本多静六の略歴
本多静六(ほんだ・せいろく、1866年~1952年)
林学者、造園家、株式投資家。
武蔵国埼玉郡河原井村(現在の埼玉県久喜市菖蒲町河原井)の生まれ。帝国大学農科大学(現在の東京大学農学部)を首席で卒業。ドイツへ留学し、ターランド山林学校を経て、ミュンヘン大学で林学の博士を取得。
日比谷公園などをはじめとする多くの公園の設計や改良に携わり“公園の父”とも呼ばれる。また貯蓄と投資で富を築いたことでも有名。
『私の財産告白』の目次
自序
私の財産告白
一、貧乏征伐と本多式貯金法
二、金の貯め方・殖やし方
三、最も難しい財産の処分法
四、金と世渡り
五、これからの投資鉄則
私の体験社会学
一、儲かるとき・儲からぬとき
二、儲ける人・儲けさせる人
三、人間的サラリーマン訓
四、人を使うには・人に使われるには
五、平凡人の成功法
解説 岡本吏郎
『私の財産告白』の概要
2005年7月20日に第一刷が発行。実業之日本社。213ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。
もともとは、1950年11月に刊行したものをオリジナルの形で新たに発売。
誤記・誤植の定性、字句・仮名遣いの統一が行なわれている。
監修は、本多静六の孫であり、東京大学工学部を卒業し、大学教授を務めた本多健一(ほんだ・けんいち、1925年~2011年)。
本書は「私の財産告白」と「私の体験社会学」の二部構成で、金銭に関する本多静六の考えや行動がまとめられている。
解説は、税理士でマーケティング・コンサルタントの岡本吏郎(おかもと・しろう、1961年~)。
『私の財産告白』の感想
何事にも先立つものは、お金である。
英語学者・渡部昇一(わたなべ・しょういち、1930年~2017年)、地球物理学者・竹内均(たけうち・ひとし、1920年~2004年)、そして、この書籍の解説も書いている税理士・岡本吏郎も尊敬している人物。
それが、大学教授でありながら、蓄財で大きな富を築いた本多静六である。
というわけで、手に取ったのが、この『私の財産告白』。
既に最低でも二回は読んでいて、とても勉強になる。当たり前と言えば、当たり前のことが書かれいる。
ただ、それが出来ない人が多いのである。私も含めてではあるが。
本多静六の蓄財の方法の基盤となるのは、貯金法。
一般的に、四分の一貯金法。収入の四分の一を強制的に貯金する方法である。
本書の最初の方にも書かれているが、これは本多静六の発明ではない。
紀元前7~5世紀頃の人物であり、仏教の開祖・釈迦(しゃか、生没年不詳)も、寛政の改革を実行した老中・松平定信(まつだいら・さだのぶ、1759年~1829年)も、各地の財政を立て直した二宮尊徳(にのみや・そんとく、1787年~1856年)も、同様のことを奨励しているという。
もともと、家にあまりお金がなく働きながら学業に励んだ本多静六は、最終的にドイツ留学も果たす。
ドイツから日本に帰る時に、大学教授から、財政基盤を整えて、学者としての仕事に励みなさいという主旨のアドバイスを受けた。
その助言を念頭に置きながら、たまたま思い付いたのが四分の一貯金法。
そして、もちろん仕事にも励む。
と同時に文章執筆も。ある種のアルバイトである。
25歳から1日に、32字×14行=448字を書くようにした本多静六。もちろん、原稿料がもらえるレベルの内容と文章。
さらに、42歳で腸チフスになって入院して、一カ月以上も書けなかった。その後は、量を多くして、448字×3=1344字を書くようになったという。
自分も文章を書くことを仕事としているので、参考になる、というか、もっと書かないと、と反省である。
まず、株式のお話から始めとすると、「二割利食い、十割益半分手放し」という法で押し通した。(P.48「私の財産告白:二、金の貯め方・殖やし方」)
まずは、四分の一貯金で、お金をシンプルに貯める。
ただ、それだけでは、お金の貯まるスピードはあまりない。
そこで、殖やす法。株式投資である。
その方法が、20%上昇したら売る、2倍になったら売る。
という2種類の方法である。とても単純な方法である。
だが、四分の一貯金と同様に、人間の意志とは弱いものでなかなか実行が出来ないことでもある。
好景気時代には勤倹貯蓄を、不景気時代には思い切った投資を、時期を逸せず巧みに繰り返すよう私はおすすめする。(P.52「私の財産告白:二、金の貯め方・殖やし方」)
上記のようなオススメの方法も。
実際、色々な株式の値段が下がっている時に購入するのは、なかなかの胆力が必要な気もするけれど。
株式投資は、精神修行にもなる。
貯金、株式投資と来て、精神の在り方や職業、仕事、事業についての話も出てくる。
同じく埼玉出身で、各種の事業で有名になった渋沢栄一(しぶさわ・えいいち、1840年~1931年)のエピソードも。
人生の最大幸福は職業の道楽化にある。富も、名誉も、美衣美食も、職業道楽の愉快さには比すべくもない。道楽化をいい換えて、芸術化、趣味化、娯楽化、遊戯化、スポーツ化、もしくは享楽化等々、それはなんとよんでもよろしい。(P.186「私の体験社会学:五、平凡人の成功法」)
四分の一貯金法と同様に、割りと有名なのが、職業の道楽化。
職業の道楽化をして、仕事を楽しむ。楽しんでいれば、富も名誉も、諸々が付いてくるというもの。
ちなみに「自序」でも書かれているが、本多静六は「人生即努力・努力即幸福」を標榜している。
貯金にしても、利殖にしても、仕事にしても、人生は努力が必要であり、努力が幸福であるというもの。
この辺りは、精神性や幸福に関する考え方でも論じられている部分。とても共感というか、素晴らしい考え方であり、生き方であると思う。
自らも、努力を継続して、幸福を得続けたい。たまには、もちろん、休むけれど。聖人ではないので。
というわけで、貯金や株式投資などに興味のある人には非常にオススメの原理原則が書かれた古典的な書籍である。
もちろん、渡部昇一や竹内均、岡本吏郎などに関心の高い人にも最適。
心の在り方や精神面なども、とても勉強になる著作である。
本多静六には、今回の『私の財産告白』の他に、『私の生活の流儀』、『人生計画の立て方』もあり、こちらもオススメである。
書籍紹介
関連書籍
関連スポット
本多静六記念館
本多静六の生誕地・埼玉県久喜市菖蒲町にある記念館。2013年に菖蒲総合支所5階にオープン。入場無料。周辺には、本多静六博士の森、本多静六博士生誕地記念園も。
公式サイト:本多静六記念館等
ターランド山林学校(ドレスデン工科大学)
ターランド山林学校は、現在のドレスデン工科大学(Technische Universität Dresden)で、ドイツのザクセン州立の大学。1828年の設立で、1961年にドレスデン工科大学という名称になる。
公式サイト:ドレスデン工科大学
ミュンヘン大学
ミュンヘン大学は、ドイツのバイエルン州の州都ミュンヘンにある1472年に設置された総合大学。正式名称は、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(Ludwig-Maximilians-Universität München)。
公式サイト:ミュンヘン大学