし、著者はそのような誘惑に対して、非常に厳しい基準を設けている。

投資の観点から言えば、どのような会社でも、少なくとも二~三年の事業活動を行い、一年間、既存の会社とはまったく違う分野で営業利益を上げた実績がないかぎり、投資すべきではないと私は考えている。(P.204「第8章 投資家が避けるべき五つのポイント」)

どんなに素晴らしいアイデアや計画を持っていたとしても、それが現実の世界で利益を生み出す保証はどこにもない。

新しい組織や新規事業が本当に機能するかどうかを判断するためには、最低でも1年間の営業利益という実績の証明が必要だという教えである。

期待や夢だけで資金を投じるのは投資ではなく投機であり、確かな数字が裏付けられるまでは様子を見る冷静さが求められるのだ。

企業の特性に応じた分散投資の考え方

投資におけるリスク管理の基本として、資産を複数の銘柄に分ける「分散投資」という考え方がある。

しかし、単に銘柄の数を増やせばよいというほど、単純なものではない。

株によって社内分散がどれだけできているかが違うため、平均的な投資家が最適な成果を上げるために、最低どれだけ分散すべきかについて絶対的なルールを作ることはできない。(P.221「第9章 ほかにも避けるべき五つのポイント」)

なぜなら、企業そのものが内部でどれだけ事業を分散させているかが異なるからである。

例えば、一つの特定の製品しか扱っていない企業もあれば、複数の業界をまたいで多種多様な商品やサービスを提供する総合商社のような企業もある。

企業が自社内でリスクを分散させている度合いが違えば、投資家が外部から行うべき分散の割合も当然変わってくる。

これは多くの投資家が見落としがちな、非常に鋭く本質的な視点である。

ポートフォリオ構築の具体的な指針

絶対的なルールはないと断りつつも、著者は読者のために、具体的な分散の目安を三つのカテゴリーに分けて提案してくれている。

そのため、分散はケースによって違い、厳密なルールはないということを認識したうえで、超小口の個人投資家を除くすべての投資家に必要な最低限の分散について、おおまかな指針を提案しておく。
A.安定した大手企業のなかから適切に選んだ成長株に投資するケース
B.安定した大手企業とリスクが高い若い成長企業の中間に位置する会社に投資するケース
C.成功すれば素晴らしい利益につながるが、失敗すればほとんど(またはすべて)の資金を失うかもしれない小型株に投資するケース(P.221~抜粋「第9章 ほかにも避けるべき五つのポイント」)

Aのような安定した大手企業であれば、最低5社程度の分散で十分だとしている。

Bのような中堅の成長企業の場合は、リスクが高まるため10社程度の分散が必要になる。

Cのようなハイリスク・ハイリターンの小型株は、巨大な資金を持つ機関投資家であっても全体の5%程度にとどめるべきであり、個人の場合は資金的に厳しいため手を出すべきではない。

したがって、基本となる戦略はAとBの組み合わせになる。

Aクラスの企業を1社入れるごとに、Bクラスの企業を2社追加するというような割合の目安でポートフォリオを組むことが、最も安全で効率的な運用につながると指南しているのである。

有事の際の冷徹な投資行動

世界恐慌や戦争といった歴史的な危機の際、市場はパニックに陥り、株価は暴落する。

しかし、真の投資家は恐怖に支配されることなく、冷静に立ち回らなければならない。

そこで、脅威だけのときはゆっくりと少しずつ買っていく。そして、戦争が始まったら、買いのテンポを一気にあげるのである。このとき買うのは、戦争中も製品やサービスの需要が続く会社や、既存の設備を軍事工場に転用できる会社だ。(P.235「第9章 ほかにも避けるべき五つのポイント」)

戦争の足音が近づき、不確実性が高まっている時期には、資金を分割して少しずつ慎重に株を買い集めていく。

そして、実際に戦争が始まり、市場が総悲観に包まれて株価が底を打った瞬間に、一気に大きな資金を投入するのである。

もちろん、その際に選ぶべきは、平時でも戦時でも必要とされる不可欠な物資を生産する企業や、設備を柔軟に転用して生き残れる強靭な企業である。

道徳的な感情と経済的な合理性を完全に切り離し、冷徹に価値を計算するプロフェッショナルな姿勢がそこにある。

過去の株価チャートという亡霊

多くの投資家は、株を買う前に過去の株価チャートを熱心に分析する。

大きく上がっているから次は下がるだろうとか、大きく下がっているからそろそろ上がるだろうという予測を立てるためである。

しかし、著者は過去の価格変動と未来の企業価値には、いかなる因果関係も存在しないと切り捨てる。

この数年で株価が上がったかどうかは、その株を今買うべきかどうかの判断とはまったく関係がない。大事なことは、今よりもかなり高い株価を正当化できるだけの十分に改善されたか、もしくはこれから改善される可能性があるかどうかということなのである。(P.239「第9章 ほかにも避けるべき五つのポイント」)

過去に株価が上がっていようが下がっていようが、そんなことは現在の投資判断には何の関係もない。

現在上がり続けている株であっても、企業の価値がさらに成長するならば、未来に向かってさらに上昇し続ける。

逆に下がり続けている株は、企業に改善の見込みがなければ、そのまま地の底まで下落していくのである。

過去のチャートの形状に惑わされることなく、純粋に現在の企業の実力と未来の可能性だけを評価しなければならないという、極めて合理的な教えである。

事実と市場の感情の狭間で

株式市場において、株価は常に企業の正しい価値を反映しているわけではない。

人間が売買を行っている以上、そこには必ず集団の感情が介入するからである。

投資家は、買おうとしている会社とその業界について、事実を検証するだけでなく、その時期の金融界の感情も分析しておかなければならないということだ。(P.255「第9章 ほかにも避けるべき五つのポイント」)

企業の客観的な業績や事実を調べることは当然である。

しかし、それと同時に、現在の金融機関の関係者や、市場参加者たちがその企業や業界に対して、過度な期待を抱いているのか、それとも理不尽な恐怖を感じているのかという「感情」を分析する必要がある。

客観的な事実と、市場の偏った感情との間に生まれる大きな乖離。

そのズレを見つけ出し、利用することこそが、投資において大きな富を築くための最大の鍵となるのである。

15のポイントを調べる前の予備段階

著者は第3章で、素晴らしい企業を見つけるための15の詳細なポイントを提示していた。

しかし、実はその面倒な調査に入る前に、ふるいにかけるための「予備段階の条件」が存在していたのである。

私は、対象の会社を第3章の一五のポイントの基準に当てはめる前に、予備段階として二つのことに注目している。まず、その会社は、今後売り上げが並外れた成長を見せる可能性がある事業を行っているのかどうか、もしくは今後参入しようとしているのかどうか、ということだ。(P.263「第10章 成長株を探す方法」)

一つ目の条件は、その企業が並外れた成長をもたらすような、爆発力のある事業を始めているか、あるいは準備しているかという点である。

いくら経営陣が優秀でも、市場全体のパイが縮小しているような斜陽産業では、大きな成長は望めない。

まずは、時代が求める巨大な市場に挑戦する姿勢があるかどうかを確認する必要がある。

これこそが、詳細な分析に入る前に見極めるべき第一の関門だったのだ。

模倣の容易さと参入障壁

そして、予備段階の二つ目の条件は、競争の激しさに関するものである。

次に、その事業は、その業界が成長したときに、競合他社が比較的容易に参入できて、既存の大手企業にとって代わることが可能かどうか、ということだ。事業の性質上、新規参入が容易ならば、投資した会社の価値が大きく伸びる可能性は低いことになる。(P.263「第10章 成長株を探す方法」)

どれほど画期的な事業であっても、技術的に簡単に真似ができるものであったり、巨大な資本を持つ大手企業がすぐに乗り込んでこられるような領域であれば意味がない。

あっという間に競争に巻き込まれ、利益を奪われてしまうからである。

つまり、他社が容易に追随できないような特異な技術、ブランド力、あるいは独自のネットワークといった「高い参入障壁」を持っているかどうかが問われるのである。

将来の脅威を退けるだけの堀を持っているか。

この二つの予備条件をクリアした企業だけが、初めて15のポイントによる厳格な審査へと進む資格を得るのである。

時代のうねりに身を任せて

本書の最後を締めくくるにあたり、著者はイギリスの偉大な劇作家であるウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare、1564年~1616年)の言葉を引用している。

シェークスピアも、無意識のうちに株式投資で成功する方法を示しておいてくれたようだ。「人のすることには潮時というものがある。うまく満ち潮に乗れば幸運(富)にたどり着く」(P.274「第11章 まとめと結論」)

投資の世界において、個人の力や企業の努力だけで乗り越えられない壁が存在する。

それは、時代が作り出す巨大なトレンド、すなわち「時流」である。

時代の変化という大きな満ち潮を敏感に察知し、それに逆らうのではなく、上手く波に乗る技術を身につけること。

それこそが、幸運と巨大な富にたどり着くための究極の真理なのである。

ちなみに「潮時」という言葉は、かつては物事を始めるのに最適なタイミングというポジティブな意味合いで広く使われていた。

しかし現代では、引き際や終わりの時期というネガティブな意味で用いられることが多くなっているのも、言葉の歴史を感じさせて非常に興味深い部分である。

総論とこれからの投資の在り方

フィリップ・A・フィッシャーの提唱する徹底的な調査と企業分析に基づく成長株投資は、実行するのに途方もない労力を必要とする。

そのため、財務諸表の数字を徹底的に分析して割安な株を探し出すという、ベンジャミン・グレアム(Benjamin Graham、1894年~1976年)の確立したバリュー投資手法に比べると、個人の相性や慣れの問題が大きく影響するかもしれない。

私自身の個人的な感想としても、最初はグレアムの手法のほうが取り組みやすいように感じた部分もあった。

しかし、経営陣の人間性や企業の隠れた独自性を深く掘り下げていく本書のアプローチは、数字だけでは決して見えない「事業の本質」を教えてくれる。

単なるマネーゲームではなく、社会をより良くしていく企業を応援し、その成長の果実をともに分かち合うという、投資の本来の崇高な姿がここにはある。

株式市場という荒波を乗り越え、普通でない利益を手にしたいと願うすべての人にとって、本書は間違いなく一生の財産となる羅針盤である。

時代がどれほど移り変わろうとも、ここに記された人間と企業の真理が色褪せることは決してないだろう。

書籍紹介

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