邱永漢『株の原則』

邱永漢の略歴

邱永漢(きゅう・えいかん、1924年~2012年)
作家、実業家。
台湾台南市の生まれ。東京大学経済学部を卒業。東京大学大学院で財政学を学ぶが後に中退。
1955年に、小説『香港』で第34回直木賞を受賞。

『株の原則』の目次

文庫版へのまえがき
プロローグ――「株の原則」は、推理を楽しむことにあり
1 初心者でもわかる銘柄の見抜き方、選び方
原則 1 自分を抑える、克己心を忘れるな
原則 2 自分の性格に挑戦するつもりで株をやれ
原則 3 時代の変化に気を配れ
原則 4 銘柄は、自分の身近なところから選べ
原則 5 株式投資の“定石”だけにとらわれるな
原則 6 自分で高すぎると思った株は買うな
2 初心者でもわかる株の売り方、買い方
原則 7 株の衝動買いはするな
原則 8 金儲けのチャンスを、自分のものだけと思うな
原則 9 シロウト考えを重視せよ
原則10 株のことは株に聞け
原則11 他人に責任を転嫁するな
3 初心者でもつかめる株式情報の読み方
原則12 新聞の株式欄を見るときは、全体を眺めよ
原則13 情報は、そのままウノミにするな
原則14 情報を読む、自分なりの“見方”を持て
原則15 常識外の出来事を軽視するな
●解説 糸井重里

『株の原則』の概要

2000年9月15日に第一刷が発行。知恵の森文庫。249ページ。

オリジナルは、ごま書房から1983年に出版された『邱永漢の株入門』

1996年に『株の原則』とタイトルを変更して新装本として再び出版。さらに文庫本として発売されたのが本書である。

株式投資には、自分を抑える克己心が絶対に必要だということです。株式投資は、金儲けではあるけれども、精神修養でもあるのです。金儲けを実現するためにあ、相当、自分の心をコントロールできないといけない。のぼせあがったら、収拾がつかなくなります。(P.31「1 初心者でもわかる銘柄の見抜き方、選び方」)

株式投資をする際には、さまざまな情報が入ってくる。その情報から自分の判断で株を買う。上がるかもしれないし、下がるかもしれない。

でも、そう簡単には上手くいかない。少ししか利益を得られなかったり、大きく損をしてしまったりするかもしれない。

そのためには、自分の欲望や心の動きをコントロールしなければならない。自分の性格に合った株の買い方、売り方を考えなければならない。自分の内面を観察する必要がある。

つまりは、精神修養である。

ですから、せいぜい三本勝負まででしょう。それ以上やったら、株をやっているうちにはいらんですよ。是川銀蔵さんが全盛時代手がけていたのは本田技研と不二家と丸善石油の酸銘柄です。もっとも、かつては一本勝負でした。(P.79「1 初心者でもわかる銘柄の見抜き方、選び方」)

ここでは、株を買うなら沢山ではなく、少しに絞った方が良いという提案。

なぜなら、リスク回避や危険分散のために、さまざまな会社の株を買うなら、投資信託を選べば良いので。

“最後の相場師”とも呼ばれた事業家で投資家の是川銀蔵(これかわ・ぎんぞう、1897年~1992年)を引用している。

是川銀蔵の関連では自著の『相場師一代』や政治家で政治評論家の木下厚(きのした・あつし、1944年~)による『最後の相場師 是川銀蔵』などがある。

「休むも相場」という言葉があります。売った買ったをやるだけが株じゃない。ある時期は、株を一株も持たずに、なにもしないで、ただ見ているのも株式投資なんだ、という意味です。これがすごくむずかしい。なかなかできないことなんです。(P.137「2 初心者でもわかる株の売り方、買い方」)

株を何も持たない時期も必要。常に何らかの株を持っている必然性もないということ。

株を常に持っているのは、株に慣れてしまっている証拠なのかもしれない。

そのため、意識的に全く株を持たないような時期をつくるのも良いのかも。

ある種の中毒症状になっているのかもしれないから、そこから離れることも大切であると。

これは、先述の株式投資は精神修養と同じ意味かも。克己心と客観性が大切。

人間、問題意識がないと、ものごとを捉えられないものです。私なんかが、今日成り立っているのも、問題意識を多角的に持っているからなんです。アンテナをはっていてそれに触れたら、あっ、こんなこともあったのか、こうだったのか、という具合に頭のなかにはいってくる。(P.183「2 初心者でもわかる株の売り方、買い方」)

株式投資を始めると、いろいろな物の見方が変わってくる。さまざまなメディアによる会社や事業の情報など。

いつもと変わらない出来事が、株式投資という視点を得たことで、変化する。

ただ最初は、解説書を読んだり、株式投資の経験者に相談したり、ある程度の予備知識を得てから、株式投資を始めると良いとも。

特にある分野への関心や興味を持つと新たな視点が得られるというのは、株式投資に限らず、多くの事柄に応用ができる。

好奇心や学習意欲というのは、何事においても重要。

つまり、第一線で仕事をしていなければ、実践的なカンというものは養えない。
だから、完全に隠居していた人が、ある日、カンが働いて株の大暴騰を予見するなんてことは、まずありえません。(P.228「3 初心者でもつかめる株式情報の読み方」)

カンやひらめき、というものは、豊富な経験の中から見につくもの。常に実践者でなければならない。

先述の部分の問題意識と同様。問題意識がなければ、何も得られないのだから。

またここの前部では、霊感的な言動に自分の心が左右されそうになってきたら、判断が鈍り始めたという合図と考えた方が良いと。

心細くなったり、弱気になったりして、そのようなものに頼ってはいけないと。

やはり、株式投資は精神修養ということになる。

自分の思っていることと反対のことや、常識から考えると信じられないことが起こった場合、それが世の中の新しい傾向かもしれないのです。それをきっかけとして、もしかしたら、いままでの常識を百八十度、修正する必要があるかもしれない。そう考えるべきなんです。(P.229「3 初心者でもつかめる株式情報の読み方」)

そのまま、隣のページの文章。人間は常識にとらわれてしまう。そのため、常識に反すること、自分では信じられないことについては、判断材料にすらもしないと。

固定観念に縛られてはいけない。柔軟な思考が必要。

常識外のことは、刺激剤と捉え直して、自らの成長機会と思った方が良いということ。年齢を重ねる上でも大切な気がする。

『株の原則』の感想

誰で最初は素人で、そういった人たちが新しい時代を切り開いていく。

若者を馬鹿にする者たちは老害と呼ばれる。新しいテクノロジーや仕組み、潮流を見て、触れるのも大切である。

自分の性格を知り、自分の方法を考えること。

自分のペースで仕事をすることの大切さ。誰かに生殺与奪の権利を渡してはいけない。

自分のペースというと、ゆったりとしたマイペースみたいに思われるが、実は誰にも邪魔されない形で心地よく仕事ができるので、他者と比べて超高速の場合が多いのではないだろうか。

過去の経験に囚われないこと。「建て値を忘れよ」という言葉が株式投資にはある。

また世の中には「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉もある。

初代ドイツ帝国の宰相、オットー・フォン・ビスマルク(Otto Eduard Leopold von Bismarck-Schönhausen、1815年~1898年)の言葉。

経験は経験で大切かもしれないが、過去の経験や成功に固執し過ぎてはいけない。新しい物への好奇心や柔軟性、客観性も、常に意識しなければならない。

ちなみにこの邱永漢の本のおかげ、事業家で投資家の是川銀蔵を知った気がする。この人の人生も面白いので、関連著作を今後紹介したいと思う。

株の基本や原則について知りたい人には非常にオススメの本である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

邱大樓

邱永漢が台湾台北市中区に建てたビル。同じビルには「永漢日語」という日本語を教える学校もある。