『天才の栄光と挫折』藤原正彦

藤原正彦の略歴

藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)
数学者。大学教授。
満州国の新京(現在の中国吉林省長春市)生まれ、東京育ち。東京学芸大学附属小金井中学校、東京都立西高等学校、東京大学理学部数学科を卒業。東京大学大学院理学系研究科修士課程数学専攻を修了。アメリカのミシガン大学の研究員、イギリスのケンブリッジ大学の研究員も経る。
父親は小説家の新田次郎(にった・じろう、1912年~1980年)、母親は作家の藤原てい(ふじわら・てい、1918年~2016年)。

『天才の栄光と挫折』の目次

神の声を求めた人 アイザック・ニュートン
主君のため、己のため 関孝和
パリの混沌に燃ゆ エヴァリスト・ガロワ
アイルランドの情熱 ウィリアム・ハミルトン
永遠の真理、一瞬の人生 ソーニャ・コワレフスカヤ
南印度の“魔術師” シュリニヴァーサ・ラマヌジャン
国家を救った数学者 アラン・チューリング
真善美に肉迫した異彩 ヘルマン・ワイル
超難問、三世紀半の激闘 アンドリュー・ワイルズ
あとがき
解説 小川洋子

概要

2008年9月10日に第一刷が発行。文春文庫。289ページ。

副題は「数学者列伝」。

2002年5月に新潮社から刊行された単行本を文庫化したもの。

数学者の藤原正彦が9人の数学者の足跡を辿るノンフィクション作品。

アイザック・ニュートン(Isaac Newton、1643年~1727年)…イングランドの自然哲学者、数学者、物理学者。ニュートン力学の確立、微積分法の発見など。

関孝和(せき・たかかず、1640年頃?~1708年)…和算家(数学者)。上野国(現在の群馬)もしくは江戸生まれ。筆算による代数の計算法・点竄術(てんざんじゅつ)を発明。

エヴァリスト・ガロワ(Évariste Galois、1811年~1832年)…フランスの数学者、革命家。体論や群論の研究。

ウィリアム・ハミルトン(William Rowan Hamilton、1805年~1865年)…アイルランド・ダブリン生まれのイギリスの数学者、物理学者。四元数と呼ばれる高次複素数を発見。ダブリン大学トリニティ・カレッジを卒業。

ソフィア・ヴァシーリエヴナ・コワレフスカヤ(Sofia Vasilyevna Kovalevskaya、1850年~1891年)…ロシアの数学者。ロシアで始めて大学教授の地位を得た女性。微分方程式について研究。

シュリニヴァーサ・アイヤンガル・ラマヌジャン(Srinivasa Aiyangar Ramanujan、1887年~1920年)…インドの数学者。数論などを専門とする。「インドの魔術師」との異名も。ケンブリッジ大学での研究も。

アラン・マシスン・チューリング(Alan Mathison Turing、1912年~1954年)…イギリスの数学者、暗号研究者、計算機科学者。ケンブリッジ大学キングス・カレッジ卒業。アメリカのプリンストン高等研究所での研究も。

ヘルマン・クラウス・フーゴー・ワイル(Hermann Klaus Hugo Weyl、1885年~1955年)…ドイツの数学者。純粋数学と理論物理学の分野で業績を残す。ドイツのゲッティンゲン大学とミュンヘン大学で学ぶ。スイス連邦工科大学を経て、プリンストン高等研究所に勤務。

アンドリュー・ワイルズ(Andrew John Wiles、1953年~)…イギリスの数学者。「フェルマーの最終定理」を証明。オックスフォード大学マートン・カレッジ卒業。ケンブリッジ大学クレア・カレッジ卒業。プリンストン大学教授を経て、オックスフォード大学教授。

解説は、藤原正彦との共著『世にも美しい数学入門』や、数学に関連した『博士の愛した数式』などの作品もある小説家の小川洋子(おがわ・ようこ、1962年~)。

感想

国語の大切さを主張し、素晴らしいエッセイや随筆、評論なども書いている数学者の藤原正彦。

その藤原正彦が、実際に現地を訪れて取材などをしながら、9人の数学者の伝記をまとめたもの。

もともとは、アメリカに留学した時のことが綴られた『若き数学者のアメリカ』を読んで、藤原正彦のファンになった。

中原中也(なかはら・ちゅうや、1907年~1937年)の詩集などをアメリカに持っていったというエピソードも。

そのような流れで、この作品にも手を伸ばした。

名前の聞いたことのある人物もいれば、初めて知る人物も。数学に詳しい人も詳しくない人も楽しめる作品である。その辺りは、藤原正彦の文章力の素晴らしさによるものであるかもしれない。

取材で現地に訪れているので、ある種の紀行文のような要素もあれば、世界の歴史を振り返るような部分もある。

アメリカにもイギリスにも留学した経験のある藤原正彦が記述するので、深みが増している。

文庫本ではあるが、人物や町並み、各種の資料などの写真も掲載されている。

それぞれの登場人物たちの栄光や挫折に思いを馳せるのも良いし、気になる場所があれば観光の目的地にしても良いかと。

また、ニュートン、ハミルトン、ラマヌジャンに関しては同じく藤原正彦の『心は孤独な数学者』(新潮文庫)に詳しいので、こちらも非常にオススメ。

藤原正彦のファン、数学好き、海外に興味のある人など最適な評伝集である。

書籍紹介

関連書籍

関連スポット

ケンブリッジ大学、トリニティ・カレッジ:アイザック・ニュートン

アイザック・ニュートンが学び、教授としても過ごしたイギリスにあるケンブリッジ大学のカレッジ。シュリニヴァーサ・ラマヌジャンも研究した場所。

公式サイト:トリニティ・カレッジ

光徳寺:関孝和

群馬県藤岡市にある曹洞宗の寺院。関孝和の墓がある。
公式サイトは無い。

浄輪寺:関孝和

東京都新宿区にある寺院。関孝和の墓がある。
公式サイトは無い。

トリニティ・カレッジ・ダブリン:ウィリアム・ハミルトン

ウィリアム・ハミルトンが学び研究したアイルランドにあるダブリン大学のカレッジ。

公式サイト:トリニティ・カレッジ・ダブリン

ケンブリッジ大学キングス・カレッジ:アラン・チューリング

アラン・チューリングが学び、研究したケンブリッジ大学のキングス・カレッジ。

公式サイト:ケンブリッジ大学キングス・カレッジ

プリンストン高等研究所:ヘルマン・ワイル

アメリカのニュージャージー州プリンストン市にある研究所。ヘルマン・ワイルが勤務。またアラン・チューリングやアンドリュー・ワイルズも研究した場所。
正式名称は「高等研究所」(Institute for Advanced Study)。似通った名称の研究所が数多くあるため、日本では「プリンストン高等研究所」と呼ばれることが多い。

公式サイト:プリンストン高等研究所

オックスフォード大学マートン・カレッジ:アンドリュー・ワイルズ

アンドリュー・ワイルズが学んだイギリスの大学。後に大学教授として勤務。

公式サイト:オックスフォード大学マートン・カレッジ

ケンブリッジ大学クレア・カレッジ:アンドリュー・ワイルズ

アンドリュー・ワイルズがオックスフォード大学の後に学んだ大学。

公式サイト:ケンブリッジ大学クレア・カレッジ