『子どもを育てる絶対勉強力』外山滋比古

外山滋比古の略歴

外山滋比古(とやま・しげひこ、1923年~2020年)
英文学者。評論家。
愛知県幡豆郡寺津町(現・西尾市)の生まれ。
東京高等師範学校英語科を卒業。東京文理科大学(現・筑波大学)文学部英文学科を卒業。

『子どもを育てる絶対勉強力』の目次

第一章 勉強がはかどる絶対条件
第二章 子どもの語感を育てる
第三章 子どものやる気をおこすコツ
第四章 効率がよくなるちょっとした習慣
あとがき

概要

2004年5月16日に初版が発行。幻冬舎文庫。211ページ。

2000年9月に『ちょっとした勉強のコツ』の題名で、みくに出版から刊行したものを改題し、加筆、訂正、編集し文庫化したもの。

三時間も同じことをしていると、疲れる。疲れるだけでなく、あきて、いやになるのである。時間が長くなればなるほど学習の効率は低下する。収穫逓減の法則は学習、勉強にもあてはまるようだ。(P.18「第一章 勉強がはかどる絶対条件」)

時間の長さと集中力と、学習や勉強の成果における関係性。あまり長くても、良い結果は得られない。気力や体力の低下によるもの。

収穫逓減の法則とは、ある生産要素を増加させると、生産量は、全体として増加するが、その増加分は徐々に小さくなるという法則。

もともとは、イギリスの経済学者であるデヴィッド・リカード(David Ricardo、1772年~1823年)や、トマス・ロバート・マルサス(Thomas Robert Malthus、1766年~1834年)など、古典派経済学によって、農業における土地の収穫逓減の法則として理論化されたもの。

時間はすこし足りなめなのがよろしい。時間と競争して仕事し、勉強する。緊張と集中のもとで行われるところから、立派な成果が生まれる。時間が足りないという気持ち、タイム・ハングリーである必要がある。(P.26「第一章 勉強がはかどる絶対条件」)

先述の時間の長さに続く、時間と行動の関係性についての考察。長時間があまり良くないのであれば、短時間ではどうだろうかという話。

仕事や勉強などは、短時間の方が良い。緊張と集中によって、とても効率良く、成果が得られるという。

さらに続いて、だらだら時間を過ごさないためにはどうしたら良いのかという問題を提示。

学生であれば、学校にいる間は、時間割によって、生活している。学校以外でも、自ら時間割をつくって、行動しなさいと説く。

これは、学生だけではなく、社会人でも、かなり有効な手段であると思う。

山本五十六元帥が名言を残した。

シテミセテ、
イッテキカセテ、
サセテミテ、
ホメテヤラネバ、
ヒトハウゴカジ。

私は蛇足をつけた。

ホメテヤラネバ、
ヒトハウゴカジ。
ホメレバ、
ブタモキニノボル。
(P.98「第三章 子どものやる気をおこすコツ」)

第26、27代連合艦隊司令長官を務め、最終階級は元帥海軍大将の日本海軍軍人・山本五十六(やまもと・いそろく、1884年~1943年)。

上記を基本的な教育方針としていた。

さらに外山滋比古は、最後に二行を加える。褒めれば誰でも伸びやすいということ。後には、プラシーボ効果などについても言及している。

何事も効果が出やすいのであれば、やってみた方が良い。

表面的に教わったことはすぐ忘れるが、暗唱したものは、知識以上のもので、血となり肉となり、死ぬまで消えることがない。
学習は人間にとってのインプリンティングである。(P.108「第三章 子どものやる気をおこすコツ」)

かつての学校教育では、暗唱が主流であった。

ただ、この本が書かれた当時には、詰め込み教育として非難されてしまうようになっていたという。

ただ学習とは、反復練習によるもの。暗唱できるレベルになって、血肉となる。

インプリンティングとは、刷り込みのこと。血肉化し、習慣となって初めて本物となる。

平常心という言葉がある。われわれの頭は、平常通りがもっともよく働く。よそいきになったり、構えたり、妙に緊張したりするのは、いずれも禁物である。(P.137「第三章 子どものやる気をおこすコツ」)

どのような時も、平常通りの心持ちでいれば、一番良い。

試験日だから特別な日だからといって、何かいつもと異なる気分になり、いつもと違う行動を取ってしまうと、失敗してしまうことも。

受験日に、受験票を忘れる人がいるのも、これに当てはまる。

本番などの特別な日がある場合には、なるべく本番に近い状態を経験しておく。似たような本番を事前に受けておく。会場の下見をしておく。経験者に話を聴く。

特別な日が、特別な日ではなく、平常な日になるように、準備をしておく。すると、心も平常通りとなる。平常心が保たれやすい。

はじめ墓地の近くに住んでいたところ、孟子は葬式のまねばかりする。これはいけないと、市中に引っ越したら、こんどは商売のまねをして遊ぶ。これも困るというので、学校のそばへ引っ越した。すると礼儀作法をまねするようになったので、そこへ居を定めた。(P.154「第四章 効率がよくなるちょっとした習慣」)

中国の孟子(もうし、前372年?~前289年?)の母が、わが子の健やかな成長を願って、居住地を変えた逸話。「孟母三遷の教え」とも呼ばれるもの。

ここでは、外山滋比古は、環境の大切さを語る。

適切なのは住む場所をより良い土地へと移すことではあるが、なかなか難しいことも多い。少なくとも、自分の身の回りは、上手くより良い環境を整えるようにしたい。

もしくは、抽象化して転用するのであれば、物理的な環境だけではなく、友人や家族、親族などの交友関係においても、同様なことが言える。

全てにおいて、より良い影響が得られる環境に身を置くのが大切。

学習とは、学んで習うことである。習うとは、学んだことをくりかえして学ぶこと。復習ではない。練習である。『論語』の昔から、そのことはわかっていたのに、世の中が進歩するにつれて、そして教育が普及するにつれて、反復練習こそ学習の真髄であることが忘れられるようになってしまった。(P.189「第四章 効率がよくなるちょっとした習慣」)

この部分の復習とは、ただ一度だけ、おさらいをすること。練習とは、繰り返し繰り返し、おさらいをすること。

学習とは、反復練習であると。

儒家の始祖・孔子(こうし、前552年頃~前479年)の言動がまとめられた『論語』にも「子いわく、学びて時にこれを習う、また、よろこばしからずや」と。

学んだことを、時々さらに復習や練習をしていると、学んだことが真の知識として、身についてくる。とても愉快なことではないか。という意味。

原文は「学而時習之、不亦説乎」。

感想

題名に“子どもを育てる”と書かれているので、お子さんのいる親などに向けられたものであるかのように感じられるが、そうでもない。

もともとは、受験雑誌に連載されたものを書籍に合わせて編集したようだ。

なので、どちらかというと、学生向けに書かれたものを一般的な人に向けて、手直しした形。

とは言っても、大人であっても、新しい知識を吸収するために、勉強は必要となる。

つまり、お子さんがいる人だけではなく、勉強や学習をしている人々全体に向けられた本である。

なので、本の題名に惑わされずに、読んでもらいたい。実際に私も子供はいないので。

ただ教育関連の仕事をしていたことがあるので、他の人よりは関心は高かったかもしれないが。

内容は、とても具体的で、勉強になり参考になる。確かに、子育てにも役立つかもしれないが、それ以上に読者自身の学習効率を上げる役割が大きい。

自分の学習能力を上げ、さらに他者の学習能力を上げるための施策や助言も豊富である。学習や勉強そのものについて、興味のある人にはオススメの本である。

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