『お金の原則』邱永漢

邱永漢の略歴

邱永漢(きゅう・えいかん、1924年~2012年)
作家、実業家。
台湾台南市の生まれ。東京大学経済学部を卒業。東京大学大学院で財政学を学ぶが後に中退。
1955年に、小説『香港』で第34回直木賞を受賞。

『お金の原則』の目次

文庫版へのまえがき
プロローグ――「お金」を知ることは、人間を、社会を、経済を知ること
お金が貯まる原則① お金をだいじにすること
お金が貯まる原則② “小”を積むこと
お金が貯まる原則③ 使わないこと
お金が貯まる原則④ 一生懸命稼ぐこと
お金が貯まる原則⑤ 借金は必ず返すこと
お金が貯まる原則⑥ 使うべきお金は使うこと
お金が貯まる原則⑦ けじめをつけること

概要

2001年1月15日に第一刷が発行。知恵の森文庫。267ページ。

1985年に、ごま書房から出版された『お金の貯まる人はここが違う』がオリジナル(2015年には、復刻版が発売されている)。

時代を経て新たに光文社の知恵の森文庫から発売されるということで内容は改訂と再編集が行なわれている。

「お金を貯めるにはお金を使わなければいい」といった天然自然の原理のような「お金の原則」は、バブルの前も後も変わりようがない。原則とは、変わらないから原則であり、当たり前に見えるがゆえに、意外に忘れられやすい。(P.18「プロローグ」)

原則は当たり前であるからこそ、忘れられてしまう。お金の原則や原理も同じ。

貯めるには、使わない。使わなければ、貯まる。とてもシンプル。なのに、お金は、なかなか貯まらない。

特に日本人はお金の知識が乏しいとも指摘する。

そして、邱永漢が直木賞受賞後に、株式投資やお金儲けの文章を書き始めた際、批判を浴びた逸話を披露。

人間の営みは全て作家のテーマとなるはず。何故、お金の話が下品として見なされるのか、と疑問を呈する。

仲の良かった先輩作家の檀一雄(だん・かずお、1912年~1976年)の言葉などを引用しながら、お金に関する文章を肯定していくのも面白い部分である。

バルザックの作品の中に、こんなセリフがあります。
「あなたのポケットにあるお金を私に見せてください。そうしたら、あなたの思想を当ててみましょう」
人間は、懐がさびしくなると、さびしくなった分だけチエがなくなるし、豊かになって余裕ができると、考えることにも冴えが出てくることを、バルザックは指摘しているのです。(P.55「お金が貯まる原則① お金をだいじにすること」)

フランスの小説家であるオノレ・ド・バルザック(Honoré de Balzac、1799年~1850年)の言葉を紹介。

貧すれば鈍する。恒産なくして恒心なし。

お金と人間の関係性を表現した似たような言葉は、どのような場所にもある。人間の本質は同じで、地域性はそこまで影響はないということか。

お金の余裕があれば、心にも余裕が生れる。心に余裕があれば、頭も余裕を持って使える。すると、良い考えも生まれやすい。

好循環で進められるのが良いと。

私は、とりあえず百万円貯めてみなさいとすすめています。こう言うと一万円札を一枚ずつ貯めればいいんだなと誰でも思うでしょう。ところが、実際には、一万円掛ける百と、貯めて百万円とでは実感が違います。百万円貯まると、なんとなく一つの塊になって、くずせなくなるんですね。(P.77「お金が貯まる原則② “小”を積むこと」)

具体的なアドバイスとして、まずは100万円を目標に貯金をしてみなさいと述べる。

すると100万円が一つの塊、一つのブロック、一つの単位となる。すると、200万円、300万円といった感じで、その後は意外と上手くいきやすい。

また100万円の単位でお金が貯まってくると、何か商品を購入したり、サービスを受けたりではなく、それをタネにして、株式投資などのお金を育てる方法を考えるようになるとも。

実現可能な小さな目標を、毎回毎回立てて、地道に実行していくのが大切。徐々に最終目標に向かっていけば良いと。

仕事がおもしろいから一生懸命働く。働くからお金もはいってくる。―― こうした図式が理想なんです。ですから、お金を貯めようと思うなら、まず、自分が一生をかけられる仕事、天職を見つけなければならない。つまらないと思いながら仕事をつづけていたのでは、お金は貯まらないものです。(P.148「お金が貯まる原則④ 一生懸命稼ぐこと」)

お金を貯めるためには、自分が面白いと思える仕事、天職を見つけること。そうすると、長続きもするので、お金が貯まりやすい。

その後で、やりがいは無いけれど、お金が良い仕事もある、と指摘。ただ、お金はもともと生活の手段。

毎日の生活が楽しくないのならば、お金を貯める必要はないと断言。とても分かりやすく納得ができる。

ちなみに、この文章の前で、そんなに仕事で忙しくて病気になりませんか、という質問をよく他の人から受けるという逸話。

仕事が楽しくて、面白いから、健康でいられると邱永漢は言う。

金持ちになる人は、みんなお金を借りて成功しているのです。そうした金融機関をうまく利用しきれない人は、大きな事業はできないし、お金に困るたびに友人のところに駆け込んだりすると、遅かれ早かれ、金銭的に追いつめられてしまいます。(P.219「お金が貯まる原則⑥ 使うべきお金は使うこと」)

ここでは友人にお金を借りてはいけない、銀行などの金融機関に借りるべきという話。

金融機関で調査を受けて、お金が借りられないのであれば、仕事が上手くいく可能性は低いため。

また友人とのお金の貸し借りは、関係性を悪化させることが多いので、止めるべきとも。友人からの借金の申し込みは、できるだけ断るべき。

今までの付き合いがあるなら、100万円を貸すのではなく、10万円を渡す方が良いという具体的な方法も助言。

感想

邱永漢の原則シリーズ。どのアドバイスも具体的で実践的な内容。

さすがに自分でビジネスを各種やっていた人物である。また作家でもあるので、文章はとても読みやすい。

下世話にお金を貯めていくのではなく、楽しい仕事をしながら、まわりとの人間関係も良好に、上品にお金を貯めていくためのアドバイスが沢山提示されている。

買い物の際には、高くて良いものを購入した方が長期的に安い買い物の場合もあるなどといった助言も。

特にその辺りの部分は「お金が貯まる原則⑥ 使うべきお金は使うこと」や「お金が貯まる原則⑦ けじめをつけること」などにも明確に書かれている。

冠婚葬祭や贈り物などは、人間関係のための貯金といった考え方など、とても参考になった。

お気に入りのエピソードは、ノンフィクション作家の大宅壮一(おおや・そういち、1900年~1970年)の「男の顔は履歴書である」という言葉。

この言葉を引用しながら、40歳を過ぎてくると、それまでの経験が顔に出てくると。自分が何をしてきたかで、顔つきが変わってくるので、上手に年齢を重ねるのは難しいと。

そのため、仕事選び。お金の貯め方。お金の使い方。生活の仕方など総合的に、全てが顔に出てくると。

かなり怖い話でもあるが、自分も上手く歳を重ねていきたいと思う。

お金に関するさまざまな事柄が書かれた非常にオススメの本である。

書籍紹介

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邱大樓

邱永漢が台湾台北市中区に建てたビル。同じビルには「永漢日語」という日本語を教える学校もある。