木暮太一『働き方の損益分岐点』

木暮太一の略歴

木暮太一(こぐれ・たいち、1977年~)
ビジネス書作家。
千葉県船橋市の生まれ。千葉県立船橋高等学校を経て、慶應義塾大学経済学部を卒業。在学中に自主制作した経済入門書がロングセラーとなる。富士フィルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。

『働き方の損益分岐点』の目次

文庫版 まえがき
はじめに しんどい働き方は根本から変えていこう
第1章 あなたの「給料」は、なぜその金額なのか?
第2章 あなたは、「利益」のために限界まで働かされる
第3章 どうすれば「高い給料」をもらえるようになるか?
第4章 年収1000万円になったあなたには、「激務」だけが残る
第5章 何をすれば「自己内利益」は増やせるのか?
第6章 経験を生かすには、どういう「働き方」を選択すべきか
おわりに 働き方を変えて、生き方を変えよう!

『働き方の損益分岐点』の概要

2018年4月19日に第一刷が発行。講談社+α文庫。312ページ。

副題的に題名の前に「人生格差はこれで決まる」と付く。

2012年4月に、星海社新書として刊行された『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』を改題し文庫化。さらに文庫化にあたり、文庫版まえがきの他、第5章、第6章に加筆したもの。

17ページに本書の構成についての記述がある。

前半は、マルクスの『資本論』をエースに、資本主義経済と労働者について、後半は労働者の働き方、生き方について解説している。

以下、人物の説明。

カール・マルクス(Karl Marx、1818年~1813年)は、プロイセン王国(ドイツ)出身の哲学者、経済学者、革命家。著作に『資本論』など。フリードリヒ・エンゲルス(Friedrich Engels、1820年~1895年)との共著『共産党宣言』など。

『働き方の損益分岐点』の感想

ネットで知って気になったので購入。

結論としては、めちゃくちゃ面白かったし、世の中の謎が少しだけ解けた気もした。

企業に勤める人も、個人事業主でも、もしくは零細企業の社長でも、納得できると思う。

一定の規模の会社の経営者なら知っているか、体感しているのかもしれないが。

これを、マルクス経済学では「労働の再生産コスト」と呼びます。「再生産コスト」とは、「もう一度同じことをするのに必要なお金」のことです。(P.49:第1章 あなたの「給料」は、なぜその金額なのか?)

給料の金額というのは、「明日も同じように働くために必要なお金」。

「労働⇒疲労⇒休息⇒回復」の繰り返し。

休息というのが、食事や睡眠、娯楽。肉体的にも、精神的にもエネルギーを回復させる必要がある。

安定した睡眠を得るためには、自宅が前提となり、家賃が掛かる、といったように、他の要素にも、それぞれ必要な経費が存在する。

電気代、ガス代、水道代、通信費、食費、交際費などなど。

つまり、給料の金額は、個人の努力量や成果ではなく、必要経費方式。「再生産コスト」によって決まる。

悲しい。驚き。

また後述されるが、「労働力の価値」は「再生産コスト」と、イコールになる。

『資本論』においては、「人の手がかかっているもの」のみに「価値」があります。逆にいえば、とりあえず人の手がかかってさえいれば、どんなものにも「価値がある」と言えるのです。
そして、「価値の大きさ」は、「その商品を作るのにかかった手間の量」で決まります。(P.57:第1章 あなたの「給料」は、なぜその金額なのか?)

「価値」というのは「手間の量」。

この前の部分では、「使用価値」の説明がある。

「使用価値」というのは、「使って意味がある、役に立つこと」で、有益性や有用性。

『資本論』の中では、「価値」と「使用価値」という用語が使われている。

上記のように、言葉の定義を明確に理解して読み進めないと、混乱が生じる。

ただこの書籍の場合には、分かりやすく解説されているので安心。

本気で『資本論』を読もうと思ったら、なかなかの覚悟が必要。さまざまな用語が出てくるので。

この状態を、心理学で「ヘドニック・トレッドミル現象」と呼びます。
「ついこの間まで嬉しくて幸福感を感じていたものでも、飽きてつまらなくなってしまう」ということです。(P.205:第4章 年収1000万円になったあなたには、「激務」だけが残る)

年収500万円だった人が、年収1,000万になったとする。最初は、強い幸福感を得られるが、その内に慣れてしまう。満足感が得られない日常になってしまう。

「ヘドニック・トレッドミル現象」というのは、英語ではHedonic treadmill、もしくはhedonic adaptationと表記されるもの。

フィリップ・ブリックマン(Philip Brickman、1943年~1982年)とドナルド・T・キャンベル(Donald Thomas Campbell、1916年~1996年)による1971年の論文「Hedonic Relativism and Planning the Good Society」の中で使用された造語。

幸福に慣れてしまう、ということも念頭に置いておく。

話を元に戻すと、年収が上がるというのは、先述の通り「再生産コスト」が上がっているだけでもある。

手残りは、ほとんどない状況。

なぜなら、年収はやはり回復のための必要経費であり、「再生産コスト」でしかないから。

そこで重要となる考え方が「自己内利益」。

満足感ー必要経費=自己内利益

というもの。自己内利益を上げるためには、満足感を上げる、必要経費を下げる、の方法がある。

ざっくりと要約すれば、他の人よりもストレスを感じないで出来る得意な仕事に就くというもの。

まぁ、これがなかなか難しいというものだけれど。

そして、一労働者としてBS思考で考えるならば、今日の労働が自分への「積み重ね」にもなっていなければいけません。
そのため、自分自身に毎日問うべきなのは、
「資産を作る仕事を、今日はどれだけやったか?」
という質問です。(P.298:第5章 何をすれば「自己内利益」は増やせるのか?)

BS思考のBSというのは、Balance Sheet。貸借対照表のこと。

このBSと一緒に語られるのがPL。

PLは、Plofit and Loss Statement。損益計算書のこと。

貸借対照表は、ある時点の財政状態を示すもの。

損益計算書は、ある期間の収支結果を示すもの。

先程の「自己内利益」を増やすためには、損益計算書の考え方ではなく、貸借対照表の考え方で、資産を増やしていくようにする。

その資産が土台となり、成果が上がっていくというもの。

資産が時間をかけて、どのように利益を生み出すかを検討する。短期ではなく、中長期的な考え方が大切。

つまりは、単なる労働からの利益ではなく、積み重なった資産からの利益を得るようにする。

資産からの利益は、再生産コストではないので、ほぼそのまま貯まっていく。

中長期的視点と資産形成か。なるほど、勉強になる。

もっと、マルクスや『資本論』、もしくは経済学についても学びたくなる。

というわけで、資本主義経済における労働者や給料について、非常に示唆に富むオススメの本である。マルクス関連の入門書としも良いかもしれない。

書籍紹介

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カール・マルクスの生家

カール・マルクスの生家(Karl-Marx-Haus) は、ドイツのラインラント=プファルツ州のトリーアにある記念館。

公式サイト:カール・マルクスの生家