
- ドーパミン仕事術:目標を設定と達成で幸福感とモチベーションを高め、学習効率を向上。
- ノルアドレナリン仕事術:適度なプレッシャーや締め切りを活用して集中力と判断力を鋭敏に。
- アドレナリン仕事術:興奮や怒りを身体能力の覚醒に変え、心身の連携を最適化。
- アセチルコリン仕事術:短時間の昼寝で認知機能と創造性を回復し、ひらめきを促進。
樺沢紫苑の略歴・経歴
樺沢紫苑(かばさわ・しおん、1965年~)
精神科医、作家。
北海道札幌市の生まれ。江別市大麻の育ち。札幌医科大学医学部を卒業。2004年からアメリカのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。本名は、佐々木信幸。
『脳は最適化すれば能力は2倍になる』の目次
序章 あなたの働き方はあなたの脳が決めている
第1章 ドーパミン仕事術 幸福物質を自在に操り、モチベーションを上げまくれ!
第2章 ノルアドレナリン仕事術 「恐怖」と「プレッシャー」で仕事効率を上げろ!
第3章 アドレナリン仕事術 「怒り」と「興奮」を味方に変える
第4章 セロトニン仕事術 「癒し物質」で、朝仕事の効率化と気分転換
第5章 メラトニン仕事術 「睡眠物質」で完全リフレッシュ
第6章 アセチルコリン仕事術 「認知機能」と「ひらめき」を高める方法
第7章 エンドルフィン仕事術 「脳内麻薬」を味方につける究極の仕事術
さいごに
参考文献
『脳は最適化すれば能力は2倍になる』の概要・内容
2016年12月20日に第一刷が発行。文響社。268ページ。電子書籍。
副題は「仕事の精度と速度を脳科学的にあげる方法」。
2010年にマガジンハウスから刊行された『脳内物質仕事術』を大幅に修正・加筆したもの。
2024年5月9日には文庫版が刊行。
『脳は最適化すれば能力は2倍になる』の要約・感想
- 幸福は脳内物質ドーパミンが生み出す
- 恐怖を力に変えるノルアドレナリンの働き
- 身体能力を覚醒させるアドレナリンの秘密
- 創造性を高めるアセチルコリンの意外な役割
- 総論:脳科学を仕事の武器とするために
日々の業務に追われ、「もっと効率的に仕事がしたい」「集中力が続かない」と感じることはないだろうか。
あるいは、高いパフォーマンスを維持し続ける人を見て、自分とは何が違うのかと疑問に思った経験はないだろうか。
その答えは、私たちの「脳」の中にあるのかもしれない。
精神科医である樺沢紫苑(かばさわ・しおん、1965年~)が執筆した『脳は最適化すれば能力は2倍になる』は、脳科学の観点から仕事のパフォーマンスを最大化する方法を説いた一冊である。
本書は、私たちの感情や意欲、集中力を司る「脳内物質」の働きに着目。
それを自在にコントロールするための具体的なテクニックを7つの仕事術として体系的に解説している。
この記事では、本書で紹介されている脳内物質の働きと、それらを活用した仕事術の核心部分を、引用を交えながら詳しく解説していく。
脳の仕組みを理解し、自らの能力を最大限に引き出すためのヒントがここにあるはずである。
幸福は脳内物質ドーパミンが生み出す
そもそも、「幸せ」とは一体何なのだろうか。
哲学的な問いにも聞こえるが、本書は脳科学の視点から極めて明快に定義している。
夢のない話でありますが、「ドーパミン分泌=幸せ」なのです。(P.33「第1章 ドーパミン仕事術:幸福物質を自在に操り、モチベーションを上げまくれ!」)
確かに、幸福という崇高な感情が、単なる脳内の一物質の働きによるものだと言われると、少し味気なく感じるかもしれない。
しかし、見方を変えれば、これは非常に希望のある話である。
なぜなら、ドーパミンが分泌される仕組みを理解し、それを意識的に活用できれば、私たちは自らの手で「幸せ」な状態、すなわち高いモチベーションを維持できるということになるからだ。
では、どうすればドーパミンを分泌させることができるのだろうか。
本書はその鍵が「目標設定」にあると指摘する。
ラットの頭の中では、「砂糖水を期待したとき」と「実際に砂糖水を得たとき」の2回、ドーパミンが出ているわけです。
これを人間の目標達成に当てはめれば、「目標を設定したとき」と「目標を達成したとき」の2回、ドーパミンが出ていることになります。(P.40「第1章 ドーパミン仕事術:幸福物質を自在に操り、モチベーションを上げまくれ!」)
このラットの実験結果は、人間における目標達成のプロセスを考える上で非常に興味深い。
重要なのは、ドーパミンが目標を達成した瞬間だけでなく、目標を設定した段階でも分泌されるという点である。
つまり、明確なゴールを定めること自体が、私たちの脳に快感と意欲をもたらすスイッチとなるのだ。
これは、ただ漠然と作業に取り組むのではなく、具体的で達成可能な目標を掲げることがいかに重要であるかを示唆している。
大きなプロジェクトであれば、それを細分化し、小さな目標をいくつも設定することが有効だろう。
一つ一つの小さな目標をクリアするたびにドーパミンが分泌され、次のステップへ進むための推進力が得られる。
この好循環を生み出すことが、ドーパミン仕事術の第一歩となるのである。
さらに、ドーパミンの効果はモチベーションの向上だけにとどまらない。
ドーパミンが出ると、「物覚えが速くなる」「上達が早くなる」「記憶力がよくなる」といった効果もあります。学習効果がアップするのです。(P.46「第1章 ドーパミン仕事術:幸福物質を自在に操り、モチベーションを上げまくれ!」)
「好きこそ物の上手なれ」ということわざがあるが、これもドーパミンの効果として科学的に説明できる。
楽しみながら物事に取り組んでいるとき、私たちの脳内ではドーパミンが活発に分泌され、それが学習効率や記憶力を高めているのだ。
仕事や勉強においても、「楽しむ」という要素をいかに取り入れるかが、パフォーマンスを左右する重要な鍵となることがわかる。
恐怖を力に変えるノルアドレナリンの働き
一方で、仕事には楽しみや達成感だけでなく、締め切りやプレッシャーといったストレスがつきものである。
こうした状況で私たちの脳を戦闘モードに切り替え、集中力を極限まで高めてくれるのが「ノルアドレナリン」という脳内物質である。
ノルアドレナリンの分泌によって、覚醒度、集中度がアップします。ぼんやりとしていた頭が冴え渡り、「闘う」べきか「逃げる」べきかの正しい判断が瞬間的にできるように、脳の働きも大きくアップするのです。(P.77「第2章 ノルアドレナリン仕事術:「恐怖」と「プレッシャー」で仕事効率を上げろ!」)
ノルアドレナリンは、危険や脅威に直面した際に分泌されることから「闘争と逃走のホルモン」とも呼ばれる。
この物質が働くと、注意力や集中力、思考力、判断力が研ぎ澄まされ、危機的な状況を乗り越えるための準備が整う。
例えば、重要なプレゼンテーションの直前や、試験の終了間際といった場面で、頭がクリアになり、普段以上のパフォーマンスを発揮できた経験はないだろうか。
それはまさに、ノルアドレナリンの作用によるものである。
しかし、ノルアドレナリンは諸刃の剣でもある。
過剰なストレスに長期間さらされ、ノルアドレナリンが分泌され続けると、やがては枯渇し、意欲の低下や無気力、うつ病の原因にもなりかねない。
重要なのは、適度なプレッシャーを味方につけ、ノルアドレナリンの力を短期集中で活用することである。
本書では、締め切りを設定する、あるいは時間を区切って作業するなど、人為的に「締め切り効果」を作り出すことで、ノルアドレナリンを効果的に分泌させる方法が紹介されている。
プレッシャーをただのストレスとしてやり過ごすのではなく、脳の性能を高めるためのツールとして積極的に利用するという発想の転換が求められるのである。
身体能力を覚醒させるアドレナリンの秘密
ノルアドレナリンと非常によく似た名前の脳内物質に「アドレナリン」がある。
どちらも興奮状態で分泌される物質だが、その働きには明確な違いがあると本書は解説する。
主に脳と神経系を中心に活躍するのがノルアドレナリン、脳以外の身体の各臓器、特に心臓や筋肉を中心に影響を及ぼすのがアドレナリンといった違いがあります。(P.110「第3章 アドレナリン仕事術:「怒り」と「興奮」を味方に変える」)
つまり、ノルアドレナリンが脳のパフォーマンスを高めるのに対し、アドレナリンは身体のパフォーマンスを最大化する役割を担っている。
心拍数を上げ、血圧を上昇させ、筋肉にエネルギーを供給することで、身体を「火事場の馬鹿力」とも言える状態にするのだ。
スポーツ選手が試合の重要な局面で驚異的な力を発揮するのは、アドレナリンの分泌によるものが大きい。
興味深いのは、これらの物質が生成されるプロセスである。
アドレナリンが生合成される過程は、「チロシン→L-DOPA→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン」です。ノルアドレナリンが副腎髄質において、アドレナリンに変換されるわけです。(P.110「第3章 アドレナリン仕事術:「怒り」と「興奮」を味方に変える」)
この連鎖反応は、私たちの心と身体がいかに密接に連携しているかを示している。
意欲の源であるドーパミンから、脳を覚醒させるノルアドレナリンが作られ、さらにそれが身体能力を引き出すアドレナリンへと変換されていく。
この一連の流れを理解することは、心身のコンディションを最適化する上で極めて重要である。
ちなみに、アドレナリンという名称は、その発見の歴史と深く関わっている。
アドレナリンは、日本、欧州ではこの名が使われていますが、アメリカでは「エピネフリン」と呼ばれています。前章で出てきた「ノルアドレナリン」も、アメリカでは「ノルエピネフリン」となることがあります。(P.112「第3章 アドレナリン仕事術:「怒り」と「興奮」を味方に変える」)
この名称の違いは、アドレナリンの発見と命名をめぐる歴史的な経緯に由来する。
アドレナリンを世界で初めて結晶として抽出・分離することに成功したのは、日本の科学者である高峰譲吉(たかみね・じょうきち、1854年~1922年)であった。
ほぼ同時期にアメリカの研究者ジョン・ジェイコブ・エイベル(John Jacob Abel、1857年~1938年)も研究を進めており、「エピネフリン」と命名した。
こうした背景から、現在でも地域によって異なる名称が使われているのである。
日本の科学者の功績が、世界的に使われる物質の名称に関わっているという事実は、記憶に値するだろう。
創造性を高めるアセチルコリンの意外な役割
ドーパミンやアドレナリンが「アクセル」の役割を果たす脳内物質だとすれば、「ブレーキ」や「調整役」として機能する物質も存在する。
その代表格が「アセチルコリン」である。
第3章でお話ししたように、交感神経が興奮するとアドレナリンが分泌されます。このアドレナリンで踏み込んだアクセルを、アセチルコリンのブレーキで制御するのです。この他にもアセチルコリンは、前脳基底部(マイネルト基底核、内側中隔核など)から、大脳皮質、大脳辺縁系、視床などに投射し、認知機能(思考・記憶・学習・注意力・集中力)、覚醒と睡眠(特にレム睡眠)、シータ波の発生、情動記憶などの機能も担っています。(P.206「第6章 アセチルコリン仕事術:「認知機能」と「ひらめき」を高める方法」)
アセチルコリンは、単に興奮を鎮めるブレーキ役にとどまらない。
引用文にあるように、認知機能やひらめき、創造力といった、より高度な知的作業に深く関わっている点が非常に重要である。
アクセルを踏み込んで集中する時間と、ブレーキをかけてリラックスし、アイデアを練る時間の両方をバランス良く持つことが、質の高い仕事をする上で不可欠なのだ。
では、どうすればこのアセチルコリンを効果的に働かせることができるのだろうか。
本書が推奨する方法の一つが「昼寝」である。
たった30分ほどの昼寝で、脳のパフォーマンスを30%以上も回復させられる。それだけの素晴らしい効果を、「昼寝」は持っているのです。(P.208「第6章 アセチルコリン仕事術:「認知機能」と「ひらめき」を高める方法」)
日中の短時間の睡眠は、疲労した脳をリフレッシュさせ、午後の活動に必要な集中力や注意力を回復させる効果がある。
特に、アイデア出しや企画立案など、創造性が求められる作業の前には極めて有効な戦略と言えるだろう。
ただし、本書でも注意が促されているように、60分を超えるような長い昼寝は、深い睡眠に入ってしまい、目覚めた後も眠気が残りやすくなるため逆効果である。
15分から30分程度の仮眠が、脳のパフォーマンス回復には最も適している。
総論:脳科学を仕事の武器とするために
本書『脳は最適化すれば能力は2倍になる』は、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、メラトニン、アセチルコリン、エンドルフィンという7つの主要な脳内物質の働きを軸に、私たちのパフォーマンスを最大化するための具体的な方法論を提示している。
専門的になりがちな脳科学の知見を、非常に平易で分かりやすい言葉で解説している点が、本書の最大の特長である。
専門書や論文を読み解く時間がない人でも、すぐに自分の仕事や生活に応用できる知識を手に入れることができる。
紹介されているテクニックは、「目標を細分化する」「時間を区切る」「昼寝をする」など、どれもすぐに実践可能なものばかりだ。
一方で、その分かりやすさと実践しやすさゆえに、一部の読者は内容が単純化されすぎていると感じるかもしれない。
また、精神論や自己啓発的な側面に、一種の胡散臭さを感じる人もいるだろう。
確かに、個々の状況や体質によって、本書のテクニックが万人に同じ効果をもたらすとは限らない。
しかし、本書の真の価値は、個々のテクニックの有効性そのものよりも、自身の感情や行動の背景にある「脳の仕組み」に関心を持つきっかけを与えてくれる点にあるのではないだろうか。
なぜ意欲が湧くのか、なぜ集中できるのか、なぜ良いアイデアがひらめくのか。
そのメカニズムを理解することで、私たちは自分自身の状態を客観的に把握し、より主体的にコントロールできるようになる。
本書は、脳科学という分野への入門書として、また、日々のパフォーマンスを改善するための実践的なガイドブックとして、非常に優れた一冊である。
もしあなたが自身の能力をさらに引き出したいと願うなら、まずは本書を手に取り、脳という最も身近で最も強力なツールとの付き合い方を見直してみてはいかがだろうか。
そこに、あなたの働き方を、そして人生を大きく変えるヒントが隠されているかもしれない。
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