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モーガン・ハウセル『サイコロジー・オブ・マネー』要約・感想

モーガン・ハウセル『サイコロジー・オブ・マネー』表紙

  1. 経験が思考を支配する
  2. 複利と継続の力
  3. 裕福になる以上に、裕福であり続けること
  4. お金の最終目的は「安眠」

モーガン・ハウセルの略歴・経歴

モーガン・ハウセル(Morgan Housel、1990年~)
アメリカのコラムニスト、アナリスト。コラボレーティブ・ファンドのパートナー。
南カリフォルニア大学を卒業。経済学の学士。シアトル在住。

『サイコロジー・オブ・マネー』の目次

はじめに
第1章 おかしな人は誰もいない
── あなたがこれまでに経験してきたことは、世界で起こった出来事の0.000000001%にしか相当しない。しかし、それはあなたの考えの8割を構成している
第2章 運とリスク
── 何事も、見かけほど良くも悪くもない
第3章 決して満足できない人たち
── お金持ちがとんでもないことをしでかすとき
第4章 複利の魔法
── ウォーレン・バフェットの純資産の95%以上は、65歳以降に得られたもの
第5章 裕福になること、裕福であり続けること
── 良い投資とは、一貫して失敗しないことである
第6章 テールイベントの絶大な力
── 5割の確率で失敗しても、富は築ける
第7章 自由
── お金から得られる最高の配当とは、「時間」をコントロールできるようになること
第8章 高級車に乗る人のパラドックス
── 誰も持ち主には関心を示さない
第9章 本当の富は見えない
── 裕福さの誇示は、富を減らす一番の近道
第10章 貯金の価値
── あなたが唯一コントロールできることが、一番重要なメリットをもたらす
第11章 合理的>数理的
── 冷徹な数理的思考より、おおまかな合理的思考がうまくいく
第12章 サプライズ!
── 歴史とは、未来を予測する地図ではない
第13章 誤りの余地
── もっとも重要な計画は、計画通りに進まない可能性を想定した計画である
第14章 あなたは変わる
── 長期計画は見かけよりも難しい
第15章 この世に無料のものはない
── 代償を払わずにリターンを得ようとする“泥棒”になってはいけない
第16章 市場のゲーム
── 「別のゲーム」をしているプレイヤーから学んではいけない
第17章 悲観主義の誘惑
── 悲観論は楽観論よりも賢く、もっともらしく聞こえる
第18章 何でも信じてしまうとき
── なぜストーリーは、統計データよりも強力なのか
第19章 お金の真理
── あなたが本書で学んだこと
第20章 告白
── 私のサイコロジー・オブ・マネー
謝辞
訳者あとがき
原注

『サイコロジー・オブ・マネー』の概要・内容

2021年12月7日に第一刷が発行。ダイヤモンド社。325ページ。ソフトカバー。127mm✕188mm。四六判。

副題は、“一生お金に困らない「富」のマインドセット”。

原書は、2020年9月8日に刊行された『The Psychology of Money: Timeless lessons on wealth, greed, and happiness』

『サイコロジー・オブ・マネー』の要約・感想

  • 長期視点でお金と向き合う知恵
  • おかしな人は誰もいない:経験が思考を支配する
  • 複利の魔法:「待つ」ことの力を知る
  • 裕福になることと、裕福であり続けることは違う
  • テールイベントに備える:冷静な判断力を鍛える
  • 物語の力に振り回されない
  • お金の目的は「安眠できること」
  • 『サイコロジー・オブ・マネー』を読むべき理由

長期視点でお金と向き合う知恵

『サイコロジー・オブ・マネー』は、お金の本でありながら、数字やテクニックに終始しない珍しい一冊である。著者はモーガン・ハウセルで、元ウォール・ストリート・ジャーナルのコラムニストでもあり、「人間とお金の関係」をテーマに、鋭い観察眼で私たちの行動を見つめている。

この本が教えてくれるのは、「どうお金を稼ぐか」よりも、「お金とどう付き合っていくか」の重要性だ。実際、お金持ちになることよりも、お金との健全な関係を築くことのほうが、長い人生においては遥かに意味のあることなのかもしれない。

読み進めるごとに、「もっと早く知っておけば……」と思わされるような気づきが次々と登場する。そして何より、平易な言葉で書かれていて、1つ1つの章が短くテンポ良く読める構成になっている。ビジネスマンはもちろん、大学生やさらに若い人がが読んでも学びの多い内容だ。

それでは、『サイコロジー・オブ・マネー』から特に印象的な章を取り上げながら、本書の本質を紐解いていこう。

おかしな人は誰もいない:経験が思考を支配する

分析の結果、人々の生涯にわたる投資判断は、その人が同時代に経験したこと、特に成人して間もない頃の経験に大きく左右されることが明らかになったのである。(P.29「第1章 おかしな人は誰もいない」)

この一節からわかるのは、人間の価値観や判断基準は、20歳前後、つまり社会に出たばかりの頃に形成された体験に強く影響されるという事実だ。たとえば、就職したタイミングがバブル崩壊の直後だった人と、ITバブルの真っ只中だった人では、お金に対する考え方がまるで違ってくる。お金の使い方、投資への態度、リスクのとらえ方、すべてがその初期経験によって色づけされてしまうのである。

これは非常に怖いことである。なぜなら、私たちが「合理的だ」と信じている判断の多くが、実は自分の狭い経験だけに基づいているからだ。2006年、全米経済研究所の経済学者のウルリケ・マルメンディエ(Ulrike M. Malmendier、1973年~)とステファン・ナーゲル(Stefan Nagel)による50年間の「消費者金融調査(Survey of Consumer Finances)」のデータ分析も、それを裏づけている。

つまり、たとえ自分が慎重派だと思っていても、それは単に「そういう時代に育ったから」かもしれない。反対に、リスクを恐れない性格も、好景気で大きな成功体験をした記憶に引きずられているだけかもしれない。私たちは、他人を「おかしい」と思いがちだが、実際には誰もがおかしいわけではない。ただ経験が違うだけなのだ。

複利の魔法:「待つ」ことの力を知る

バフェットの成功を取り上げた約2000冊の書物のなかに、「この人物は4分の3世紀にわたって一貫して投資を続けてきた」というタイトルのものはない。だが、それこそがバフェットの成功の秘密を解く鍵なのだ。にもかかわらず、誰もそのことに目を向けようとしない。複利のもたらす効果を直感的に理解するのはとてつもなく難しい。そのため、多くの人がそれを見逃しているのである。(P.84「第2章 複利の魔法」)

ここで語られるのは、「複利」の力である。そして、その力を最大限に引き出すためには、「長期間プレイし続けること」が鍵になるという点だ。

投資の神様として知られるウォーレン・バフェット(Warren Edward Buffett、1930年~)は、何十年もかけて資産を増やしてきた。それは年利10%の運用が続いたからではない。単に、他の誰よりも長く投資を続けてきたからこそ、複利の恩恵を最大限に受けられたのである。

この話は、お金の世界に限らない。仕事でも、人間関係でも、健康でも同じことが言える。続けること、待つこと、それが何よりも難しく、そして大きな差を生む力になる。人は短期的な成果にばかり目を奪われがちだが、「じっと待つ力」を持てるかどうかが、最終的な差になる。

裕福になることと、裕福であり続けることは違う

では、どうすれば私たちは破滅を避けられるのか。そのためには、次の3点に留意する必要がある。

1. 大きなリターンを得ることよりも、経済的に破綻しないことを目指す
2. あらゆる計画でもっとも重要なのは、計画通りに進まない可能性を踏まえて計画すること
3. 未来に楽観的であれ(P.97からの抜粋「第5章 裕福になること、裕福であり続けること」)

一発逆転を狙って、すべてを失う人は後を絶たない。だが、本当に大切なのは「破綻しないこと」だと著者は語る。これは仕事や人生全体にも通じる話である。たとえば、会社の成長を急ぎすぎて資金繰りが苦しくなったり、短期間で成果を出そうとして無理をして燃え尽きたりするようなことも含まれる。

失敗を避けるためには、「上手くいかない未来」も想定しておく必要がある。そして、そのうえで「それでも前に進める」というプランを立てるのだ。このバランス感覚こそ、人生でお金と付き合っていくうえでの知恵と言える。

テールイベントに備える:冷静な判断力を鍛える

天才的な投資家の定義とは、「周りの人たちが我を忘れているときに、当たり前の行動を取れる人」なのだ。(P.117「第6章 テールイベントの絶大な力」)

ここでいう「当たり前の行動」とは、パニックに流されないことを意味している。株価が暴落したとき、皆が一斉に売り始める。そんな中で「冷静さ」を保ち、売らない決断ができるかどうか。これは実に難しい。しかし、長期的な成功には、この「動かない力」が必要不可欠である。

世の中には「テールイベント」と呼ばれる「まれにしか起きないが非常に影響力の大きい出来事」が存在する。リーマンショックやコロナショックがまさにそれだ。そうした非常時に、いかに落ち着いて判断できるか。それが成功と失敗を分ける大きな境目になる。

物語の力に振り回されない

しかし、経済においてもっとも強い力を持つのは“ストーリー”なのだ。ストーリーは経済の燃料にもなれば、経済の潜在能力をストップさせるブレーキにもなる。(P.279「第18章 何でも信じてしまうとき」)

私たちは、物語に弱い。感情に訴える話に出会うと、「なるほど」と納得してしまう。そして、そのまま商品やサービスを買ったり、投資を始めたりしてしまう。だが、物語には裏もある。誰かが作った「売るためのストーリー」に、無防備に引き込まれてしまってはならない。

特に、期待や希望を強く持っているときほど、冷静さを欠いてしまう。だからこそ、「この話は本当か?」「何を信じているのか?」と一度立ち止まり、紙などに書き出してみることが大切だ。著者の言うように、「ストーリーの力」は時に危険である。その力に飲まれないように、自分の軸を持つことが求められる。

お金の目的は「安眠できること」

妻と私は、夜にぐっすり眠るために最大限の努力をすることになるだろう。私たち夫婦は、それが究極の目標だと考えている。それが、私たちにとってサイコロジー・オブ・マネーをマスターすることなのだ。(P.317「第20章 告白」)

この一文に、本書の核心が詰まっているように感じられる。「夜にぐっすり眠れるか」。これは、お金に対する姿勢、人生の選択における最もシンプルで、もっとも誠実な判断基準ではないだろうか。

私たちは、時に「もっと稼がなければ」「もっと成功しなければ」と思い込むが、それが不安を生み出して夜眠れないのでは意味がない。心の安定や安心感は、数字には表れないが、人生の満足度を大きく左右する。だからこそ、自分にとって「安心できるライン」を知ることが、お金との付き合い方の第一歩なのだ。

『サイコロジー・オブ・マネー』を読むべき理由

『サイコロジー・オブ・マネー』は、資産運用やお金の話にとどまらず、「人としてどう生きるか」という哲学書のようにも感じられる。何より、読みやすく、分かりやすい。全体としてはそれなりのページ数がある作品ではあるが、各章が短くまとまっていて、気軽に読み進められるのも魅力である。

本書を通じて学べるのは、「自分の行動をどう制御するか」「物語に飲まれない冷静さ」「続ける力の価値」「安心できる暮らしとは何か」といった、人生を通じて役立つ知恵ばかりだ。

今、お金に悩んでいる人も、将来の不安を感じている人も、この一冊は確実にヒントになるだろう。お金の話が苦手だと思っていた人ほど、ぜひ手に取ってほしい。英語に自信のある人は原書を読んでみるのも良いかもしれない。もちろん、日本語も英語も電子書籍のKindle版がある。

書籍紹介

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