『知っておきたいマルクス「資本論」』神津朝夫

神津朝夫の略歴

神津朝夫(こうず・あさお、1953年~)
著述家。
東京都の生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業。奨学金を得てドイツ・マンハイム大学に2年間遊学。帝塚山大学大学院人文科学研究科日本伝統文化専攻博士後期課程を修了。博士(学術)。専門は文化史・茶道史。短大・大学教員を経て、著述業。

カール・マルクスの略歴

カール・マルクス(Karl Marx、1818年~1883年)
プロイセン王国(ドイツ)の哲学者、経済学者、革命家。
1845年にプロイセン国籍を離脱しており、以降は無国籍者。1849年、31歳以降はイギリスを拠点として活動。著作に『資本論』など。フリードリヒ・エンゲルス(Friedrich Engels、1820年~1895年)との共著『共産党宣言』など。

『知っておきたいマルクス「資本論」』の目次

まえがき
序説 マルクスと『資本論』
1 『資本論』への歩み
2 経済学史上のマルクス
第一章 商品・貨幣と資本
1 資本主義は商品社会
2 商品をつくる労働の二面性
3 貨幣の発生とその諸機能
4 資本とはなにか
第二章 資本主義的生産の解明
1 労働力――労働者の売る商品
2 剰余価値の生産
3 労働賃金の秘密
4 資本の再生産と蓄積
第三章 資本主義の生成と発展
1 剰余労働の前史
2 本源的蓄積
3 協業による社会的生産
4 分業とマニュファクチャ
第四章 大工業と労働者
1 機械性大工業の時代
2 機械と労働者
3 失業者の必要性
4 資本主義のゆくえ
『資本論』第一巻の構成と本書内容の対応表
あとがき

概要

2009年5月25日に第一刷が発行。角川ソフィア文庫。188ページ。2011年5月15日に電子書籍版が発行。

本書は、『資本論』全巻を章を追って要約するものではなく、またその経済理論を網羅して紹介するものでもない。そのかわりに、マルクスが資本主義と、そのもとでの人間存在をどう見ていたのかという全体像を示そうと試みた。(P.6「まえがき」)

本書の構成について、筆者の言葉。

マルクスが見た、資本主義と人間に焦点を当てているというもの。

大長編であり、難解でもある『資本論』の重要なポイント、概念などを、背景とともに解説しているといった内容。

感想

資本主義の世の中なので、しっかりとそのシステムについて学ぼうと思って、『資本論』の解説書的、入門書的な作品を探す。

そこで見つけたのが、この『知っておきたいマルクス「資本論」』

なかなか表紙が赤色と黄色で、キツめではあるが、内容はコンパクトかつ分かりやすそうで、さらにkindle unlimitedにあったので、早速読んでみた。

経済という社会関係の存在を最初に明示し、富が貿易などの商業ではなく生産によって生れると主張したのは、フランスの国王顧問医だったケネー(一六九四―一七七四)だった。(P.18「序説 マルクスと『資本論』」)

フランソワ・ケネー(François Quesnay、1694年~1774年)は、フランスの医師、重農主義の経済学者。1718年外科医となり、1749年からは宮廷医師としてヴェルサイユ宮殿で暮らした。

1752年に貴族へと列せられるが、50歳代で経済学の研究を志し、土地所有者の資金を農業に投入し、その生産力を高めることが重要であるという観点から『経済表』を発表し、重農主義経済学の祖と仰がれた人物。

そうか、ケネーって医者だったのか。忘れていたのか、そもそも憶えていなかったのか。

医者というのは、やはりとても頭が良いんだな。日本でも昔の蘭学者って、医者が多いしな。

その他にも、軍人・大村益次郎(おおむら・ますじろう、1825年~1869年)や、政治家・後藤新平(ごとう・しんぺい、1857年~1929年)、遠洋漁業の近代化に努めた原耕(はら・こう、1876年~1933年)などもいるし。

横展開してさらに活躍する人がいるのも頷ける。もともとのスペックの高さだな。

職業が調理師である人が家に帰って、家族と自分のために同じ料理を作ったとしよう。しかし、家で作ったものは家族にはふつう売らない。つまり商品になっていない。家具職人が作った自家用の本箱も商品にはならない。(P.37「第一章 商品・貨幣と資本」)

家庭内でつくり、家庭内で消費・利用するものは、商品にはならない。

さらに話は続いて、経済学が取り扱うのは社会的関係であって、社会化されてないない私的共同体、つまり家族や家というものの中での生産は含まれていない、という結論に。

そもそも外部に向けた生産になっていないので、商品にもならない。商品にもならないので、価値がない。ということ。

よくSNSで家事労働が時給いくらで~、月額いくらで~みたいなものがあるけれど。

経済学では、取り扱っていない、というのは面白い。

それでは労働生産物から、すべての有用労働を取り除いていくとなにが残るか。麻や綿花、鉱山のような自然が残る。つまり、労働は「無」から物を生み出すわけではなく、自然があって、その素材に労働を加えることによって富をつくっている。(P.38「第一章 商品・貨幣と資本」)

まずは、有用労働について。有用労働とは、使用価値として現れる労働。さらに、使用価値とは、有益性や有用性のこと。

有用労働は、有益性のある労働ということ。

まぁ、ここでは、シンプルに労働という意味でも大丈夫だけれど。

労働生産物は、つまり商品やサービス。

商品やサービスから労働を取り除くと何が残るのか、という感じ。

論理的に考えていくと、最終的には自然が残る。

自然、土地。不動産か。なるほど。そこに行き着くんだよな。

機械をニ倍の速さで動かした場合は、そこに含まれている労働もニ倍になる。これは労働強化である。(P.40「第一章 商品・貨幣と資本」)

労働強化。会社員というか勤め人、フリーランス、個人事業主でも、よくあることだな。

ここでは、生産力を上げるための方法を論じている。

上記の場合では、単なる労働強化で、労働がニ倍になった結果、生産もニ倍になっただけ。

生産力をニ倍にするというのは、同じ時間で、なおかつ同じ労働力で、ニ倍の商品をつくること。

これが生産力を上げるということ。

新しい機械を導入したり、新しい方法を取り入れたり。単に頑張るというのではなく、根本的な変更が必要になってくるといった感じだろうか。

ただの気合いだけではなく、合理的な判断が必要。

したがって、最初のGとあとのGが等価なら無意味で、増加している必要がある。それをG+⊿G=G’で表し、増加分を剰余価値と名づける。価値増殖する運動が、貨幣を資本に転化するのである。(P.65「第一章 商品・貨幣と資本」)

まずは、前提から。

商品流通は、商品⇒貨幣⇒商品(W⇒G⇒W)というシンプルな形式で表現できる。

Gが貨幣Geld(ゲルト)、Wが商品Ware(ヴァーレ)。日本のマルクス経済学では一般的に、ドイツ語読み。

そのため、頭文字もG(ゲー)、W(ヴェー)となる。

ただし、英語読みでも良いみたい。

また別の流れとして、資本流通がある。

資本流通は、貨幣⇒商品⇒貨幣(G⇒W⇒G)という形式。

この流れの繰り返しの解説が上記の引用部分。

貨幣Gが、商品Wを通して、剰余価値⊿Gが付加され、資本G’になるということか。ほほう。

つまり、本人の再生産費、世代的再生産費、そして技能の熟練費が労働力商品の価値となる。(P.73「第二章 資本主義的生産の解明」)

労働力商品の価値。要素。それが、給料ということ。

自分の体力精神力の回復費、子供の体力精神力の回復費及び教育費、自分の技術の教育費。

この労働力商品の価値を知っていないと、その輪っかの中からは抜け出せない。まずは現状の認識が重要。己を知ること。

この辺りについては、ビジネス書作家・木暮太一(こぐれ・たいち、1977年~)の『働き方の損益分岐点』が非常に分かりやすい。

個人事業主でも割りと近い状況はあるので、気を付けないといけないところ。

やはり資本や資産をつくっていくことが重要だな。

長時間労働と労働強化の必然的な結果は、労働者の過労死と短命化であった。(P.155「第四章 大工業と労働者」)

1800年代の前半から半ばくらいの話。イギリスでは工場法によって、その実態が調査されて、報告書としてまとめられた。

その中には、過労死と短命化が記載されていた。

婦人服製造工。大物鍛冶工。製パン職人。鉄道労働者。など。

現代でも、過労死と短命化は問題である。特に過労死はたまに大きなニュースとして、裁判になったりするから、広く知られているけれど。

短命化に関しては、どうなんだろう。医者というのはかなり短命みたいだし。あとは、結構気になるのが、バリバリ仕事をしている人とか。少なくとも長寿というイメージはない。

ダラダラと長生きするのも、どうかなと思うが、太く短くも嫌だな。

それにしても、人間というのは進歩しないもんだな。社会という仕組みがそうさせるのか。人間の欲望の総体からなのか。

不思議である。個人としての戦略を練っておこう。

しかし、失業者の存在は、実は資本主義的生産様式の存在条件になっている。追加資本を投じて拡大再生産をするときに、社会に追加的労働力がなかったら、拡大再生産ができないからだ。必要な時にいつでも労働力を市場で変える状態であることが、資本にとって絶対必要なのである。(P.164「第四章 大工業と労働者」)

これも面白い。資本主義では、失業者は必ず生じるようになっている。

企業側としては、創業、拡大、低下、恐慌、倒産の流れ。労働者は、就業、賃金増加、賃金低下、解雇の流れ。

1800年代のイギリスでは、中位の活況、生産の繁忙、恐慌、停滞の1セットが10年で起きていたという。

一定の失業者というのは、資本主義の必須条件となるのか。これは驚きである。

いやはや、自分の無知を痛感してしまうほど、知らないことが沢山。

というわけで、『資本論』について勉強してみたい人にはオススメの入門書である。

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